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小沢氏無罪に控訴 指定弁護士「見過ごせない事実誤認」

小沢一郎議員に無罪を言い渡した東京地裁判決の要旨

 ○主文

 被告人は無罪。

 ○理由の要旨

 (本件公訴事実の要旨)

 被告人は

 第1 自己の資金管理団体である陸山会の会計責任者であった大久保隆規及び同人の職務を補佐する者であった石川知裕と共謀の上、平成17年3月31日頃、東京都新宿区西新宿2丁目8番1号所在の東京都選挙管理委員会において

 1 陸山会が、平成16年10月12日頃、被告人から4億円の借入れをしたにもかかわらずこれを平成16年の収入として計上しないことにより、同年分の収支報告書の「本年の収入額」欄にこれが5億8002万4645円であった旨の虚偽の記入をし

 2 同会が、平成16年10月5日及び同月29日、土地取得費等として合計3億5261万6788円を支払ったにもかかわらずこれを同年の支出として計上しないことにより、真実の「支出総額」が4億7381万9519円であったのに同収支報告書の「支出総額」欄に3億5261万6788円過小の1億2120万2731円であった旨の虚偽の記入をし

 3 同会が、平成16年10月29日、東京都世田谷区深沢8丁目○番5、同番19所在の土地2筆を取得したのにこれを同収支報告書に資産として記載をせず

 同収支報告書を同委員会を経て総務大臣に提出し、もって同収支報告書に虚偽の記入をし、記載すべき事項を記載しなかった

 第2 前記大久保隆規及び同人の職務を補佐する者であった池田光智と共謀の上、平成18年3月28日頃、前記東京都選挙管理委員会において

 1 陸山会が、平成17年中に土地取得費等として合計3億5261万6788円を支払っていないにもかかわらずこれを同年の支出として計上することにより、真実の「支出総額」が3億2734万7401円であったのに同年分の収支報告書の「支出総額」欄に3億5261万6788円過大の6億7996万4189円であった旨の虚偽の記入をし

 2 同会が、前記土地2筆を取得したのは平成16年10月29日であるのに同収支報告書の「資産等の項目別内訳」の「年月日」欄に取得年月日が平成17年1月7日である旨の虚偽の記入をし

 同収支報告書を同委員会を経て総務大臣に提出し、もって同収支報告書に虚偽の記入をした

 ものである。

 

 (公訴棄却の申立てに対する判断)

 以下の括弧内の甲、弁番号は、証拠等関係カードの指定弁護士、弁護人各請求証拠番号を示す。

 第1 前提事実等

 1 はじめに

 本件公訴事実に係る公訴提起は、検察審査会の起訴議決に基づくものであるところ、弁護人は、[1]検察官が、起訴議決に先立って行われた再捜査において、違法、不当な捜査により、内容虚偽の供述調書を作成した上、その供述経緯等につき内容虚偽の捜査報告書を作成し、これらを検察審査会に送付するという重大な違法行為を行い、これによって検察審査員が重大な錯誤に陥って起訴議決をするに至ったものであるから、起訴議決は無効であり、公訴提起の手続もその規定に違反して無効であると主張して、公訴事実の全部について公訴棄却を申し立て、また、[2]公訴事実第1の1に係る事実についての検察審査会の起訴議決について、検察審査会の起訴相当議決や検察官による再度の不起訴処分を経ていない等の重大な瑕疵があることから、同事実の公訴提起の手続も、その規定に違反して無効であると主張して、同事実について公訴棄却を申し立てているので、それぞれについて、以下検討する。

 2 前提事実

 関係証拠及び一件記録によれば、以下の事実を認めることができる。

 (1) 平成22年1月21日、被告人、大久保隆規(以下、「大久保」という。)、石川知裕(以下、「石川」という。)及び池田光智(以下、「池田」という。)を被告発人として、告発状(甲159。以下、「本件告発状」という。)が東京地方検察庁に提出され、受理された。

 (2) 東京地方検察庁検察官は、同年2月4日、大久保、石川及び池田に対し、公訴を提起したが、被告人に対しては、共謀を立証することは困難であり、嫌疑不十分として、不起訴とする旨の処分をした(甲160、東京地方検察庁平成22年検第1443号。以下、「2月4日付不起訴処分」という。)。

 (3) その後、被告人について、告発人から、不起訴処分の当否の審査を求める申立てがされ、同年4月27日、東京第五検察審査会において、起訴を相当とする旨の議決がされた(甲157、平成22年東京第五検察審査会審査事件(申立)第10号。以下、「本件起訴相当議決」という。)。

 (4) 本件起訴相当議決を受け、東京地方検察庁検察官は、再捜査を行ったが、同年5月21日、被告人に対し、嫌疑不十分により不起訴とする旨の処分をした(甲161、東京地方検察庁平成22年検第11022号。以下、「5月21日付不起訴処分」という。)。

 (5) 東京第五検察審査会において、5月21日付不起訴処分について再審査を行い、同年9月14日、本件公訴事実と同内容の犯罪事実について、被告人に対し、起訴すべきである旨の起訴議決がされ、同年10月4日、その旨の議決書が作成された(甲158、平成22年東京第五検察審査会審査事件(起相)第1号。以下、「本件起訴議決」という。)。

 (6) その後、東京地方裁判所において選任された指定弁護士により、平成23年1月31日、本件公訴事実について、公訴提起がされた(以下、「本件公訴提起」という。)。

 第2 公訴事実全部に係る公訴棄却の申立てについて

 1 両当事者の主張

 (1) 弁護人の主張

 東京地方検察庁特別捜査部(以下、「特捜部」という。)所属の担当検察官は、起訴相当議決を受けての再捜査において、平成22年5月17日、石川を取り調べ、威迫と利益誘導によって、被告人の関与を認める旨の供述調書を作成した上、同日付で、石川が同調書の作成に応じた経緯、動機について供述した旨の内容虚偽の捜査報告書を作成しており、特捜部は、同供述調書と同捜査報告書を併せて検察審査会に送付している。このような検察官による虚偽有印公文書作成・同行使という重大な職務犯罪を伴う偽計行為により、検察審査員をして、被告人の関与を認める旨の石川の供述調書が信用できる旨の錯誤に陥らせており、石川の供述は、共謀の成否を直接左右する最重要証拠であって、その信用性は決定的に重要な事項であるから、この錯誤がなければ本件起訴議決に至らなかったと推認できる。そして、特捜部は、東京第五検察審査会の要求を受けて、審査に必要な資料の提出として、同捜査報告書を提出したのであるから、前記偽計行為は、検察審査会における審査手続においてなされたものである。したがって、本件起訴議決は、その審査手続において、検察官の偽計行為により、検察審査員らが重大な錯誤に陥った結果なされたものとして無効となり、本件公訴提起の手続は、その規定に違反したため無効となるから、刑事訴訟法338条4号に該当する公訴棄却事由がある。

 (2) 指定弁護士の主張

 仮に、事実に反する内容の捜査報告書が検察審査会に提出され、検察審査員において、石川の供述調書の信用性評価を誤って本件起訴議決がされたとしても、これによって起訴議決が無効となる旨の法律上の規定はなく、このような検察審査員の錯誤の内容や程度を裁判所が事後的に審理の対象とすることは、検察審査会の会議の非公開の原則にも抵触することから、許されない。仮に、検察官において、検察審査員らを錯誤に陥れる意図があったとしても、審査手続が違法になるものではなく、議決の効力に影響することはない。したがって、本件起訴議決は有効であり、本件公訴提起の有効性に影響することもなく、公訴棄却の申立ては理由がない。

 2 当裁判所の判断

 検察審査会の起訴相当議決を受け、検察官が再捜査し、再度不起訴処分をした上で、証拠等を検察審査会に送付するに当たっては、検察官は、適正な手続に則り、必要な捜査を尽くして、証拠を収集し、これを検察審査会に送付すべきものである。ところが、本件において、平成22年5月17日、特捜部所属の検察官が、石川を取り調べ、同日付で、本件について被告人の関与を認める内容の供述調書を作成したこと、当裁判所においては、同調書の供述の任意性を否定すべきものと判断したこと、前記検察官は、石川が被告人の関与を認める供述調書の作成に応じた経緯や動機を前記取調べにおいて供述したことを内容とする捜査報告書を作成したが、同取調べにおいて石川がそのような供述をした事実はなく、同捜査報告書の内容は事実に反するものであったこと等については、当裁判所の平成24年2月17日付証拠決定のとおりであり、また、関係証拠によれば、これらの供述調書と捜査報告書が5月21日付不起訴処分の後に東京第五検察審査会に送付されたことも認められる。このように、検察官が、公判において証人となる可能性の高い重要な人物に対し、任意性に疑いのある方法で取り調べて供述調書を作成し、その取調状況について事実に反する内容の捜査報告書を作成した上で、これらを検察審査会に送付するなどということは、あってはならないことである。

 しかし、証拠の内容に瑕疵があることと、手続に瑕疵があることとは別の問題である。検察官が、任意性に疑いのある供述調書や事実に反する内容の捜査報告書を作成し、検察審査会に送付したとしても、検察審査会における審査手続に違法があるとはいえず、そのことは、事実に反する内容の捜査報告書が意図的に作成された場合であっても、同様である。また、仮に、意図的に作成された事実に反する内容の捜査報告書のために、検察審査員において、重要な供述調書の信用性判断に誤りが生じ、起訴議決に至ったとしても、そのことから、検察審査会における起訴議決が無効であるとするのは、法的根拠に欠ける。

 さらに、検察審査会の会議は非公開とされており、同会議の適正な運用のためには、会議の秘密を確保することが不可欠であって、検察審査員の意見の形成過程、その過程における錯誤の有無及び程度、前記捜査報告書の送付と本件起訴議決との間の因果関係といった事柄を、本訴訟において、審理、判断の対象とすること自体が相当でない。また、検察審査会の会議においては、各検察審査員は、前記捜査報告書及び供述調書以外の証拠も含めて、総合的に証拠を評価し、ほかの検察審査員との意見交換を踏まえた上で、議決を行っていると考えられることに照らすと、このような事柄を審理、判断の対象とすることは、実行可能性にも疑問がある。

 したがって、訴訟手続において、このような事実が判明した場合には、当該捜査報告書あるいは当該供述調書の証拠能力あるいは信用性を否定することによって、被告人とされた者の救済を図るべきであり、その上で、それ以外の証拠に基づいて、起訴された公訴事実について、審理、判断するのが相当である。

 もっとも、弁護人は、本件起訴議決は、検察官の重大な職務犯罪を伴う偽計行為によるものであって、その瑕疵は重大であると主張しており、今後の違法捜査等抑止の見地をも考慮すべきであるとの趣旨も主張しているとうかがわれる。もちろん、検察官が、任意性に疑いのある方法で取調べを行って供述調書を作成し、また、事実に反する内容の捜査報告書を作成し、これらを送付して、検察審査会の判断を誤らせるようなことは、決して許されないことである。本件の証拠調べによれば、本件の捜査において、特捜部で、事件の見立てを立て、取調べ担当検察官は、その見立てに沿う供述を獲得することに力を注いでいた状況をうかがうことができ、このような捜査状況がその背景になっているとも考えられるところである。しかし、本件の審理経過等に照らせば、本件においては、事実に反する内容の捜査報告書が作成された理由、経緯等の詳細や原因の究明等については、検察庁等において、十分、調査等の上で、対応がなされることが相当であるというべきである。

 以上のとおり、弁護人の主張を精査、検討しても、本件起訴議決に重大な瑕疵があり、本件公訴提起の手続がその規定に違反して無効になると解することはできないから、検察官の意図等の弁護人が主張している事実の存否について判断するまでもなく、公訴棄却の申立ては、理由がなく、採用することができない。

 第3 公訴事実第1の1に係る公訴棄却の申立てについて

 1 両当事者の主張

 (1) 弁護人の主張

 東京第五検察審査会は、本件起訴相当議決において、公訴事実第1の1の事実を被疑事実として挙げておらず、したがって、同事実については、起訴相当かどうかを審査しておらず、検察官も、同事実について、再度の不起訴処分をしていないのに、本件起訴議決の段階に至って、突然、同事実を起訴すべき事実として取り上げている。したがって、同事実に係る本件起訴議決は、起訴相当議決及び検察官の不起訴処分を経ていない重大な瑕疵があり、これに基づく本件公訴提起にも重大な瑕疵がある。同事実に係る公訴提起の手続は、その規定に違反したため無効であるから、刑事訴訟法338条4号による公訴棄却事由がある。

 (2) 指定弁護士の主張

 公訴事実第1の1の事実は、公訴事実第1のそのほかの事実と併せて実体法上一罪の関係にあり、検察官の不起訴処分や検察審査会の起訴相当議決、起訴議決の効力は、実体法上一罪の関係にある事実の全てに及ぶことから、検察官の不起訴処分や本件起訴相当議決の効力は、公訴事実第1の1の事実にも及んでいる上、前記事実は、検察審査会の審査及び検察官の検討の対象となっていた。したがって、本件起訴議決に瑕疵はなく、本件公訴提起の手続には、その規定に違反した違法はないから、公訴棄却すべき理由は存しない。

 2 当裁判所の判断

 関係証拠によれば、本件告発状において記載された告発事実、2月4日付不起訴処分における告発事実の要旨、本件起訴相当議決における被疑事実の要旨、5月21日付不起訴処分における告発事実の要旨のいずれにおいても、公訴事実第1の2及び3並びに同第2の1及び2に相当する事実が記載されていたこと、これに対し、公訴事実第1の1の事実は、これらの書面のいずれにも、告発事実の要旨又は被疑事実の要旨として記載されていないこと、本件起訴議決の議決書において、公訴事実第1の1も含めて本件公訴事実と同内容の犯罪事実について、起訴すべきとされたことが認められる。

 そこで検討するに、公訴事実第1の1の事実と、同第1の2及び3の各事実とは、いずれも1個の文書として提出された陸山会の平成16年分の収支報告書の記載内容に係るものであり、同年度の複数の不記載及び虚偽記入は、1個の文書の信頼を侵害するものであって、実体法上一罪の関係にあるから、公訴事実の同一性を有するものと解される。したがって、本件起訴議決において起訴すべきとされた公訴事実第1の1の事実に相当する犯罪事実は、東京地方検察庁検察官による2度の不起訴処分において「告発事実の要旨」として記載された事実、本件起訴相当議決において被疑事実として記載された事実と、同一性を有する事実ということができ、各処分又は議決の効力は、公訴事実第1の1の事実に及んでいるといえる。

 これに加えて、検察官の2回の不起訴処分の不起訴裁定書の記載によれば、東京地方検察庁検察官は、公訴事実第1の1の事実を、そのほかの同第1の2及び3並びに第2の1及び2の各事実と一連ないし一体の事実と把握した上、公訴事実第1の1の事実に関する被告人の犯意及び共謀についても焦点を当てて捜査し、検討した上で、不起訴処分をしたものと認められ、また、本件起訴相当議決の議決書をみても、公訴事実第1の1に相当する事実が、本件起訴相当議決に当たり、審査、判断の対象とされたことがうかがわれ、実質的にみても、東京地方検察庁検察官による2度の不起訴処分においても、東京第五検察審査会による本件起訴相当議決においても、公訴事実第1の1の事実は、そのほかの事実と一連ないし一体の事実として把握されており、捜査又は審査及び判断の対象にされていたことが認められる。

 以上のとおり、公訴事実第1の1の事実は、本件起訴相当議決の被疑事実並びに2月4日付及び5月21日付各不起訴処分の対象とされた事実と同一性を有する事実であって、起訴議決の前段階としてなされるべき起訴相当議決や検察官による不起訴処分がされたものといえる上、実質的にみても、本件起訴相当議決及び各不起訴処分に際して、捜査又は審査及び判断もされている。したがって、公訴事実第1の1について、本件起訴議決に瑕疵があるということはできず、本件公訴提起は、その規定に違反して無効であるということもできない。

 したがって、公訴事実第1の1の事実についての公訴棄却の申立ては、理由がなく、採用することができない。

 (争点に対する判断)

 第1 公訴事実に対する認否等

 1 公訴事実に対する認否

 弁護人は、前記各公訴事実に関し、要旨、以下のとおりの主張をして、公訴事実記載の各収支報告書(以下、「収支報告書」は陸山会の収支報告書をいう。)について、虚偽の記入ないし記載すべき事項の不記載がされたこと、これについて、被告人が、大久保、石川及び池田と共謀したことについて、争っている。

 (1) 公訴事実第1の1について、陸山会が、平成16年10月12日頃、被告人から4億円の借入れをした事実は存在しないので、平成16年分の収支報告書の「本年の収入額」欄の記載が、当該4億円の借入れを収入として含めない金額になっていても、それは、虚偽の記入に当たらない。

 (2) 公訴事実第1の2及び3並びに第2の1及び2について、公訴事実記載の土地について売買契約が成立し、その土地の所有権が陸山会に移転したのは、平成17年1月7日であるから、その土地について、平成16年分の収支報告書に資産として計上しなくても、記載すべき事項の不記載には当たらないし、平成17年分の収支報告書において、取得年月日を平成17年1月7日として資産として計上したことは、虚偽の記入に当たらない。また、平成16年10月5日及び同月29日に陸山会が売主に交付した金を平成16年分の収支報告書に支出として計上せず、平成17年分の収支報告書に支出として計上したことは、いずれも虚偽の記入に当たらない。

 (3) 被告人は、陸山会が土地を取得するために、自らの個人資産から現金4億円を用意して石川に交付したことはあるが、これを陸山会の平成16年分の収支報告書に収入として計上しないこと等の虚偽記入を石川らと共謀したことはない。被告人は、公訴事実記載の土地の取得や土地取得費等の支出について、平成16年分の収支報告書に計上しない旨の虚偽記入や記載すべき事項の不記載を、石川及び大久保と共謀したことはないし、これを平成17年分の収支報告書に計上する旨の虚偽記入を、池田及び大久保と共謀したこともない。

 2 検討の順序

 そこで、以下、証拠上認定できる客観的な事実関係や収支報告書の記載を「第2 前提事実等」において認定し、次に、各収支報告書の記載に関連して問題となる各取引等の目的、意図を「第3 本件各取引等の目的」において認定する。そして、これを前提として、各収支報告書に虚偽の記入ないし記載すべき事項の不記載があったかを、公訴事実第1の2及び3並びに第2の1及び2については、「第4 本件土地の取得及び取得費の支出の計上時期等」において、公訴事実第1の1については、「第5 本件4億円の収入計上の要否」において、それぞれ当事者の主張に則して検討する。さらに、これらの虚偽の記入ないし記載すべき事項の不記載について、実行犯とされる石川及び池田の故意を「第6 石川及び池田の故意」において検討した上、これを前提として、被告人の故意及び共謀の成否を「第7 被告人の故意・共謀」において検討し、全体としての結論を「第8 結語」で述べることとする。

