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ニューズ&コメンタリー

大王製紙前会長の父、井川高雄氏一問一答 特別委の報告書に強い不満

カジノで散財「報道で知った」

村山 治(むらやま・おさむ)

 井川意高・大王製紙前会長が同製紙の関連会社から取締役会にはからず巨額借り入れをしていた会社法違反(特別背任)事件で、前会長の父親で、かつて同社の社長や会長を務めた井川高雄(いかわ・たかお)氏が11月27日、朝日新聞の取材に応じた。意高前会長の不始末を謝罪し、「借入金をカジノで使っていたことは、報道で初めて知った」などと話した。

  ▽聞き手・筆者:村山治、長谷文

  ▽この記事は2011年11月28日の朝日新聞朝刊に掲載された原稿に加筆したものです。


 井川高雄氏は創業者の伊勢吉氏(故人)の長男で、1987年に社長となり、95年からは会長、2002年からは最高顧問。今回の問題で顧問を解任された。

井川 高雄(いかわ・たかお)拡大井川高雄氏

 高雄氏によると、意高前会長が子会社から借金をしていると知ったのは今年3月で、「何に使ったのか言え」と問いただしたが、意高前会長は説明しなかった。高雄氏は「あほか。絶対こんなことはやるな」としかり、貸し付けた子会社の役員には「こんなことをしたら背任行為になるぞ」と指摘したという。この指摘により「会社(大王製紙)側も問題を把握したはずだ」と語った。

 しかし意高前会長は子会社の役員らに「父親には言うな」と口止めをして、さらなる借金を続けた。高雄氏は問題が発覚する直前の9月上旬に知ったという。

 借金のほぼ全額が海外のカジノで使われたことも、報道で知った。「地域社会、従業員、無数の人に申し訳のないことをした」とわびた。

 借り入れ問題について、逮捕まで意高前会長と直接話す機会はなかった。お互いが相談している弁護士の事務所で会った際にも、意高前会長から謝罪の言葉はなかったが、態度から「すまない」という感じは受けたという。高雄氏をはじめ、他の親族が子会社などから金を借り入れたことは「一切ない」と述べた。

 大王製紙の特別調査委員会は10月下旬に公表した報告書で、原因について「井川父子の強い支配権」と指摘した。高雄氏は「最初からストーリーができていたと思う」と強い不満を示した。子会社の貸し付けを大王製紙も知っていたとみて、「全ての原因を『井川父子の問題』とするのでは、再発防止につながらない」と疑問を語った。

 今後の返済について、高雄氏は「私がやったことではないので肩代わりはしない」としつつ、支払い能力があることを示す目的で、意高前会長と自らが保有する関連会社株を大王製紙に預けていると説明した。

 

 井川高雄氏のインタビューの詳細は以下の通り。

 ■「カジノに使ったことをいわぬ息子」

 ――今回の事件をどのように受け止めていますか。

 どういう表現をしたらいいのか、私が知っているどの言葉を選んでも表現しようがないほど、ショックというか、動転しました。まぎれもなく息子がやったことですから。これは、個人でなく会社のトップとしてやったことです。会社というのは社会的、有機的な存在です。従業員、地域社会など無数の人に支えられている。それらの方々に、まことに言いようのない、申し訳のないことをしたと思っています。

 ――こういうことになって、意高氏から謝罪はありましたか。

 「すまん」という言葉は聞いていませんが、本当に「すまん」という態度は一生懸命見せています。

 ――意高氏が会社から借入しているのを最初に知ったのはいつですか。

 今年3月初め頃に、意高が幾ら幾ら借りていた、と経理担当役員から聞きました。それで、意高に「返せ」ときつく言い、それが実行されたと思っていました。ところが、私が知らない間に、意高は4月から9月にかけて会社からさらに借入を増やしていた。

 ――3月に叱責されてから後の借入についてはご存じなかったのですね。

 まったく知らなかった。知ったのは9月7日です。私は、体調が悪いので軽井沢の家にいた。東日本大震災以降、東奔西走でがんばっている「いわき大王製紙」の代表者を、慰労を兼ねて軽井沢へ呼んだ。3、4時間話をして役員は軽井沢駅へ向かったが、30分ほどたって電話がかかってきた。「報告したいことがある」と。役員は再び、家にやってきて「実は、いわき大王から意高さんに貸付けがある」と。

