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西村あさひのリーガル・アウトルック

与信管理の時代変化:目利きのプロからAI、ビッグデータと連携へ

柴原 多(しばはら・まさる)

過渡期における与信管理の留意点

西村あさひ法律事務所
弁護士 柴原 多

 1.はじめに

拡大柴原 多(しばはら・まさる)
 1996年、慶應義塾大学法学部卒業。司法修習を経て99年に弁護士登録(東京弁護士会)。事業再生・倒産事件(民事再生・会社更生・私的整理事件を中心)、第三セクターの再建、国内企業間のM&A等に関する各社へのアドバイス、法廷活動等に従事。西村あさひ法律事務所パートナー。
 与信管理とは、東京商工リサーチのホームページによると「売掛債権は増大しながらも損害の発生は抑制しようとする」(行為のこと)をいうとされる。

 よく聞く言葉であるが、その定義化は難しく、またその実践も難しい。

 かかる与信管理に関しては、人が中心となっての与信管理から、将来的にはAIやビッグデータとの連携が重要な時代に変化していくことは必然と思える。その一方で、近時は(人による一歩踏み込んだ)与信管理が適切になされていれば防げたであろう粉飾決算・不適切会計・手続違反の疑いのある不動産融資問題等の事件もクローズアップされている(注1)

 そこで本稿では、これらの事件等を通じて、過渡期にある現状における与信管理・審査上の問題について考えてみたい。

 2. 金融機関等における与信管理の変化

 (1)デット・ファイナンサーによる与信管理

 ア:目利きのプロは減少したのか?

 銀行等のデット・ファイナンサーと言えば与信管理のプロであり、かつてはいわゆる「目利きのプロ」(人)が多く雇用されてきた。

 このようなプロ(人)がいれば、本来、投資対象企業の粉飾決算等を見抜くこともでき、金融機関が借り手企業に騙されるという事態も生じにくいはずである。

 しかしながら、銀行においても、「事業性評価」(EY情報センサー2018年3月号Trend watcherの定義によれば「金融機関の融資判断において、対象企業の現在から将来にわたる定性的情報を評価することであり、かつ広義ではそれを定量的情報と組み合わせて活用すること」)という言葉自体はよく用いられているものの、職人的な与信の目利きのプロ等の活躍の場は減少している可能性がある。

 現に、金融庁のホームページにも、「財務指標に基づく資産査定を中心とする検査が、金融機関が本来持たなければいけない事業に対する目利き力を低下させたのではとの反省から、検査で金融機関全体の健全性は見るものの、個別の資産査定は原則行なわず、個別の融資判断は基本的に金融機関の判断に委ねた。また、融資審査に際し、企業の財務や担保・保証の有無だけでなく、事業の将来性なども併せてみることを奨励してきた」との発言が見られる(注2)

 このような従来型の与信判断に変化が生じた理由を一言で言えば、①低金利下で銀行の利益を確保するためには、人件費を削減する必要があると共に、②Fintechにより与信の合理化・機械化を図ることが期待されるようになってきた(実際にメガバンク及び地方銀行間での取組みも報道されている)からであろう。

 イ:従来型の与信管理作業の重要性

 もっとも、機械による与信審査は、入力されるデータが正しいことを前提とするもの(もっとも、機械による判断能力が向上すれば、入力段階で異常値をはじき出すことや財務諸表以外の情報を収集すること(注3)も考えられるが)であるから、そもそものデータが粉飾されていたら意味をなさない。そのため、与信審査の機械化が進んだとしても、人による最低限の与信審査は当面必要であろう(他方で、営業担当レベルで不正・見過ごし・情実等に流されない体制をどう構築するかという問題は残る)。

 一般論としては、与信審査においては、貸借対照表・損益計算書等の財務諸表の恒常的なチェックに加え、現場とのコミュニケーションにより、異常を覚知できるかが重要になるはずであるが、このような作業は手間・暇がかかるため、敬遠されがちでもある。

 しかしながら、前述の高松高裁の事案においては、粉飾決算が発覚し、その後に金融支援を行うことができない旨が銀行で内部的に固まりつつあった後の債権回収行為については、「少なくとも債務者が無理算段しているような場合、すなわち全く返済の見込みの立たない借入や商品の投げ売り等によって資金を調達して延命を図っているような状態にある場合には・・・・支払不能と認めるのが相当である」という判断が下されている。この判例は、いわゆる「無理算段説」的見解(支払遅延が現に生じていなくとも無理算段をしている場合には支払不能に該当するとする見解)を前提に、結果として債権回収を否定している判断(破産管財人による否認権行使が認められている)が下されている。また近時は無理算段説的な判決が他にも散見されると共に、破産事件においても破産直前段階における相殺・預金拘束が一部否定されるケースも少なくない。

 そのため、(機械・AIによる与信管理が進歩したとしても当面は)人による従来型の与信審査を徹底することで、粉飾決算等を予め発見することも、依然として非常に重要であるといえよう。

 ウ:「儲かる」企業とのコミュニケーション上の留意点

 これに対して、営業担当レベルでも、「儲かる」企業とのコミュニケーションは、敬遠されるどころかむしろ歓迎されることが多い。しかし、このような関係においてもまた重大な問題が潜んでいることも少なくない(そのような企業で事後的に粉飾決算が発覚する事例も少なくない)。その企業が本当の意味で儲かっているのであれば何ら問題はないが、粉飾や表明保証違反によって儲かっているかのように装っている場合も十分あり得る。そして、本来、そのような場合にこそ、金融機関側としては、取引を慎重に進め、十分な情報を収集すべきであるが、当該企業との取引支店が代々優秀な成績を収めてきたような場合には、そこにメスを入れることが実際上難しいことが多いのもまた悩ましい問題である。

