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資料庫

小沢氏、特捜幹部を名指し「有罪ありき」の捜査を批判し結審

小沢一郎議員の弁護人の弁論の要旨

 第1 事件組立ての不合理性

 東京地検特捜部は、被告人に対し、ゼネコン等から違法な金を受け取ったのではないかという根拠のない「妄想」(前田54頁)を抱いて、収賄の嫌疑をかけ、大規模な捜査を行なったものの、結局、嫌疑を裏づける証拠を得ることができず「敗北」した。

 本件は、その残滓である。

 残滓であるとは、一つには、本件が特捜部の想定した収賄事件としてではなく、収支報告書に関する政治資金規正法違反という形式犯としてしか起訴できなかったということである。

 残滓であることのもう一つの意味は、検察官が想定したゼネコン等からの不正な金銭収受が存在しないことが、本件(政治資金規正法違反事件)が成立しえないことを明らかにしているということである。

 妄想から始まった事件は、最後まで実在しないのである。

 1 検察官の見立ての間違い

 東京地検特捜部は、被告人がゼネコンその他の建設業者等から違法に金銭を受領しているとの妄想に基づき、全国から検事を動員し、建設業者等から徹底的な事情聴取を行った。正に、「特捜部と小澤との全面戦争」(前田8頁)であった。

 しかし、このような捜査にもかかわらず、ゼネコンからの不法な金銭受領を裏づけることはできなかった。かろうじて供述を得ることができたのは、水谷建設からの1億円(5000万円を2回)だけであったが、これとて、最初の5000万円を受け取ったとされる石川知裕の取調べにあたった吉田正喜特捜部副部長も、田代政弘検事も、「あれはないんじゃないか」との心証を抱くようなものであり(前田62頁。甲183・92頁)、事実として確認できたとは到底言いえないものであった。

 そうであれば、事実を重んじる法律家である検察官としては、被告人に対する捜査・起訴を断念すべきであったにもかかわらず、特捜部は、石川ら3人を政治資金規正法違反という形式犯で逮捕・起訴し、しかも石川らが収支報告書に偽りの記載をしたのは、被告人から受け取った4億円の出所に後ろ暗いところがあり、具体的には水谷建設からの1億円が含まれている可能性があるかのような取調べを行なった。

 水谷建設からの1億円を含む4億円を被告人が建設業者から受領したことはなかったのであるから、この主張は誤りであり、特捜部もこのことは認識していた。特捜部が敢えてこのような主張をしたのは、「石川らによる収支報告書の虚偽記入・不記載は、被告人から受領した4億円が違法なものであることを隠蔽しようとして敢行された」という動機が存在するかのように装うためであった。

 さらに、検察官は、法律の専門家としての判断は「嫌疑不十分一不起訴」であったにもかかわらず、検察審査会に対しては、被告人に関する嫌疑は十分に存在するかのような田代検事作成の報告書を提出するなどして、検察審査会に起訴議決を行なわせた。これは、大規模な捜査を行なったものの収賄事件の立件に失敗した検察官が、それによる批判を受けることを恐れ、検察審査会を欺いてまで被告人の起訴を確保しようとしたものと理解される。

 2 指定弁護士による起訴における主張の欠如

 指定弁護士は、石川が被告人から現金を受け取った日が平成16年10月12日ころ(少なくとも、分散入金が開始された同月13日より前)であるのに対し、水谷建設が石川に現金を渡したとされる日が同月15日であること(石川4-49)から、被告人が石川に渡した4億円(の一部)が建設業者からのものであるとの主張を行なわなかった。

 このこと自体は当然であるが、このように4億円を建設業者(水谷建設を含む)から切り離すと、「なぜ石川らが、収支報告書に虚偽の記入(不記載を含む)をしたのか」という動機が全く存在しないこととなる。

 以下で述べるとおり、4億円の出所について被告人は合理的な説明をしているが、この点を暫く措くとしても、4億円の原資が違法なものであり、そのために、その存在自体を秘匿しなければならなかったということを指定弁護士は何ら立証していないし、これを立証しようともしていない。すなわち、本件裁判において、この4億円は、被告人が適法に所持していたものと取り扱われることになる。

 さらに、石川が、被告人から受領した4億円が違法なものであったと認識していたとの点も、本件では全く立証されていないし、主張もされていない。

 そうすると、石川らは、被告人が適法に所持し、かつ、そのように認識していた4億円の存在を秘匿するため、敢えて収支報告書に虚偽の記入をしたということになるが、そのような違法な虚偽記入によって得られるものは何もなく、そのような違法行為に手を染める必要性は皆無である。

 すなわち、本件において、石川が、収支報告書に虚偽の記入をしなければならないと判断する理由はなく、そもそも、虚偽の記入をしようと考える動機すら存在しない。

 指定弁護士による起訴は、動機のない犯罪が行なわれたとするものであり、不合理極まりないものである。

 以下、この点を論ずる。

 3 被告人の動機に関する指定弁護士の立論の根本的誤り

 指定弁護士は、被告人が巨額の資金を有していること及びそれを利用して本件土地を購入したことが露わになることを避けたかったことが、本件の背景であると繰り返し主張する。

 しかし、被告人が、10月12日ころに石川に渡した4億円について、それほどまでにその存在を隠蔽したいと思い、それを防ぐためには収支報告書の虚偽記入及び不記載という違法な手段に訴えることも容認していたとすれば、そもそも被告人は、なぜ秘書寮の建設のために4億円を利用させることとしたのであろうか。違法な行為に手を染めてまでその存在を秘匿したかったのであれば、最初から4億円を利用させるなどしなければよかったのである。