 「さっき、何時間もいたのに、どうして言わなかったのか」と問い詰めると、いったん、駅に向かったあと、大王製紙の関連事業部から携帯電話で呼び出され、「あれを顧問に報告したのか」と言ってきた、と。会社側は、いわき大王の貸付をそれ以前から知っていて、その日、私に対し、その役員から伝えさせたのではないでしょうか。

 ――3月に意高氏の借入を知ったとき、意高氏と、どんなやりとりをされたのですか。

 「何に使ったんだ、言え」と聞きました。しかし意高は「いや」というだけで、何も言いませんでした。でも、それ(ギャンブルに使ったこと)は、普通の親子の関係なら言わないんじゃないですか。何回も聞きました。だけど、それ(使途)を言わないし、とにかく早く(借入金の)処理しないといけない、とそのことだけで頭の中はいっぱいだった。

 ――意高氏は逮捕される前に、会社から借りた金をカジノに使っていることを話されましたか。

 まったくありません。(問題が発覚してから)意高は検察官から「親子でもしゃべったらあかん」と言われていたようであり、弁護士事務所で何回か、偶然、意高と会いましたけれど、あえて意高は、会話は避けていました。カジノの話などはほとんど、報道で知りました。

 ――親子の間であまり対話はないのですか。

 ありません。私は、意高と、今回の問題は別として、何年も一緒に飯を食ったことがないんです。一丁前の男ですしね。次男は母親に割合優しいですから、家族で食事をしたことはありますが、次男とも1対1では一度も食事をしたことはありません。意高とは私の家で会ったことは、ほとんどありません。

 ――どうして、意高氏は会社の金に手をつけてしまったのでしょうか?借金があるにしても、いきなり会社の金に手をつけるのは飛躍があるのでは。

 意高も説明してくれないし、私の頭でそれを論議していたら、ああでもない、こうでもないで収拾がつかなくなる。そこは勘弁してください。

 ――意高氏以外で、井川ファミリーでこれまで会社のお金を借りたということは。

 一切ありません。

 ■「井川親子の責任だけの問題なのか」

 ――特別調査委員会の報告書は、あなたが3月に意高氏の借入を知りながら「大王製紙の取締役や監査役に本件貸付の件を知らせ、対応を協議するなどして事態の拡大を防止しなかった」と指摘し、それを受けて会社側は顧問を解職しました。

 いきなり創業家の責任と決めつけられることに、納得がいかない点があります。10月初め、特別調査委員会で、事情聴取されましたが、はじめから創業家の問題だというトーンでした。4月から9月にかけて会社からの借入が増えた分について、私が、3月の時点で取締役会に言っておれば、膨らむのは防げた、と調査委員会は言っている。しかし、私は、大王製紙の取締役ではない。第一、3月の時点で、意高が借入を返済するものと思っていた。新たに借金をするなどと想像もしていない。4月以降の借金を知らない者が、しかも取締役ではないのに何を言えというのか。私でなく、当時の役員に聞けばいい。昨年から知っていたと言っているんですから、その役員に、私の事情聴取で質問したのと同じことを聞かなければいけないのではないですか。

 ――創業家が大株主=強い影響力=創業家の責任、という単純な構造で見られるのは抵抗がある、ということですね。創業家は大王製紙や関連会社の株式をどの程度保有しているのですか。

 大王製紙本体は、井川家で20%くらい。井川家支配の会社の所持している議決権の無い株式を入れると27、8%。連結子会社は37社あるが、その中の30前後について、井川家ないし、親族が株式を50%以上持っている。

 ――株主構成でいうと、やはり創業家の影響力は大きかったのですね。

 そういう株主構成になったのは理由があるのです。連結子会社で紙パルプに関係のない会社は皆無です。我々は大王製紙と別の立場でそういう会社を設立し、配当もしないで、長い間資本を蓄積して連結ができるようになって連結した。そういう歴史的経緯がある。だから大王製紙の関連子会社に対する持ち分が15%か20%前後になっているのは歴史的背景からそのようになった。しかも、関連会社の資金はその会社が銀行から借りて、自己責任でやることを原則としてきて、連結後は大王製紙が借入の保証をしたりするようになったのです。

