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アンダーソン・毛利・友常法律事務所 企業法務の窓辺

ラグビーに学ぶ、勝利するチームの心得

内藤 央真(ないとう・てるま)

One for All, All for One: ラグビーに学ぶ、勝利するチームの心得

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
内藤 央真

拡大内藤 央真(ないとう・てるま)
 外国法事務弁護士(連合王国)。
 2000年、ロンドン大学King's College London卒業(LLB)。2001年、英国BPP Law School London 修了。2002年~2006年、ロンドンのAllen & Overy法律事務所勤務。2006年~2010年、内藤株式会社勤務。2010年~2018年、東京のAllen & Overy法律事務所勤務。2018年からアンダーソン・毛利・友常法律事務所。

 ラグビーワールドカップが幕を下ろした。優勝を飾った南アフリカは、決勝当日まで有利とされていたイングランドをみごとに下して、ウェブ・エリス・カップを手にした。決勝の結果はもちろんであるが、ここで対戦した両チームは、実は目を見張るような成果をあげてこの場に辿りついていたのだった。南アフリカは、トーナメントに先立つ成績が決して芳しくなかったうえ、プール戦の第1対戦でニュージーランドに敗北を喫していた。そのため、優勝の可能性は低いと思われていた。もう一方のイングランドについては、自国で開催された2015年のワールドカップを思い起こしてもらいたい。4年前イングランドは、ワールドカップ史上初めて開催国として決勝トーナメントに進出できなかったチームという不名誉を負ってしまったのだ。今年のワールドカップでは、開催国日本の代表チームがベスト8進出を果たしたため、イングランドの汚名は未だそのまま残ることとなってしまった。チームジャパンは、多くの専門家の予測をみごとに裏切り、いくつもの強豪国を破り、日本のみならず世界中のラグビーファンを沸かせた。

 けれども今回のワールドカップに関しては、これらのチームが成し遂げたこと以外にも、ひときわ私の関心を引くことがあった。それは、初めてワールドカップがラグビーを伝統とするメジャー国以外で開催されたにもかかわらず、国際統括団体ワールドラグビーのボーモント会長が、今大会はワールドカップ史上「最も偉大なW杯として記憶に残る」と高評価をしたことであり、さらにはトーナメントに参加したすべてのチームが、開催国日本をしっかりと受け入れてくれたことである。もちろん、いまやラグビーはグローバルなスポーツであるし、世界各地どこに行っても同じルールに従ってプレーする。けれども、いままで開催されたラグビーワールドカップと今回のそれとの間では、決定的に違うことがある。それは、参加チームのプレーヤーたち一人一人が、「ジャパンウェイ Japan way」、すなわち日本の文化や日本ならではのもてなしの表現を、心から受け入れて実践している姿が、ありありと見えたことだ。振り返ってみれば、このことを感じることができる状況は多々あったと思う。しかし今回のワールドカップを最もよく表しているのは、各対戦が終わったとき、多くのチームがスタジアムを回って、お辞儀をして、遠くから集まったサポーターと観戦客に心を込めて感謝の気持ちを表していたときの情景ではないかと思う。このお辞儀の伝統は日本におけるラグビーに独特なものであって、ラグビー主流国では見られないものだった。けれども各国チームは、この日本ラグビーの伝統を自然と自分たちのものとして取り入れた。それが、日本全国のファンのみならず、世界中のラグビーファンとサポーターたちの心に深く響いたのである。

拡大試合後、客席にお辞儀する豪州とウルグアイの選手たち=2019年10月5日、大分スポーツ公園総合競技場で、金子淳撮影

 このような背景のなかから、ふと浮かび上がってくるのが、ラグビースピリット(ラグビーの精神)の根底に共通して流れるいくつかの「理想」ではないだろうか。南アフリカとイングランドと日本、これらのチームの成功への道は、チームが見せたこの「理想の性質」に導かれたものにほかならない。そしてこれらがまさに、スポーツのフィールドにおいても、オフィスにおいても、成功していくチームが育つ基盤をなすものである。その特徴に焦点を当ててみたいと思う。

 Winning, but winning in the right way

 一方では南アフリカが2007年に優勝したときの勝利への道、そしてイングランドの、どん底から決勝進出へ駆け上がってきた、目を見張るようなさま。いま一方では、マイナーなラグビー国の代表から、世界の最高峰を守るチームの面々と競り合い、メジャーチームに重んじられる存在になるまでの、日本代表の目覚ましい変貌。これらのチームの間には、いくつかの共通点がある。その中でも最も顕著なもののひとつが、この3つのチームそれぞれの躍進と復活の推進者となったことで広く知られる一人の人物、エディー・ジョーンズ監督である。彼は、イングランドと日本のチームにそれぞれヘッドコーチとして指導をしてきただけでなく、2007年のワールドカップで優勝した南アフリカチームのアシスタントコーチを務めていた。