 なお、指定弁護士の主張や本件の証拠関係に照らして、被告人の共謀を判断する上で、大久保の故意を検討する要がないので、この点についての当裁判所の判断は示さない。

 第2 前提事実等

 1 前提事実

 関係証拠によれば、以下の事実を認定することができる。

 (1) 被告人は、昭和44年の初当選以来、現在まで連続して当選している衆議院議員である。

 被告人は、初当選以来、自治大臣兼国家公安委員長、内閣官房副長官等の公職を歴任し、政党においても、自由民主党幹事長、新生党代表幹事、新進党党首、自由党党首等を務めた。平成15年に自由党が民主党と合併した後、衆議院議員選挙で民主党が躍進し、被告人は、民主党代表代行に就任し、平成16年7月の参議院議長選挙でも民主党は躍進し、被告人は、民主党副代表に就任した。

 その後、被告人は、平成18年に民主党代表に就任したが、平成21年5月に辞任して、代表代行として同年夏の衆議院議員選挙に臨み、民主党政権発足後は、民主党幹事長に就任したが、平成22年夏の参議院議員選挙の前に、幹事長を辞任した。

 (2) 陸山会は、被告人の政治活動に協力すること等を目的とする政治団体であり、東京都港区赤坂2丁目17番12号チュリス赤坂701号室(以下、「赤坂事務所」という。)に事務所を置いている。被告人は、平成6年11月、陸山会の代表者となり、平成7年1月、陸山会を自らの資金管理団体に指定している。

 被告人の政治団体としては、陸山会のほかに、赤坂事務所に事務所を置く誠山会、小沢一郎政経研究会及び小沢一郎東京後援会があり、岩手県内に主たる事務所を置き、赤坂事務所を東京事務所とする民主党岩手県第4区総支部がある(以下、これら陸山会以外の被告人の政治団体を「関係団体」といい、陸山会も含めて「関係5団体」ということがある。)。

 (3) 大久保は、被告人の秘書であるとともに、平成12年7月頃から平成20年頃まで陸山会の会計責任者の地位にあった。石川は、被告人の秘書として、平成12年11月頃から平成17年6月末まで、赤坂事務所に勤務し、陸山会を含め、関係5団体の経理事務を担当し、この間、正式な届出はしていないものの、会計責任者の職務を補佐する者の地位にあった。池田は、被告人の秘書として、平成17年1月頃から赤坂事務所に勤務し、石川から経理事務の引き継ぎを受け、同年7月から平成21年10月まで、陸山会を含め、関係5団体の経理事務を担当し、会計責任者の職務を補佐する者の地位にあった。

 (4) 被告人は、東京都世田谷区内に自宅を構えているが、自宅の近隣の建物を被告人の秘書を住まわせる秘書寮としており、石川、池田及び大久保は、赤坂事務所等の東京の事務所に在任中の当時、この秘書寮に居住していた。

 被告人は、毎朝、秘書らを自宅に集め、被告人のスケジュール等に関する打合せをすることを日課としていた(以下、この打合せを「朝のミーティング」という。)。朝のミーティングの後、各自が車に分乗し、石川や池田は、赤坂事務所に、大久保は、衆議院議員会館にある被告人の事務所(以下、単に「議員会館」という。)にそれぞれ出勤し、被告人は、当日の予定次第で、東京都港区元赤坂1丁目721番1の元赤坂タワーズ902号室(以下、「元赤坂タワーズ」という。)や議員会館に行くなどし、その日の日程をこなしていた。

 赤坂事務所は、陸山会を始めとする関係団体の事務所であり、これらの経理事務を取り扱っていた。議員会館は、被告人の事務所として、国会議員としての被告人の対外的な交渉を取り扱っていた。元赤坂タワーズは、被告人が個人的な研究、執筆活動をし、休養をとるなどのために利用していた。

 (5) 平成16年9月頃、陸山会において、被告人の秘書を住まわせる寮を新たに建築するための土地として、東京都世田谷区深沢8丁目○番5(登記簿上の地積274平方メートル)及び○番19(同201平方メートル)の土地(以下、「本件土地」という。)を購入する計画が持ち上がった。大久保は、本件土地購入につき、被告人の了解を得て、本件土地の売買の仲介をしていた株式会社○○コーポレーション(以下「○○コーポレーション」という。)と連絡を取り、本件土地を購入する旨の交渉を進めた。

 (6) 大久保と石川は、同年10月1日、○○コーポレーションに対し、本件土地の売主である○○売り主○○株式会社(以下、「○○売り主○○」という。)宛ての、陸山会において本件土地を購入する旨の購入申込書を提出した後、同月5日、○○コーポレーション本社において、○○売り主○○との間で、買主を「東京都港区赤坂2-17-12チュリス赤坂701号室」「陸山会代表小沢一郎」とし、本件土地を、同月29日を残金支払日として、売買総額3億4264万円で購入する旨の売買契約書を作成し(以下、この売買契約を「本件売買契約」といい、この契約書を「本件売買契約書」という。)、○○売り主○○に対し、手付金等として合計1008万円を支払い、○○コーポレーションに対し、仲介手数料500万円を支払った。

 (7) 被告人は、同月12日、元赤坂タワーズに石川を呼び、陸山会が本件土地を購入するための資金として、現金4億円を渡した(以下、この4億円を「本件4億円」という。)。石川は、本件4億円を赤坂事務所に運び、同事務所内の金庫にいったん保管した。

 (8) 石川は、同月13日から同月27日にかけ、本件4億円のうち、3億8492万円を、6回に分けて、陸山会代表小沢一郎名義でりそな銀行衆議院支店に開設した預金口座(口座番号<略>。以下、「本件口座」という。以下では、預金口座の名義が、政治団体代表小沢一郎とされているものを、便宜上、政治団体名義の預金口座として表記する。)に合計2億0492万円を入金し、更に6回に分けて、いずれも陸山会名義で開設した三菱東京UFJ銀行虎ノ門中央支店の預金口座に5000万円、同銀行虎ノ門支店の預金口座に1000万円、岩手銀行東京営業部の預金口座に3000万円、三井住友銀行日比谷支店の預金口座に合計6000万円、同銀行霞が関支店の預金口座に3000万円を、それぞれ現金を持参して入金した(以下、これらの入金全体を「分散入金」という。)

 (9) 石川は、同月28日、○○売り主○○との間で、陸山会と○○売り主○○は、同月29日には所有権移転仮登記だけにとどめ、本登記は平成17年1月7日に行うこと、これに伴って、平成17年分の固定資産税が1月1日の登記名義人である○○売り主○○に課されるが、陸山会がこれを負担することなどを内容とする合意書(以下、「本件合意書」という。)を作成した。

 (10) 石川は、平成16年10月28日、いずれも陸山会名義で開設した前記三菱東京UFJ銀行虎ノ門中央支店の預金口座から5000万円、前記岩手銀行東京営業部の預金口座から3000万円、前記三井住友銀行日比谷支店の預金口座から6000万円、同銀行霞が関支店の預金口座から3000万円の合計1億7000万円を本件口座に振込送金した(以下、これらの送金全体を「28日の送金」という。)。

 (11) 石川は、同日午後遅く、りそな銀行衆議院支店に対し、陸山会名義の定期預金4億円を担保として2年程度を返済予定として、被告人名義で4億円の融資を受けたい旨申し込み、その後、同銀行から、その内諾を得た。

 (12) 石川は、同月29日午前9時21分頃から午前11時20分頃にかけて、小沢一郎政経研究会名義で開設した2つの預金口座から合計9500万円、誠山会名義で開設した預金口座から2000万円、本件口座以外の陸山会名義で開設した3つの預金口座から合計1億2000万円、民主党岩手県第4総支部名義で開設した3つの預金口座から合計7000万円の合計3億0500万円を本件口座に振込送金した(以下、これらの送金全体を「29日の送金」という。)。

 (13) 石川は、同日午前10時16分頃から28分頃にかけ、○○売り主○○に対し、本件口座から3億1998万4980円を○○売り主○○名義の預金口座に振込送金し、さらに、1265万5020円をりそな銀行衆議院支店発行の小切手で支払い(合計3億3264万円)、これと引き換えに、○○売り主○○の担当者から、本件土地の所有権移転登記手続に必要な一切の書類を受け取った。この際、○○売り主○○と陸山会との間で、「不動産引渡し完了確認書」が作成された(以下、この一連の行為を「本件売買の決済」ということがある。)。

 また、石川は、同じ頃、陸山会から、○○コーポレーションに対し、仲介手数料残金として399万4300円を、司法書士に対し、仮登記費用等として90万2488円を、それぞれ本件口座から引き出した現金で支払った。

 同日、本件土地について、被告人を権利者として、同月5日売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記手続がされた。

 (14) 石川は、同日午後1時5分頃、本件口座から、4億円を、陸山会を名義人とする定期預金口座に振り替えて、同額の定期預金をりそな銀行衆議院支店に設定した(以下、この定期預金を「本件定期預金」という。)。そして、石川は、被告人を借主として、手形貸付により、同銀行から、本件定期預金を担保とし、弁済期を平成17年10月31日として4億円を借り入れる旨の契約を締結した。借り入れた4億円については、同銀行から、天引利息等463万7686円を差し引いた3億9536万2314円が、同支店に開設された被告人名義の預金口座に振り込まれ、石川は、同口座から、同日午後1時33分頃、4億円を本件ロ座に振込送金した(以下、りそな銀行から被告人に対する4億円の貸付を「本件預金担保貸付」といい、被告人個人の口座から本件口座に資金移動された4億円を「りそな4億円」という。)。

 (15) 平成17年1月7日、本件土地について、被告人を所有者として、同日売買を原因とする所有権移転登記手続がなされ、同月14日、陸山会から、司法書士に対し、本登記費用等として89万4613円が支払われた。

 (16) 平成17年3月31日、石川は、陸山会の平成16年の収支報告書を東京都選挙管理委員会に提出した。同収支報告書は、「政治団体の名称 陸山会」、「代表者の氏名 小沢一郎」、「会計責任者の氏名 大久保隆規」、「事務担当者の氏名 石川知裕」として作成され、大久保隆規名義の宣誓書が添付されている。

 (17) 平成17年10月31日、池田は、りそな銀行衆議院支店との間で、本件預金担保貸付について、本件定期預金を解約し4億円を本件預金担保貸付の返済に充てた。そして、池田は、同銀行との間で、陸山会において新たに預金担保で2億円の手形貸付を受けることとし、同銀行の陸山会名義の定期預金口座に振り替えられた2億円の定期預金を担保とし、返済期間を1年として、被告人が2億円の融資を受ける旨の預金担保貸付を受け(以下、この手続を「平成17年10月の半額返済」ということがある。)、実質的には、本件預金担保貸付が2億円に減額された上で継続することとなった。

 (18) 平成18年3月28日、池田は、陸山会の平成17年分の収支報告書を選挙管理委員会に提出した。同収支報告書は、「政治団体の名称 陸山会」、「代表者の氏名 小沢一郎」、「会計責任者の氏名 大久保隆規」、「事務担当者の氏名 池田光智」として作成され、大久保隆規名義の宣誓書も添付されている。

 (19) 同月31日、池田は、平成17年10月31日に被告人がりそな銀行衆議院支店から預金担保貸付を受けた2億円について、担保とされていた陸山会の2億円の定期預金を解約して、これを原資に、同銀行に対し2億円を返済した(以下、この手続を「平成18年3月の残額返済」ということがある。)。

 (20) 池田は、平成19年5月1日、本件口座以外の陸山会名義の5つの預金口座や関係団体の預金口座から、本件口座に、合計2億0500万円を移動するなどして、本件口座の残高を4億4338万0448円とした上、同月2日、本件口座から4億円を払い出し、本件4億円の返済として、4億円の現金を被告人に渡した。

 2 収支報告書の記載内容

 (1) 平成16年分の収支報告書と本件4億円

 ア 平成16年分の収支報告書においては、「収支の状況」欄の「1 支出の総括表」においては、「収入総額」は7億3125万4111円、「本年の収入額」は5億8002万4645円と記載され、「2 収入項目別金額の内訳」欄においては、「小澤一郎」を借入先とする金額4億円の借入金がある旨記載され、その備考欄に「平成16年10月29日」と付記されている。前記認定のとおり、石川が被告人から本件4億円を受け取ったのは平成16年10月12日であり、陸山会が被告人からりそな4億円を借り入れたのは同月29日であるから、この備考欄に記載された日付は、本件預金担保貸付によるりそな4億円の借入れの日付と合致している。

 また、石川は、平成15年分の収支報告書において、「資産等の状況」欄の「2 資産等の項目別内訳」において、定期預金として「残高¥26,500,000」と記載する一方、「収支の状況」欄の「収入項目別金額の内訳」において、「りそな銀行(衆議院支店)」を借入先とする金額2650万円の借入金がある旨記載し、その備考欄に「平成15年3月31日」と付記していることが認められる。関係証拠によれば、陸山会は、平成15年3月31日に不動産を購入して、同日、預金担保貸付による融資金で決済したことが認められるから、平成16年分の収支報告書に記載された借入金の備考欄の日付も、融資を受けた日付と解するのが自然である。

 加えて、平成16年分の収支報告書の「資産等の状況」欄の「2 資産等の項目別内訳」において、資産として、「定期預金」「残高¥400,000,000」「平成16年10月29日」と記載されており、この記載は、本件定期預金を記載したものと解される。本件預金担保貸付は、本件定期預金を担保として、被告人が4億円の融資を受け、りそな4億円を陸山会に転貸したものであるから、担保とされる本件定期預金が記載されている以上、本件預金担保貸付を原資とするりそな4億円も記載するのが自然である。

 さらに、平成16年分の収支報告書における前記借入金4億円の記載は、平成17年分の収支報告書においては借入金2億円の記載になり、平成18年分の収支報告書においては記載がないことが認められるところ、これは、前記前提事実の本件預金担保貸付の返済の経過と合致していることからすると、りそな4億円が2億円ずつ返済された旨の記載と解するのが自然である。

 イ これに対し、石川は、「平成16年分の収支報告書の借入金4億円は、被告人から預かった4億円を記載した。本件4億円とりそな4億円は、1つのスキームとして行ったので、どちらを書いたかとか、書いていないかといった質問に答えるのは難しい。」旨公判で供述している。

 しかし、石川の前記供述はその趣旨があいまいであり、前記前提事実のとおり、本件4億円は、平成16年10月12日に石川に現金で交付されたものであって、備考欄に記載された日付に沿わない上、本件4億円が記載されているとすれば、借入金による収入として計上すべきことの明らかな、りそな4億円が記載されていないことになりかねないこと、石川は、自らが被告人とされた別件公判においては、りそな4億円ではなく、本件4億を記載した旨、明確に供述しており、本件4億円とりそな4億円を一体として記載した旨の供述には変遷があることに照らしても、石川の公判供述は、信用性に乏しい。

 ウ 以上によれば、平成16年分の収支報告書には、本件4億円は記載されておらず、りそな4億円のみが記載されているものと認められる。

 (2) 平成16年分、平成17年分の収支報告書と本件土地

 平成16年分の収支報告書においては、「収支の状況」欄の「1 支出の総括表」における「支出総額」は1億2120万2731円と記載され、「3 支出項目別金額の内訳」における「(l)支出の総括表」の「事務所費」は3835万5343円と記載されており、本件土地の購入代金として支払った金額が含まれていないことは明らかであり、また、「資産等の状況」欄の「2 資産等の項目別内訳」欄において、本件土地は記載されていない。

 これに対し、平成17年分の収支報告書においては、「収支の状況」欄の「1 支出の総括表」においては、「支出総額」が6億7996万4189円と記載され、「3 支出の項目別金額の内訳」においては、「(4)事務所費」が4億1525万4243円と記載されている。また、「資産等の状況」欄の「2 資産等の項目別内訳」欄においては、「資産等の内訳」として「世田谷区深沢8丁目○番地5号」の取得金額3億4264万円の土地があり、取得年月日は平成17年1月7日であり、面積は476平方メートルである旨が記載されている。この土地の記載は、地番が不正確であるものの、世田谷区深沢8丁目○番5及び○番19の2筆である本件土地を記載しているものと認められる。

 以上を総合すると、本件土地の取得及び取得費の支出は、平成16年分の収支報告書には計上されず、平成17年分の収支報告書に計上されたことが認められる。

 第3 本件各取引等の目的

 1 はじめに

 前記前提事実のとおり、石川は、本件土地の購入資金として、被告人から本件4億円を受け取ったものと認められる。しかし、石川は、この本件4億円を、そのまま本件売買の決済に充てるのではなく、前記前提事実のとおり分散入金を行い、28日の送金により本件口座に資金を集約している上、平成16年10月29日、関係団体の口座から、29日の送金も行い、本件口座に巨額の資金を集約している。その一方で、石川は、○○売り主○○と交渉し、同月28日、本件合意書を作成して、本件売買契約の内容を一部変更し、その上で、同月29日、本件売買の決済を行っている。また、同月28日、りそな銀行衆議院支店に預金担保貸付を申し込み、同月29日、本件定期預金を設定し、これを担保として本件預金担保貸付を受けて、りそな4億円を被告人個人名義の口座から本件口座に送金している。

 そこで、各収支報告書に虚偽の記入ないし記載すべき事項の不記載があるかを判断するための前提として、これらの分散入金、本件合意書、本件預金担保貸付といった複雑な取引が行われた目的について、検討することとする。

 2 分散入金、28日の送金の目的

 (1) 分散入金の目的について、石川は.「政治家の秘書が多額の現金を銀行の窓口に持参して入金することで、銀行員やマスコミ関係者から見られ、その関心を集めて詮索されることに対する警戒感があったため、分散入金を行った。」旨公判で供述している。

 石川が被告人から受け取った4億円という現金は、金額として、巨額であるだけでなく、物理的に、かさは大きく、重量もあるものであって、銀行の店舗内やその周辺において、石川がこれを持ち運んで入金の手続をすれば、かなり目立つことは容易に想像できる。そして、石川の前記供述は、石川が被告人の秘書であることを知る銀行員やマスメディアの関係者がこれを目撃することで、被告人が巨額の現金を有し、動かしている旨のうわさが流れ、マスメディア等において、その原資などについて、追及的な取材や批判的な報道の対象とされる可能性があることを懸念したという趣旨と理解することができる。このような懸念には合理性が認められ、信用することができる(なお、分散入金の目的に関する指定弁護士の主張については、後記5の(2)において、検討する。)。

 また、石川は、本件4億円のうち、分散入金した合計3億8492万円とは別に、1508万円の現金を赤坂事務所の金庫に残している。この目的については、関係証拠によれば、陸山会が本件売買契約の手付金等として平成16年10月5日に現金で支払済の1508万円に充当するものであったと認められる。

 (2) 次に、28日の送金については、石川は、同月29日に予定していた本件売買の決済あるいは本件預金担保貸付の担保とする本件定期預金の原資とするために、28日の送金を行い本件口座に資金を集約したものと認められる。

 なお、分散入金したうちの一つである三菱東京UFJ銀行虎ノ門支店に入金した1000万円については28日の送金において本件口座に送金されていないが、これは、石川が、単に失念したことによるものと認められる。

 3 本件預金担保貸付、りそな4億円の転貸の目的

 陸山会において、本件4億円を原資に本件土地を購入するに当たっては、本件4億円をそのまま本件売買の決済に充てることで足りるはずであり、わざわざ被告人に4億円もの債務を負わせ、年に約464万円の利息を支払って、本件預金担保貸付を受け、被告人からりそな4億円の転貸を受けたことには、格別の目的、意図があったと考えなければならない。

