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アンダーソン・毛利・友常法律事務所 企業法務の窓辺

弁護士の心構え:きょうも勤勉な裏方に徹し、ひとには優しく

金子 圭子(かねこ・けいこ)

私の心構え

 

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
弁護士 金子 圭子

拡大金子 圭子(かねこ・けいこ)
 弁護士、アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー。
 1991年3月、東京大学法学部卒業。1991年4月-1997年3月、三菱商事勤務。1999年4月、司法修習(51期)を経て、弁護士登録(第二東京弁護士会)、当事務所入所。
 著書に「新会社法の読み方−条文からみる新しい会社制度の要点−」(社団法人金融財政事情研究会、2005年、共著)、「事例解説 出向・転籍・退職・解雇」(会社実務研究会)。

 平成18年におよそ980条からなる会社法が施行され、私の場合、ようやく主要な条文の位置が頭にはいった。しかし、今年も、産活法の大きな改正があり、金融商品取引法は今年も少し変わり・・というように、私が自分の専門分野であるコーポレートやM&Aの弁護士業務を続けていく上で必要な法令は日々変わっていく。また、最近の法令は複雑で大量のものもあり、これだけ仕事に力を注ぎ時間を費やしてきた私でも、その条文の意味するところ、適用範囲など、条文の文言のみからは確信できないこともある。すると、その条文について本当に正確に理解するためには、立法担当者の解説、主要な論者の解説、政省令案へのパブリックコメントと所管官庁からの回答なども読まなければならず、これらを押さえておかないと怖くて業務ができない。次々と目の前に現れるあふれるばかりの情報を前に、ため息をつくこともある。最新の法律情報について勉強熱心な依頼者を前に冷や汗をかくこともある。私は本当にこの仕事に向いているだろうか。

 私は、元来怠け者で、長い文章を読むのは嫌いで、ややこしい話は嫌いで、長い時間机に座っているのも嫌いで、学校の50分の授業も途方もなく長い時間に感じられて苦痛で、早く大人になって好きなことをして暮らしたいと思っていた。その私が、とにかく毎日、ひたすら机に座り、こんなに勉強する人生を送るとは思ってもいなかった。これが、私が夢見た大人の生活なのか。

 例外の例外の場合分け

 みなさんは、日本に法令がいくつあるかご存じだろうか。法律だけで約1800、政令は約2000、省令は約3500ある。もちろん、法律家がこれすべてに通暁していることが求められるわけではなく、私もこれを全部理解しようなどと無理なことを目指しているわけではない。私が通暁していなければならない法令はおそらくせいぜい一桁であろう。それでも、そのひとつに「通じる」にも大変な労力が必要であり、そしてその先にはさらなる大海原が広がっているのである。

 また、最近の法律は、単純ではない内容を正確に記載しようとするとそうなってしまうのであろうが、細かい場合分けがされていたり、例外が明記されていたり、さらに例外の例外も記載されていたりなど、条文がテクニカルになっており、私などは読み間違えてしまいそうな箇所もある。

 「監査役設置会社」とは?

 たとえば、会社法には、「監査役設置会社」を主語としたり、「監査役設置会社」を名宛人とする条文がいくつもある。しかし、会社法の2条の定義のところを読むと、「監査役設置会社とは、監査役を置く株式会社(その監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがあるものを除く。)又はこの法律の規定により監査役を置かなければならない株式会社をいう。」とある。この短い条文の中で実は括弧の中が重要で、監査役がいる会社であっても、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定している会社の場合には、条文上「監査役設置会社」には該当せず、「監査役設置会社」が名宛人となっている条文は原則として適用がないことになる。しかも、監査役の監査の範囲を会計に限定している会社さんはかなり多いと思われる。

 この点に関して言えば、さらに恐ろしいことに、会社法施行に伴う整備法により、非公開会社で会社法施行の際に資本金が1億円以下である小会社については、定款に監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定めがあるものとみなす旨の規定がある。

 多少条文を読み間違えても、結果的に大きな影響のないような事柄もあるが、このようにひとつの条文を取ってもその適用範囲等を正確に理解するのは容易ではない。しかし、これを仕事とし、お金をもらって助言する我々に間違いは許されず、「だいたい合っている助言」などではだめなのである。

 きょうの心持ち

 ここでいつも、考える。さて、きょうもこれに立ち向かっていかないといけない。いかなる心持ちで生きていくべきか。

 よく思い出すのは、かつてお会いしたある裁判官の方がおっしゃっていた、よき裁判官たるための三つの資質のことである。三つとは、[1]勤勉であること、[2]一生、裏方であることをよしとする気持ち、[3]人に優しいことである。弁護士も色々で、世の中が期待する弁護士像も色々であろうし、弁護士ごとにも、めざす姿は色々であろうけれども、私自身の目指すところからは、この三要素のお話には多いに共感し、自分自身、大切にしようとしてきたことである。

 私は今日も勤勉だろうか、一書生であることをよしとし、裏方に徹する気持ちはあるか、私は優しいだろうか・・・。

 さて、今夜も大量の「宿題」や積み残しの情報を前に、やるべきことははっきりしている。きょうもがんばらないと。今夜こそ、きょう中に仕上げるべき依頼者からの仕事が終わったら、積み残してある資料のひとつを読むぞ! その後にビールを飲めばいいではないか。そのビールはきっと、ものすごくおいしいはず。そして、それが、私が早くなりたいとあこがれた大人の真っ当な生活なのかもしれない。

金子 圭子(かねこ・けいこ)

 弁護士、アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー。
 1986年3月、川越女子高等学校卒業。1991年3月、東京大学法学部卒業。1991年4月-1997年3月、三菱商事勤務。1999年4月、司法修習(51期)を経て、弁護士登録(第二東京弁護士会)、当事務所入所。2007年1月、当事務所パートナー就任。
 2007年4月-2010年3月、東京大学法科大学院客員准教授(担当科目:上級商法2 金融 ・ 民事模擬裁判 ・ リサーチライティングアンドドラフティング)。2012年11月から株式会社ファーストリテイリング社外監査役及び株式会社ユニクロ社外監査役。2013年6月から朝日新聞社監査役。
 著書に「新会社法の読み方−条文からみる新しい会社制度の要点−」(社団法人金融財政事情研究会、2005年、共著)、「事例解説 出向・転籍・退職・解雇」(会社実務研究会)。「論点体系 会社法 6」(第一法規株式会社)、「アジア・新興国の会社法実務戦略Q&A」(商事法務、2013年、共著)

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