 遡ること2012年に、ある出来事があった。それは日本代表チームがエディー・ジョーンズ監督のリーダーシップの下で、そして現ジェイミー・ジョゼフ監督の下で、成し遂げてきた成果の基礎を築いてきた精神そのものを、凝縮して読み取れるような出来事であった。その後広く知られることになった対戦後記者会見に、エディー・ジョーンズ監督の時の主将、廣瀬俊朗選手が臨んだ。フレンチ・バーバリアンズとの対戦で日本代表チームブレイヴ・ブロッサムズは容赦なく攻め立てられ、敗北を喫した直後であった。怒りをあらわにしたエディー・ジョーンズは、メディアを前にしてチームのその日のパフォーマンスに対する辛らつな批判を隠そうとしなかった。コーチの厳しい批判に次いで、メディアの質問へ答えるマイクは主将に渡された。監督の真っ向からの批判に対する守勢だったのかもしれない、廣瀬の口からはまず苦笑いが漏れた。それを見逃さなかったエディー・ジョーンズ監督は、廣瀬の発言する間もなく、かの有名な日本ラグビーの問題意識についての考えを表した。日本はなぜ、いつまでもティア2国の立場を抜け出せないのか。選手たちの根本的な意識(mentality)改革をなくしては、その状況はいつまでも変わらないだろうとエディー・ジョーンズ監督は明言した。これまでは、日本のチームも、ファンも、メディアも、たとえ対戦に敗れても、チームが勇敢に戦っていればそれで満足し、笑顔をもって勇ましさと努力を称えていた。そんな慣例とは対照的にエディー・ジョーンズが伝えようとしたのは、このような考え方から完全に脱して、敗北にはいかなる栄光もないことを認め、選手一人一人が全身全霊をもって勝利のトライを決めない限り、日本は決してティア2を脱することはできない、ということだった。専門家たちはしばしばこの会見を振り返って、これがまさに日本の変貌が始まった瞬間だったと分析している。

 後のインタビューでエディー・ジョーンズはこの会見について言及し、日本のラグビーチームが「勇敢な敗者brave losers」から「尊敬される勝者respected winners」に変わるまでの過程には三つの要素があったと語っている。それらの要素は勝利を勝ち取ってゆくチームを築くために欠かせないものであって、スポーツにおいてもビジネスにおいても応用できるのだという。なるほど、もっともだ。監督のそんな言葉に改めて見えた。実のところ、誰でも偉大な成果を成し遂げる潜在的な能力を持っている。そして勝利するチームと平均的なところに留まるチームとの間の道を隔てるのは、精神的な面・メンタル、体力的な面・フィジカル、社会的な面・グループ、の各レベルで行う「小さな考え方の調整」に過ぎないのだ。

 第一のメンタルの点は、preparation、すなわち目標達成のための準備である。エディー・ジョーンズ監督はまず、勝つために必要な準備・土台作りに対して、メンタル、フィジカル、グループ、それぞれのレベルにおける最大限の意識を集中させて取り組むことを説く。「今ここで自分がしようとしていることは、チームを勝利に導くものであるか否か」、常に自問自答する。その答えが「ノー」であった場合、そのようなことに労力を費やす理由も必要も一切ないと考えるのだ。さらに、彼の考え方の根底には次のような意識がある。毎回勝利することは無論できない、時には負けることもあるだろう。しかし盤石な体制の準備をして、常時備えを怠らないようにすれば、次の機会には勝利を手に入れることができるはずである。今負けてしまったゲームについて思い起こすのではなく、その機会にすべての意識を向けて集中することの方が重要なのではないだろうか。