 (1) 陸山会の慣行等

 本件預金担保貸付を受けた理由について、石川は、「当初は、本件4億円をそのまま本件土地の購入資金等に充てるつもりであった。その後、平成16年10月20日頃、先輩秘書で国会議員でもある樋高剛から、陸山会において、従来、不動産を購入する際に使用していた手法である預金担保貸付を使うよう示唆をされて、本件預金担保貸付を受けることにした。その理由は、被告人から提供された本件4億円を溶かさない、すなわち、いずれ被告人に返済しないといけない本件4億円の返済原資を、陸山会において確保しておくためである。」旨公判で供述している。

 たしかに、一般論としては、一定額の資産を定期預金として確保しつつ、当面の資金繰りに充てるために預金担保貸付を受けるという手法には、一応の合理性がある。また、関係証拠によれば、陸山会において、不動産の取得に当たって、預金担保貸付を利用した経験が複数回あったことが認められ、石川ら秘書において、そのような手法を慣行として認識していたことも、認められる。そして、「当初は、本件4億円をそのまま本件土地の購入資金等に充てるつもりであったが、先輩秘書から示唆を受けて計画を変更した。」との点については、別件公判における供述等との間で変遷が認められるものの、石川は、「先輩秘書への迷惑をはばかって、名前を出せなかった。」旨公判で一応納得できる理由を説明している。さらに経緯としても、相応の具体性があり、本件売買契約の締結後、本件売買の決済日の直前になって、本件預金担保貸付の申込みをしていることなどと整合していること等を考慮すると、石川が、本件預金担保貸付を受けることを決意した理由として、先輩秘書の示唆を受けて、計画を変更したこと、陸山会において不動産を取得する際に、預金担保貸付を利用する慣行があったことを、考慮要素の1つとしたことは、認められる。

 しかし、関係証拠によれば、石川は、りそな銀行に対し、当初、2年程度で返済を予定するものとして申し込んでおり、過去の不動産購入の際の預金担保貸付とは異なり、関係5団体における寄付金やパーティー券収入で返済することを前提とした場合に想定されるような長期分割の返済計画とはしていない。現に、本件定期預金は、平成17年10月の半額返済、平成18年3月の残額返済により、全て解約され、本件預金担保貸付の返済に充てられて費消されており、本件4億円の返済原資には充てられていない。

 この点について、石川は「本件定期預金が解約されて、本件預金担保貸付の返済に充てられたのは、自分の考えと異なる。関係5団体の恒常的な収入を積み立てて、本件預金担保貸付の返済原資とする予定であり、本件定期預金は本件4億円の返済原資として確保するはずであった。」旨公判で供述している。しかし、関係証拠により認められる関係5団体の恒常的な収入に照らすと、2年間で4億円もの余剰金を生じるとは予想し難いはずである。また、石川の供述を前提とすると、本件定期預金が解約されれば、被告人に対する背信ともなりかねないから、経理事務を担当する後任の池田に、本件定期預金を確保しておくように明確に引き継ぐはずである。ところが、石川や池田の公判供述等関係証拠によれば、石川は、池田に対し、肝心の本件定期預金を本件4億円の返済原資として確保することを伝えておらず、かえって、本件預金担保貸付については、1年後に2億円を返済し、残額については被告人と相談する旨の引継ぎをしていることが認められ、池田は、「本件定期預金は政治団体に帰属すると認識しており、引継ぎの当初から、本件定期預金を返済原資として想定していた。」旨公判で供述している。仮に、石川が、真剣に、本件定期預金を本件4億円の返済原資として確保しておくつもりであれば、このような状況は起こり得ないはずである。

 したがって、石川は、本件定期預金がいずれ陸山会の資金繰りに流用される可能性を認識していたはずであって、石川が主張する「資金を溶かさない。」旨の本件預金担保貸付をした理由は、信用することができない。

 以上のとおり、陸山会には、不動産取得に当たって預金担保貸付を利用する慣行があり、本件預金担保貸付は、先輩秘書の示唆をきっかけにして、その慣行を考慮して行ったものであることは認められるが、このような慣行等は、大きな経済的負担を伴う本件預金担保貸付の目的を説明できるものとはいえず、より強い中心的な目的、意図が石川にあったと考えなければならない。

 (2) 本件4億円の簿外処理

 ア 本件預金担保貸付や本件4億円に関係する事務処理

 そこで検討すると、本件預金担保貸付や本件4億円に関係する石川や池田の事務処理として、以下の事実を認めることができる。

 (ア) 石川は、本件土地の購入資金として、被告人から、本件4億円の提供を受けながら、更に追加して、被告人において、本件4億円と同額の4億円もの債務を金融機関に負い、年に約464万円の金利も発生するという経済的負担を伴う本件預金担保貸付を受けて、その融資金であるりそな4億円を陸山会に転貸させ、本件口座に送金させている。

 しかも、本件預金担保貸付を受けて、りそな4億円を本件口座に送金したのは、本件土地の残代金等として合計約3億3700万円を本件口座から支出した本件売買の決済と同じ日である。

 (イ) 前記認定のとおり、石川が作成し、提出した平成16年分の収支報告書においては、借入金収入として、りそな4億円のみが計上され、資産として、本件定期預金も計上されていると認められるものの、本件4億円は、借入金収入として、計上されていない。

 また、池田が作成し、提出した平成17年分の収支報告書、平成18年分の収支報告書において、前記検討のとおり、それぞれ、平成17年10月の半額返済、平成18年3月の残額返済によって、被告人に対し2億円ずつ借入金を返済した旨記載されているが、これらは、りそな4億円について記載されたものと認められ、本件4億円が借入金として計上されたことはなかったと認められる。

 さらに、平成19年5月2日、池田は、本件4億円の返済として、被告人に現金4億円を渡しているが、池田が作成し、提出した平成19年分の収支報告書には、被告人に対する借入金の返済として4億円の支出の計上はされておらず、同額分、被告人に対する借入金が減少した旨の記載もされていないことが認められる。

 これらの点について、池田は、「石川から引継ぎを受けた際、本件4億円が預り金の性質を持つものなので、収支報告書に記載する必要がないと認識した。平成19年に被告人に返済したときも、支出として収支報告書に計上する必要はないと考えた。」旨公判で供述している。しかし、池田は、本件4億円について、別件公判においては、「石川から、被告人から借りていると説明された。」旨供述し、捜査段階においては、「簿外で借りた金」という言葉で供述調書を作成しており、その供述は変遷している。また、池田は「石川から、預り金であると説明されたことはない。」旨や「本件4億円が、現金や定期預金ではなく、関係5団体の一般財産に混入していると認識していた。」旨を公判で供述しており、これらのことからすると、預り金などと法的にいえないことは明らかであり、池田自身、本件当時も、預り金であると認識していなかったと認められる。かえって、池田の捜査段階における「簿外」という言葉は、陸山会における本件4億円の取扱いの実態を表現したものとして、自然で信用性が高い。

 (ウ) 石川から池田に対する本件4億円の引継ぎについて、池田は、「平成17年1月頃から6月頃までの間、石川から、陸山会が本件土地を購入する際に被告人から運転資金として4億円を借り入れており、いずれ返さないといけないと説明を受けた。」旨捜査段階で供述しており、別件公判においても、同趣旨の供述をしていたとうかがわれる上、本公判における「本件4億円は関係5団体の一般財産に混入していると認識していた。」旨の供述とも合致しており、信用性が高い。

 したがって、池田は、石川の前記説明を受けて、陸山会は被告人から4億円を借りている旨理解したものと認められ、しかも、本件4億円は、平成16年分の収支報告書に計上されず、平成17年5月の資産報告書においても公表されていないのであるから、池田は、少なくとも、暗黙のうちに、本件4億円を公表しない石川の方針を理解したものと認められる。

 さらに、関係証拠によれば、池田は、平成16年分の収支報告書に係る石川の作成事務を手伝った際、石川から、「本件4億円に相当する資金の流れが本件口座の預金通帳にマル住として記載されているが、これは平成16年分の収支報告書には計上する必要がない。」旨説明されたことが認められ、その後、平成17年分の収支報告書の作成に当たり、つじつまが合わないことが出てきたことから、平成16年分の収支報告書を点検した際、平成16年10月の入金が本件4億円に係るものであることを認識したことも認められる。このような機会にも、池田は、本件4億円を公表しない石川の方針を改めて理解したものと認められる。

 (エ) 関係証拠によれば、政治倫理の確立のための国会議員の資産等の公開等に関する法律(以下、「資産公開法」という。)に基づいて、被告人が衆議院議長に提出した平成17年4月5日付資産等補充報告書(以下、単に「資産報告書」という。)においては、貸付金4億円と借入金4億円とが記載されており、これらは、りそな4億円と本件預金担保貸付における返済義務を意味するものと認められ、本件4億円は貸付金として記載されていないことが認められる。また、後記第5で検討するとおり、弁護人は、本件定期預金は、本件4億円を原資とし、被告人に帰属する旨主張しているところ、その主張を前提とすれば、資産報告書で公表されるはずの本件定期預金は、被告人に帰属する資産として記載されていない。

 この資産報告書を担当した池田は、「本件4億円を被告人の陸山会に対する貸付金として公表する必要がないと考えていた。」旨公判で供述しているが、そのような必要がないと判断した根拠はあいまいであり、また、公表の要否を検討した節もうかがわれない。池田は、「公開するようなものでなく、個人の部分の金という認識であった。」とも公判で供述するが、資産報告書はそのような個人の資産を公表することにこそ主眼があるといえる。陸山会には、被告人に対して、4億円もの返済義務があると考えていながら、収支報告書において、借入金として計上せず、資産報告書においても、被告人に帰属する資産として公表しないのは、いわば矛盾であって、不自然である。

 (オ) 関係証拠によれば、平成19年2月、週刊誌編集部から被告人の事務所に対し、平成17年5月の資産報告書における貸付金及び借入金や、平成16年分の収支報告書に記載された預金について取材がされた際、被告人の事務所においては、池田を中心に回答書を作成し、陸山会が、金融機関から融資を受ける際、その金融機関の貸付方針によっては、被告人がいったん借入名義人とならざるを得ない旨や、本件定期預金を含めた陸山会の預金は、金融機関から借入れをする際に担保として設定したもので、陸山会が長年にわたって積み立てた剰余金である旨等を回答したが、被告人が本件4億円を提供したことは回答していない。

 (カ) 以上のとおり、石川や池田は、収支報告書の作成及び提出、事務の引継ぎ、資産報告書の作成及び提出、週刊誌編集部の取材に対する回答といった様々な場面を通じ、一貫して、陸山会における本件土地の取得資金として被告人が本件4億円を提供したことを、対外的に公表せず、かえって、本件預金担保貸付による融資金を原資とするりそな4億円の存在を公表し、担保とされた本件定期預金も陸山会の資金である旨説明するなどの対応をしていることが認められる。これらの対応は、陸山会における本件土地取得のために被告人が本件4億円を提供した事実を公表することを避けるところに、本件預金担保貸付の意図、目的があったことを強くうかがわせるものといえる。

 イ 石川や池田の捜査段階の供述

 石川は、捜査段階において、「平成16年分の収支報告書に、本件4億円の借入れを収入として記載すべきであり、当時、収支報告書に記載された収入と本件口座の入金記録との突合を手伝わせていた池田から、金額が合わない旨指摘されたことがあったが、本件4億円を平成16年分の収支報告書の収入として記載しないことにしていたので、池田に対して、気にしなくていい旨指示して、収入として計上しなかった。」旨供述しており、また、池田も、捜査段階において、「石川から説明を聞いて、陸山会が平成16年10月に被告人から4億円を簿外で借りていることを知っていた。」旨供述しており、いずれも、前記の認定に沿うものであって、信用することができる。

 ウ まとめ

 以上によれば、石川が、本件預金担保貸付を受け、被告人からりそな4億円の転貸を受けた目的は、本件4億円が本件土地の取得原資として被告人の個人資産から陸山会に提供された事実が、収支報告書等の公表によって対外的に明らかとなることを避けるため、本件土地の取得原資は金融機関から調達したりそな4億円であるとの対外的な説明を可能とする外形作りをすることにあったと認められる(以下、このような本件預金担保貸付の目的を「本件4億円の簿外処理」ということがある。)。

 (3) 本件4億円の簿外処理の動機

 ア 石川は、本件4億円の簿外処理の意図を公判で認めておらず、したがって、本件4億円の簿外処理を意図した動機についての直接証拠はない。

 しかし、石川が分散入金をした動機については、前記検討のとおり、被告人の秘書である石川が、巨額の現金を入金する場面を銀行員やマスメディアの関係者に目撃され、被告人が巨額の現金を有し、動かしている旨のうわさが流れ、マスメディア等において、その原資などについて追及的な取材や批判的な報道がされる可能性があることを懸念したものと認められるところ、このような懸念は、銀行への入金の場面に限らず、収支報告書の作成、提出の場面、更には、収支報告書における報告を要するような取引、資金移動をする場面においても、当てはまると考えられる。

 特に、本件4億円をそのまま本件売買の決済に充て、本件土地の取得と併せて、被告人からの本件4億円を借入金収入として、収支報告書に計上して公表すれば、マスメディア等から追及的な取材や批判的な報道の対象とされ、対外的に、被告人が、それまで公表されていなかった巨額の個人資産を有することや、この個人資産から提供された資金を原資として陸山会が本件土地を取得したことを説明しなければならなくなり、ひいては、その個人資産の原資についても追及や批判を招くなどして、被告人の政治活動に不利益な影響を及ぼす可能性は高いものといえる。したがって、石川を始めとする被告人の秘書らにおいて、被告人の巨額の個人資産の存在やこれが本件土地取得の原資となったことを明らかにしたくないという意識が働くことは、容易に推認することができる。

 したがって、石川が、本件4億円の簿外処理を意図した動機は、本件4億円を被告人からの借入金として公表することで、マスメディア等から追及的な取材や批判的な報道を招く等して、被告人が政治的に不利益を被る可能性を避けるためであったと認められる。

 イ なお、更に進んで、指定弁護士は、石川が本件4億円の簿外処理を意図した動機として、石川が、[1]平成17年3月頃から5月2日にかけて、被告人の指示を受けて、被告人の知人が運営する政治団体である改革国民会議の4億円の資金を分散して入金するなどして本件口座に集約したり、払い戻したりしたことなどから、本件4億円の原資の形成過程について、公にできないものであるとの危惧感を抱いたこと、[2]本件4億円は、無利息で返済期限の定めのない借入金であることから、寄付金と解されるなどして、政治資金規正法上の制限に違反するとの疑惑を招くおそれがあると考えるに至ったこと等の事情がある旨主張している。

 これらの指定弁護士の主張は、いずれも一定の合理性があると考えられなくはないが、この点について、石川は、公判においては、本件4億円の簿外処理の意図について否定しており、指定弁護士の主張に沿う直接証拠はない。また、[1]に関して指定弁護士が主張する事実は、石川において、本件4億円の原資が何らかの違法性のある資金であるとの具体的な認識を有していたことを推認できるほどの事情とはいえない。さらに、同人の供述からうかがわれる同人の政治資金規正法における寄付等に関する知識の程度等によれば、前記[2]の認定も困難である。その他、指定弁護士の主張を裏付ける証拠はないから、前記アの限度で認定するのが相当である。

 (4) 石川の供述及び弁護人の主張の検討

 ア 石川は、「りそな銀行からは、陸山会が直接融資を受けられることを認識しており、仮に、本件4億円を隠す目的があるなら、りそな銀行から陸山会に直接融資を受けて、収支報告書にも被告人からの借入金を書かないはずである。被告人から転貸を受けることで、収支報告書に被告人からの借入金を記載している本件において、本件4億円を隠す目的はなかった。本件預金担保貸付の債務者を被告人にした理由は、金額が大きいので、その方が借りやすいと考えた上、被告人から本件4億円を借りたという形がはっきりするからである。」旨公判で供述している。

 しかし、本件預金担保貸付を行うことにより、対外的に本件4億円には触れずに、「本件土地の取得原資は、形式上は、被告人からの借入金となっているが、実質的には、銀行からの融資金である。」旨、その形成過程を説明することが可能となり、前記のとおり、被告人の事務所では、収支報告書、資産報告書、週刊誌編集部の取材に対する回答といった場面を通じて、これに沿った説明をしている。また、「被告人から本件4億円を借りた形がはっきりする。」旨の供述は、その趣旨が不明確であり、本件預金担保貸付の目的を説明できるものとはいえない。

 したがって、本件4億円の簿外処理を否定する石川の前記供述は、信用できない。

 もっとも、石川が、本件預金担保貸付における債務者を、陸山会ではなく被告人とした理由については、証拠上明らかではなく、本件4億円を公表しないという方針とは別の目的や考慮があったとみる余地もあり、以前、陸山会において高額の不動産を購入した際に被告人名義で借り入れた例にならったと考える余地もある。

 したがって、石川が公判で供述する理由のうち、「金額が大きいので、その方が借りやすいと考えた。」との点については、これを排斥することはできない。

 イ 弁護人は、石川や被告人において、被告人が多額の資産を有することを公表するのを避ける意識はなかった旨主張し、その理由として、被告人が多額の資産を有することは、公然の事実であった、本件4億円の原資は違法な資金ではないから、政治資金規正法に違反する収支報告書上の虚偽記載をするような動機はない、被告人の個人資産である現金は資産公開の対象外であり、隠匿する必要はなかった、平成16年分の収支報告書が公表され、被告人からの借入金が明らかとなった後、社会的な批判等が生じた事実はない、などと縷々主張している。

 しかし、被告人が資産家であることと、それまで公表したことのない4億円もの巨額の現金を有しており、これを陸山会における本件土地取得の原資として提供したこととは、別次元の問題であり、後者の事実の公表を避ける必要がないということはできない。また、被告人の個人資産が、資産公開の対象外である現金であるからといって、公表を避ける必要がないとはいえない。

 また、本件4億円の原資が違法なものか否かを問わず、あるいは、石川において、違法なものと認識していたか否かを問わず、既に説示したとおり、被告人がそれまで公表したことのない巨額の資金を有しており、この資金が陸山会における高額の不動産の購入資金に充てられたことが公表されれば、マスメディア等の追及や批判を招くなどして、被告人が政治的に不利益を被る可能性があることは容易に想定できる。したがって、本件4億円の簿外処理は、それが違法行為かどうかはともかくとして、本件預金担保貸付の動機として、合理性がある。

 さらに、関係証拠によれば、平成16年分の収支報告書が公表されて間もない段階の報道においては、被告人からの借入金について批判的な論調は含まれていないことが認められるが、前記認定のとおり、平成19年2月の段階では、週刊誌編集部から、不動産の購入資金の原資等について追及的な取材がされていることが認められる。そのほか、前記の石川や池田における本件4億円を公表しない旨の各種の事務処理を整合的に理解するためには、本件4億円の簿外処理の方針がとられていたとしか考えられず、弁護人が主張する点はいずれも採用できない。

 (5) 本件4億円の簿外処理の計画性

 前記前提事実のとおり、本件預金担保貸付は、本件定期預金を原資として、平成17年10月の半額返済、平成18年3月の残額返済がそれぞれなされており、これに合わせて、平成17年分の収支報告書においては、りそな4億円のうち2億円を返済し、平成18年分の収支報告書においては、りそな4億円の残額2億円を返済した旨の記載がされている。その結果、本件4億円は被告人に返済されていないのに、平成16年分から平成18年分までの収支報告書上、本件預金担保貸付によるりそな4億円を原資として本件土地を取得し、このりそな4億円も陸山会の資金によって返済したと説明することができ、また、そのように理解されるものとなっている。