 通常、存在を隠しておきたい金銭を利用しなければならない理由としては、重大な目的のために、金が緊急に必要な場合が考えられるが、秘書寮の建設はそのような場合ではない。罪を犯してまで公表を避けたい金銭を使わなければならない場合ではないのである。

 さらに、被告人について見れば、この4億円を使わなくとも秘書寮を建設させることは十分に可能であった。もともと、大久保隆規と石川がこの話を持ってきたときも、「政治団体の資金を集めれば本件土地を購入することは可能であるが、その場合には運営資金が不足する」ということであった。そうであれば、被告人において、4億円の全額でなくとも、ある程度の部分を負担すれば、秘書寮を建設することはできるし、政治団体の運営も十分に可能であったのである。

 そして、被告人に、「平成16年10月時点で、議員歳費、印税、メディアへの出演料、顧問料等の公的収入がすべて振り込まれる純然たる個人口座である本件りそな被告人口座に2億円近い現金が蓄えられていた」ことは指定弁護士も認めるところであり(論告59~60頁)、被告人にとって、この口座の現金を使うことについて何の問題もなかった。そうであれば、被告人がこの口座にある約2億円を拠出し、政治団体が残りの約2億円(建設費を後回しにすれば約1.5億円)を負担すれば、秘書寮用地を取得(及び建築費を確保)し、政治団体の運営に支障が生じることはなかったのである。

 実際には、被告人は、大久保及び石川から、「秘書寮の建設に4億円が必要」と言われると、細かなことを問い質そうともしないまま、4億円全額を負担することを伝えている。

  このような経緯を見れば、被告人が4億円の存在を隠そうと考えてなどいなかったことは明らかである。

 4 4億円の原資を隠す必要性の不存在

 被告人が10月12日ころに石川に渡した4億円の出所は明確に説明されている。指定弁護士も、冒頭陳述の段階では、「被告人は、今に至るも本件4億円の出所について明確に説明していない」(30頁)と主張していたが、論告段階ではこれを放棄した。当然のことながら、この4億円の原資が違法ないし不相当なものであるとの立証もない。

 検察官が妄想していたように、被告人が石川に渡した4億円がゼネコンなどから受領した違法なものであったとすれば、その原資を隠しておきたいと思うということは考えられる。しかし、この4億円はそのようなものでないのであるから、被告人において、この4億円の原資がどのようなものであるかを秘匿する必要はなかった。

 5 4億円は資産公開法の対象外

 指定弁護士は、被告人が巨額の金を保有していることを知られたくなかったとしている。しかし、国会議員に関する資産公開制度において現金は資産等報告書で報告すべき事項に含まれていないから(政治倫理の確立のための国会議員の資産等の公開等に関する法律2条1項参照)、被告人は、4億円の現金を保有していることを明らかにしなければならない必要はなかった。

 このように、現金は資産公開の対象になっていなかったのであるから、石川に渡すにあたって、4億円の存在がわかると資産公開との関係で問題が生じると考えることもなかった。この点は、これを受け取った石川も同様である(石川4-55)。

 6 被告人の個人資産の全体像

 被告人がどれだけの個人資産を有しているかは、秘書には知らされていなかった。指定弁護士は、10月12日ころに石川に渡した4億円は秘書にもその存在が秘匿されていたとするが、これは明らかに事実に反する主張である。

 小沢事務所では、被告人の個人資産を把握していないため、秘書が資産報告書を作成するにあたっては、夫人及び被告人の所得税申告の手伝いをしている人から情報を教えてもらっていたのである(石川4-112)。

 被告人がりそな銀行衆議院支店に有していた口座は、必要な限りで秘書に使わせていたのであり、そのことと、被告人個人の資産としてどのようなものがあるかを秘書に明らかにし、あるいはこれを利用させることとは全く別である。被告人の個人資産を秘書に伝える必要は全くなかったし、現にこれを伝えたこともなかった。資産報告では現金及び普通預金は公開の対象外であるから、資産報告書によって秘書が被告人の資産の全体を知るということもない。

 本件でも、大久保と石川は、秘書寮建設の費用について被告人に相談しているが、これは、被告人が4億円程度であれば何とかしてくれるかもしれないと思ったためである。具体的に被告人がどこに、どのような形で4億円を有しているのか、あるいはどのようにこれを準備するのかは知らなかったものの、何とかしてくれるのではないかと考えていたのである。したがって、10月12日ころに現金4億円を受け取ったときも、石川にとって想定外のお金が用意されたという意識は全くなかったし、ましてその形成過程について危惧感を抱いたことはなかった(石川4-53)。

 7 被告人及び秘書は4億円の存在を隠蔽する必要はなかった

 (1) 被告人

 上に見たとおり、被告人にとって、10月12日ころに石川に渡した4億円は、適法に形成し、適法に所持している財産である。この財産を利用して、不動産を購入するという適法な活動を行なうとき、この4億円を被告人が保有していた事実、あるいはそれを陸山会に利用させて同会が不動産を購入したという事実を、違法な手段を用いてまで隠蔽しようなどとすることはありえない。

 これはあまりにも当然のことである。もともと隠す必要のない事実なのであるから、そのような隠蔽を行なったとして、これによって得られるものはない。逆に、違法な手段によって刑事責任を問われることになれば、これによる損害は計り知れない。

 通常の人間であれば、プラスにな

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