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アンダーソン・毛利・友常法律事務所 企業法務の窓辺

ビジネス弁護士によるプロボノ(社会貢献)活動

齋藤 宏一(さいとう・こういち)

ビジネス弁護士によるプロボノ(社会貢献)活動

 

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
弁護士 齋藤 宏一

拡大齋藤 宏一(さいとう・こういち)
 1999年3月、東京大学法学部卒業。2001年10月、司法修習(54期)を経て弁護士登録。2008年6月、米国Harvard Law School (LL.M.)。2008年9月から2009年6月までHarvard Law School客員研究員。2009年5月、ニューヨーク州弁護士登録。2010年4月、当事務所入所。2013年1月、当事務所パートナー就任。2013年1月から特定非営利活動法人 Teach For Japan監事。

 ビジネス弁護士としての私

 私は、大手法律事務所に勤務する、いわゆる「ビジネス弁護士」である。

 ビジネス弁護士である私の仕事は、主として企業を依頼者として、各種企業法務のアドバイスを提供することである。最近は、M&A(企業買収)、ジョイント・ベンチャー、危機管理・企業不祥事対応、クロスボーダー取引、独禁法案件等を多く取り扱っている。私の扱う法律は、会社法、金融商品取引法、独禁法等、企業活動に関連する法律が多い。

 このような典型的な「ビジネス弁護士」である私が、実は、最近いわゆるプロボノ(社会貢献)活動に従事する時間、とりわけ、非営利団体(NPO)向けに法務面でアドバイスを提供する機会が増えているのである。

 プロボノ(社会貢献)弁護士としての私

 プロボノ(社会貢献)とは、社会人、とりわけ専門的な能力、知識を有する職業人が自らの専門知識や技能を生かして参加する社会貢献活動であり、ラテン語のPro bono publico(公益のために)に由来する用語である。

 弁護士は、「基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする」(弁護士法第1条第1項)以上、その職務遂行を通じて社会貢献を行うのは当然のことで、実際、私の所属する第一東京弁護士会は所属弁護士に対し、国選弁護活動や弁護士会の委員会活動への参加等、公益活動の履践を義務づけている。しかし、ここでいうプロボノ(社会貢献)活動とは、弁護士会から義務付けられた公益活動(国選弁護、委員会活動等への参加)とは別の社会貢献活動を意味している。

 詳しくは後述するが、現在私は、あるNPO団体の監事を務めつつ、同団体の法務全般の支援を行うと共に、ビジネス弁護士によるプロボノネットワークというネットワークの立上げに関わりつつ、複数の非営利団体(NPO)の非営利活動に対し、法務面で支援を行っている。

 典型的な「ビジネス弁護士」であった私が、どうしてプロボノに携わることになったのか。

 Teach For Japan松田氏との出会い

 きっかけは、特定非営利活動法人Teach For Japan(ティーチフォージャパン)の代表理事である松田悠介氏との出会いである。2007年から1年間、私はハーバード・ロースクールに留学していたが、その際に、同じくハーバードの教育大学院に留学していた松田氏と知り合った。もともと彼は私立中高一貫校の体育の教諭であったが、自らの理想とする学校を設立したいという夢を実現するため、ハーバードに留学して教育学を専攻し、帰国後はWendy Kopp氏率いるTeach For Americaの日本版であるTeach For Japanの立上げに尽力している。私は彼の学校設立の夢と情熱に深く心を動かされた。私は教育については全くの素人であったが、法務面で何かお役に立てればと思い、彼の活動に対する協力を申し出たのである。その後、松田氏との付き合いが始まり、私は、2013年1月からTeach For Japanの監事を務めつつ、法務全般でTeach For Japanの活動を支援している。

 Teach For Japanの活動の詳細についてはここでは割愛する(詳細は、同団体のウェブサイト参照。http://teachforjapan.org/)が、Teach For Japanは、わが国の教育格差を是正することで「すべての子どもが質の高い教育を受けることのできる社会の実現」に向け活動することをそのミッションとしている。そのため、情熱と成長意欲ある人材を「フェロー(教師)」として選抜・育成し、フェローが2年間、経済的理由、家庭環境その他様々な事情で十分な教育を受けられない子どもたちのために活動する。短期間で子どもの学力を向上させると同時に、フェローはプログラム後に様々な業界におけるリーダーとして長期的に教育課題の解決に取り組み続け、もって社会的な変化を創出することをも狙いとしている。

 ハーバードで学んだプロボノ精神

 私がプロボノを志向するに至った理由は松田氏との出会いだけではない。

 私が留学したハーバード・ロースクールは、プロボノに対して非常に熱心な学校である。例えば、全てのJ.D.課程(法律の初学者向けの3年間のプログラム)の学生は、卒業の条件として、最低40時間のプロボノ活動を義務付けられている。また、現アメリカ合衆国大統領であるオバマ氏もハーバード・ロースクールの卒業生であるが、入学前はシカゴで社会的弱者を救済するためのコミュニティ活動のオーガナイザーであった。私が留学していた2008年は大統領選挙が実施された年であるが、オバマ氏がテレビのインタビューに対して、自らのロースクールへの志望動機について、コミュニティ活動に従事していた際、法律の知識なしに活動を行うことには限界があると感じていたこと、法律がコミュニティ活動を推進する目的の強力な手段になり得ると実感したことを挙げていたことが私の記憶に印象強く残っている。