 ■「調査委員会の独立性などに疑問」

 ――これまで、「井川家」側は、調査報告書について「委員会の委員の構成や調査の手続きなどが不公正、不公平」とする意見書を公表されています。

 意高が犯した罪は罪として、事実を解明し、その原因を調べ、再発しないようにするのが調査委員会の役割だと思う。ところが昨年10月までの経理担当取締役と本来的に責任のある監査役が、特別調査委員会のメンバーになっている。それはどういうことですか。2人は、意高と関連会社間の貸借問題を知り、または知りうる立場にあった。本来は、調査対象とされ、責任を追及されるべき人たちです。実際、取締役は30%減俸処分になっている。委員会は膨大な資料を調べないといけないので、当事者に入ってもらった、と強弁しているが、遠山の金さんじゃあるまいし、責任を負う当事者がジャッジする側にいるのはおかしいでしょう。

 ――確かに、当事者がジャッジする側に入るのは、公平・公正の観点からおかしいですね。

 さらに、報告書を読むと、誰それを呼んでどうした、とは書いてありますが、結論として「井川家父子」に最大の責任があった、と決めつけている。大王製紙の企業としてのコンプライアンス、ガバナンスの問題、取締役会や監査役、外部監査などに少しは触れてはいるが、意高とは別の人格である私、次男に問題があるから意高が事件を起こした、という結論です。意高がやったことはまぎれも無い事実です。だけど、こういうことが二度と起こらないようにするなら、意高の問題もある、井川父子の問題もあるかもわからない。だけど、会社のガバナンスや大王製紙と関連会社の問題もあって、と、ウェイトを計りながらずっと検証していって結論を導かなければいけない。だのに何もしていない。この問題を利用して大王製紙グループから井川家を追い出すというストーリーが最初からできていたと思わざるを得ない。

 ――取締役会は意高氏の行為をどうチェックしていたのですか。

 大王製紙では、監査法人のチェックを受けるため、関連会社から四半期ごとに大王本社に経理報告が来ています。意高の借金はその資料を見ればわかる。少なくとも経理担当の取締役と監査役は知っていたはずです。彼らが取締役会に報告した形跡はない。

 これは、一つのストーリーがあって、それに合うような材料集めをするためにやられていることだと思っています。しかも、その筋道の中に余りにうそが多すぎる。たとえば、私が3月末に、意高に「絶対にそんなことはやるな、阿呆か」と言って、貸した関連会社のトップと経理担当を呼んで、「こんなことを二度としたら、背任行為になるぞ」とまで言った。それなのに、4月以降の借金も私が知っている前提で、「井川父子の責任だ」と。論理が成り立っていない。そんなことは事情聴取の時に私ははっきり言っている。委員会も、それをちゃんと録音している。

 ――意高氏の借入の弁済の問題はどうなっているのですか。

 特別調査委員会に私が呼ばれる前日、佐光社長と山川監査役がきて、調査委員会の調査内容を両人が自らメモしたものを私に手渡しました。委員会の中立性や公正性はまったく無視されていました。そこで佐光社長は、私に顧問を辞めてほしいという趣旨のことを言いました。

 翌日、私が出席した調査委員会では、委員長から私に、「今回の問題の再発を防ぐためにはどうすればよいと思いますか」という質問がありました。私は、「法の要求するところに従って、着実に積み重ねてゆくしかない」と返答しました。すると、委員長から「そんなことだけで再発は防げないのではないか」と言われたので、私から、「委員長に何かお考えがあるのですか」と聞いたのです。委員長は、「あなたはやめるべきではないか」「株もはなすべきではないか」と言いました。私が「それは言い過ぎではないか、ステップオーバーじゃないか」と言ったら、「個人的な見解を言いました」と。そんな調査委員会がありますか。

 ――調査委員会はどうあるべきだったと。

 初めから井川家親子の問題だと決めつけるのでなく、取締役会、内外の監査の問題などを同じように天秤にかけて議論をしていって、最後に納得いくように、井川父子の問題としてこういうことがあった、というならわかる。

