メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

資料庫

《東京地裁決定要旨》「小沢氏との共謀」認めた石川議員の調書を証拠却下

小沢一郎議員の元秘書の供述調書の証拠採用の可否に関する東京地裁の決定の理由の要旨

第1 前説

 指定弁護士は、別紙1ないし3記載の石川知裕(以下「石川」という。)、池田光智(以下「池田」という。)及び大久保隆規(以下「大久保」という。)の各検察官に対する供述調書(以下、謄本も含めて単に「検察官調書」という。)等について、刑事訴訟法321条1項2号後段により証拠能力を有するものとして取調請求をしており、これに対し、弁護人は、いずれも取調べに際しての任意性、特信性を欠く等の理由で証拠能力を有しないものと主張している。
 また、指定弁護士は、これらの検察官調書のうち、別紙2記載の甲104から甲106、甲108、甲109及び別紙3記載の甲140ないし甲142については、上記により証拠能力が認められない場合には、同法328条により証拠能力を有するものと主張している。
 そこで、以下、当裁判所のこれらの点についての判断の理由を示す。
 なお、以下、平成22年中の取調べや調書の日付については、「平成22年」を省略することがある。

第2 前提事実(省略)

第3 石川の検察官調書等について

1 石川は、被告人の元秘書であり、国会議員に転身した後も、被告人を政治的に支持しており、被告人が有罪とされないことを強く望んでいるものと認められる。したがって、被告人が在廷しているその面前であり、その証言内容が被告人の刑事責任に直結する上、マスメディアで報道されるなどして社会的に注目され、被告人の政治カに影響することもうかがわれる公判廷においては、被告人にとって訴訟上あるいは政治活動上不利益となる可能性のある供述をすることには、強い心理的規制が働くものと認められる。そのような心理的規制が働く余地の少ない捜査段階の検察官による取り調べの方が、記憶に従った十分な供述をしやすいものと認められるのであり、検察官調書の記載と公判供述との相反部分については、一般論としては、検察官調書の記載に特信性を認めることができる。
 しかし、このように一般論としては特信性を認めやすい検察官調書であっても、任意性に疑いのある取調べによって作成された場合等には特信性を否定すべきと考えられることから、以下、個別の検察官調書について、取調状況を検討し、特信性を判断することとする。

2 石川に対する取調状況についての証拠関係としては、石川の公判供述と同人を取り調べた当時の特捜部所属検察官である田代政弘(以下「田代検事」という。)の公判供述及び証人尋問調書 (別件公判における証人尋問調書であるが、以下区別せずに「公判供述」という。) がある上に、5月17日の取調べについては、石川が密かに行っていた取調べの録音(甲183。以下「取調録音」という。)が存在する。そこで、まず、動かない証拠が存在する同日の取調べ及びその調書の証拠能力を検討し、次に、石川に対する捜査段階の取調べ及びそこで作成された検察官調書のうち指定弁護士が証拠請求するものの証拠能力について、作成日付順に、その記載内容も参照しつつ、石川と田代検事の公判供述に照らして、検討することとする。

(1) 平成22年5月17日付検察官調書(甲99)

ア 同調書には、公判供述との相反部分として、石川が、平成16年分の収支報告書に、被告人から受け取った本件4億円や本件土地の取得に係る支出を記載しないこととした動機、そのために預金担保貸付によって4億円の融資を受けることを被告人に提案して了承されたこと、収支報告書の提出に際して、被告人にその内容を報告し、了承を得たこと等の記載がある。
 そこで、取調録音を中心に、取調状況について、検討する。