 この点について、指定弁護士は、石川は、本件預金担保貸付の当初から、このような処理を予定しており、これによって、資金の動きを複雑にして、第三者の目から分かりにくくし、また、本件土地の購入原資とした借入金も2年間で返済済みであるように見せかけることを意図して行った巧妙な隠ぺい、偽装工作である旨主張している。

 たしかに、関係証拠によれば、陸山会がそれまでの不動産取得に際して行っていた預金担保貸付においては、りそな銀行からの借入金の債務者を、被告人個人ではなく、陸山会にしていたこと、石川が、りそな4億円を2年間程度で返済するつもりであったことが認められる。

 しかし、他方、被告人を債務者とし、りそな4億円を2年間で返済することが隠ぺい、偽装工作であることをうかがわせる直接証拠はない。そして、関係証拠によれば、陸山会においては、本件預金担保貸付の以前にも、不動産を購入する際の資金調達として、被告人の名義で融資を受け、これを陸山会に転貸する方法をとり、相応の期間、被告人に対する高額の借入金を収支報告書に計上している例が認められるところ、本件預金担保貸付について短期間で巨額の返済をすれば、かえってその異例さが浮き彫りになるおそれもあり、隠ぺい、偽装工作として積極的な意味があるかには、疑問がある。

 また、被告人を本件預金担保貸付の債務者とすることについては、前記のとおり、陸山会においては、以前にも、被告人の名義で融資を受けて、これを陸山会に転貸する方法をとったことがある上、資金の動きが複雑にはなるものの、それと同時に、被告人から陸山会への資金移動が注目されることとなる面もあるのであって、隠ぺい、偽装工作として積極的な意味があるのかには、疑問がある。かえって、前記検討のとおり、「金額が大きいので、被告人を借入名義人とした方が借りやすいと考えた。」旨の石川供述を否定することはできないというべきである。

 さらに、石川が、早い時期から、本件4億円の簿外処理や本件土地公表の先送りを念頭に置いていたならば、本件売買契約の時点で、決済日を平成17年として契約し、本件預金担保貸付の手続も、決済日までに時間的余裕を持って進めるなどの対応もあり得たと考えられる。石川は、平成16年10月から平成17年にかけて、自らの国政選挙立候補の準備のために多忙であったところ、本件預金担保貸付については、当初は、本件4億円をそのまま本件売買の決済に充てる予定であったのに、先輩秘書からの示唆を受けるなどして、本件売買の決済日に近接した時期にこれを思いつき、短期間でその実行にこぎ着けたが、後に検討するとおり、融資関係書類の準備が本件売買の決済に間に合わないという手違いを起こしたと認められるなど、石川が巧妙で周到な偽装、隠ぺい工作を熟慮して計画したとまでは考え難い事情も認められる。

 したがって、本件預金担保貸付は、本件4億円の簿外処理を目的とするものであるが、石川が、先輩秘書からの示唆を受け、陸山会の慣行も考慮して思いつき、短期間で実行したものであって、返済計画等の事後処理は池田に任せているなど、ある意味で、その場しのぎの処理として行われたとみるのが相当である。そして、前記検討のとおり、本件定期預金は、本件4億円の返済原資として確保されたものではなく、いずれ解約されて陸山会の資金繰りに流用される可能性があるものとして設定されたと認められるが、他方で、石川が、確定的に、本件定期預金を、本件預金担保貸付ないしりそな4億円の返済原資として計画していたとまで認定することも難しく、本件預金担保貸付の返済予定を2年間とし、被告人を債務者としたことについて、隠ぺい、偽装工作としての積極的な意味があるとの指定弁護士の主張は、採用することができない。

 4 本件合意書の目的

 (1) 本件土地公表の先送り

 陸山会は、平成16年10月5日、同月29日に残金支払等の決済をする旨の本件売買契約を締結したのに、同月28日、本件売買契約の内容を一部変更し、同月29日に残金等はすべて支払いながら所有権移転仮登記だけにとどめ、本登記は平成17年1月7日に行う等の本件合意書を作成している。

 本件合意書の目的について、石川は、「平成16年10月20日頃、先輩秘書である樋高からの示唆を受け、政治状況を考慮し、本件土地の取得が平成16年分の収支報告書に記載され、平成17年秋頃に公表されると、マスコミなどで騒がれて、被告人の政治活動に支障が生じるおそれがあるので、公表時期を1年間先送りして、平成17年分の収支報告書に記載されるようにするために、本件土地の所有権の移転時期を平成17年とする目的で行った。」旨公判で供述している。

 この点について、関係証拠によれば、平成17年9月に開催されて被告人が立候補した民主党代表選挙は臨時のものである上、平成16年10月の当時の民主党代表は、同年9月に定例の民主党代表選挙が行われ、同年夏の参議院選挙で好結果を納(ママ)めたことで再選されたばかりであることが認められるから、この時点で、翌年秋の臨時の代表選挙を予測していたとの説明には疑問がある。また、本件土地取得の公表が平成17年秋よりも平成18年秋になる方が被告人にとって有利となるような具体的な理由は見当たらない。石川は本件売買契約を締結した当初は、約定されたとおりの条件で決済し、平成16年中に本件土地を取得することに特段の問題を意識していなかったと認められるのに、本件売買の決済の直前になって、収支報告書における公表を危惧し始めたこと等、疑問もないわけではない。

 しかし、実際問題として、関係証拠によれば、被告人の政治団体における本件土地を含めた不動産取得は、収支報告書で公表されたことを契機として、マスメディア等で、追及的な取材や批判的な報道の対象とされるなどしたことが認められ、このような不動産取得の公表によって、被告人が政治的に不利益を被るという危惧は根拠のあるものであったといえる。したがって、このような不動産取得の公表を遅らせることは、被告人の政治活動上の不利益が生じる機会を遅らせるという意味では、理解することができる。さらに、国会議員でもある先輩秘書の示唆で思い付いたという経緯にも、一定の具体性、合理性が認められ、この限度では、石川の前記公判供述には、信用性を認めることができる。

 したがって、本件合意書の目的は、陸山会が本件土地を取得し、その購入代金等の取得費を支出したことを、平成16年分の収支報告書には計上せず1年間遅らせた平成17年分の収支報告書に計上して公表するための口実を作ることにあったと認められる(以下、この目的を、「本件土地公表の先送り」ということがある。)。

 そして、石川が本件土地公表の先送りを意図した動機には、平成17年9月に民主党代表選挙があることを予測していたかはともかくとしても、石川が供述するとおり、先輩秘書の示唆を受けるなどして、本件土地の取得が収支報告書で公表され、マスメディアの追及的な取材、批判的な報道の対象とされるなどして、被告人が政治的に不利益を被る可能性を避けるためであったと認められる。

 (2) 本件土地公表の先送りと本件4億円の簿外処理の関係

 次に、指定弁護士は、本件土地公表の先送りは、本件4億円の簿外処理と関連がある旨、すなわち、平成16年分の収支報告書においては、本件4億円が収入として計上されないため、仮に、平成16年分の収支報告書に本件土地を取得して約3億5000万円を支出した旨を記載すると、「翌年への繰越額」が3億円を割り込んでしまい、本件定期預金の4億円が存在する旨の記載と矛盾が生じることから、石川は、本件土地の取得費の支出を翌年に先送りし、本件土地の取得費と本件定期預金の原資を併せて説明できるだけの収支報告書における資金ないし収入を作り出すための時間を確保したものと解することができる旨主張している。

 この点について、石川は、このような意図を認める旨の供述はしておらず、指定弁護士の主張に沿う直接証拠はない。

 しかし、石川は、経理担当者として、陸山会等関係団体の預金残高を把握していた上、自ら、平成16年分の収支報告書の原案を作成して平成17年3月末までに完成させなければならない立場にあり、本件土地公表の先送りをしなければ、作成が間近に控えている平成16年分の収支報告書に支障が生じることは目に見えており、収支報告書での公表を配慮した先輩秘書の示唆を契機に、石川がこの点に思い至ることは、経緯として自然である。また、関係証拠によれば、平成17年分の収支報告書の作成に当たっていた池田が、平成17年1月7日付けの本件土地の取得費の支出を説明できるだけの収入がないために苦慮し、平成17年分の収支報告書において、同年1月5日付で関係団体から合計2億8000万円の寄付が陸山会にされた旨の事実に反する収入を記載したと認められることも、指定弁護士の前記主張に沿うものといえる。さらに、石川が、公判において、指定弁護士から、「平成16年分の収支報告書における繰越額約6億1000万円と定期預金約4億7000万円を前提として、約3億5000万円の本件土地を購入する経理ができるのか。」と質問されて、合理的な説明ができずにいることも、これに沿うものといえる。

 したがって、指定弁護士の前記主張のうち、本件4億円の簿外処理をすることから、収支報告書におけるいわばつじつま合わせの時間を確保するため、本件土地公表の先送りが必要になったとする点については、陸山会や関係団体の資金状況、会計責任者の職務を補佐する者としての立場、本件4億円の簿外処理の必要等、石川の置かれた状況を整合的に説明することができ、石川が本件土地公表の先送りを行ったことには、このような事情も背景にあったことが認められる。

 なお、指定弁護士は、本件土地公表の先送りは、収支報告書の記載を複雑化して、その内容を分かりにくくする隠ぺい、偽装工作としての意味もある旨主張しているが、そのような効果があるかには疑問があり、そこまではいえない。

 以上のとおり、石川が、本件土地公表の先送りを行うこととした動機には、本件土地の取得が収支報告書で公表されることによる被告人の政治活動への影響を慮ったことがあり、これに加え、本件4億円の簿外処理から生じる収支報告書上のいわばつじつま合わせの時間を確保することも背景にあったものと認められる。

 5 29日の送金の目的

 (1) 29日の送金の経緯について、石川は、「平成16年10月28日夕方、りそな銀行衆議院支店に本件預金担保貸付を申し込んだ際、その融資関係書類を受け取っていたことから、翌29日朝に被告人の自宅で被告人の署名を受ける予定であった。ところが、同日朝になって、被告人が元赤坂タワーズに宿泊しており、自宅に帰っていないことが判明し、同日午前10時に予定されていた本件売買の決済までに、本件預金担保貸付の融資関係書類を整えることができなくなった。そこで、28日の送金により、本件定期預金の原資として本件口座に集めていた4億円に加えて、急きょ、本件売買の決済に充てる資金として、29日の送金をすることになった。」旨公判で供述している。

 関係証拠によれば、りそな銀行衆議院支店においては、平成16年10月28日に石川から預金担保貸付の申込みを受けた際、翌29日朝に被告人が署名した融資申込書や約束手形等の書類(以下、これらの書類を「融資関係書類」という。)が提出されれば、同日午前10時に予定されていた本件売買の決済に間に合うことを前提として手続を進めていたが、融資関係書類の提出が間に合わなかったために、本件預金担保貸付の実行が午後になった等の経緯が認められる。29日の送金についての石川の前記公判供述は、具体性がある上、このような経緯等に整合しており、信用性を肯定できる。

 (2) この点について、指定弁護士は、29日の送金は、分散入金や28日の送金と一連のものであり、本件土地の購入代金等や本件定期預金の原資が、陸山会の資産からかき集められたものであるとの外観を作出し、本件4億円を分かりにくくするために行われたものである旨主張している。

 しかし、28日の送金そのものは、同じ陸山会が有する口座間の資金移動に過ぎず、収支報告書等での公表は予定されていないから、金をかき集めた外観を作出するための隠ぺい工作としての実効性には、疑問がある。

 また、29日の送金は、関係団体からの資金移動ではあるが、関係証拠によれば、これは、平成16年分の収支報告書において、関係団体から陸山会に対する寄付として記載されていないことが認められ、本件土地の取得費や本件定期預金の原資として対外的な説明に利用されていないから、収支報告書を意識した計画的な隠ぺい工作と認めるには、疑問がある。

 したがって、指定弁護士の前記主張は採用できず、28日の送金、29日の送金の目的は、前記2及び5(1)で認定した趣旨にとどまるものと認められる。

 6 各取引等の目的についてのまとめ

 以上の検討を総合すると、本件合意書、本件預金担保貸付を中心とする一連の取引等について、石川の意図等を中心に、その経過をまとめると、以下のとおりである。

 [1]石川は、平成16年10月5日、本件売買契約を締結し、同月12日、被告人から本件4億円を受け取った当初、この本件4億円をそのまま本件土地の購入代金等に充て、本件売買契約に従って同月29日に決済を終了させるつもりでいた。[2]そして、本件4億円について、巨額の現金を入金する場面を銀行員やマスメディアの関係者から目撃されることを懸念して、陸山会の複数の預金口座に分散入金した。[3]しかし、本件売買契約の後、先輩秘書から示唆を受けるなどして、このままでは、平成16年分の収支報告書において、本件4億円を被告人からの借入金として計上し、本件土地の取得や取得費等の支出を計上することになるが、そのような巨額の資金を被告人が個人資産として有していることやこれを提供して陸山会が高額の不動産を購入したことを公表すれば、マスメディア等から追及的な取材や批判的な報道を受けるなどして、被告人が政治活動上不利益を被る可能性があることに思い至った。そこで、収支報告書等で本件4億円を公表せず、陸山会が銀行からの融資金で本件土地を購入した旨の対外的な説明を可能とするための外形作りとして(本件4億円の簿外処理)、預金担保貸付を利用することとし、また本件土地の取得等を平成16年分の収支報告書ではなく、平成17年分の収支報告書に記載することとして、その公表を1年間遅らせる口実を作るため(本件土地公表の先送り)、本件売買契約の決済日を平成17年に遅らせる旨の交渉を行うこととした。[4]石川は、まず、本件土地の売主である○○売り主○○に本件売買契約の決済全体の先送りを申し入れたところ、代金決済の繰り延べは拒否されたものの、所有権移転登記手続の先送りについては了承を得られたので、これにより本件土地公表の先送りを実行する口実ができたと考え、同月28日、○○売り主○○との間で本件合意書を作成した。[5]その一方で、同日、本件4億円を原資とする資金を本件口座に集約して、担保となる本件定期預金の原資とするために28日の送金を行うとともに、[6]同日夕方近く、りそな銀行衆議院支店に預金担保貸付を申し込み、この融資金を本件売買の決済に充てる予定を立てた。この際、預金担保貸付の返済期間は2年程度を想定して、その旨同銀行に申し込んだが、その返済計画について確たる見通しを持っていたわけではなく本件定期預金を本件4億円の返済原資として確保するとの方針もなかった。[7]本件売買の決済日である同月29日の朝、石川は、預金担保貸付の融資関係書類への被告人の署名を得ることができず、同銀行からの融資が本件売買の決済時刻に間に合わないこととなったので、急きょ、本件売買の決済と本件定期預金の原資に必要な資金を確保するため、29日の送金を行った。[8]この29日の送金の最中、本件売買の決済を行い、[9]また、29日の送金の終了後、被告人から融資関係書類への署名を得た上、本件定期預金を設定し、本件預金担保貸付の実行を得て、被告人の口座に入金された借入金からりそな4億円を本件口座に移動した。

 7 各取引等の目的と収支報告書における虚偽記入等との関係

 政治資金規正法1条に規定された同法の目的に照らせば、前記認定の本件4億円の簿外処理や本件土地公表の先送りという目的や方針は、同法の精神にそぐわないものであることは、明らかである。

 しかし、これらの目的に問題があるとしても、本件預金担保貸付や本件合意書等の取引の結果として、実体的な法律関係が収支報告書の記載と合致し、収支報告書における本件4億円の簿外処理や本件土地公表の先送りが、政治資金規正法上、適法と評価されることも、考えられなくはない。

 そこで、次に、前記認定の本件取引等の目的、意図を前提とした上で、本件売買契約、本件合意書や本件4億円の授受、本件預金担保貸付の具体的な経緯、内容等に照らして、収支報告書の記載の適否を検討することとする。

 第4 本件土地の取得及び取得費支出の計上時期等

 1 両当事者の主張

 (1) 指定弁護士の主張

 本件売買契約書においては、契約日に手付金を支払い、残代金は平成16年10月29日に支払うこと、所有権移転登記手続は残代金の支払と同時に行うこと、本件土地の所有権は残代金全額の支払時に移転すること等が定められており、また、本件合意書の趣旨は、所有権移転登記の本登記手続を平成17年1月7日に行うとするだけであり、本件土地の所有権の移転時期を変更するものではない。陸山会は、○○売り主○○に、契約日に、手付金等を支払い、その後、本件売買の決済日に、本件土地の残代金を支払い、これと引き換えに、○○売り主○○から、本件土地の所有権移転登記手続に必要な一切の書類を受け取り、不動産引渡し完了確認書を作成した。したがって、本件売買の決済日である平成16年10月29日が本件土地の所有権移転の日である。また、本件土地の取得費については、手付金等を契約日である同月5日に、残代金等を本件売買の決済日である同月29日に、それぞれ支出しているから、これらを平成16年分の収支報告書に計上することを要する。

 (2) 弁護人の主張

 本件売買契約の後、陸山会と○○売り主○○の間で、本件合意書を作成して、本件売買契約を、土地所有権の移転を伴わない売買予約契約に変更し、土地所有権が移転する売買契約日を平成17年1月7日とする旨契約内容が変更された。陸山会は、同日、予約完結権を行使し、本件土地の売買契約を成立させているから、本件土地の所有権が○○売り主○○から陸山会に移転したのは、平成17年1月7日である。また、客観的で、取引がすべて完結する本登記時を基準として本件土地を資産計上した本件の会計処理には合理性が認められる。

 陸山会は、平成16年10月29日、○○売り主○○に対し、本件土地の売買残代金に相当する金員を支払っているが、この時点では、本件土地の売買契約は成立しておらず、この段階での支払は、売買契約が予定どおり成立すること等を条件とした売買代金の仮払いであり、収支報告書上、事務所費として計上する必要がない。資産の計上時期とその取得原因である支出の計上時期は、同一でなければならず、仮払金は、条件が成就した平成17年1月7日に事務所費として支出計上するのが正しい記載方法である。

 2 本件土地の所有権の移転時期

 (1) 本件売買契約の効果

 関係証拠によれば、本件売買契約書には、本件土地の売買について、平成16年10月29日に残代金3億3264万円を支払う旨、所有権は、買主が売買代金全額を支払い、売主がこれを受領したときに売主から買主に移転する旨、これによる所有権移転と同時に、売主は、買主に本件土地を引き渡す旨、売主は、売買代金全額の受領と同時に、本件土地について、買主と協力して、買主の名義に所有権移転登記の申請手続をする旨等が記載されていること、本件合意書においては、陸山会と○○売り主○○との間で、本件土地の引渡し及び残代金の支払は、原契約に基づき、平成16年10月29日に行うが、買主の希望により、所有権移転登記手続については、同日は、仮登記手続をするにとどめ、本登記手続は、平成17年1月7日に行うこと(1条)、平成17年度分の固定資産税は、○○売り主○○に課税されることになるが、これを陸山会が負担すること(2条)とするが、それ以外の原契約の内容に変更がないこと(3条)が合意されたこと、平成16年10月29日、陸山会から○○売り主○○に残代金の全額が支払われている上、石川は、陸山会の担当者から、本件土地の所有権移転登記手続に必要な書類を受け取り、不動産引渡し完了確認書も作成していることが認められる。

