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西村あさひのリーガル・アウトルック

統合型リゾート(IR)実施法案のカジノ規制はどうなるか

高木 智宏(たかぎ・ともひろ)

IR(カジノを含む統合型リゾート)に関する法的問題

西村あさひ法律事務所
弁護士 高木 智宏

 1. はじめに

拡大高木 智宏(たかぎ・ともひろ)
 2004年、東京大学法学部第一類卒業。2012年、ノースウェスタン大学ロースクール卒業(LL.M. with Honors)。2012~2013年、ニューヨークのデビボイス&プリンプトン法律事務所勤務。
 IR(カジノを含む統合型リゾート)に関して、平成28年12月15日付で「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(以下「IR推進法」という。)が成立した。その後、IR推進法に基づき内閣に設置された特定複合観光施設区域整備推進本部の下で特定複合観光施設区域整備推進会議が定期的に開催され、IR整備の推進のために必要な措置に係る重要事項が議論され、当該議論に基づき、平成29年7月31日付けで「特定複合観光施設区域整備推進会議 取りまとめ ~「観光先進国」の実現に向けて~」(以下「推進会議取りまとめ」という。)が同会議により作成され、同年8月1日開催の特定複合観光施設区域整備推進本部において本部長である安倍内閣総理大臣に対して報告された。

 現在開催中の第196回国会において、IR実施法案が提出されることが見込まれているが、その内容は推進会議取りまとめに基づく内容となることが予想されるため、推進会議取りまとめのうち特に重要なもの及びそれに関連する法的問題について以下において概観する。

 2. 刑法との整合性

 我が国では、賭博行為は原則として刑法185条等による処罰の対象とされている。競馬・競輪その他の法令に従って行われている公営ギャンブルについては、法令に基づく行為として刑法35条によりその行為の違法性が阻却されており、カジノにおけるギャンブルについても、今後制定されるIR実施法その他の関連法令の定めにより同様の措置が採られることになる。

 刑法において賭博行為が一般的に禁止されている趣旨は、賭博行為が国民の射幸心を助長し勤労の美風を害することに加え、副次的には犯罪を助長し、国民経済の機能に重大な障害を与えるおそれすらあるからであるとされている。推進会議取りまとめにおいては、目的の公益性、運営主体の性格、収益の扱い、射幸性の程度、運営主体の廉潔性、運営主体の公的管理監督、運営主体の財政的健全性、副次的弊害の防止等の考慮要素を含めて、IR制度・カジノ規制全体を総合的に考察・評価した結果、今後政府において同考慮要素を踏まえて制度設計を行えば、全体として刑法の賭博に関する法制との整合性を図ることができるとされている。

 3. カジノに関する免許制等

 IR事業の中で実施するカジノ事業については、IR事業者が公共政策的な機能の一環を担うことに鑑みて、本来違法である賭博行為を例外的特権として認めるものである。そのため、推進会議取りまとめにおいては、多重的且つ広範な参入規制を課し、極めて厳格な要件をクリアした者のみに対しカジノ事業を実施することを許容するべきであるとされている。具体的には、①カジノ事業については、免許制の下で、事業者及び関係者から反社会的勢力を排除するなど高い廉潔性を確保するとともに、事業活動に対し厳格な規制を行うべきであること、②IR事業者、そのカジノ事業及び非カジノ事業部門の役員のみならず、IR事業活動に支配的影響力を有する外部の者等についても幅広く廉潔性等の審査の対象とすべきであること、③カジノ事業免許に係るIR事業者の株主等については、認可制等の下で、反社会的勢力の排除等その廉潔性を確保すべきであることなどが指摘されている。これらのうち株主規制に関して、認可の対象とする株主等は、カジノ事業に対する影響力の程度等を勘案の上、議決権、株式又は持分の保有割合が直接又は間接を問わず5%以上の株主等とすべきであり、保有割合が5%未満の株主等についても報告を徴求し、必要に応じて、その廉潔性を調査し、不適格者への対応をできるようにすべきであるとされている。また、IR事業者の委託先・取引先への規制、カジノ関連機器等の製造業等への規制、従業者に対する規制も行うべきであるとされている。

 4. カジノ行為に関する規制

 カジノ行為の実施において、公正性の確保は極めて重要な要素であることから、推進会議取りまとめにおいては、カジノ事業において実施を認めるカジノ行為は、事業者がカジノ行為の実施を管理し公正性を確保することができるものに限定すべきであるとされている(例えば、単純な顧客同士の賭けやスポーツベッティング等他者が実施する競技(勝負)を賭けの対象とすることは不可。)。

 また、依存症予防等の観点からカジノ施設への厳格な入場管理を行うことから、推進会議取りまとめにおいては、カジノ事業において実施を認めるカジノ行為は、カジノ施設内で実施されるものに限定すべきであるとされている(例えば、カジノ施設外から参加できるオンラインゲームは不可。)。