イ 田代検事は、同日の取調べにおいて、石川に対し、「被告人の関与を認める供述を覆す旨の調書を作成すると、検察内部の強硬な考えの持ち主が、被告人を不起訴処分にした方針を変えて起訴処分に転じるよう主張する。石川が従前の供述を維持すれば、被告人に対する不起訴処分を維持することになる。」旨の見通しを示すなどして、従前の被告人の関与を認める供述を維持するよう繰り返し推奨している。このような田代検事の働きかけは、被告人の元秘書であり、現在も国会議員として政治的に被告人を支持する立場にあって、被告人が起訴されないことを強く望んでいる石川にとって、強力な利益誘導であるといえ、虚偽供述に導く危険性の高い取調方法である
 しかも、田代検事は、「石川が従前の供述を覆すと、検察審査員も、石川が被告人から指示されて供述を覆したものと考える。検察審査員を刺激して起訴議決に至る可能性があるので、従前の供述を維持した方が良い。」旨の説明もしている。同日の取調べは、検察審査会の起訴相当議決を受けてなされたものであり、石川の同時点における弁解を十分聴取した上で、検察審査会の再度の議決の判断資料として提供することが予定されるというべきであって、前記の田代検事の説明の妥当性には問題があり、誤った前提に基づく取調方法であるともいえる。
 さらに、石川がマスコミに対して供述を覆していること等について検察の幹部が立腹している旨を述べ、再逮捕を恐れている旨の石川の発言に対して、石川が普通の対応をしている限り、再逮捕されることはないが、「検察が石川議員を再逮捕しようと組織として本気になったときに、全くできない話かっていうとそうでもないわけじゃない。」(反訳書47頁)などと述べている。これらの発言は、石川が従前の供述を覆せば、検察において、石川に対し別件での再逮捕を含む不利益な取扱いをすることを示唆するものであって、石川が供述を覆すことを困難にするような強力な圧力でもある
 そもそも、取調録音によると、調書の案文は、取調べ当日における石川の具体的な供述内容に基づいておらず、田代検事が勾留段階の調書の記載を基にするなどして一方的に作成したものとうかがわれるのであって、石川の供述を録取したものと評価できるかすら疑問がある。
 このような取調方法は、違法不当なものであって、許容できないことは明らかである。

ウ もっとも、石川は、同日の取調べの比較的早い段階で、今までの供述を全部覆すことはない旨を述べ(反訳書12頁)、田代検事からの、「基本的には、従前どおりでいいのかな。」という問いかけに対しても、「まあ、私は、あのー、そういうつもりで来ましたけどね。」と答えており(反訳書20頁)、石川は、当初から、大筋では従前の供述を維持するつもりでいたこともうかがわれ、そうすると、前記の田代検事の取調方法と石川の供述との間の因果関係は問題となり得る。
 しかし、石川は、同日の取調べの早い段階から、本件土地売買の時期をずらすのが最大の目的で、被告人から受け取った本件4億円を隠すのが目的ではないことを強調したい旨を明言し、また、被告人に対し、平成16年10月29日に報告したが、同年12月の時点では献金や政治資金パーティーといった収入の報告をしただけであり、平成17年3月には報告していないという点でも従前の供述を修正したい旨繰り返し述べているのに、田代検事は、検察審査会との関係で従前の供述を維持した方が良い等と前記の言動を繰り返すなどして、結局、これを調書に盛り込むことにも、調書の案文の訂正にも応じていない。特に、石川が、平成17年3月下旬頃に被告人に平成16年分の収支報告書の内容を説明した旨の記載について、報告をしたのは平成16年の年末である旨の訂正を申し立てたのに、田代検事は、勾留段階での石川の供述が大久保の供述に合わせたものであることを承知しながら、「具体的な説明をしていないという趣旨の内容であるから訂正する必要はない。既に、平成16年10月に説明して了解を得ているから、その既定路線として、被告人は了解していると思っていたと、石川が認識していたということにした。12月だろうが3月だろうが変わらない。変えると、なぜ変わったかという問題になり、面倒くさい。」旨述べて、訂正を拒否している(反訳書79頁、80頁)。
 その上で、調書の案文の読み聞かせの後、石川が署名を渋っているのに対し、田代検事は、改めて、「石川が被告人に対する報告了承を否定すれば、起訴議決の可能性が高くなる。被告人が当初不起訴となったのは、石川が被告人の関与を認める調書を作成したからだ。」などと述べて、署名を促している(反訳書87頁)。
 これらの調書作成の経緯によれば、石川が同調書の作成に応じたことには、田代検事の前記の取調方法が影響しているものと認められる。

