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ニューズ&コメンタリー

《時時刻刻》最高検、「徹底抗戦には徹底捜査で」

 「進むも地獄、引くも地獄」(検察幹部)――。大阪地検特捜部の前田恒彦検事と、同部前部長らの主張が真っ向から対立する中、最高検は前部長らの逮捕に踏み切った。苦渋の決断だった。

  ▽この記事は2010年10月2日の朝日新聞朝刊2面に掲載されたものです。

  ▽関連資料: 被疑事実要旨

  ▽関連資料: 最高検次長検事コメント全文

 

 ■最高検 「進むも地獄、引くも地獄」の苦渋の決断

 大坪弘道・前部長と佐賀元明・前副部長が、前田検事の不正行為を隠したかどうか。それを見極める最大の焦点が、前田検事の供述だった。

 先月21日夜、最高検に逮捕された前田検事は当初、「意図的ではなくミス」と容疑を否認。だが、数日後に「故意の改ざんだった」と認めた。その後、衝撃の内容を告白した。「大坪前部長と佐賀前副部長にも意図的な改ざんを報告しました」――。

 最高検が、前部長と前副部長を東京の最高検に呼び出し、初めて聴取したのは9月23日。28日までに断続的に5日間続いた。

 調べ担当は、最高検公判部長と最高検総務部長。いずれも東京地検特捜部での捜査経験が豊富なベテランだった。「改ざんを隠していたんじゃないのか」「お前が言っていることが本当だとは思っていない」。前田検事の供述を得て、調べは激しさを増した。

 元特捜検事の対決。だが、前部長と前副部長は、「前田検事からは過失と聞き、上にも問題ないと報告した」と一貫して隠蔽を否定し続けた。

 前田検事や、前部長らに改ざんを告発した同僚検事の供述を裏付ける客観的証拠はないか。同僚検事らのメールなどの分析も続けたが、「これ以上、何も進まない」(捜査関係者)という状況に。

 前部長と前副部長の調べ担当検事2人が大阪入りしたのは30日午後だった。翌10月1日の聴取で認めれば逮捕なしでの事件処理を目指すが、否認のままなら逮捕して解明を図る、という方針だった。

 1日午前10時。前部長と前副部長は、3日ぶりの聴取でも否認。最高検幹部らは、「身柄を取るしかない。徹底抗戦には徹底捜査で向き合うしかない」。身内への温情を排した強硬策を選択した。

 一方、捜査に加わらない検察幹部や法務省関係者には、冷静な見方も多くあった。

 こうしたケースで犯人隠避罪を適用した例はない。「捜査チームは何とか事件にしなければと変な力が入っているのでは」「『言った、言わない』の話で、逮捕するほどの事件なのか」と捜査を疑問視する声もあがった。また、今後、事件の構図に沿った供述を誘導されたと前部長らが主張する事態となった場合、「それこそ郵便不正事件の二の舞いと批判されはしないか」と懸念する幹部もいた。

 ここに至るまで、様々な「政治的な判断」も見え隠れする。証拠改ざんに加えて特捜部長が隠蔽していたとなれば、「特捜部は崩壊し、10年は立ち直れない」(検察関係者)事態となる恐れがあったが、最高検は、前田検事の逮捕会見で「すべて徹底的に調べる」と宣言した。

 しかし、前部長らを否認のまま逮捕・起訴して公判で全面対決すれば、「組織として大きすぎる痛手を負う」(最高検幹部)という懸念も。念頭にあったのは、検察の調査活動費の流用疑惑を告発しようとした三井環・元大阪高検公安部長が2002年に大阪地検特捜部に逮捕された後、「反検察」の急先鋒となった苦い記憶だ。検察幹部は「特捜部長経験者が『反検察』に加わった場合、その影響は計り知れない」。前部長は三井氏の事件捜査にも加わり、内容を熟知しているという。

 一方で身内をかばうような姿勢を見せれば、世論の大反発を買う。検察幹部はこう話した。「検察が国民の目にどう映っているか。これまでにない危機感の表れだ」

 ■法務・検察当局の反応

 「検察の看板」である特捜部の解体論が高まることが予想されるなか、法務省幹部の一人は「国会では当然、議論になるだろう。だが、脱税など、警察ではなく検察でなければできない事件もある」と語った。

 在京のある検察幹部は「大阪、名古屋はそれほど事件がなく、特捜部を取りつぶしてもいい」と話す一方、「予算や人事の面で、警察はどうしても政治に弱い。東京の特捜部には政界捜査などの存在意義があり、つぶすわけにはいかない」。

 東京地検特捜部は、田中角栄元首相を起訴した「ロッキード事件」を筆頭に、藤波孝生元官房長官らを起訴した「リクルート事件」、金丸信元自民党副総裁の巨額脱税事件などで時の実力政治家を摘発。自民党支配の55年体制下では、「最大の野党」とも呼ばれる役割を果たしてきた。

 最近でも、小沢一郎元民主党幹事長の資金管理団体をめぐる政治資金規正法違反事件で元秘書らを起訴するなど、批判を浴びつつも一定の存在感を示している。

 ただ、大阪には「関西検察」とも呼ばれる検事やOB弁護士らの親密な人的ネットワークがある。この幹部も「大阪の特捜部をつぶすとなると、OBも含めて反発はすごいだろう」と話す。

 大坪前部長らの逮捕の数日前、地方の高検幹部が東京に集まり、この事件での幹部の処分など、人事を見据えた協議も始まった。

 大阪地検特捜部に長く在籍した検察幹部は、「これで完全に関西検察は崩壊するだろう。人事も東京組に占領される」と話した。

 「検事総長の引責辞任」について検察幹部の間では、賛否両論の声があがる。

 大林宏・検事総長は今年6月に就任したばかり。郵便不正事件の当時は東京高検検事長で、決裁ラインとは関係がなかった。前任の樋渡利秋総長が決裁した事件だった。

 大林総長の辞任について、ある法務省幹部は「自分で決めるしかないが、(本人は)必要ないと考えているだろう。今トップにいるというだけで、何の責任に問われるのか分からないはずだ」。

 法務省刑事局長や官房長、事務次官といった法務省のエリートコースを歩んだ大林総長をかばう姿勢も見える。別の幹部も、「民間企業の経営責任とは違うし、国民への信頼失墜でやめるというのも違うと思う」と語った。

 一方、現場に近いほど、辞任論は強まる。中堅幹部は「検察の将来を考えるなら、トップである以上は引責するぐらいの覚悟を持つべきだ」。別の幹部も「総長が辞めなければ、

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