拡大試合前の練習を見つめるイングランドのエディ・ジョーンズ監督=2019年11月2日、横浜国際総合競技場で、江口和貴撮影
 第二のフィジカルの点はeffort、すなわち目標達成のために注ぐ努力である。エディー・ジョーンズ監督は、先に説明したような備えを実行するために注ぐエフォートが、一人一人の選手が常に自らを改善し続けることを促す環境や文化を創り出すと考えた。今回のワールドカップの間のジョーンズ監督と彼の率いる選手たちのメディアに対する回答を聞いているなかで、ある考え方が度々浮かび上がってきたことに私は気が付いた。「幸せなことに我々は、これからさらに良い結果を出すことができるのだ」。一般的にエディー・ジョーンズ監督は、ハードタスクマスターとして知られている。彼は、トレーニングの時でも対戦の時でも、だれもが身体と精神と感情のすべてにおいて、自らのできる100%の努力を注ぎ切らないことに対して、納得できないのである。彼が各選手に期待しているところは、各個人自らが強い意志をもって、プレーヤーとして、チームとして、自分と自分たちを進化させ磨いてゆく信念を貫くことである。そしてそれを実現する環境を作り上げるために全力を尽くすことを惜しまない。

 第三の点はteam、チームである。チームという概念についてエディー・ジョーンズ監督は、選手はリーダーに信頼されていると確信できたときにベストパフォーマンスを出すことができる、と信じている。究極の目的は、それぞれの選手が、他人の言うことに従うかたちで動くのではなく、選手が自分でどのような行動をとるのか決断することができるようになることである。あるインタビューでエディー・ジョーンズ監督は、自分が初めて日本代表のコーチという役についた時、日本の選手たちは指示に従うことに関しては世界トップだと思ったと語っている。そしてそれは過剰なほどであって、選手たちは自分たちのしていることが正しくないと分かっていながらも、やめろと言われない限り、言われた通りのことをやり続けるほどだった。そしてこのことは、ビジネスにおいてもそのまま通用すると彼は指摘した。ジャパン・チームにおいて変えたのは、まさのこのメンタリティであった。彼は、選手たちが一人一人自分の頭で考えて行動することができるようにしたのであり、現場でも上からの指示に依存することなく、最善の選択を自らから進んでできるように、選手たちを育てあげたのである。

 おわりに

 ラグビーには、誰にでも適任の役割が必ずある。背が低いひと、背が高いひと、大きいひと、足が早いひと、遅いひと、がっしり強いひと、痩せているひと。あらゆるタイプのどのような体形の人でも、チームを支え役立つポジションを見出せることが、ラグビーの素晴らしさの一つである。ラグビーでは体が大きいことが重要であると誤解されがちであるが、日本代表チームを見てもそのほかの世界クラスのプレーヤーたちを見てもわかる通り、決してそれだけではないのである。

 今回のラグビーワールドカップにおける南アフリカとイングランド。決勝を競った両チームの復活と、過去7年間における日本チームの成功には、いくつもの共通する要因がある。そのような要素を理解する一つの方法として、エディー・ジョーンズ流の成功するチームの育て方を紐解いてきたわけだが、その過程で浮かび上がってきたキーワードやテーマは、ラグビーだけでなく、ビジネスを含めたすべての分野において成功していくチームに通じているものであると思う。

 成功するチームを築くために欠かせないのは、「チームとしての文化」という基盤だと、エディー・ジョーンズ監督は強調する。その基盤づくりに必要なのは、チームで共有する考え方を創りあげることと、質の高いパフォーマンスを維持することをお互いに求め続けていくことである。より強そうなチーム、より恵まれた条件のチームを前にして、一見して比べて自分たちは劣っていると見てしまうときもあるかもしれない。けれども、選手の速さや体の大きさにかかわらず、誰にでも適したポジションがあるように、エディー・ジョーンズ監督が創り続け磨き続けたのは、一人一人のメンバーが勝利にむけて準備するという考え方を全てに当てはめ、日々改善を重ねることで、最終目標である皆の成功を一丸になって掴んでゆくという、チーム像だった。一見シンプルな「調節」の連続を通して、最終的には比類なく大きな成果を上げる。今回のワールドカップで決勝に進出した2チームと日本チームのそれぞれが、揶揄されていた立場を脱して世界でグローバルパワーを発揮してゆくラグビーチームへと変貌を遂げた過程には、このようなことが日々行われていたのである。

 いまこの時、日本ラグビーの精神を表すモットー 「ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン、One for All、All for One」が、かつてないほど輝いている。チームで働く弁護士として、ラグビーを通して学んだ多くのことを、いま改めて、活かしてゆきたい。
 “One for All, All for One”

内藤 央真(ないとう・てるま)

 外国法事務弁護士(連合王国)。
 2000年、ロンドン大学 King's College London卒業(LLB)。2001年、英国BPP Law School London (Diploma in Law)修了。2002年~2006年、ロンドンのAllen & Overy法律事務所勤務。2006年~2010年、内藤株式会社勤務。2010年~2018年、東京のAllen & Overy法律事務所勤務。2018年からアンダーソン・毛利・友常法律事務所。

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