エ 以上を総合すると、甲99には、石川の意に反する内容の重要な供述記載が含まれていることが認められ、それにもかかわらず、石川がその作成に応じたのは、前記の田代検事の取調方法が影響しているものと認められる。
 これに対し、このような取調方法について、田代検事は、公判において、「より真実に近い供述を維持するために行った。全体を聞いてもらえばそれほど非難されるものではないと考えている。」旨供述している。しかしながら、田代検事の前記の取調べが、真相解明への熱意等から行われたのだとしても、検察官の職責を考えれば、そのことでその違法性、不当性が減じられるものとはいえない。しかも、田代検事は、「当時は、その危険性を自覚していなかったが、録音されていると分かっていれば、このような取調べはしなかった。」旨も供述しており、取調べの可視化が広くなされていれば、行うことのできない取調方法であったことを自ら認めているものといえる。
 以上によれば、甲99については、供述の任意性を否定すべきものと認められ、したがって、特信性も否定すべきものといわなければならない。

(2) 平成21年3月16日付検察官調書(甲83)

 この調書には、公判供述との相反部分として、石川が作成した収支報告書の案を大久保に確認してもらい、承認を得た上で完成させていたこと等の記載がある。
 この調書は、西松建設事件の捜査における任意の取調べにおいて作成されたものであり、石川の公判供述によっても、取調官から強制や誘導を受けたことはうかがわれないことに加え、その具体的で詳細な記載内容からも、石川自身の供述に基づいて作成されたものとうかがわれることに照らすと、同調書の特信性は肯定すべきものと認められる。

(3) 平成21年12月27日付検察官調書(甲98)

 この調書には、公判供述との相反部分として、平成16年分の収支報告書に本件4億円を記載しなかった理由について、特に深い意味はなく、忙しかったので書き忘れただけであること、本件土地の登記手続を平成17年1月7日に遅らせた理由についても、深い意味はなく、忙しかったので後任の池田に任せようと思ったこと等の記載がある。
 この調書は、任意の取調べにおいて作成されたものである上、石川も、弁護人と相談の上で取調べに臨み、自らこれらの内容を供述した旨公判で供述していることに照らすと、同調書の特信性は肯定すべきものと認められる。

(4) 平成22年1月14日付検察官調書(甲84)

 この調書には、公判供述との相反部分として、石川が、平成16年分の収支報告書に本件4億円を収入として記載しないこととしており、作成事務を手伝わせた池田に対してもこれを計上しないよう指示したこと、本件土地の購入に係る支出について、実際には平成16年10月に支払を済ませているが、本登記に合わせて平成17年1月7日に支払ったものとして記載するよう池田に指示したこと等の記載がある。
 石川は、公判において、「このような記載は事実とは違っており、ある程度田代検事と折り合いをつけないと大変なことになると考えて署名指印した。」旨供述する。
 しかし、そもそも、同調書は、石川が、既に弁護人の助言も受けた上で臨んだ任意の取調べにおいて作成されたものである。また、石川は、1月16日の勾留質問においても被疑事実を認めており(甲88)、5月17日の取調べにおいても、被疑事実に関する限り自らが責を負うことは避けられない旨の認識を繰り返し示していることに照らすと、自らの不利益事実を認める甲84の作成にも、納得して応じたものと考えるのが自然である。さらに、同調書の原案のうち、本件4億円の不記載の犯意について言及した部分が、石川により訂正されており(甲215)、これは、同調書の重要部分について、訂正を申し立てて認められたのであるから、石川において、田代検事に屈服して言われるまま調書に応じるといった心境ではなかったことをうかがわせるものといえる。
 この点について、田代検事は、「4億円という巨額の金額を書き忘れるはずがない、利息を負担してまで預金担保貸付を受ける理由はない、合理的な説明をしてくれ、と言って追及したところ、石川は、弁解に窮して困ってしまい、最終的に、自らが意図的に4億円を記載しなかったことを認めた。」旨公判で供述しており、この説明は、同調書の記載内容や石川の供述経過に照らし、信用することができる。
 たしかに、この調書は、石川が、本件4億円や本件土地購入に関する支出を平成16年分の収支報告書に記載しなかったことを初めて認めた調書であり、後に検討するように、1月13日か14日頃、田代検事は、石川に対し、「早く認めないと、特捜部は恐ろしい組織なので、何をするか分からない。」旨発言した疑いがあることが認められる(反訳番97頁)。しかし、甲84は、石川の逮捕前の段階で作成されたものであって、特捜部が恐ろしい組織なので何をするか分からない旨の発言が、実感を伴った強い圧力として石川の心理に影響を及ぼしていたとまでは認め難い。また、この田代検事の発言は、石川が建設会社からの献金受領を否認したことに対する発言であって、石川の被疑事実の認否について直接向けられたものではない上、前記の甲84の記載内容に照らしても、その作成に応じるに当たって、強い影響を及ぼしたものとはうかがわれない。
 以上のとおり、甲84について、供述の任意性に疑いはなく、その特信性は肯定すべきものと認められる。