 エ:小括

 銀行が利用している銀行取引約定書には、①モニタリングに関する条項、②増担保に関する条項、③債権保全を必要とする相当の事由が存在する場合には期限の利益を失わせる条項が盛り込まれているが、その条項を活用するかどうかを決めるのは、(少なくとも現状では)生身の人間である。

 しかしながら、前述したような人件費削減の要請に加え、働き方改革の要請を踏まえると、与信先に対する十分なモニタリングを実践していくことが難しくなる点に留意が必要である。

 (2)ベンチャー・キャピタルによる与信管理

 前述したように金融機関等のデット・ファイナンサーによる従来型与信審査が困難になるにつれ、ベンチャー企業に対してファイナンスを実行する存在としてはベンチャー・キャピタル(VC)の存在が大きくなってきている。

 しかしながら、VCにおいても与信審査に多くの人的資源を投下できない背景は金融機関と同様である。その結果、VCは投資その他の資金提供に際して(契約上の)表明保証に大きく依拠する傾向にある。すなわち、投資対象企業(及びその代表者)に表明保証を求め、表明保証違反が存在する場合には株式の買取請求を求めるというスキームを利用することが多い。

 もっとも、平常時はともかく、経済的な危機時においては剰余金など分配可能額が枯渇していることが多く、投資対象企業が実際に株式を買い取ることが可能かどうかは別の問題である。

 そのため、VCとしては予備的に表明保証違反に基づく損害賠償を請求することが多い。もっとも、いかなる場合でも表明保証違反が認められるとは限らない。

 そもそも、①(判決の射程範囲に争いはあるものの)東京地判平成18年1月17日は、重過失のある投資家からの表明保証違反の請求に関しては、悪意の場合と同視して、被請求者は表明保証責任を免れると解する余地があるとしており(もっとも、当該事案では結論的に請求認容)、②その他にも表明保証違反に基づく請求を棄却している裁判例は存在する。また、投資契約にいわゆるサンドバッギング条項(売主による表明保証の違反に関する買主の認識の有無を問わず、当該違反に基づく補償請求を認める条項)を設けるケースも多いが、米国でも、その法的な有効性に関する評価は州により分かれているようである(注4)

 この問題は、結局のところ、売り手又は投資対象企業から表明保証がどのような経緯でなされ、投資家が、表明保証又はデューデリジェンスの過程で提出された情報をどのように分析していたかということに帰着するように思われる。

 その意味では、契約書に依拠するだけでは不十分で、投資家が投資対象企業とどのように(人を通じた)コミュニケーションをとってきたか、つまりは十分な与信審査を行ってきたかが重要なように思われる(なお、VCによる出資等の資金支援がわが国よりも格段に活発な米国でも、Theranos社のような事件(「指先からの血液1滴ですべてがわかる」と謳った血液検査会社の代表者が虚偽の情報を流布したとして米証券取引委員会(SEC)から罰金を科された事件)は発生しており、与信管理の難しさが表れている)。

 (3)上記(1)(2)以外による与信

 このように、銀行その他の金融機関による与信にもVCのような株主による与信にも、コストを始めとする悩ましい問題があるとすると、資金供与者としてはどのように与信管理を行うことが考えられ、また逆に企業はどのように資金調達を行うことが考えられるのであろうか。

 第一に有用と考えられるのは、与信管理・審査に特化した企業・ツールの利用である。典型的には、企業情報サービスを提供してきた企業による財務分析が挙げられる。しかしながら、それらの企業にどの程度フィーを支払うことができるかという問題は避けて通ることはできないし、近時は情報入手に関するコンプライアンス上の問題も悩ましい。

 そこで最近では、主としてネット上に存在する情報の収集・提供をサービスとして行う企業も現れている。勿論、ネット上の情報に関しては、真実性が問題となることが多いが、このような企業のサービスを利用する場合、情報の真実性は情報の受け手、つまりは資金供与者サイドにおいて自己責任に基づいて検証を行うことが前提とされているようである(リスクは他人には容易に転嫁できず、資金供与の本質はリスクとどう付き合っていくかであろう)。

 また、近時は、Fintech・AI・ビッグデータ・アルゴリズムを利用した企業分析等にも注目が集まっている(注5)。もっとも、ビッグデータ・アルゴリズムにおいては、(情報管理やプライバシー侵害といった問題とは別の次元で)情報の収集・管理だけでなく、どのような情報を積極的に評価しどのような情報を消極的に評価するかという評価・定義付けが重要であり、その評価・定義付けの過程においては、人間の評価(しかも、過去の経験に基づく評価であることが多い)が大きく影響し得る点に注意が必要(要するにビッグデータの分析も万能ではない)である。

 第二に、最近になって注目を集めているのはクラウド・ファンディングやイニシャル・コイン・オファリング(ICO)を始めとする新たな資金調達手段による資金調達である。

 このような資金調達が注目される理由としては、①既存の金融ビジネスからの脱却、②柔軟な対価の取得に関する魅力、③草の根又は(世界的な金融緩和による)グローバルな資金の存在、④調達に関する手続・規制の負担が少ないことなど、様々な理由が挙げられよう。

 勿論、黎明期であるこれらの資金調達には数々の問題・トラブルが発生し得るが、それが故に上述した①から④までの魅力が直ちに失われることにはならないであろう。

 3. 小括

 このように、与信管理・審査は

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柴原 多(しばはら・まさる)

 1996年、慶應義塾大学法学部卒業。司法修習を経て99年に弁護士登録(東京弁護士会)。
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