 以上によれば、本件土地の所有権は、同日、○○売り主○○から陸山会に移転したものと認められる。たしかに、本件土地について、平成17年1月7日売買を原因とする所有権移転登記がされたことが認められるが、これは、本件合意書に基づいて、所有権移転登記手続の時期が変更されたというだけであって、このことから、本件土地の所有権移転の時期が平成17年1月7日に変更されたと認めることはできない。

 (2) 売買予約への変更は認められるか

 弁護人は、本件合意書において、本件土地の所有権移転登記手続について、平成16年10月29日の時点では仮登記にとどめ、本登記は平成17年1月7日に行うこととされた趣旨は、本件売買契約を売買予約契約に改めたことにあり、その根拠として、本件土地の所有権移転請求権仮登記の手続に当たって、陸山会及び○○売り主○○の双方から、平成16年10月5日売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記手続が司法書士に委任され、同司法書士において、その旨の登記手続がされたことを主張している。

 たしかに、関係証拠によれば、陸山会及び○○売り主○○の双方から、平成16年10月5日売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記手続及び平成17年1月7日売買契約を原因とする本登記手続が司法書士に委任され、同司法書士において、それぞれその旨の登記手続がされたことが認められる。

 しかし、本件合意書の文面に照らせば、その趣旨は、所有権移転登記手続の時期を平成17年1月7日に遅らせるだけであると解され、本件土地の売買契約を売買予約契約に改めるような趣旨は、読み取れない。特に、前記のとおり、本件合意書には、登記以外の点で原契約の内容に変更がないことや、平成17年度分の固定資産税を陸山会が負担することも明記されており、所有権が平成16年10月29日に移転することを前提としていることは明らかである。

 また、陸山会と○○売り主○○の仲介をした○○コーポレーションの担当者である今○○(以下、「今」という。)や石川の公判供述によれば、今においても、石川においても、売買予約、その完結権行使などについて知識がなく、本件売買契約を売買予約契約に変更した旨の認識は抱いておらず、石川において、売買予約完結権を行使する必要がある旨の認識も抱いていなかったこと、平成17年1月7日に被告人又は石川において売買予約完結権を行使したような事情もないことが認められる。

 たしかに、石川らとしては、本件土地公表の先送りを実現するため、本件土地の所有権の移転時期を遅らせようとして、本件売買契約の決済全体を平成17年に遅らせるよう、○○売り主○○に申し入れたものと認めることはできる。しかし、○○売り主○○がこれを拒否したことから、所有権移転登記手続の時期のみを遅らせ、それ以外の権利義務関係は変動させないとの限度で合意が成立したものであって、本件合意書はその趣旨で作成されたものと認められる。したがって、本件土地の所有権の移転時期を遅らせるという石川らの意図は、交渉の結果、不成功に終わり、実現できなかったものというべきであって、本件合意書によって、本件土地の所有権の移転時期が変更されたと認めることはできない。

 以上によれば、陸山会と○○売り主○○から、平成16年10月5日売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記手続の委任が司法書士になされ、その旨の手続がなされたことは、あくまで、陸山会のために、同月29日に本件土地の所有権移転請求権仮登記手続を実行するための便法として、司法書士の判断において行われたものであって、このような登記原因は、当事者間で合意された実体的な権利関係を反映するものではないと認められる。

 以上のとおり、本件合意書によって、本件売買契約が売買予約に変更されたと認めることはできず、そのほか、本件土地の所有権が本件売買の決済日に陸山会に移転したとの認定を妨げる事情は見当たらない。本件土地の所有権は、本件売買契約に従い、平成16年10月29日、陸山会に移転したものと認められる。

 3 収支報告書における本件土地の取得の計上時期

 政治資金規正法の下で、不動産の取得を収支報告書に計上すべき時点については、法的判断の下で、その所有権を取得したと認められる時点を基準とすべきであると解することができる。

 企業会計の研究者である弥永真生(以下、「弥永教授」という。)作成の意見書(弁1。以下、「弥永意見書」という。)においても、企業会計においては、必ずしも1つの会計処理方法のみが適法、適正であるとは考えられていない旨の留保を付けつつも、土地の所有権を取得した時点で土地を資産として認識しており、どの時点で所有権を取得したかは、法的解釈に基づいて判断するのが原則である旨記載されており、さらに、政治団体については、経済的実態よりも法的形式に着目した会計処理が求められ、少なくとも、許容されると解され、また、法的安定性を確保する観点からは、法的に所有権を有していると評価できるか否かによって、「有する」資産等に当たるかを判断すべきである旨が記載されている。このような弥永意見書の記載は、前記解釈に沿うものといえる。

 この解釈を前提とすれば、前記検討のとおり、陸山会は、平成16年10月29日に本件土地の所有権を取得したと認められる以上、同日付で本件土地を取得した旨を平成16年分の収支報告書に計上すべきことになる。

 なお、弥永意見書には、本件土地について、平成17年1月1日以降に所有権が移転したと私法上評価されるのであれば、平成17年分の収支報告書に計上する必要があり、平成16年分の収支報告書に計上する必要はない旨や、司法書士に対する委任状の記載を根拠に、平成16年10月29日に本件土地の所有権を移転する旨の合意を認定することが不自然と思われる旨の記載があるが、弥永教授は、本件土地の取引に関する証拠書類や関係者の供述を踏まえて検討したものでない旨公判で供述している上、そもそも、本件土地の所有権の移転時期について法的判断を述べたものではなく、本件売買契約が売買予約契約に変更されたとの法的判断を前提とした会計上の処理方法について意見を示した趣旨である旨も公判で供述しているから、弥永意見書の前記記載は、前記結論を左右するものとはいえない。

 さらに、弥永教授は、公判において、平成16年に所有権を取得したと認められる本件土地について、平成16年分の収支報告書に計上せず、平成17年分の収支報告書に計上することが許される場合があり得ることを示唆する旨の供述もしている。しかし、弥永教授の供述をよく検討すると、法的形式である所有権の移転時期を中核として収支報告書への計上を判断すべきであることは、その前提とされており、ただ、収支報告書を作成する者が専門的な知識を備えていることや専門家による監査を受けることが必ずしも予定されていないことから、所有権移転の時期について、収支報告書を作成する者に正しい判断を求めるのが難しい場合があり、所有権移転登記は判断根拠として確実性があるとの問題意識に基づく意見であると認められる。そして、弥永教授も、法的に平成16年に所有権を取得したのであれば、平成16年分の収支報告書に計上しない処理は事後的にみると誤りである旨を供述している。したがって、弥永教授の見解を前提としても、石川が、本件土地公表の先送りを意図して、本件売買の決済全体を遅らせることを○○売り主○○と交渉したが、かなわず、本件土地の引渡し及び残代金の支払は平成16年10月29日に行い、所有権移転登記手続の時期のみを平成17年1月7日に遅らせることとした本件のような事案においては、所有権移転本登記の時点を基準として、平成17年分の収支報告書に計上することが許される場合には当たらないと解される。

 以上のとおり、陸山会は、平成16年10月29日付で本件土地を取得した旨を平成16年分の収支報告書に計上すべきであったものと認められる。

 4 収支報告書における本件土地の取得費支出の計上時期

 (1) 前記認定のとおり、陸山会は、平成16年10月5日、○○売り主○○と○○コーポレーションに対し、本件売買契約に際しての手付金、仲介手数料等として合計1508万円を支払い、同月29日、○○売り主○○、○○コーポレーション及び司法書士に対し、本件売買契約の残代金、仲介手数料、登記費用等として、合計3億3753万6788円を支払ったことが認められる。

 したがって、これらの合計3億5261万6788円の支出は、本件土地の取得費として、平成16年分の収支報告書において、事務所費に区分される支出として、計上すべきであったと認められる。

 (2) 以上に対し、弁護人は、本件土地の所有権取得は平成17年1月7日であり、その取得費は平成17年分の収支報告書に計上されるべきものであるとの前提に立って、前記平成16年中の各支出は仮払金あるいは前払金に該当する暫定的な支出であるから、平成16年分の収支報告書に計上する必要はない旨の主張をしている。

 しかし、本件土地の所有権取得は、前記検討のとおり、平成16年中であって、その取得費は同年分の収支報告書に計上すべきものと認められるから、弁護人の主張は、その前提を欠いており、失当である。

 なお、仮に、本件土地の取得を平成17年分の収支報告書に計上することとしたとしても、政治資金規正法12条1項2号においては、全ての支出について、その総額及び項目別の金額を収支報告書に記載することが求められており、政治団体の収支報告書において単式簿記的な記載が求められていることにも鑑みると、陸山会において、平成16年10月5日に売買の手付金等の趣旨で、同月29日に売買残代金の趣旨で、それぞれ、前記の各金額を支出している以上、平成16年分の収支報告書において、同額の事務所費としての支出を計上する必要があるものと認められ、弁護人の主張は採用できない。

 5 結論

 以上のとおり、本件土地の取得及び取得費の支出は、平成17年分の収支報告書ではなく、平成16年分の収支報告書に計上すべきであったものと認められる。

 したがって、公訴事実第1の2及び3並びに第2の1及び2について、陸山会が、平成16年10月29日に所有権を取得した本件土地の取得及びそのために平成16年中に支出した合計3億5261万6788円の取得費を、平成16年分の収支報告書に計上せず、平成17年分の収支報告書に計上して、これらの収支報告書を提出したことは、虚偽の記入ないし記載すべき事項の不記載に当たるといわなければならない。

 第5 本件4億円の収入計上の要否

 1 両当事者の主張

 (1) 指定弁護士の主張

 本件4億円は、平成16年10月12日、被告人から陸山会に貸し付けられ、本件売買契約の手付金等として支出した陸山会の資金に充当され、また、分散入金、28日の送金を経て、本件口座に入金され、本件売買の決済資金として費消されるなどしているから、被告人からの4億円の借入金として、計上すべきものである。

 また、りそな4億円は、本件4億円とは別途、被告人からの4億円の借入金として計上すべきものである。

 平成16年分の収支報告書には、りそな4億円は記載されているが、本件4億円は記載されておらず、この計上を欠く収入額は、虚偽の記入に当たる。

 なお、本件預金担保貸付の担保として設定された本件定期頭金は、29日の送金により、関係5団体の資金を本件口座に集約して、設定したものであるから、本件4億円を原資とするものではなく、被告人に帰属するものともいえないから、本件定期預金を設定したことは、本件4億円を借入金として計上すべきことを否定する理由にはならない。

 (2) 弁護人の主張

 被告人が石川に渡した本件4億円は、秘書に資金を預けたものに過ぎず、陸山会との間の消費貸借契約を成立させるものではない。石川は、本件4億円を原資として、陸山会名義の本件定期預金を開設して預け入れたものであり、記名式定期預金契約においては、当該預金の出捐者が預金者であると解されており、本件定期預金は被告人に帰属するから、本件4億円を借入金とみるべきではない。経済的実質をみても、被告人が陸山会のためにした支出は4億円であり、被告人の支出によって増加した陸山会の資金は4億円であるから、陸山会の被告人からの借入金は、りそな4億円のみと評価するのが、社会通念に合致する。

 2 本件4億円の消費貸借契約の成立

 (1) 本件4億円の授受

 本件4億円の授受について、関係証拠によれば、大久保は、石川に対し、本件土地の購入資金等として約4億円を要するが、政治団体で用立てられるか確認したところ、石川は、関係5団体の資金をかき集めるなどして捻出することは可能であるが、その後の資金繰りに支障が生じる可能性があると答えたことから、両名は、被告人に相談することとしたこと、大久保と石川が、被告人にその旨相談したところ、被告人は、4億円全額を用立てる旨返答したこと、その後、被告人が石川に本件4億円を手渡した際、被告人は、「ちゃんと戻せよ。」と述べたものの、石川との間で、利息の要否、返済の時期や回数等の具体的な返済方法は定められず、借用書等の証書も作成されなかったこと等が認められる。これに加えて、前記検討のとおり、石川が、本件売買の決済日に近接した時点で預金担保貸付を利用することを思いついたと認められることや、石川の公判供述等も考慮すると、本件4億円の授受がなされた時点においては、石川は、本件4億円をそのまま本件土地の購入資金等に充てるつもりであり、被告人においても、陸山会が本件土地の購入資金等として費消することを許容した上で、将来、陸山会から、同額を返済してもらう意思であったと認められる。

 (2) 本件4億円の資金の流れ

 関係証拠によれば、石川は、本件4億円を受け取った後、赤坂事務所の金庫に入れた上、そのうち1508万円を本件売買契約の手付金等として陸山会が現金で支出した分に充当するものとして、陸山会の一般財産に混入させたこと、また、その残額3億8492万円について、本件口座に2億0492万円、その他の陸山会の預金口座に合計1億8000万円を入金する旨の分散入金を行って、陸山会の一般財産に混入させたこと、さらに、28日の送金で、本件口座以外の陸山会の口座から、合計1億7000千万円を本件口座に送金して集約し、その残高を約4億3538万とし、本件売買の決済日にも、29日の送金を開始し、その途中の2億2000万円の着金を受けて本件口座の資金を約6億5554万円とした時点で、本件口座から、○○売り主○○に、本件売買契約の残代金3億3264万円を支払い、その後、○○コーポレーションに、仲介手数料の残金399万4300円を引き出して支払うなどしていることが認められる。

 したがって、本件4億円は、陸山会の一般財産に混入している上、その使途や資金の流れを実質的に評価しても、その相当部分は、陸山会における本件土地の購入代金等、その取得費用として費消されたものと認められる。

 (3) まとめ

 以上のとおり、前記本件4億円の授受及び資金の流れによれば、平成16年10月12日、被告人と石川との授受により、本件4億円について、被告人と陸山会の間で4億円の消費貸借が成立したことが認められる。

 これに対し、弁護人は、本件4億円の授受について、被告人と陸山会との間で、利息や返済時期の定めがなく、また、消費貸借契約書が作成されていないことなどを根拠に、貸付金として計上すべき消費貸借は成立しておらず、事実上の預け金の性質を有するものに過ぎない旨主張している。たしかに、金銭消費貸借契約の成立には、期限の定めや利息の定め、契約書の作成等がされることが多いが、これが不可欠のものと解する必要はない上、国会議員とその政治資金管理団体という被告人と陸山会の関係等に照らすと、期限や利息の定め、契約書の作成がなくとも、本件4億円を借入金として認定することに問題はない。

 また、弁護人は、仮に本件4億円が借入金に当たるとしても、平成16年10月28日頃、本件4億円の消費貸借は解除され、遡及的に消滅した旨主張している。しかし、このような解除に相当する意思表示が、その頃、陸山会と被告人の間でなされた形跡は、証拠上うかがわれず、弁護人の主張は採用できない。

 3 本件定期預金の帰属、性質

 弁護人は、本件4億円は、被告人に帰属する本件定期預金の原資に充てられたものであることを理由として、本件4億円の授受は、預け金の性質を有するものであって、被告人から陸山会に対する消費貸借ではない旨主張している。

 しかし、本件定期預金は、陸山会の本件口座にあった資金から設定された陸山会名義の定期預金であり、法的に、陸山会に帰属する外形となっている。

 しかも、既に認定したとおり、本件4億円の一部は、現金で支出した手付金の相当額として赤坂事務所の金庫内の資金に充当されたこと、さらに、本件4億円の大部分を本件口座に集約して約4億3538万円とし、本件売買の決済日に29日の送金を開始し、本件口座の資金を約6億5554万円とした時点で、本件売買の決済が行われたことが認められ、さらに、関係証拠によれば、本件売買の決済終了時点における本件口座の残高は、約3億4800万円であり、更に29日の送金が続けられ、残高が約4億0300万円となった時点で、本件定期預金が設定されたことが認められることに照らすと、資金の流れを実質的に評価しても、本件定期預金の原資の相当部分は、本件4億円ではなく、29日の送金により資金移動された陸山会や関係団体の一般財産であると認められる。また、本件定期預金の原資の一部は、本件4億円であると評価する余地があるものの、これも、分散入金、28日の送金を経て本件口座に入金され、陸山会の一般財産に混入していたものである。したがって、本件定期預金の原資は、陸山会及び関係団体の一般財産であると認められ、本件4億円であると認定することはできない。この点からも、本件定期預金は、陸山会に帰属すると解するのが自然である。

 また、本件定期預金は、平成16年分の収支報告書において「残高4億円」「平成16年10月29日」「定期預金」と記載され、陸山会の資産として計上されているし、資産報告書においても、被告人の資産として公表されてはいない。平成19年2月の週刊誌編集部の取材に対しても、「収支報告書に記載されている預金は、いずれも、陸山会が長年にわたって積み立ててきた剰余金である。」旨回答し、被告人に帰属する旨は回答していない。したがって、陸山会は、本件定期預金について、収支報告書や資産報告書、週刊誌編集部の取材に対する回答のいずれの場面においても、本件定期預金が陸山会に帰属することを前提とする処理をしていることが認められる。

 さらに、本件定期預金は、平成17年10月の半額返済、平成18年3月の残額返済で、実質的にそれぞれ2億円ずつ解約され、被告人のりそな銀行に対する本件預金担保貸付に基づく借入金の返済に充てられ、同時に、陸山会の被告人に対するりそな4億円の返済にも充てられており、その結果、平成17年分の収支報告書において、本件定期預金の残高は2億円であり、被告人に対する借入金が2億円減少した旨の記載がされ、平成18年分の収支報告書において、被告人に対する借入金が更に2億円減少した旨の記載がされている。このような処理は、本件定期預金が陸山会に帰属することを前提としたものであり、仮に被告人に帰属するならば、これを解約して、陸山会の被告人に対する債務の弁済に充てるなどということはできないはずである。

 池田は、「石川から、本件定期預金は、政治団体の資金を集めて設定したという趣旨の話を聞いていた。」旨公判で供述しており、これは、以上の検討に沿うものといえる。

 なお、記名式定期預金契約において、記名式定期預金が、出捐者とは異なる預入行為者の名義で設定された場合に、当該預金の預金者が、預入行為者ではなく出捐者であると解される場合があるのは、弁護人が主張するとおりである。しかし、本件においては、既に検討したとおり、そもそも、本件定期預金の原資が本件4億円であるとは認められず、出捐者が被告人であると認めることはできない。

 以上のとおり、本件定期預金は、被告人ではなく、陸山会に帰属するものと認められる。したがって、本件4億円が、被告人に帰属する本件定期預金の原資とされたことを理由に、借入金にならない旨の弁護人の主張は、採用することができない。

 4 本件4億円とりそな4億円との関係

 石川は、被告人から陸山会に対し、本件4億円とりそな4億円の合計8億円が資金として入ったことは認めながら、「本件土地の購入資金等として用いるのは4億円だけであり、本件4億円とりそな4億円とは一体のものであるから、そのいずれかはともかく、収支報告書には4億円の借入金を計上すれば足りると考えた。」旨公判で供述し、弁護人も、前記のとおり同旨の主張をしている。