(5) 平成22年1月15日付弁解録取書(甲86)

 同弁解録取書には、被疑事実はそのとおり間違いなく、石川が大久保と一緒に平成16年分の収支報告書に虚偽の記入をしたことは間違いないが、そのようなことをした理由は話したくない旨が記載されている。
 石川は、公判において自らの意に沿わない記載がされたことをうかがわせる供述をしているが、石川の公判供述によってもそのような調書に署名した理由は明らかでない上、翌日の裁判所における勾留質問においても、被疑事実を認める旨の供述をしていること(甲88)、5月17日の取調べにおいても、石川は被疑事実に関する限り自らが刑責を負うことはやむを得ない旨の認識を繰り返し示していることに照らすと、同弁解録取書は、石川自身の供述に基づいて作成されたと認められる。
 そうすると、同弁解録取書について、供述の任意性に疑いはなく、その特信性は肯定すべきものと認められる。

(6) 平成22年1月19日付(甲89)、同月26日付(甲90)各検察官調書

ア 甲89には、公判供述との相反部分として、石川が大久保や被告人と協議しながら、本件土地の購入を決めた経緯や、被告人から本件4億円を受け取った経緯に加えて、次期代表選挙前に本件土地の購入や本件4億円が記載された平成16年分の収支報告書が公表されるとマスコミが騒ぐので、本件土地の取得を翌年に遅らせる方が良いことについて、大久保や被告人に提案して了承された旨や、本件土地の購入原資が被告人からの本件4億円ではないとの外形を作るためにりそな銀行から預金担保貸付を受けることについても、大久保や被告人に説明して了承を受けた旨の記載がされている。そして、被告人から受け取った本件4億円について、石川は、どのような資金であるかは知らなかったが、被告人が政治活動の中で何らかの形で蓄えた簿外の資金であり、表に出せない資金であると思った旨も記載されている。
 また、甲90は、公判供述との相反部分として、平成17年3月下旬頃までに、石川が平成16年分の収支報告書の案を作成し、これを大久保に報告して決裁を受けた経緯やその具体的内容及び被告人に報告して決裁を受けた経緯やその具体的内容が記載されている。

イ 石川は、このような被告人の関与を認める旨の調書が作成された経緯について、公判において、「被告人にこれらの報告をして了承を受けたことはなく、これらの調書の記載は、田代検事が推測して作文した内容である。田代検事からは、1月14日にも、特捜部は恐ろしいところだ、認めないと捜査がどんどん拡大していくぞ、何でもできるところだなどと言われており、実際に、自分の支援者が特捜部に呼ばれていたこともあり、否認を続けていると、自分の支援者や秘書にも捜査が拡大し、自分も再逮捕されるという恐怖を感じていた。自分の支援者や秘書、ひいては自分を守るために、ある程度、田代検事に迎合しないといけないと考えた。調書の記載が、秘書として仕えた被告人に不利であることは理解していたが、ある程度田代検事に迎合しないと大変なことになるし、田代検事からは、否認を続けていると、被告人や被告人の妻も呼ぶことになると言われ、迷惑をかけることになると考えた。さらに、田代検事からは、調書の程度の記載では、共謀として被告人が起訴されることはないと言われたので、作成に応じた。」旨の供述をしている。
 これに対し、田代検事は、公判において、「石川に対し、真実を語らせるために、第1に信頼関係を築いた上で、正論で説得することにした。私はフェアにやる、正直に事実を話してほしいと話し、黙秘権はあるが、積極的にうそはつかないことを約束してもらった。そして、石川が不合理な説明をしたときに、うそをつかないと約束したではないか、と追及した。その上で、十勝の有権者は、石川が被告人の秘書だから投票したのではなく、石川個人を信頼して投票したはずである、暴力団の子分が親分をかばうようないい加減な話をしたのでは、有権者を裏切ることになる、などと言って、真実を話すよう説得した。その結果、1月16日、石川は、被告人から受け取った4億円を収入として不記載にしたこと、本件土地の登記を翌年にずらして平成16年分の収支報告書に記載しないこと、預金担保貸付を受ける必要性等について、被告人に報告をして了承されたこと、さらに、本件4億円の原資についても供述するに至った。そこで、調書を作成しようとしたが、石川は弁護人の助言を理由に署名を拒み、同月17日、18日も署名しなかった。真実を記載しているなら拒否する理由はない、調書が作れないと私も困る、と言って説得したところ、同月19日に署名した。」旨供述している。