 さらに、公益目的のため地方公共団体による宝くじ等の「富くじの発売」が既に認められていることを考慮し、推進会議取りまとめにおいては、カジノ事業において実施を認めるカジノ行為は、刑法の「賭博」に該当する行為に限定すべきであるとされている(例えば、カジノ施設内で行われるくじ類は不可。)。

 5. 金融規制

 諸外国のカジノにおいては、顧客の利便性向上のため、一般的に①顧客に金銭を貸し付ける業務、②顧客の金銭の送金・受入れを行う業務、③顧客の金銭を預かる業務、及び④顧客の金銭を両替する業務が行われている。そのため、推進会議取りまとめにおいては、日本のカジノにおいても、これらの業務を一般的に規制している貸金業法、資金決済に関する法律、出資法等と同等の規制が講じられること、及び、①及び②については以下で述べる一定の規制の下で、これらの業務が認められるべきとされている。

 (1) 顧客に金銭を貸し付ける業務に関する規制

 金銭の貸付けに関しては、カジノ行為への依存を助長する懸念が特に大きいと考えられ、推進会議取りまとめにおいては、諸外国と同様に、貸付対象を一定以上の現金を事業者に預託できる資力を有する者、又は外国人非居住者に限定すべきであるとされている。

 また、過剰貸付けを防止するため、推進会議取りまとめにおいては、顧客の返済能力を調査する義務及び顧客ごとに貸付上限額の設定をする義務を事業者に課すべきであるとされている。

 (2) 顧客の金銭の送金・受入れを行う業務に関する規制

 顧客の利便性を確保しつつ、マネーロンダリングの懸念を排除するため、推進会議取りまとめにおいては、顧客からの依頼を受けた送金・受入れに関しては、金融機関を介することとし、且つ、事業者が管理する顧客の預り金と、顧客名義の預貯金口座との間の資金移動に限って、認めるべきであるとされている。

 (3) その他、第三者が提供する金融業務に関する規制

 顧客のカジノ行為への依存を防止するために、推進会議取りまとめにおいては、諸外国の例を参考に、①クレジットカードを利用したチップの購入は外国人非居住者に対するもののみ認め、②ATMについては、カジノ施設内に設置することを禁止するとともに、事業者による貸付けを規制する趣旨を徹底するため、カジノ施設周辺においても貸付機能が付いていないATMに限って設置を認めるべきであるとされている。

 6. マネーロンダリング

 カジノの利用に当たっては、現金とチップの交換やフロントマネーの預託・精算、クレジット・ラインによる貸付けなど多くの場面で決済が行われ、その資金の流れを捕捉することが困難であることから、マネーロンダリングの温床として利用されるリスクが指摘されている。マネーロンダリングの防止については、IR推進法案が参議院で決議された際の附帯決議の第12項においても、諸外国の規制の現状等を踏まえつつ、カジノの顧客の取引時確認、確認記録の作成・保存、疑わしい取引の届出等について、罰則を含む必要かつ厳格な措置を講ずること等が謳われており、推進会議取りまとめにおいては、以下の規制を設けるべきであるとされている。

 (1) 暴力団員等の入場禁止

 マネーロンダリング等の不正な行為を防止し、カジノ事業の健全な運営を確保するためには、不適格者を確実に排除する必要があり、特に、暴力団員は、賭博をはじめとする不法行為を資金源としたり、マネーロンダリング等の違法行為を組織的・常習的に行ったりするおそれがあるほか、従業員や他の顧客を畏怖させて安全にカジノ行為に興じる環境を損なうおそれがあることから、カジノ施設への入場者から排除する必要性は高い。また、カジノ行為は、事業者と顧客が対等な立場で勝負をするものであるところ、カジノ事業者の従事者については暴力団員を排除していることから、事業の健全な運営を確保するためには、従事者と対等な立場でカジノ行為に参加する顧客からも暴力団員を排除する必要がある。他方、暴力団員がカジノ行為を行うことができなくなったとしても、カジノ行為を行うことは社会生活上必要不可欠なものではなく、現行法上できない賭博が引き続きできない状態になるにとどまるものである等、不利益の程度は小さく、カジノ施設の健全な運営の確保という公益は、入場を排除されることにより侵害される暴力団員の利益に比べて保護の要請が高いと評価できる。また、従来、暴力団員の施設利用(ゴルフ場の利用等)からの排除は、約款によって行われてきたところであるが、このような排除方法のみでは暴力団員の徹底した排除が困難である。したがって、カジノ施設について、法令により、暴力団員を入場させない義務をカジノ事業者に課すとともに、暴力団員本人に対しても入場してはならない義務を課すべきである。