 しかし、そもそも、政治資金規正法12条1項1号においては、収支報告書に、「すべての収入」を記載することが求められているのであり、石川の前記供述は、根拠を欠く、独自の解釈である。しかも、既に検討したとおり、本件4億円は、陸山会の一般財産に混入している上、資金の流れを実質的に評価しても、相当部分は、本件土地の取得費等に費消されたものと認められるのであって、借入金として計上すべきことを否定する理由は見当たらない。また、りそな4億円は、陸山会の一般財産に混入された上、その後の陸山会の資金繰り等に費消されているから、やはり、借入金として計上すべきである。

 さらに、関係証拠によれば、前記のとおり、池田は、平成17年分の収支報告書を作成するに当たり、平成17年1月7日付で約3億5000万円の本件土地の購入代金等の支出を計上しようとしたが、平成17年期首の繰越残高が約6億1000万円であるところ、定期預金が4億7150万円であるために、前記支出の原資となるべき陸山会の資産の存在を説明することができず、同年1月5日付で合計2億8000万円の寄付という事実に反する収入を計上し、つじつま合わせを余儀なくされている。このような事態は、本件4億円とりそな4億円のいずれをも収入として計上すべきであったのに、りそな4億円の借入金のみを計上するという平成16年分の収支報告書における誤った処理の帰結である。

 以上のとおり、弁護人の前記主張は採用することができず、本件4億円とりそな4億円のいずれについても、被告人からの借入金として、平成16年分の収支報告書に計上すべきであったと認められる。

 5 結論

 以上のとおり、本件4億円は、被告人が、平成16年10月12日、本件土地の購入資金等に充てるため、陸山会において費消することを許容して石川に交付したことで、陸山会の被告人からの借入金収入として認定すべきであったものと認められる。

 したがって、公訴事実第1の1について、平成16年分の収支報告書において、被告人からの借入金として、本件4億円が計上されず、りそな4億円のみが計上されて、「本年の収入額」が記載されたことは、虚偽の記入に当たるといわなければならない。

 第6 石川及び池田の故意

 1 石川の故意

 (1) 本件4億円の収入計上に係る虚偽記入について

 既に認定したとおり、石川は、本件4億円を本件土地の購入資金として被告人から自ら受け取り、本件4億円の一部につき、陸山会が既に赤坂事務所の金庫から支出していた本件土地の手付金等の資金に充当し、その残部について、分散入金を行い、28日の送金を行うなど、本件口座に集約して、陸山会の一般財産に混入させている。また、29日の送金の途中で、本件売買の決済等を自ら行い、その原資の相当部分は、実質的に評価しても、本件4億円であることを認識している。さらに、その後の29日の送金も自ら行い、本件4億円の簿外処理を目的として、本件預金担保貸付の事務手続を担当して、その契約内容やりそな4億円の資金の動きを把握し、本件定期預金の原資の相当部分は陸山会や関係団体の一般財産であることも認識していたものと認められる。前記のとおり、本件定期預金を本件4億円の返済原資として確保する旨の明確な方針はなく、陸山会の一般財産に混入する可能性があることも認識していたものと認められる。

 また、石川は、前記のとおり、捜査段階において、「平成16年分の収支報告書に、本件4億円の借入れを収入として記載すべきであり、当時、収支報告書に記載された収入と本件口座の入金記録との突合を手伝わせていた池田から、金額が合わない旨指摘されたことがあったが、本件4億円を平成16年分の収支報告書の収入として記載しないことにしていたので、池田に対して、気にしなくていい旨指示して、収入として計上しなかった。」旨供述して(甲84号証)、虚偽記入の故意を認めており、これは、前記認定に沿うものであって、信用することができる。

 そして、前記検討のとおり、石川は、本件4億円の簿外処理を意図し、本件土地の取得原資がりそな4億円であるとの対外的な説明を可能とする外形作りをするため、本件預金担保貸付を受けるなどしたものの、このような外形作りは、実態に合わないものであって、本件4億円とりそな4億円の両方を収入として平成16年分の収支報告書に計上する必要があったことも認識していたものと認められる。

 以上によれば、石川は、本件4億円が被告人からの借入金収入として計上すべきものであることを認識しながら、これを借入金収入として計上せずに、平成16年分の収支報告書を作成し、提出したものと認められる。

 (2) 本件土地の取得及び取得費支出に係る虚偽記入等について

 既に認定したとおり、石川は、○○売り主○○との間で、本件売買契約書を作成し、手付金の支払も担当し、その後、本件土地公表の先送りを意図して、本件売買契約の決済を平成17年以後に先送りするための交渉を○○売り主○○との間で行ったが、これを拒否されてかなわず、本件土地の所有権移転登記手続のみ先送りする旨の合意を取り付けて、本件合意書を作成し、本件売買の決済を行うなどの事務を自ら担当しており、本件売買契約書や本件合意書の内容を把握していたという事実関係から、本件土地の所有権は平成16年10月29日に陸山会に移転しており、その取得や取得費の支出を平成16年分の収支報告書に計上すべきことを認識していたものと認められる。

 石川は、捜査段階において、平成16年分の収支報告書の支出額を、本件土地の取得費に相当する金額分過少に記載した虚偽記入を認める供述をしており、これは、前記認定に沿うものであって、信用することができる。

 石川は、「本件合意書の1条において、本件土地の所有権を平成17年1月7日に移転することが取り決められたと考えていた。また、当時、所有権の移転と登記名義の移転との違いをよく理解していなかったことや司法書士からの説明で所有権移転の先送りができたと認識していた。」旨公判で供述している。しかし、本件売買契約書の記載を読めば、所有権の移転と登記名義の移転とが異なるものとして扱われていることは、法律や会計の専門家でなくても容易に理解できるはずである上、石川は3億4000万円余りという高額の不動産の購入に当たって、本件売買契約書の内容を慎重に検討したはずであり、したがって、所有権の移転と登記名義の移転とが区別されるものであることを理解したものと認められるし、本件合意書の作成に際しても、本件土地公表の先送りという目的のために、本件合意書の内容を慎重に検討し、本件土地の所有権の移転時期の変更などは合意されていないことも、認識していたものと認められる。さらに、陸山会における売買代金等の支出日を本登記の日とする旨の合意などないことは、本件合意書において明らかであるし、司法書士は、その立場等に照らせば、陸山会における経理処理や収支報告書の計上方法について、石川に助言をするはずがないのであって、石川の前記公判供述は信用することができない。

 したがって、石川は、本件土地公表の先送りのためには、本件合意書における本件売買契約の内容の変更では不十分であり、所有権の移転を遅らせるという実体が伴わないものであることを承知し、本件土地の取得及び取得費の支出を計上する必要があることを認識しながら、所有権移転登記手続の時期を遅らせたことで、本件土地公表の先送りのための口実ができたとして、本件土地の取得及び取得費の支出を計上しない平成16年分の収支報告書を作成し、提出したものと認められる。

 (3) まとめ

 以上のとおり、石川については、平成16年分の収支報告書における本件4億円の収入並びに本件土地の取得及び取得費の支出に係る虚偽記入ないし記載すべき事項の不記載に係る故意が認められる。

 2 池田の故意(本件土地の取得及び取得費支出に係る虚偽記入)

 池田の捜査段階における供述等の関係証拠によれば、池田は、平成17年1月頃から同年7月頃までの間に、石川から、秘書寮建設のために、陸山会において本件土地を購入したこと、被告人の政治活動への影響を慮って、平成16年分の収支報告書には本件土地の取得や取得費の支出を計上しないこととしたこと、そのために、平成16年10月29日に予定されていた所有権移転本登記手続を平成17年1月7日に延期したこと等について説明を受け、また、平成16年10月5日に手付金等を、同月29日に残代金等を支払った旨の支出費用の一覧表を引き継ぎ、その旨の記載のある本件口座の預金通帳を確認するなどして、これらの事実を認識したことが認められる。そして、石川から、本件土地の取得や、これらの本件土地の取得費の支出を平成17年1月7日付で計上し、平成17年分の収支報告書に計上するよう指示を受けたことも認められる。さらに、池田は、「本件合意書を読んだことはないものの、これと不動産引渡し完了確認書を見たことはある。」旨も公判で認めている。

 以上によれば、池田は、遅くとも平成17年分の収支報告書作成の時点では、本件土地の所有権が平成16年10月29日における本件売買の決済により陸山会に移転していること、その取得費も、手付金等の支払と本件売買の決済のそれぞれの時点で支払われたこと、そして、被告人の政治活動への影響を慮って、本件土地の取得及び取得費の支出を平成16年分の収支報告書に計上せず、平成17年分の収支報告書に計上することにしたこと(本件土地公表の先送り)を認識していたものと認められる。

 これに対し、池田は、「本件土地の購入代金等の支出について、本登記の時期に合わせて支出として計上する旨、石川から指示を受け、疑問を持たずにそのとおり実行した。」旨公判で供述している。たしかに、池田は、石川と比較すると、本件売買契約の締結や本件合意書作成に至る交渉を直接担当しておらず、石川から、本件土地取得を平成17年分の収支報告書に計上することが違法であるとの説明を受けたとうかがわれる証拠もなく、しかも、池田は、平成17年1月に赤坂事務所に着任し、経理処理や収支報告書の実務経験に乏しかったことを考慮すると、これらの事実関係や収支報告書作成の方針について説明を受けて理解したとしても、違法性までは理解しなかったという可能性も考えられなくはない。

 しかし、前述したとおり、池田は、売買代金の決済はすべて平成16年10月に終了し、本件土地の所有権もそのときに移転していること、したがって、被告人の政治活動への影響を慮って平成17年分の収支報告書に計上することは、真実とは異なることを認識している上、さらに、池田は、平成16年10月から11月にかけて預金通帳にマル住と記載がある多額の入金が平成16年分の収支報告書に記載されていないことを認識し、平成17年分の収支報告書を作成するに当たり、平成17年1月5日付で合計2億8000万円の寄付という事実に反する収入を計上し、つじつま合わせを行っていることを併せ考慮すると、池田は、少なくとも違法になるかもしれない程度の認識はあったものと認められる。「すべての支出」について収支報告書への計上を要求している政治資金規正法12条1項2号の趣旨に照らすと、池田の前記認識は故意責任を問うに足りるものといえる。

 したがって、池田は、平成17年分の収支報告書における本件土地の取得及び取得費の支出に係る虚偽記入について、故意の成立が認められる。

 第7 被告人の故意・共謀

 1 両当事者の主張

 (1) 指定弁護士の主張

 ア 被告人の共謀を裏付ける間接事実

 (ア) 本件4億円の収入計上に係る虚偽記入について

 石川が、本件4億円を平成16年分の収支報告書に記載しなかった基本的な目的は、被告人が本件4億円を拠出したことが露見することを避けることにあった。

 これは、多額の現金を保有している事実が明らかになることを避けようとしていた被告人の一貫した行動、すなわち、被告人は、本件4億円の存在を、秘書を含め、一切の者に対して隠していたこと、被告人は、本件預金担保貸付の融資関係書類に署名したこと、被告人は、本件4億円が公表された場合に、公私混同等の批判を避けるために必要な借用証、預り証又は領収書の作成や資産報告書での公表といった、本件4億円の提供の趣旨が明確となるような措置をとっていないこと、被告人は、週刊誌編集部の取材に対する虚偽の回答に関与していること、被告人は、本件4億円の返済に当たっても、現金で返済させていることに沿っている。

 (イ) 本件土地の取得及び取得費支出に係る虚偽記入等について

 石川が本件土地所有権移転登記の時期を平成17年1月に遅らせた理由は、平成16年分の収支報告書に本件土地取得に関わる記載をすることを避け、平成17年分の収支報告書に記載するという、もっぱら収支報告書の記載を意識したものである。

 取引をこのように変更することは、陸山会のみならず、被告人の利害にも影響することであり(被告人は、本件土地に強い関心を抱いていた上、本件土地公表の先送りは、被告人の政治活動における利益を慮ったものである。)、秘書らの一存でこの決定をすることはあり得ず、石川は、現に、被告人の指示、了解のもとでこれを行っている。

 (ウ) 虚偽記入ないし記載すべき事項の不記載の動機等について

 被告人の秘書には、収支報告書に虚偽の記入ないし記載すべき事項の不記載を実行する固有の理由はなく、被告人の意思と無関係に独自の判断でこれを実行する余地はあり得ない。

 収支報告書は、政治家の政治資金の収支の状況を明らかにするものであるから、収支報告書の記載内容に対しては、秘書ではなく、政治家が利害関係を有するというべきである。また、虚偽記入ないし記載すべき事項の不記載の前提として、本件預金担保貸付や本件合意書といった取引自体の操作がなされており、これらの取引についても、石川ら秘書に固有の動機はない。石川ら秘書は、ほぼ毎日、被告人と顔を合わせており、被告人の指示、了解を受ける機会があった上、被告人が個人資金を用立てて陸山会が不動産を購入するという本件4億円の扱いは、前例のないものであるから、被告人の指示、了解を受けるのが自然である。

 イ 共謀の時期、態様

 (ア) 石川は、平成16年10月頃、被告人との間で、a平成16年分の収支報告書について、(a)本件4億円を収入として計上しないこと、(b)現実に支払った本件土地の取得費の支出を計上しないこと、(c)現実には取得していた本件土地取得の事実を記載しないこと、b平成17年分の収支報告書について、(a)平成16年中に支払っている本件土地の取得費の支出を計上すること、(b)平成16年中に取得していた本件土地を平成17年に取得した旨の虚偽の記載をすることについて、共謀した。

 (イ) 平成17年3月頃、被告人は、石川による、事実に反する平成16年分の収支報告書の提出について、異を唱えず、被告人と石川及び大久保との間で共謀が成立した。

 (ウ) 石川は、平成17年1月以後、池田に対する引継ぎの過程で、本件土地の取得及び取得費の支出を平成17年分の収支報告書に計上する旨を引き継ぎ、池田は、この引継ぎに従って、平成17年分の収支報告書に計上した。平成18年3月頃、池田は、被告人に対し、本件土地の取得及び取得費の支出を平成17年分の収支報告書に計上することを説明し、被告人はその旨を了承し、被告人と池田及び大久保との間で共謀が成立した。

 (エ) 被告人と石川らとの間の謀議について、具体的な日時、場所を特定できず、また、石川らの実行行為についての被告人の認識が概括的なものであったとしても、被告人は、石川らを指揮命令し、石川らの犯行を止めることができる地位にあり、また、本件4億円の簿外処理や本件土地公表の先送りは、被告人のためにされたものであるから、被告人において、本件4億円の収入や本件土地の取得及び取得費の支出が平成16年分の収支報告書に記載されず、本件土地の取得及び取得費の支出が平成17年分の収支報告書に記載されるとの認識があり、これを認容し、一方で、実行行為者である石川らにおいて、被告人がこれを認識、認容していることを承知しているのであれば、被告人について、共謀共同正犯の成立を認めるべきである。

 (2) 弁護人の主張

 ア 指定弁護士が主張する間接事実について

 (ア) 本件4億円の収入計上に係る虚偽記入について

 仮に、石川において、本件4億円の簿外処理の目的があったとしても、被告人に報告することなく、第三者の助言や自らの判断で行うことは、不自然ではない。そのほか、指定弁護士が主張する事実は、いずれも、収支報告書への虚偽記入に係る共謀を推認させる事実とはいえない。

 (イ) 本件土地の取得及び取得費支出に係る虚偽記入等について

 仮に、石川や池田が本件土地取得の収支報告書への計上を遅らせる旨被告人に報告したとしても、これが直ちに収支報告書の虚偽記入ないし記載すべき事項の不記載を意味するものではなく、被告人の故意を認定するに足りるものではない。そのほか、指定弁護士が主張する事実は、いずれも、収支報告書への虚偽記入ないし記載すべき事項の不記載に係る共謀を推認させる事実とはいえない。

 (ウ) 虚偽記入ないし記載すべき事項の不記載の動機等について

 収支報告書の記載内容に利害関係を有するのが政治家本人であるとしても、秘書は、政治家の利害を考慮して自らの判断で事務処理をするものであり、本件合意書や本件預金担保貸付といった取引についても、秘書が、政治家の利害を考慮して自らの判断で事務処理をし、その判断が不適切であることはあり得るから、これらの行為は、直ちに被告人との共謀を推認させるものではない。被告人と秘書が頻繁に顔を合わせていたことも含め、指定弁護士が主張する事実は、いずれも、収支報告書への虚偽記入ないし記載すべき事項の不記載に係る共謀を推認させる事実とはいえない。

 イ 弁護人の主張事実

 (ア) 被告人は、本件土地の取得と建物の建設に約4億円が必要である旨の説明を石川から受けて、「そうであれば、自分が4億円を用立てる」と述べたが、それ以上に4億円をどのような形で利用するのかについて具体的な話は出なかった。被告人は、平成16年10月12日、石川に、自らの個人資産から用意した本件4億円を渡したが、この時点でも、被告人と陸山会との間で消費貸借契約の合意は存在せず、被告人は、石川が本件4億円を本件土地購入のために利用することは認識していたが、具体的にどのような形で利用するかまでは分からなかったし、利用方法は石川に一任していた。

 被告人は、同月29日、石川から、りそな銀行衆議院支店に4億円の定期預金を作り、それを担保に被告人名義で同銀行から4億円を借り、本件土地の購入資金に充てるとの説明を受け、本件4億円で定期預金を組み、それを担保に銀行から4億円を借り受けるという方法を選択したものと理解し、本件預金担保貸付のために署名が必要であるとの説明を受けて、融資関係書類に自らの住所、氏名を自署した。しかし、りそな4億円とは別に、本件4億円について消費貸借契約を締結したという認識はなく、まして、8億円という金額を陸山会に貸し付けたなどと認識したことはなかったし、戻してもらう金が8億円であると考えたこともない。

 (イ) 被告人は、本件4億円の存在を秘匿しなければならないと考えたことはなく、個人資産として保有していた本件4億円は、もともと資産報告書で公表する必要がないから、これを隠匿したことはなく、まして、本件4億円を陸山会の収支報告書に記載しないという違法な簿外処理をしてまで、これを隠すという動機はなく、その旨を石川らと共謀した事実はない。

 仮に、陸山会が本件土地を平成16年中に取得したとして、それが平成16年分の収支報告書に記載されても、被告人にとって何の問題もなく、まして、真実に反してその取得の公表を平成17年分の収支報告書に遅らせる動機はなく、その旨を石川らと共謀した事実はない。

 被告人は、石川から、平成17年3月、本件4億円と本件土地の取得ないし取得費の支出を真実に反して収支報告書に記載しない旨が理解されるような説明を受けたことはなく、そのような不記載を了承した事実もない。

 被告人は、池田から、平成17年12月から平成18年3月頃までの間、平成17年分の収支報告書に、平成16年中になされた本件土地の取得及び取得費の支出を計上する旨の説明を受けたことはなく、また、そのような記載を了承した事実もない。

 2 前提事実等

 (1) 被告人の関与、認識に関する前提事実

 前記第2の1の前提事実、既に認定した各事実に加えて、関係証拠によれば、以下の事実を認めることができる。

 ア 陸山会における本件土地の購入は、平成16年9月頃、被告人の秘書らの寮を新規に建設して利用することを意図して、大久保が発案して、被告人に提案したものであり、被告人も、本件土地の現場を見るなどした上で、これを了承した。