 このようなプロボノ精神に溢れたロースクールに留学した結果、私はプロボノに対する思いを強く持つようになった。さらに私はこれまでは深く考えることのなかった、何のために法律を学ぶのかということを意識するようになった。法律を学ぶことはそれ自体決して目的ではなく、あくまでも何らかの目的を達成するための手段に過ぎない。それでは、法律という手段が達成すべき目的とは何なのか。私は、それは社会的価値の実現であると考えるようになった。

 もっとも、このことは、現在行っているビジネス弁護士としての活動が社会的価値を実現していないという意味では決してない。企業が普段従事する事業を通じての利潤追求が社会的価値を高めるものであれば、それを法的に支援する活動も当然社会的価値を高めるものである。しかし、企業が行うのは利潤追求だけではない。企業は社会貢献それ自体を目的とする活動も数多く行っている。また、社会貢献活動は企業だけでなく、数多くの非営利団体(NPO)や個人によっても行われている。こうした社会的価値を高める社会貢献活動について、これまで学んだ法律(とりわけビジネス弁護士としての活動で学んだ知識やスキル)という手段を用いて支援していくことができるのではないかと考えたのである。

 ビジネス弁護士によるプロボノネットワーク

 ビジネス弁護士としてこれまで培った知識やスキルを、企業やNPOによる非営利活動の支援に役立てる機会があればという発想で、普段企業法務を取り扱う弁護士の有志が集い、昨年8月から、プロボノネットワークを結成している。大手法律事務所から中小規模の法律事務所まで、また弁護士1年目の新人から大ベテランの弁護士に至るまで、法律事務所や世代の垣根を越えた弁護士が集まる10数名規模のネットワークである。その出身母体の如何を問わず、ビジネス弁護士としての知識やスキルをより広い社会に役立てたいという志を共有する弁護士が集まっている。

 一見、ビジネス弁護士の知識・経験と、プロボノ活動に必要な知識・経験は異なり、ビジネス弁護士として培った経験が直ちにプロボノ活動に活かされることはないのではないかとも思える。しかし、例えば、NPOの設立や運営等、組織に関するルールを検討するにあたっては、株式会社法の基本的な考え方を当てはめることができ、また、労務や知的財産権に関する法律は、営利企業と同様にNPOにも当てはまる。NPOが日常行う業務遂行の過程において第三者に生じた損害等についても、営利企業の事業遂行の場合とほぼ同様に考えることができる。

 ビジネス弁護士によるプロボノネットワークは、所属する弁護士が個別に受ける案件の相談について、所属する弁護士の中で最も適当な弁護士に案件を紹介し、案件を受任した弁護士が責任をもって案件の処理にあたっている。私自身は、ネットワークを通じて、これまで次のような案件の相談を受けている。[1]複数のNPOにおいて、日常の業務遂行の過程において生じ得るリスクの洗い出しと、当該リスクに対する対応策の検討、評価等を行うリスク・マネジメント支援や、情報管理、リスク・マネジメントその他団体の業務を適法、適正に実施するために必要な内部的統制システムの構築・運営支援、[2]低所得者等生活困窮者に対する小口の低金利融資(マイクロファイナンス)の支援、[3]ある特定の地域経済を活性化するためのファンド組成の支援等である。

 企業によるCSR活動の高まり

 社会的価値を高める非営利活動を行っているのはNPOや個人だけではない。最近は、欧米の外資系企業や一部の日本企業を中心に、企業のCSR(Corporate Social Responsibility企業の社会的責任)を果たすため、社会貢献活動に乗り出す例が見られる。これらの活動は、直接の利益獲得には結びつかないものの、企業イメージやレピュテーション向上を通じて、長期的には企業の収益向上に寄与するものである。最近は、社会やステークホルダーが企業を社会的存在(社会の公器)として捉えるようになっており、社会にとって価値ある存在であることが求められている。そうした企業にリーガルサービスを提供する弁護士も、そのサービスの中に社会的価値を備えていなければならないものと考えられる(この点につき、日本弁護士連合会発行「自由と正義」2013年3月号(Vol. 64)39頁、座談会「企業ニーズの進展と弁護士の新たな価値創出」における久保利弁護士の発言参照)。

 社会やステークホルダーの企業に対する期待の変化に伴い、企業によるこうした社会貢献活動は今後益々活発化していくことが予想されるが、企業の日頃の業務遂行に関してリーガルサービスを提供するビジネス弁護士である私としても、ビジネスという現場に近い立場にある一弁護士として、こうした企業の社会貢献活動に対して積極的に支援し、社会的価値の実現に貢献していきたいと考えている。

 終わりに

 これまで社会企業家(ソーシャル・ベンチャー)と呼ばれる複数の方々に出会う機会に恵まれたが、いずれの方々も自らの行動を通じて社会によい変革をもたらそうという希望と情熱に満ち溢れていた。私には彼らのように自ら団体を立ち上げてしまうような情熱やエネルギーはないけれども、自らの専門領域である企業法務の知識・経験を彼らの活動のために捧げることはできると思う。近い将来、わが国においても、こうした社会貢献活動を行う人々が一人でも増え、人々が助け合う真に成熟した社会になる日が来ることを切に望んでいる。

齋藤 宏一(さいとう・こういち)

 1999年3月、東京大学法学部卒業。2001年10月、司法修習(54期)を経て弁護士登録(第一東京弁護士会)。2008年6月、米国Harvard Law School (LL.M.)。2008年9月から2009年6月までHarvard Law School客員研究員。2009年5月、ニューヨーク州弁護士登録。2010年4月、当事務所入所。2013年1月、 当事務所パートナー就任。2013年1月から特定非営利活動法人 Teach For Japan監事。2020年「Best Lawyers 2021」を受賞。

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