 また、暴力団員と密接な関係を有する反社会的勢力やカジノ行為に関し不正な行為を行うおそれのある者についても、排除の必要性はあるものの、その該当性は必ずしも明白ではなく、外延が不明確であるため、法令により入場を禁止する対象として規定することが困難である。そこで、カジノ事業者に対し、事業活動を通じてこのような者に当たると判断した者についてカジノ施設への入場・滞在を禁止する措置を講ずる義務を課すとともに、カジノ施設利用約款において、カジノ施設への入場を禁止することを義務付けるべきである。

 さらに、法令やカジノ施設利用約款による入場禁止の実効性を確保するため、カジノ施設への全ての入場者に暴力団員や反社会的勢力の者等でない旨を表明させる措置等を導入し、虚偽の表明をした者を事業者が退去させることができるようにすべきである。

 (2) 犯罪収益移転防止法に基づく取引時確認等の義務付け等

 現在、日本においては、マネーロンダリング対策(顧客の本人確認(取引時確認)、取引記録の作成・保存、疑わしい取引の届出等)については、犯罪収益移転防止法において対応し、一定の事業者に対して、これらの措置を義務付けている。カジノ事業者についても、マネーロンダリング対策を適切に実施するため、①取引時確認、取引記録の作成・保存等、②疑わしい取引の届出、③一定額以上の現金取引の届出を義務付けるべきである。

 (3) チップ等の規制・監視

 カジノ施設において、チップ、バウチャー等は現金同等物であり、等価の現金と交換されるものであるため、チップ等の譲渡により、実質的には現金の移転が行われることとなる。このため、犯罪収益の移転を適切に防止するためには、カジノ施設内での顧客間のチップ等の譲渡については、原則として禁止すべきである。

 また、カジノ施設外でのチップ等の譲渡にはカジノ事業者の監視が及び難く、これによるマネーロンダリングを阻止し難いことに鑑みれば、そもそもチップ等の持ち出し行為自体を規制する必要がある。

 さらに、上記のチップ等の譲渡規制及び持ち出し規制の実効性を確保するため、①カジノ施設利用約款において、チップ等の譲渡やカジノ施設外への持ち出しを禁じる旨を規定すること、②入退場ゲートやカジノ施設内に、チップ等の譲渡やカジノ施設外への持ち出しを禁じる旨を表示させること、③監視カメラや従業員による巡回警備等を通じて、チップ等の譲渡やカジノ 施設外への持ち出しが行われないよう監視を行うこと等の措置を講じることを義務付けるべきである。また、上記規制を技術的に担保するため、入退場ゲートで反応するICタグをチップ等に内蔵するなどの機能上の規制を設けることを検討すべきである。

 (4) 事業者が実施するマネーロンダリング対策

 カジノ事業の重要な業務については、適切な実施を確保するため内部管理体制の整備を事業者に義務付けることとしているところ、カジノ事業におけるマネーロンダリングのリスク、カジノ事業の例外的特権としての性格に伴う事業者の高度な規範・責任等に鑑み、カジノ事業者に対し、マネーロンダリング対策に係る業務についても、万全の内部管理体制の整備を義務付けるべきである。また、カジノ事業者の取組が適切且つ十分なものかをカジノ管理委員会が確実に把握し、監督できるよう、カジノ事業者が実施する自己評価及び監査の結果については、その都度カジノ管理委員会に報告させるべきである。

 7. ギャンブル依存症対策

 IRに関する検討が始まった初期の段階から、ギャンブル依存症への対策は重要な論点として位置付けられており、IR推進法は10条1項8号において、カジノ利用者がカジノ施設を利用したことに伴いギャンブル依存症等の悪影響を受けることを防止するために必要な措置を講じることを政府に明示的に義務付けている。

 これを受けて、推進会議取りまとめにおいては、カジノ行為への依存を防止するためには、①ゲーミングに触れる機会の限定、②誘客時の規制、③厳格な入場規制、④カジノ施設内での規制、⑤相談・治療につなげる取組まで、重層的・多段階的な取組を制度的に整備することが必要であるとされている。具体的には、広告・勧誘の制限(内容・場所等に関する制限、未成年者に対する広告・勧誘の制限等)、コンプ(顧客の勧誘・ゲーミングの促進手段として、顧客のカジノの利用に応じて提供される物品やサービスを指し、具体的にはホテルの割引、優先予約、送迎等がある。)に関する規制、カジノ施設への入場回数の制限(週3回、4週間で10回までに制限することが検討されている。)、カジノ施設への入場料(日本人と国内居住の外国人に限り、全国一律2,000円の入場料が検討されている。)の賦課等が行われるべきであるとされている。

 8. 最後に

 IR、特に

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高木 智宏(たかぎ・ともひろ)

 2004年、東京大学法学部第一類卒業。2012年、ノースウェスタン大学ロースクール卒業(LL.M. with Honors)。2012~2013年、ニューヨークのデビボイス&プリンプトン法律事務所勤務。

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