 なお、本件土地の所有権は、あくまで、陸山会が取得するものであって、被告人個人による取得の意図は、証拠上うかがわれない。

 イ 被告人は、大久保や石川からの相談に応え、同年10月12日、本件土地の購入資金として、本件4億円を現金で石川に渡し、陸山会に貸し付けた。

 被告人は、本件4億円の原資について、「かなり以前から、元赤坂タワーズの金庫で現金として保管していた個人資産である。その原資は、親から相続した不動産を処分して、現在の自宅を取得したときの差額である約2億円、家族名義の預金を払い戻した約3億円、議員歳費や印税等が貯まったものを払い戻した1億六、七千万円であり、手持ちの現金として保管していた。」旨公判で供述している。この供述は、細部において、あいまいな点や捜査段階における供述との変遷がうかがわれるが、大筋においては、この供述の信用性を否定するに足りる証拠はない

 ウ 被告人は、同月29日、りそな銀行衆議院支店から本件預金担保貸付を受けて、りそな4億円を陸山会に転貸する際、石川が持参した同銀行宛の融資申込書と額面金額4億円の約束手形に自ら署名した。ただし、同銀行との交渉や融資関係書類の授受等の手続は、全て石川が行った。また、同銀行から被告人個人名義の口座に振り込まれた融資金について、控除された天引き利息分の金額を加算して、同口座から本件口座にりそな4億円を送金する手続についても、石川は、被告人個人名義の通帳と印鑑の使用を任されていたことから、個別具体的な報告を被告人にすることなく、石川が行った。

 エ 池田は、被告人との間で、本件4億円を返済する旨協議した上、平成19年5月2日、本件口座から4億円を払い出した上、自らが現金4億円を車で運んで、元赤坂タワーズか被告人の自宅に届けて、返済した

 オ 前記認定のとおり、本件土地の取得及び取得費の支出は、平成16年分の収支報告書には計上されず、平成17年分の収支報告書に計上されて、公表された。

 また、本件4億円の借入金は、平成16年分の収支報告書に計上されず、その後、平成19年分の収支報告書に至るまで、その返済の事実も含めて、計上されて公表されたことはなく、本件4億円が、被告人の陸山会に対する貸付金として資産報告書等で公表されたこともなかった

 (2) 被告人と秘書らの関係

 被告人と石川、池田ら秘書との関係について、被告人は、「秘書は、書生として三、四年間、身の回りの世話をしてもらって、全面的に信頼できる人間関係を形成した上で、秘書に採用している。私自身は、天下国家に関わる政治活動に専念しており、政治団体における経理を含めた事務処理や運営に関する事柄は、全て秘書に任せていた。政治団体について任せた事柄は、一切秘書らの自主的な判断で仕事をしてもらっており、いちいち検証したり、干渉したりすることはしない。秘書に任せている事柄については、秘書から報告してくることもない。」旨公判で供述している。また、石川も、公判において、「政治家と秘書との信頼関係で任されていた事柄があり、被告人に報告等せずに事務処理を行うことがあった。」などと、これに沿う供述をしている。

 たしかに、被告人は、公職や政党の役職を歴任する国会議員として、多忙であったことは、容易に想像できるところであり、関係5団体における経理事務や、日常的、定型的な取引について、報告を求め、把握していたとは考えにくいところがある。また、収支報告書の提出に先立ち、被告人自らがその内容を詳細に点検するといったことも考えにくいところがある。

 さらに、被告人は、陸山会や関係団体の預金口座及び印鑑の管理に加えて、議員歳費の振込み等に使用する自らの個人名義の預金口座の通帳と印鑑も、石川ら秘書が使用することを包括的に許容していたことが認められ、実際、前記認定のとおり、石川は、平成16年10月29日、本件預金担保貸付によって融資金4億円から天引利息約464万円を差し引いた残額が被告人名義の預金口座に振り込まれた際、自らの判断で、同口座の資金を加えて、りそな4億円を本件口座に送金している。被告人と石川ら秘書との関係は、社会一般の組織関係や雇用関係とはかけ離れた、ある意味で特殊な人的関係であり、秘書が委ねられた事務処理上の裁量の範囲は、著しく大きいものであったこともうかがわれる。

 したがって、関係5団体における経理事務や日常的、定型的な取引の処理を含め、社会一般の組織関係や雇用関係であれば、部下や被用者が上司や雇用者に報告し、了承を受けて実行するはずの事柄であっても、石川ら秘書と被告人の間では、このような報告、了承がされないことは、あり得ると考えられる。

 しかし、他方で、石川や池田は、被告人に仕える秘書として、被告人の意向や利害に反して事務処理を行うことのできる立場にない上、被告人の政治的立場や、金額の大きい経済的利害に関わるような事柄については、自ら判断できるはずがなく、したがって、被告人に無断で決定し、実行することはできないはずである。したがって、被告人の政治的立場や、金額の大きい経済的利害に関わるような重要な事柄については、石川や池田ら秘書は、被告人に報告し、その了承の下で実行したのでなければ、不自然といえる。

 (3) 被告人の関与、認識についての当裁判所の検討方針

 被告人は、公判において、本件売買契約の締結、本件売買の決済、本件土地の所有権移転登記手続といった取引や、本件土地公表の先送り、本件4億円の簿外処理といった方針について、指示したことも、報告を受けたこともなく、虚偽の記入ないし記載すべき事項の不記載がされた平成16年分及び平成17年分の収支報告書も、公判において、被告人にこれらの取引の多くについては報告をしたことを否定し、特に、収支報告書における虚偽記入ないし記載すべき事項の不記載に直接関わる被告人の認識や被告人への報告については、平成17年分の収支報告書に関し、本件土地の取得費の支出を同収支報告書に計上することを被告人に報告した旨の池田の捜査段階の供述以外には、直接証拠がない。

 しかし、石川や池田の公判供述については、当裁判所の平成24年2月17日付証拠決定において説示したとおり、石川や池田のいずれとも、公判廷においては、被告人にとって訴訟上あるいは政治活動上不利益となる可能性のある供述をすることには、強い心理的規制が働き、記憶に従った十分な供述ができない場合があるものと認められるのであり、被告人の関与、認識を否定する旨の公判供述については、直ちには、信用性を肯定することができない。

 また、被告人の供述についても、後記検討のとおり、本件取引等や収支報告書等に関して石川や池田ら秘書から報告を受けたことを否定する部分等については、具体的な記憶がないものと考えられ、直ちには、信用性を肯定することができない。

 したがって、本件において問題とされる取引等や収支報告書の記載について、被告人が、石川や池田から報告を受け、認識していたといえるかどうかは、被告人の意向や利害、特に、被告人の政治的立場や金額の大きい経済的利害に関わるものでないかといった観点から、その取引等の具体的な内容や当時の状況等に照らし、石川や池田が自らの裁量に任されたこととして被告人に報告せずに処理を進められる事柄と評価できるか、そうでないか等の視点を考慮して、個別に検討して判断するのが相当というべきである。

 3 各取引等における被告人の関与、認識(故意、共謀をうかがわせる事情)

 以上を前提として、まず、各取引等における被告人の関与や認識のうち、本件の証拠関係の下で、認定することができるものについて、指摘し、検討する。

 (1) 本件土地取得の決定

 関係証拠や前記前提事実のとおり、被告人は、平成16年9月頃、被告人の秘書らを住まわせる新規の寮を建設するために陸山会において本件土地の取得を検討したい旨の大久保からの説明を受け、その現場を見るなどした上で、陸山会が、秘書寮建設のために、本件土地を取得することを、認識し、了承したものと認められる。

 (2) 本件売買契約の締結の認識

 石川は、「本件売買契約を締結し、平成16年10月29日が決済日となったことを同月5日に被告人に報告した。朝のミーティングの機会に報告した可能性がある。」旨公判で供述している。石川は、当初、被告人が提供する本件4億円を本件売買の決済に充てる予定であったと認められるから、予め決済日を被告人に伝えて、これに間に合うよう資金の準備を依頼する必要があったはずであり、この推認に合致する石川の前記供述は信用することができる。

 これに対し、被告人は.「本件売買契約の締結について報告を受けたことも、本件売買契約書を見せられたこともない。これは、記憶がないのではなく、報告を受けたことも見せられたこともない。」旨公判で供述している。しかし、後記検討のとおり、被告人は、この点について、供述を変遷させており、確かな記憶がないと認められるのであって、石川の前記公判供述の信用性に疑いを入れるものとはいえない。

 したがって、被告人は、平成16年10月5日頃、本件売買契約が同日に締結されたこと、その決済日が同月29日であることを、石川から報告を受けて、認識したものと認められる。

 (3) 本件4億円の貸付け

 関係証拠によれば、被告人は、大久保と石川から、「陸山会における本件土地の取得及び寮建設等の費用として、約4億円の資金が必要であり、関係5団体の資金をかき集めるなどして捻出することは可能であるが、その後の資金繰りに支障が生じる可能性がある。」旨の報告を受けて、その旨認識したこと、被告人は、大久保と石川に対し、本件土地取得等の資金とするための4億円全額を、自らが提供する旨約束したこと、被告人は、その約束の履行として、同年10月12日、自らの個人資産から本件4億円を支出して、石川に現金で交付したこと、その際、被告人は、石川に「ちゃんと戻せよ。」と述べたものの、利息の要否、返済の時期や回数等の具体的な返済方法は定めず、借用書等の証書も作成しなかったこと、その際の被告人の意思は、本件4億円を、陸山会における本件土地取得の資金等として費消することを許容した上で、将来、陸山会から同額の返済を受けるというものであったことが認められる。

 なお、被告人は、「本件4億円について、陸山会に貸したという認識がない。」旨公判で供述しているが、法的に「貸した」とか、消費貸借契約の成立といった認識が仮になくとも、前記の被告人の認識内容は、それが陸山会への貸付金であることの認識に欠けるものとはいえない。

 (4) 本件土地公表の先送りの方針の認識

 ア 石川は、本件土地の取得等を平成16年分の収支報告書に計上せず、平成17年分の収支報告書に計上する旨の方針について、「本件土地を購入する旨は、被告人に報告したが、契約の実行は秘書に任された事柄であるから、本件売買契約の実行を延期する方針は、被告人に報告していない。」旨公判で供述している。

 また、被告人は、「石川から、本件土地の売買契約の進捗について、全く聞いておらず、本件合意書の作成についても、聞いていない。本件土地公表の先送りの方針も知らなかった。これらは、秘書に任せた裁量の範囲内であったので、報告も了承もしていなかった。」旨公判で供述している。

 したがって、本件土地公表の先送りの方針を被告人に報告した旨の直接証拠はない。また、たしかに、被告人は、政治家として多忙であり、既に了承した本件売買契約締結後の交渉の細部等について、秘書に任せた裁量の範囲内であるとして、報告を求めず、石川においても、あえて被告人に報告しないということはあり得る。

 イ しかし、後記認定のとおり、平成18年3月頃、被告人は、池田から、平成17年分の収支報告書に本件土地の取得費用の支出が計上される旨報告を受けた際、格別、それに質問等をすることなく、これを了承したことが認められる。本件土地の取引は、被告人が4億円の資金を提供して行ったもので、当然一定の関心を持っていたはずであり、その取引を平成17年分の収支報告書に計上する旨の報告を受けたとき、本件土地公表の先送りの方針について全く認識がなければ、池田に対し、質問や確認をするなど、何らかの対応をするのが合理的である。池田の上記報告を聞いたときの被告人の対応は、被告人が本件土地公表の先送りの方針について認識していることを推認させる一事情であるといえる。

 また、石川は、平成22年5月17日における検察官の取調べにおいては、本件土地公表の先送りを被告人に報告していたことをうかがわせる発言をしていたことが認められるのであり、石川の前記公判供述には、変遷が認められ、被告人の供述についても、後記検討のとおり、被告人は、当時の石川から受けた報告等の具体的な内容について、正確な記憶を有しているとは認め難いので、その供述の信用性には疑問がある。

 そして、仮に、石川が、本件合意書について、本件売買契約の内容には大きな変更はないと考えたとしても、本件土地取得等の収支報告書における計上を平成16年分の収支報告書から平成17年分の収支報告書に1年間遅らせるという方針は、本件土地取得等が公表され、マスメディア等で問題とされる可能性のある時期が、平成17年秋から1年間遅らせた平成18年秋になるという意味で、被告人にとって政治的に影響を与える可能性のある変更であり、被告人の政治活動への影響を考慮すれば、秘書として、当然、被告人に報告して進めるはずの事柄といえる。

 しかも、石川は、「本件土地公表の先送りは、国会議員となっていた先輩秘書の示唆により、被告人の代表選挙への影響を慮って行われたものである。また、その先輩秘書が、平成16年10月20日頃、朝のミーティングに参加した際に、示唆を受けたものである。」旨供述している。石川や先輩秘書は、本件土地公表の先送りは、被告人にとって政治的に有利と考えたからこそ、いったん締結した本件売買契約の内容を変更してまで、本件合意書を締結する交渉に取り組んだものであり、秘書の立場からすれば、このような提案を被告人に報告することでその歓心を得られるともいえ、朝のミーティング等の機会において被告人に報告することに支障はうかがわれない。

 ウ 以上によれば、被告人は、平成16年10月20日頃、本件土地公表の先送り、すなわち、本件土地の取得や取得費の支出については、平成16年分の収支報告書には計上せず、平成17年分の収支報告書に計上することとし、そのために、本件売買契約の内容を変更する等の方針について、石川らから報告を受け、これを了承したものと認められる。

 (5) 本件預金担保貸付への関与

 関係証拠によれば、被告人は、平成16年10月29日、石川が持参した本件預金担保貸付の融資申込書と額面金額4億円の約束手形に、自ら署名したことが認められる。そして、石川は、「平成16年10月29日、本件預金担保貸付の融資関係書類に、被告人の署名を得る際、本件土地の取得費等には、本件預金担保貸付によって融資を受けるりそな4億円を充てること、被告人がりそな銀行に対する債務者となり、融資を受ける4億円を陸山会に転貸すること、本件4億円は、本件預金担保貸付の担保とする本件定期預金にすることを、被告人に説明した。」旨公判で供述している。

 石川は、被告人に対し4億円もの巨額の本件預金担保貸付を受けて債務者となり、そのための融資申込書と約束手形に署名し、りそな4億円を陸山会に転貸するという経済的負担を求めるのであるから、前記供述のとおりの取引の概要程度は、被告人に理解してもらうことは当然といえる。秘書の裁量であるとして、何の説明もせず、融資申込書や約束手形に署名をもらうなどということはあり得ないことであり、この石川の公判供述は信用することができる。

 これに対し、被告人は、「本件預金担保貸付の融資関係書類に署名した際、石川から、『サインしてくれ。』と言われて、署名しただけである。」などと公判で供述しており、石川から受けた説明の内容を否定するかのようにもうかがわれる。しかし、被告人に4億円もの債務を負わせる手続は、石川において任された裁量の範囲を超えていることは明らかであるし、被告人が、既に本件4億円を提供しているのに、更に4億円の債務を負担する旨の融資関係書類に署名する際に、その取引の概要等について一切報告を求めないということも考え難い上、被告人は、最終的に、預金担保貸付を受けて本件土地の購入代金等に充てる旨は認識していたことを認める旨も供述するなどしており、その供述は、石川の前記公判供述に疑いを入れるものとはいえない。

 以上によれば、被告人は、平成16年10月29日、石川からの前記内容の説明を受け、本件預金担保貸付の内容を理解し、被告人が債務者となってりそな銀行から4億円の融資を受け、りそな4億円を陸山会に転貸して、本件土地の購入資金等に充てること、したがって、このりそな4億円は、陸山会の被告人に対する借入金となること、本件4億円は本件預金担保貸付の担保となる本件定期預金の原資にする旨の取引の概要について、認識し、了承した上で、融資関係書類に署名したものと認められる。

 (6) 本件4億円の簿外処理の方針の認識

 ア 本件預金担保貸付が、本件4億円の簿外処理を目的としたものであることを被告人が認識していたかについて、前記のとおり、石川は、本件4億円の簿外処理という方針自体を否定しており、したがって、この方針を被告人に説明した旨の公判供述もない。また、被告人も、本件4億円の簿外処理の方針について説明されたことを認める旨の供述をしていない。

 したがって、被告人が、本件4億円の簿外処理の方針を認識していた旨の直接証拠はない。

 イ しかし、この点の石川の供述は、本件預金担保貸付の目的が本件4億円の簿外処理にあることを否定している点で、既に当裁判所の認定に反しており、信用することができない。

 そして、被告人は、本件預金担保貸付を受けるため、額面金額4億円の約束手形を含む融資関係書類に署名している。これは、本件土地の購入資金等として既に本件4億円を受け取っているのに、被告人に対し、更に追加して、4億円もの巨額の本件預金担保貸付を受けてその債務者となり、そのために同額の約束手形に署名し、りそな4億円を陸山会に転貸させるという巨額の経済的負担を求める取引である上、年に約464万円もの金利負担も発生するのであるから、被告人が秘書に任せた裁量の範囲を超えていることは明らかである。したがって、石川は、このような取引をする必要性を被告人に理解してもらわなければ、取引を進められるはずがない。しかも、本件4億円の簿外処理は、これが収支報告書等で公表されることによる被告人の政治活動への影響を慮り、その政治的利益を図ってなされるものであるから、この観点からも、被告人に理解してもらう必要がある。

 そして、石川は、「本件預金担保貸付は、先輩秘書から、本件土地公表の先送りの示唆を受けたのと同じ機会に、示唆を受けた。」旨公判で供述しており、被告人に対し、本件4億円の簿外処理の方針を、本件土地公表の先送りの報告をするのと同じ朝のミーティング等の機会に説明することは可能であるし、あるいは、本件預金担保貸付の融資関係書類に署名した際に説明することも可能である。

 しかも、被告人が4億円もの現金を個人資産として有し、これを、陸山会における本件土地の取得資金等として貸し付けたことが公表されれば、マスメディアの追及的な取材、批判的な報道の対象となるなどして、政治的に不利益を被る可能性があることは、被告人にとっても、容易に想定できることであり、このような事態とならないよう、本件4億円を収支報告書に記載しないことは、被告人においても、時間をかけて詳細な説明をされるまでもなく、当然のこととして容易に認識し、了解したものと考えることもできる。

 なお、弁護人は、被告人は、本件4億円の原資は不正な献金といった違法なものでないから、これを公表しても問題はなく、これを公表しない動機はなかったと主張している。しかし、被告人において、本件4億円の原資が適法なものと説明できるとしても、本件4億円で陸山会が本件土地を取得したことが公表され、マスメディア等から追及的な取材、批判的な報道を受ければ、そのこと自体で、政治的に不利益を被る可能性があり、このような不利益を避けることは、被告人にとって、本件4億円の簿外処理の動機となり得るものである。