ウ そこで、取調録音及び5月17日の取調状況等に照らして、勾留段階において被告人の関与を認めた調書の取調状況を検討する。

(ア) 5月17日の取調べにおいて、石川が、「1月13日の強制捜査の前に、早く認めないと、ここは恐ろしい組織だから、何するか分からないぞと、田代が諭してくれたことがあった。」旨述べたのに対し、田代検事は、「うんうん。」と相づちを打っている(反訳書97頁)。このやりとり及びその前後の会話からすれば、田代検事は、1月13日頃、石川に対し、建設会社からの金銭受領を否認し続けていると、特捜部は恐ろしい組織なので、石川が予想もできないような不利益を被ることになりかねないとして、事実関係を供述するように促したことがうかがわれ、1月13日か14日かはともかく、石川の公判供述を裏付けるものといえる。この田代検事の発言は、直接には建設会社からの金銭受領の否認に対するものであるとしても、石川の立場からすれば、特捜部が立証しようとしている被告人の関与を否認することも含めて、同様の不利益が伴う旨告知されたものと理解することは、むしろ自然なことといえる。しかも、現に、特捜部においては、石川の逮捕の前後を通じて、石川の支援者を呼び出して事情聴取を行っていたことが認められるし、後記エのとおり、石川や石川の秘書に対し、陸山会事件とは異なる被疑事実で取調べを行っていたことも認められるから、石川が、特捜部が立証しようとする事実を否認することで大きな不利益を受けることを、勾留されている期間を通じて徐々に実感していったであろうことも、容易に想像できる。したがって、この田代検事の発言は、石川がその意に反する調書に応じる上で強い庄カになったものと推認できる。
 この点について、田代検事は、公判で、「5月17日の取調べにおける相づちは、石川の発言を理解して、承認する趣旨ではなく、石川がいろいろ話す間、相づちを打っている状態の一つである。1月13日は任意の取調段階であり、録音される可能性があり、当時の政権与党の幹事長に対する捜査であるから、慎重を期していたし、弁護人から抗議を受ける可能性もあるから、そのような発言をする状況にはなかった。」旨供述している。しかし、その後の会話の中でも、田代検事は石川のこの発言に反ばくしていないのであるから、相づちの趣旨はともかくとしても、石川の発言を実質的に認めていたとみるのが相当である。なお、仮に田代検事がこの石川の発言をよく聞いていなかったとしても、石川が、田代検事の面前で、「恐ろしい組織だから、早く認めないと何をするか分からない。」と諭された旨の認識を表明したこと自体が、このような事実の存在を推認させるともいえる。

