福島第一原発事故と東京電力のリスク管理
東京電力福島第一原子力発電所1~3号機の原子炉は2011年3月11~15日に…
オリンパスと企業統治、コンプライアンス
長年にわたって損失を隠して決算を粉飾し、世間の目を欺き続けたオリンパス。内部…
小沢一郎衆院議員の政治団体の事件記録
自民党や民主党の幹事長を歴任した大物政治家、小沢一郎衆院議員の資金管理団体「…
ニューズ&コメンタリー
(2019/08/27)
これまでの経験を業界のために役に立てたいと思って立候補しました。その経験とは、2006年5月に業務停止命令を受けた中央青山監査法人で経営にたずさわり、その後も監査法人トーマツで経営の一翼を担ったことです。
中央青山では、法人を再生させるため、2005年10月に44歳で理事になり、理事長代行も務めました。業務停止で上場会社との監査契約を30%ほど失ったのですが、社員や職員は再生のために必死で頑張ってくれました。しかし、その後も監査を担った会社の不祥事が相次いで発覚し、結果的に自ら解散を決定せざるを得ませんでした。必死で頑張った人たちの思いが無になってしまっただけに、つらいものがありました。株主、投資家、クライアントらにも大変なご迷惑を掛けました。資本市場の信頼を揺るがしました。あのようなことは二度とあってはいけません。
――会長として何をめざしますか。
一番は監査の信頼を確立させることです。4年前にあった大手電機メーカーの不正会計をはじめとして、20年ほど前の金融危機以降、監査法人が行政処分を受けるケースが少なからず発生しています。社会にはまだその影響で監査の信頼性に対する疑念が残っていると思います。信頼の確立のためには、ステークホルダー(関係者)の皆さんに、監査がしっかりと行われていると評価していただく必要があります。そのためには、協会や監査人の取り組みを理解してもらい、監査の品質向上に協力をいただかないといけません。つまり、関係団体と建設的な議論ができるようなより良い関係を築きたいと思います。新しい関係の枠組みをつくりたい。そのために、コミュニケーションを担う担当の常務理事や担当の副会長をおきました。
――信頼回復のため、ほかにはどのような考えがありますか。
「現場力」をどう強化するかを考えています。「現場力」とは「現実を正しく認識し、問題を発見し、その原因を究明し、問題の解決に貢献する力」です。そのためには監査の現場がITやデータ分析技術をうまく使えるよう支援していきたい。
この20年余りで多くの制度ができました。2021年3月期から、監査報告書にKAM(監査上の主要な検討事項)の記載が加わります。これは監査の透明化を図るものです。仕組みは相当、整ったので、これからは現場への定着に力を入れていきたい。新たな仕組みを作っても、現場において形式的になってはいけません。例えば、財務報告に係る内部統制報告・監査制度については、効果が認められる半面、一部「形骸化している」という認識が関係者の間にあるように思う。
――内部統制報告制度を改革するのですね。
2016年3月に金融庁の「会計監査の在り方に関する懇談会」で、内部統制報告制度の運用状況について必要な検証を行い、制度運用の実効性確保を図っていくと出ています。本当に内部統制のあり方を考えるには、いまある仕組みを現場でうまく回して、形式主義に陥らないようにしなければなりません。そのために協会や監査人や企業が何をするのかが問われていると思います。
――金融庁は今年1月にも「会計監査についての情報提供の充実に関する懇談会(充実懇)」の報告書をまとめています。これについての対応は。
――企業不祥事があった場合、監査法人はマスコミに対し、守秘義務を理由に取材に門戸を閉ざしてきたと思います。話せないことがあるのは理解しており、取材を通じて、その分野の知識や背景を教えてもらえれば、それだけでもありがたいものです。
マスコミに対して、(監査法人が)最大限の努力をしているということが分かることでしょうか。(マスコミの取材対応は)どうあるべきか、関根・前会長も考え、定例会見を始めました。危機のときにどこまでしゃべれるかは非常に難しい問題です。多くの人の利害にかかわることです。ただ、普段から理解を得られるようにしておけば、そういう場での対応もよくなるのではないかと考えています。監査法人も努力していますよ。
――金融庁で監査法人のファームローテーション(強制交代制度)が検討されています。
これには様々な意見がありますが、個人的には、メリットよりもデメリットの方が大きいと思っています。膨大なコストがかかるためです。大企業の場合、日本企業は特に子会社も多く、監査人がその企業全体のことを理解しようと思ったら、1年間では難しい。2、3年はかかります。現在採用されているパートナーの交代制では、主要メンバーを一度に変えることはありません。したがって、個人だけではなく組織としての知見は蓄積されつつ、パートナーが交代することで新たな目で監査が実施されます。一方で会計不祥事が起きると様々な意見が出てきます。監査人の間でも、意見を統一することは難しいのではないかと思います。
――不正の発見は監査の目的でしょうか。
不正の発見について、監査の一義的な目的ではないことは、不正リスク対応基準にも明記されています。ただ、重要な虚偽表示が不正を原因としたものであれば、それを指摘できなかったその責任は監査人にあるのかどうかを自省する必要があり、外部からもチェックされます。監査人は不正とは無関係ではないことは明らかです。不正に目を向けて、発見する、予防するんだ、という意識を持ち、市場からの期待に応える努力をすることが大切です。
――会計士の仕事はおもしろいですか。
会計士業務がほかの資格と違うのは、保証をするところです。これだけ多数の人に経済的な影響を与える情報について保証を与える仕事はほかにはないと思います。それが公認会計士の価値を高めています。だから、監査以外の仕事をしても会計士は信頼してもらえるのだ、と考えています。また、企業全体を広く、かつ、深く見ることができます。様々な規模、業種の会社を見ることもできます。
この記事の続きをお読みいただくためには、法と経済のジャーナルのご購読手続きが必要です。
法と経済のジャーナル Asahi Judiciaryは朝日新聞デジタルの一部です。
有料(フルプラン)購読中の方は、ログインするだけでお読みいただけます。
ご感想・ご意見などをお待ちしています。