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アンダーソン・毛利・友常法律事務所 企業法務の窓辺

ロック・スターのギター、その形と音色に知的財産性は?

ギターと法律にまつわる雑談

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
弁護士 宮垣 聡

拡大宮垣 聡(みやがき・さとし)
 1980年3月、水戸第一高校卒業。1984年3月、中央大学法学部卒業。司法修習(41期)を経て、1989年4月、弁護士登録。2003年1月、現事務所パートナー就任。2007年4月から東京工業大学大学院イノベーションマネジメント研究科客員教授。共著に「知的財産権辞典」(三省堂、2001年)、「商標の法律相談」(青林書院、1997年)など。

 弁護士業務を生業として、いつの間にか23年目に入った。その間、種々の案件に関与させてもらったが、一応、知的財産と倒産処理に関する分野が専門ということになっている。プライベートでは、2005年の秋頃から、長らく中断していたギター弾きとバンド活動を再開した。思えば、初めてエレキギターを買ってもらったのは、もう35年も前のことで、随分と昔のことだ。ジミー・ヘンドリックスやリッチー・ブラクモアが弾いていたフェンダー社製ギター「ストラトキャスター」の不思議な形に惹かれて、同社とは全く関係のない日本メーカーが製造したコピー・モデルを選んだ。当時、フェンダー社やギブソン社といった老舗メーカーによる米国産ギターは、ロック・スターたちの華やかなステージや、LPレコードのジャケットには不可欠のアイテムであったが、まさに高嶺の花であって、普通の家庭の子供が親に買ってもらえる代物ではなかった。今ではフェンダー社のライセンスに基づいて米国以外で製造された、国産やメキシコ産のリーズナブルな価格のフェンダー・ブランドのギターが入手可能だ。

 ギターの形態は法的保護を受けられるのか?

 ライセンスの許諾も受けずに、フェンダー社のギターと同じ商品形態のギターを日本のメーカーが製造販売できたのは、量産されているギターの形態には著作権が生じないからだ。

 著作権は、創作性のある表現を対象として発生し、個性が表れていれば幼児が描いた絵にも生じるが、量産品については、機能や実用性を離れて美的鑑賞の対象となる高度の創作性がないと著作権は生じないという二重の基準が実務的には採用されている。商品のデザインを設定登録から20年間保護する意匠権と、創作的な表現を著作者の死後50年間保護する著作権との棲み分けの観点から、このような運用がなされている。

 では、ギターの形態に著作権以外の法的保護は及ばないのか。商品形態は、現在では不正競争防止法によって保護されているが、日本国内で最初に販売されてから3年以内に限られている。また、この保護は受けられなくとも、ギターの形態が長期間にわたる販売や宣伝広告によって製造元を示す機能を持つようになっていれば、ブランドと同じく、周知な商品等表示として不正競争防止法の保護を受けられる可能性もある。

 1993年に、米国の老舗ギターメーカーのギブソン社が、同社製品と同形態のエレキギターを製造販売していた日本のメーカーを不正競争防止法に基づいて訴えたことがあった。2000年2月24日の判決で、東京高裁はその商品等表示性を否定した。一旦はギターの形態が周知な商品等表示としての機能を獲得したものの、その後の多数のコピー・モデルの販売を放置していたことによって当該機能は消滅した――。東京高裁はそう判断した。

 2009年に亡くなったジャズ・ギタリスト、レス・ポール氏の名を冠したレス・ポール・モデルの魅力的な形態は、1973年頃には商品等表示性を獲得していたが、この高嶺の花ともいうべき高級エレキギターの代用品としての国産コピー・モデルが20年以上にわたって多数出回っていたのを放置していたことにより、エレキギターの標準型として需要者に認識されるようになってしまったということだ。

 これは、ある商標を使用した商品があまりにも売れたために、かえって、特定のメーカーとその商標との結びつきが希釈化され、その商標が当該カテゴリーの商品を示す一般名称として需要者に認識されてしまうのと似ている。

 知財管理の重要性を示唆する判決でもある。

 ギターの音色は法的保護を受けられるのか?

 楽器奏者としては、演奏する楽曲に合わせた音質、音色の選択が表現の重要な要素となる。殊に、電気楽器の場合には、エフェクターの選択や配列、種々のパラメータの設定を工夫して音作りがなされる。名手といわれるエレキギタリストは、イントロの数秒で奏者を特定させる独自の音を出していることが多く、音色は、その微妙なニュアンスの違いに奏者の創意工夫が表れる重要な項目だ。しかし、音色そのものには著作物性は認められないであろう。音色は、表現の基礎的手段であって、選択の幅が限られている。そのような音色に独占権を認めてしまうと、却って文化の発展という著作権制度の趣旨に反する結果になってしまうからだ。先の著作権と意匠権との棲み分けという観点とは異なり、タイプフェイス(印刷用文字書体)に対してなかなか著作物性を認めないのと同様の観点だ。

 自分の音色は?

 弁護士は、法的見解を示す際に、事案を分析し、法律の規定、判例や学説を引きつつも、最終的には自分の過去の経験を総動員し、また、想像力を駆使して、いわば全人格的判断をしなければならない。これは、楽器奏者が楽曲を解釈して、過去に聴いた同じ曲の演奏例や、別の曲の演奏例をも参考にして、最終的には自分の音色で楽器を奏でるのと似ているように思える。楽曲という著作物は表現として客観的に存在しているが、それを聴く者に伝えるには、奏者が主観的に作り出す音色を媒体とせざるを得ない。弁護士も、いかに法律、判例や学説を学び、理解していたとしても、最終的にそれらを解釈適用し、依頼者に伝える際には、各人の「音色」が、個体差はあれ、発現せざるをえないであろう。

 自分は今までに弁護士としての「音色」をきちんと作ってきたのだろうか、と今更ながら思ってみたりする。

 宮垣 聡(みやがき・さとし)
 1980年3月、水戸第一高校卒業。1984年3月、中央大学法学部卒業。司法修習(41期)を経て、1989年4月、弁護士登録。2002年1月、現事務所で勤務開始。2003年1月、現事務所パートナー就任。
 国内外のクライアントに対し、日本の特許法、実用新案法、商標法、意匠法、著作権法、不正競争防止法に関し助言とサポートを行っており、特許侵害訴訟、バイオ・テクノロジー、データ通信の暗号化システム、医薬品、機械等の特許に関する特許庁の審決の取消請求事件、商標侵害、著作権侵害、不正競争防止法違反事件などに実務経験がある。また、アメリカの著名な映画会社の代理人として、キャラクターのライセンス、映画配給契約、キャラクターの不正使用への差止請求等を手がけている。このほかに、破産管財人として、経済的に破綻した企業の清算、営業の譲渡等の業務にも従事し、また、民事再生手続、会社更生手続において、スポンサーとなる主要な米国のファンドや金融機関に対する助言とサポートも行っている。
 2003年9月から2007年3月まで東京工業大学客員助教授。2007年4月から東京工業大学大学院イノベーションマネジメント研究科客員教授。
 共著に「知的財産権辞典」(三省堂、2001年)、「情報公開条例ハンドブック」(花伝社、2000年)、「商標の法律相談」(青林書院、1997年)など。

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