(イ) 5月17日の取調べにおいて、田代検事は、石川に対し、石川と被告人との共謀について、「石川さんに対して、いろんな技を授けて、調書にした部分もあるけども。」「法律家であれば、やっぱり共謀の認定っていうのは、認めてはいるんだけど、それじゃ、ちょっと共謀の認定としてはきついよねっていう、位の話はしたじゃない。」「うちの方は、ま、なんていうかな。うまい具合にさ、そこは、ね。要するにそこは想像したとおりになったわけでしょ。」「だけど、そこのところがやっぱり、検審の、その法律家じゃない人には、ま、理解が多分しづらいところなんじゃないかと思うんだよな。」と述べている(反訳書13頁)。この発言の趣旨は、要するに、「田代検事は、石川の勾留段階における取調べにおいて、石川と協議して、検察による被告人の起訴が回避されることを見込んで、被告人の関与を認める内容ではあるが、法律家の観点からは共謀を認定するには足りないような供述内容や表現を工夫して、調書に録取しており、その旨を石川にも説明した。その結果、予想どおり、検察は、被告人を不起訴としたが、法律家ではない検察審査員には理解がしづらいので、起訴相当議決に至った。」旨を述べていると理解される。また、5月17日の取調べにおいて、田代検事は、石川に対し、「今現在起訴されていないし、」「まだ望みは捨てない、」「だから我々の作戦は功を奏しているというふうに考えていいと思うんだよね。」と述べている(反訳書40頁)。この発言は、前記で検討した点も踏まえて検討すると、石川の勾留段階における取調べにおいて、田代検事と石川は、被告人が起訴にならないようにする共通の目標を持ち、これを実現するための作戦を共有していたことを前提とするものである。そうすると、田代検事が、石川に対し、本心はともかく、少なくとも表面上はそのような態度をとって懐柔し、この程度の記載であれば被告人は起訴にならないなどと説得して、調書の作成に応じさせていたことを推認させるものといえる。
 これらの点について、田代検事は、勾留段階において、石川に対し、共謀の認定が難しい旨の説明をしたことを認めつつ、その説明をしたのは調書の署名指印後であり、それも石川から執ように問われて答えたものである旨、また、「5月17日の取調べの以前において、石川との間で、被告人の不起訴に向けて供述調書の作り方等について一緒にやっていくという発言をしたことなどない。」旨を公判で供述している。
 しかし、石川が勾留段階において、勾留質問でも認めていた自分が行ったとされる部分はともかくとして、秘書として仕えていた被告人の共謀をうかがわせるような事実を供述し、これを録取した調書の作成に応じることに強く抵抗していたことは明らかであり、その旨の調書作成に当たっては、田代検事からの相応の働きかけが推認される。そもそも、田代検事は、5月17日の取調べにおいて、前記検討のとおり、石川に対し、別件での再逮捕の可能性を示唆する発言をするなどし、また、被告人の関与について供述を維持すれば、検察は起訴しないし、検察審査会も起訴議決には至らない見込みがある、供述を覆せば、検察内部には起訴に転じるとの強硬な意見があるし、検察審査会も起訴議決になるなどと説得して、甲99の作成に応じさせている。したがって、石川の勾留段階においても、事実関係を供述させ、調書に署名させるための説得手段として、石川自身に対する捜査の拡大を示唆し、被告人は起訴されないとの見通しを示したことが疑われるのであり、5月17日の取調べにおける田代検事の前記の発言は、この疑いを裏付けるものと考えられる。

(ウ) さらに、5月17日の取調べの後、田代検事は、同取調べにおいて、石川が、「勾留段階において、選挙民は、私が被告人の秘書だったという理由で投票したのではなく、私という個人に期待して国政に送り出したのに、やくざの手下が親分を守るためにうそをつくのと同じようなことをしたら、選挙民を裏切ることになると、田代検事から言われて、堪えきれなくなって、被告人の関与を認める供述をした。」旨述べ、また、「今更被告人が関係なかったと言っても信じてもらえるわけがないし、かえって、ロ止めをしたに違いないとか、絶対的権力者なんだと思われる。」旨述べて、それまでの供述を維持することを決意したことなどを記載した捜査報告書を作成しているが、これらの記載は、取調録音によれば、5月17日の取調べの内容としては、事実に反するものである。田代検事は、同捜査報告書について、「同日の取調べの後に数日かけて作成した際、記憶の混同が生じて事実に反する内容になった。」旨公判で供述するが、同捜査報告書が問答体で具体的かつ詳細な記載がされていることに照らすと、あいまいな記憶に基づいて作成されたものとは

この記事の続きをお読みいただくためには、法と経済のジャーナルのご購読手続きが必要です。

朝日新聞デジタル購読者(フルプラン)の方なら手続き不要

法と経済のジャーナル Asahi Judiciaryは朝日新聞デジタルの一部です。
有料(フルプラン)購読中の方は、ログインするだけでお読みいただけます。

朝日新聞デジタルのお申し込みはこちら

Facebookでコメントする

ご感想・ご意見などをお待ちしています。