 ■「同じことを繰り返すと危惧」

 ――大王製紙の経営陣に対して言いたいことはありますか。

 こういう調査で、井川家の責任にして終わってしまったら、大王製紙はまた同じことを繰り返すのではないかと危惧している。申し上げるつもりはなかったが、佐光社長にけじめをつけろ、と言われ、けじめとはどういうことか、と話している中で、佐光社長から「井川父子だからやった」という言葉があった。会社のガバナンスの問題ではなく、権力者の専横でこういうことが起きたといいたいのでしょう。その理屈でいくと、小さいといえども、大王製紙の長、大王製紙の権力構造上のトップは、佐光社長です。「井川家が仮に取締役の地位にとどまれば、これに懲りてこんな問題二度とやらないかもしれない。でもお前さんだったらやるかもわからない」と言った。

 これは、ああ言えばこういう、という理論の展開で言っているわけではない。今のままの大王製紙では、佐光社長に何か問題があると社員が思っても、自己規制して、空気をよんで、佐光社長に良いことしか言わない。どこの会社でもあることだが。

 ――今回の大王製紙の事件とオリンパスの損失隠し事件をきっかけに、政府・与党が、大企業については社外取締役の起用を義務づける方針を固めたと報道されました。会社にしがらみのない人が経営を監視する仕組みが必要と判断してのものですが、大王製紙には、社外取締役はいましたか。

 会社法で決められている社外監査役はいますが、社外取締役はいません。意高が社外取締役を入れようとしたこともあるようですが、候補の人に受けてもらえなかった、と言っていたと聞いたこともあります。

 ――意高氏の借入の弁済の問題はどうなっていますか。

 とにかく早く処理しないといけないので、意高には、自分で持っている株式で処理しろ、と。その後、あれだけ膨れているのは知らなかったので、私の持っている株式と意高の株式とを一括して会社側に預けた。意高の持っている株式を正当に評価してもらえば処理できるのではと思っている。

 ――主に未上場の関連会社の株式ですよね。株式価値の評価がポイントですね。

 大王製紙は、株式の評価は純資産方式でずっとやってきている。日本の税務署ほど調査能力の高いところはありませんが、何度もそれで問題なくきている。それを、もとから資産評価しないといけない、とか、ディスカウント方式とか、違う方法で算定しようとしているようです。現金で借りたら現金で払え、利子も発生するぞ、と困らせて、結局私たちの持っている株式を放出させようとしている。

 ――意高氏は3月以降、一部返済されていますが、高雄さんは、意高氏に俺が肩代わりして返してやるぞと言われたことはあるのですか。

 ありません。私がやったわけではなく、意高がやったのですよ。だから、先ずは意高がもっている株式で払え、と言っているのです。

 ――素朴な疑問ですが、大王製紙の現経営陣には、井川ファミリーがいて困ることが何かあるのですか。

 名誉毀損の問題がありますから、それは言いません。

 ――これからの大王製紙にのぞまれることは。

 意高の件では大変迷惑をかけているが、会社の今後は、法の要求するところに従って、一つずつやっていくこと。それに尽きます。

村山 治(むらやま・おさむ)

 徳島県出身。1973年、早稲田大学政経学部卒業後、毎日新聞社入社。大阪、東京社会部を経て91年、朝日新聞社入社。2017年11月、フリーランスに。この間、一貫して記者。
 金丸脱税事件(93年)、ゼネコン事件(93,94年)、大蔵汚職事件(98年)、日本歯科医師連盟の政治献金事件(2004年)などバブル崩壊以降の政界事件、大型経済事件の報道にかかわった。
 著書に「特捜検察vs.金融権力」(朝日新聞社)、「市場検察」(文藝春秋)、「小沢一郎vs.特捜検察、20年戦争」(朝日新聞出版)、「検察: 破綻した捜査モデル」(新潮新書) 。共著に「ルポ 内部告発」(朝日新書)、「田中角栄を逮捕した男 吉永祐介と 特捜検察『栄光』の裏側」(朝日新聞出版)。

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