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ニューズ&コメンタリー

《特ダネ》 大蔵省幹部が「シナリオ通すための方便」依頼、興銀内部文書に記載 住専処理で国民負担の原因に

住専第2次再建計画で「時間稼ぎ」を示唆、「勧進帳的に作文して関所を越えたい」

奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 バブル崩壊が始まってまだ間もない1993年、大蔵省銀行局の幹部が住宅金融専門会社の破綻を表面化させないようにするため、日本興業銀行(現・みずほコーポレート銀行)の常務に対し、「当座は住専再建の作文を『勧進帳』的につくって関所を越えたい」などと述べ、「このシナリオを通すための方便」として、興銀など住専母体の責任を明確にした文書を出すよう求めていたーー。興銀の内部文書にそう記録されていることがわかった。大蔵省主導の「その場しのぎ」が原因となって後の住専処理で血税が投入される事態になった経緯が第1級の史料で裏付けられた形だ。住専処理は現在も整理回収機構の手で進められており、破綻15年である来年までに終了する予定となっているが、国民負担がさらに膨らむ可能性が強まっており、改めてその原因が問われている。

問題の興銀文書の冒頭拡大問題の興銀文書の冒頭部分
 問題の興銀内部文書は「面談記録」と題され、1993年2月4日、興銀の常務と総合企画部長が大蔵省銀行局の小山嘉昭審議官(現・全国信用協同組合連合会理事長) に会った際の1問1答の会話が記録されている。のちに興銀は、住専処理をめぐる国税当局の課税処分に異議を申し立て、税務署長を相手取って起こした訴訟のなかで、98年6月、証拠としてこの文書を法廷に提出していた。興銀側によれば、同行の総合企画部が93年2月4日に作成したという。朝日新聞記者は情報公開法の手続きでその写しを入手した。

 「住専」の略称で知られる住宅金融専門会社は個人顧客への住宅ローンの主体として大蔵省と金融界によって次々と設立されたが、バブル期、不動産開発への融資にのめり込んだ。この文書が作成された93年2月当時、住専各社はいずれもバブル崩壊のあおりで経営危機に陥っていた。住専に資金を供給していた農協系統の金融機関(貯金や融資などを扱う各地の農協、その県組織である「県信連」と呼ばれる県信用農業協同組合連合会、全国組織である農林中央金庫)は貸し倒れを防ぐため、住専各社から融資を引き上げようとしたが、大蔵省はそれを押しとどめ、農協側の協力を得て、「再建計画」をとりまとめようと考え、住専各社の設立母体の金融機関に働きかけていた。興銀は、住専8社の中でも最大手だった日本ハウジングローンの設立母体だった。

「大蔵省としては、そういう動きになることはまずい」という審議官の発言を記録した興銀内部文書拡大「大蔵省としては、そういう動きになることはまずい」という審議官の発言を記録した興銀内部文書。「MOF」というのは大蔵省のこと。
 面談記録によると、小山審議官は「農協系統はテーブルにつく条件として、母体行の責任を明確にした文書を作成することを求めている。彼らは政治家を使って国会に銀行の頭取や住専の社長を呼ぶなどと言い出した。大蔵省としては、そういう動きになるのはまずい」と述べた。

 興銀側が「母体責任うんぬんの文書は問題だ」と異議を唱えたのに対し、小山審議官は「文書の問題は法律的な側面としてではなく、このシナリオを通すための方便であり、あくまでもこのシナリオを系統に飲ませる政治的配慮と理解してほしい」と説得した。

 各地の農協は当時、選挙などで自民党の議員を支援し、その政治的影響力は絶大だった。

「シナリオを通すための方便だ」という審議官の発言を記録した興銀内部文書。「系統」というのは農協のことを指す拡大「シナリオを通すための方便だ」という審議官の発言を記録した興銀内部文書。「系統」というのは農協のことを指す。
 興銀側は「民間のビジネスのセンスでは単なる政治的意味ではすまなくなる」と切り返したが、結局、その年の5月25日付で興銀は「再建計画に沿って責任をもって対応してまいる」という念書を大蔵省に差し入れ、その事実が農協側に伝えられた。

 面談記録によると、小山審議官は2月4日の面談で「銀行が傷むことについては大蔵省、日銀が後ろから全面支援する」とも述べ、日銀による銀行支援にも言及している。実際にこの日、日銀は、民間金融機関への日銀の融資の金利(公定歩合)を大きく引き下げている。

 大蔵省主導で1993年に策定された住専再建計画は1年もたたないうちに行き詰まり、1995年暮れに政府が住専破綻処理策をとりまとめた。農協系統はその際に「念書」などを根拠に債権放棄を拒み、その結果、政府は6800億円の財政資金を損失穴埋めに投入することになった。大蔵省主導、銀行協力による93年の「先送り」が事態を複雑にし、そのツケが国民に回された構図が興銀の内部資料で裏付けられた格好だ。現在も続く住専処理では2次損失が発生しており、今後、その穴埋めが問題となってくる。

 小山元審議官はこれまでの取材に対し、「そんなことを言ったという記憶はない」と興銀の記録の内容を否定

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奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 朝日新聞編集委員。
 1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞入社。水戸支局、福島支局、東京社会部、大阪社会部などを経て特別報道部。『法と経済のジャーナル Asahi Judiciary』の編集も担当。
 著書『秘密解除 ロッキード事件  田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店、2016年7月)で第21回司馬遼太郎賞(2017年度)を受賞。同書に加え、福島第一原発事故やパナマ文書の報道も含め、日本記者クラブ賞(2018年度)を受賞。近刊の共著書に『バブル経済事件の深層』(岩波新書、2019年4月)。
 そのほかの著書として『パラダイス文書 連鎖する内部告発、パナマ文書を経て「調査報道」がいま暴く』(朝日新聞出版、2017年11月)、『ルポ 東京電力 原発危機1カ月』(朝日新書、2011年6月)、『内部告発の力 公益通報者保護法は何を守るのか』(現代人文社、2004年4月)がある。共著に 『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社、2019年4月)、 『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版、2012年12月)、『ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか』(同、2008年9月)、『偽装請負』(朝日新書、2007年5月)など。
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