 ウ さらに、本件4億円を公表しない方針を被告人が認識していたことをうかがわせるものとして、関係証拠によれば、以下の事情が認められる。

 (ア) 前記のとおり、本件4億円の授受に際し、被告人は、銀行振込等を利用することなく、石川を元赤坂タワーズに呼び、自らが用意した現金を交付して、石川自身に赤坂事務所まで運搬させている。また、被告人は、平成19年5月2日に本件4億円の返済を受けた際も、池田に対し、自らの居室に運ぶよう指示しており、池田は、銀行の担当者に赤坂事務所にいったん届けさせた上、自らが4億円の現金を運搬して、指示された居室に届けている。これらは、巨額の金銭の受渡方法としては、特異なものであり、被告人と石川及び池田が、人目につかないような方法で、その授受を行おうとしたことがうかがわれる。

 (イ) 本件4億円の原資となった被告人の巨額の個人資産は、現金が資産報告書における公表の対象ではないことから、それまで資産報告書で公表されたことがなかったことが認められる。

 そして、本件4億円が陸山会に貸し付けられてから返済されるまでの間も、石川や池田が作成を担当した収支報告書や資産報告書において、本件4億円が公表されたことはなかったことも認められ、このような本件4億円の簿外処理の方針は、被告人の意向に沿うものと考えるのが自然である。

 弁護人は、現金は資産報告書における公表の対象ではないから、資産報告書で公表されていなかったことは、本件4億円を公表しないとする動機の根拠にはならない旨主張しているが、本件4億円を石川に渡した後は、本件4億円は、公表を要しない現金とはいえないから、その後も資産報告書で公表しなかったことは、本件4億円の簿外処理の方針を推認する根拠の一つといえる

 (ウ) 前記のとおり、被告人の事務所においては、平成19年2月、週刊誌編集部から、本件土地取得の経緯や原資について、取材を受けた際、陸山会の資産を担保にして預金担保貸付を受けた旨の回答書を、池田が作成して回答したことが認められ、この際、関係証拠によれば、被告人は、池田から、回答書の原案について相談を受け、修文を施した上で了承したことが認められる。被告人は、本件預金担保貸付の融資関係書類に署名した際、石川から、本件4億円を本件定期預金にして、それを担保に融資を受ける旨説明を受けて、その旨認識したはずであるのに、自らが受けた説明に反する内容の回答書を了承したのであるから、本件4億円を対外的に公表しないという石川や池田の方針を、認識して了承していたことをうかがわせるものといえる。

 この点について、弁護人は、被告人による回答書への修正は、部分的であり、また、修正箇所が特定して立証されていないことから、この事実から、本件4億円の簿外処理の目的を被告人が認識していたことを推認するのは不当である旨主張している。しかし、回答書への修正を施すに当たっては、回答書の原案の全文を読み、理解した上で行うはずであり、修正を指示した部分も、回答書の全体に及んでいることをみても、被告人が、回答書の全体を認識した上で了承したことは認定できるというべきである。

 (エ) 池田の公判供述等の関係証拠によれば、平成21年8月の衆議院議員選挙に際し、被告人は、知人が運営する政治団体である改革フォーラム21から、民主党の立候補者への資金提供を了承してもらい、自らと陸山会の資金から立て替えて、立候補者に現金500万円ずつを配布した後、改革フォーラム21から3億7000万円を受け取った際、池田から、当該資金を寄付金として民主党岩手県第4区総支部が受け、ここから陸山会が寄付を受けた上で、各立候補者に寄付した形にする旨の助言を受けたこと、平成21年分の収支報告書には、その旨や、陸山会が被告人から3億7000万円を借り入れ、同額を返済した旨が記載されたことが認められる。なお、被告人は、池田に助言を求めたのが選挙前である旨公判で供述しているが、その公判供述によっても、具体的な記憶はないことがうかがわれ、前記認定に疑いを入れるものとはいえない。

 これは、本件土地の取得や本件4億円の貸付等の一連の本件の各取引等とは別の取引であり、本件4億円の簿外処理の認識を直接推認させる事実とはいえないが、被告人が、自らの指示で、陸山会を介して巨額の資金を移動しながら、その経理上の処理や収支報告書における記載と、現実の資金の動きとが一致しないことを許容する場合があったことを、うかがわせる事情といえる。

 (オ) 以上で検討した事情について、仮に、個別には異なる説明が可能であるとしても、これだけの多岐にわたる事実が複数存在する場合、被告人が本件4億円の簿外処理の方針を石川や池田から報告を受け、了承していたことは、強く推認させるものといえる。

 エ 被告人も、公判において、「本件4億円の公表が必要であるなら、公にすることは構わない。」旨供述する一方、「自らの資産を積極的に公表する者はいない。」旨供述しており、本件4億円の公表を積極的には望まない心情であることを認めている。このような心情は、ある意味で自然であり、必ずしも非難されるべきことではないが、同時に、被告人が、本件4億円の簿外処理の動機を有することも、否定できないこととなる。

 オ 以上のとおり、本件4億円が本件土地の取得原資として被告人の個人資産から陸山会に提供された事実が、収支報告書等の公表によって、対外的に明らかになることを避けるため、本件4億円をそのまま本件土地の購入資金等に充てることはせず、本件土地の取得原資が、実質的には金融機関から調達したものであるとの説明を可能とする外形作りをすること(本件4億円の簿外処理)について、被告人は、石川らから最低限度の説明を受けるか、あるいは、当然のこととして理解するなどして、遅くとも、本件預金担保貸付の融資関係書類に署名した平成16年10月29日までに、認識し、これを了承していたものと認められる。

 (7) 平成16年分の収支報告書の提出への関与

 本件4億円が借入金収入として計上されず、本件土地取得や取得費の支出も計上されていない平成16年分の収支報告書を提出することを、被告人が報告を受けるなどして認識していたかについて、石川は、公判において.「平成16年末頃、関係5団体の大まかな収支を報告したことはあるが、平成17年3月頃、収支一覧表や平成16年分の収支報告書を被告人に報告したことはない。平成16年分の収支報告書の提出に際して、本件4億円の収入や本件土地取得等を計上しないことを説明したことはない。」旨供述している。また、被告人も、これらの点について報告を受けたことを否定しており、「収支報告書そのものについては、見たことすらない。」旨公判で供述している。したがって、この頃、被告人が、石川から、平成16年分の収支報告書の内容、特に、本件4億円や本件土地取得等を計上しない旨の報告を受けたことをうかがわせる直接証拠はない。

 しかし、本件土地公表の先送りや本件4億円の簿外処理の方針については、収支報告書における公表に伴う被告人の政治活動への影響を慮ってなされたものであり、平成16年10月に本件土地公表の先送りや本件4億円の簿外処理の方針について、石川が、被告人に報告、了承したと認められることは、既に検討したとおりである。したがって、本件土地の取得及び取得費の支出や本件4億円の収入を平成16年分の収支報告書に計上しないことも、本件土地公表の先送りや本件4億円の簿外処理の方針の報告がなされた段階において、被告人は、報告を受けて了承していたものと認められる。そして、被告人においては、平成17年3月の段階で、平成16年分の収支報告書における記載について改めて説明されるまでもなく、同収支報告書には、本件4億円の借入金収入や、本件土地の取得及び取得費の支出が計上されていないことは、当然のこととして、認識し、これを了承していたものと認められる。

 なお、指定弁護士は、石川が、平成16年分の収支報告書の提出前に収支一覧表に基づいて関係5団体の収支の説明をした際に、被告人は、本件4億円の収入、本件土地取得費の支出が、平成16年分の収支報告書に計上されていないことを認識した旨主張している。

 しかし、仮に、石川が収支報告書の提出前に収支一覧表に基づく関係5団体の収支の説明を行っていたとしても、石川が、どの程度、具体的な内容を被告人に報告していたかは不明であり、むしろ、前記のとおり、平成16年10月の時点で、平成16年分の収支報告書上の処理について、既に被告人の了承を得ていることから、同収支報告書の提出に当たって、本件4億円を収入として計上しないことや本件土地取得及び取得費支出を計上しないことを改めて説明しないことは、あり得る。また、被告人が、このような収入総額、支出総額の報告を受けたとしても、そのことから、直ちに、本件4億円や本件土地取得費が計上されていないことを認識し得たとは限らない。したがって、平成17年3月の時点において、石川が被告人にこれらの報告を改めてしたことまで認定することはできない。

 以上のとおり、平成17年3月に提出された平成16年分の収支報告書において、本件土地の取得や取得費の支出が計上されず、本件4億円が借入金収入として計上されないことは、平成16年10月の時点において、被告人は、石川から報告を受けて、認識、了承していたものと認められる。

 (8) 平成17年分の収支報告書の提出への関与

 本件土地の取得及び取得費の支出が計上された平成17年分の収支報告書を提出することを被告人が認識していたかについて、池田は、捜査段階において、「毎年3月頃、収支報告書の提出前、直接、被告人に報告していた。その内容は、関係5図体の団体別の年末時点の収入、支出及び繰越額であり、前年比のプラスマイナスを補足して説明していた。」(甲103、104、105)旨供述し、また、「平成17年分の収支報告書の提出前に、陸山会の支出のうち、約3億5000万円は深沢8丁目の土地代金等であることを報告して、了承を受けた。」(甲105、115)旨も供述している。

 陸山会を始めとする政治団体の収入、支出や資金状況は、被告人の政治活動の基盤となるものであり、その収支等の悪化は、被告人の政治活動に支障を生じかねないから、被告人において、個別の取引等はともかくとしても、年度単位等での収支、資金状況に関心を持つことは当然であり、そのような事柄について、年度の節目に、被告人に報告していた旨の池田の捜査段階の供述は、自然で合理的であって、信用性が高い。また、約3億5000万円もの巨額の支出の増額があり、収支報告書に記載されて公表されれば、マスメディアの追及的な取材、批判的な報道を招くなどして、被告人の政治活動に影響が生じる可能性があるから、被告人にとって関心事であるといえ、この点についても、特に指摘して被告人に報告した旨の池田の供述は、やはり自然で合理的であって、信用性が高い。本件土地取得の先送りは、前任である石川が被告人の了承を受けたものであるから、石川から引継ぎを受けていたにせよ、池田は、自分が初めて作成を担当する平成17年分の収支報告書を提出する際に、改めて被告人に確認をすることは、自然な行動である。

 これに対し、池田は、これらの捜査段階の供述について、「担当の検察官から、可能性を否定できるのかと言われ、その誘導に屈した。平成21年12月24日の取調べで収支一覧表(弁2別紙9の7)を見せられ、その中に約3億5000万円の支出が計上されていると誤信させられたため、これを被告人に報告した旨の記憶に反する供述をした。」旨公判で弁解している。

 しかし、前記捜査段階の供述のうち、甲104と甲105は、本件に関する任意の取調べ、しかも1日目と2日目の取調べの際に作成された調書である上、池田は、弁護人から十分な助言を受けて取調べに臨んでいると認められるから、池田が、誘導によって供述したとは考えにくい。また、甲115は、勾留中の取調べにおける調書であるにせよ、当裁判所の平成24年2月17日付証拠決定のとおり、その任意性、特信性に問題はないと認められ、甲105と大筋で一貫している。さらに、甲103は、任意の取調べにおいて、池田が赤坂事務所に在職中に作成されたものであって、記憶違いをすることは考えられず、内容が自然で合理的であることも考慮すれば、これらの捜査段階の供述の信用性は高い。なお、甲103について、池田は、公判において、「当時、大久保が収支報告書の報告を受けていたと供述している旨弁護人から聞いていたので、これに合わせて取調官に供述した。」旨供述しているが、これは、被告人に対しても、関係5団体の収支等の報告をしたことを、記憶に反して認めたことの合理的な理由とはいえない。

 池田は、「被告人に対し、平成17年の年末に、関係5団体の収入と支出の総額を報告したことはある。平成18年3月の収支報告書の提出前に、本件土地の取得や取得費の支出を計上する旨を報告したことはない。」旨公判で供述している。しかしながら、池田は、捜査段階の供述との変遷の理由、また、任意の取調べの早い段階で記憶に反する内容の供述調書が作成された理由について、合理的な説明ができていない。被告人の面前であったため、記憶に従った十分な供述ができなかったものと認められ、その信用性は低い。

 なお、弁護人は、平成19年分の収支一覧表が含まれているファイルの最終更新日が平成19年12月28日であることを根拠に、毎年3月頃には、被告人に収支の報告がされなかった旨主張しているが(弁2別紙9の1、2)、このことは、平成20年3月頃に収支の報告がされなかったこと、ひいては、平成18年3月頃に平成17年分の収支報告書の報告がされなかったことの根拠とはいえない。また、弁護人は、関係証拠によれば、平成17年分の収支報告書は、平成18年3月28日に完成し、同日提出されたと認められることを根拠に、平成18年3月頃、池田が被告人に収支報告書の報告をしたことはなかった旨主張しているが、池田が、提出前に平成17年分の収支報告書の内容を被告人に報告することが、不可能であったとはいえないし、本件土地の取得等を計上する旨の報告をすることに支障があったということもできない。

 以上のとおり、被告人は、平成17年分の収支報告書の提出に先立ち、池田から、約3億5000万円の本件土地の取得費等の支出を計上する旨の報告を受け、したがって、本件土地の取得及び取得費の支出が計上されることも認識した上で、これを了承していたものと認められる。

 (9) まとめ

 以上のとおり、本件土地公表の先送りについて、被告人は、陸山会において、本件土地を建設費も含めて4億円程度で取得することを了承し、本件売買契約が平成16年10月5日に締結され、その決済日が同月29日であることを認識していたと認められる。その上で、本件土地の取得や取得費の支出を平成16年分の収支報告書には計上せず、平成17年分の収支報告書に計上することとし、そのために、本件売買契約の内容を変更する等の本件土地公表の先送りをする方針についても、報告を受けて了承したものと認められる。

 また、本件4億円の簿外処理については、被告人は、本件4億円を本件土地の購入資金等として陸山会が費消することを許容して、石川に交付し、陸山会に貸し付けている。その後、被告人は、石川の説明により、被告人が債務者となって4億円の本件預金担保貸付を受け、りそな4億円を陸山会に転貸して、本件土地の購入費等に充てること、したがって、このりそな4億円は、陸山会の被告人に対する借入金となること、本件4億円は本件預金担保貸付の担保として本件定期預金の原資にすることについて、認識し、了承した上で、本件預金担保貸付の融資関係書類に署名したものと認められる。その上で、被告人は、本件預金担保貸付の目的が、本件4億円を収支報告書等で対外的に公表しない簿外処理にあることも、承知していたものと認められる。

 さらに、被告人は、平成16年分の収支報告書については、本件4億円が借入金収入として計上されないことや、本件土地の取得及び取得費の支出が計上されないことを、平成16年10月頃の段階で了承したものと認められる。また、平成17年分の収支報告書について、本件土地の取得及び取得費の支出が計上されることを、平成18年3月頃に改めて報告を受けて認識し、了承したものと認められる。

 以上に加え、既に検討したとおり、これらの本件土地公表の先送りと本件4億円の簿外処理が被告人の政治活動上の影響を慮ってなされたものであること、石川や池田は、被告人に仕える秘書として、被告人の意向に反する事務処理をすることはできず、被告人は、石川や池田の行為を止めることのできる立場にあったこと、石川や池田は、これらの事情について、被告人の了承を受けた上で、平成16年分及び平成17年分の収支報告書に係る虚偽記入あるいは記載すべき事項の不記載に及んでいること等も認められる。

 これらの事情を考慮すると、指定弁護士が、被告人の関与、認識に照らし、平成15年5月1日最高裁判所決定(刑集57巻5号507頁)によれば、被告人には、本件公訴事実のとおりの平成16年分及び平成17年分の各収支報告書における虚偽記入ないし記載すべき事項の不記載について、共謀共同正犯が成立する旨主張していることには、相応の根拠があると考えられなくはない

 4 各取引等における被告人の関与、認識(故意、共謀の妨げとなる事情)

 しかしながら、当裁判所は、被告人には、本件土地の取得及び取得費支出時期の認識並びに本件4億円の収入計上の必要性の認識について、これらを認めることができないことから、被告人の故意、共謀を肯定することができないと判断したので、これらの認識を認定できない理由を示す。

 (1) 本件土地取得及び取得費支出時期の認識

 ア 本件合意書の認識

 (ア) 前記認定のとおり、石川は、○○売り主○○との交渉の結果、決済全体を遅らせることはできず、所有権移転登記手続のみ遅らせるという限度で本件合意書を作成し、所有権の取得時期を遅らせるには至らなかったのであるが、このような交渉の経緯や本件合意書の内容については、石川は、「本件土地の所有権移転登記手続を2か月間先送りしたことは、秘書寮の建設への影響もなく、大きな変化とは考えていなかったので、被告人に報告していない。」旨公判で供述しており、石川が被告人に説明、報告した旨の直接証拠はない。

 (イ) この点について、本件売買契約は、被告人個人の取引ではなく、政治活動そのものでもなく、陸山会における秘書寮の建設のための取引であるから、被告人にとっては、自らが当初了承したとおり、陸山会において、本件土地の所有権を取得し、秘書の寮を建設する旨の方針が変更されるのでない限り、本件売買契約締結後の契約の履行過程には、関心がないということはあり得る。また、本件土地公表の先送りの方針そのものは、前記検討のとおり、被告人への報告とその了承を経たものと認められるが、被告人は、自らが了承したとおり、本件土地の取得や取得費の支出の計上を平成17年分の収支報告書に先送りすることが実現するのであれば、そのための○○売り主○○との交渉といった先送りの実行過程には、関心がないということもあり得る。

 (ウ) たしかに、指定弁護士が主張するように、本件合意書においては、陸山会は、本件土地代金の全額を支払っていながら、所有権移転登記を受けられなくなるというリスクを負うことになるから、石川は、本件合意書の内容について、被告人の了解を得た上で、これを作成したはずであると疑うことは、考えられなくはない。

 しかし、石川が供述するとおり、本件合意書の作成によって、秘書寮の建設に影響があったことはうかがわれない上、所有権移転議求権仮登記がされることで、実質的には陸山会の所有権が保全されているとみることができるのであって、石川においては、陸山会にとってリスクはなく、自らの裁量の範囲内で処理できる内容であると判断し、被告人に報告せずに作成したと考える余地があり、被告人も、このような事柄については報告を求めないと考える余地がある。

 (エ) もちろん、このような本件土地公表の先送りの交渉が不十分な結果に終わったことは、それによって、本件土地の取得及び取得費の支出を平成16年分の収支報告書に計上しないことが違法との評価を受けるものとなり、捜査機関の摘発を受ける危険にもつながるなど、被告人にとって深刻な政治的影響が生じる可能性のあるものであり、したがって、石川は被告人の了解を得なければ進められないはずであると疑うことも、考えられなくはない。

 しかし、石川の立場から見ると、本件土地公表の先送りは、所有権移転登記手続を遅らせることができたため、それを口実として、当初の予定どおり実行するつもりであったことから、被告人からあらかじめ了解を受けた範囲内の事柄であると考えて、改めて報告しなかったと考える余地がある。また、予め了承を受けた本件土地公表の先送りの方針に反し、決済全体を遅らせる交渉に失敗したことや、本件土地の取得等を平成16年分の収支報告書に計上しないことに問題があるということは、石川にとってはいわば失態であり、被告人の不興を恐れて報告しなかったと考える余地もある。もちろん、その場合、虚偽記入による摘発の危険があるが、この点については、石川は、この程度で摘発されることはないだろうと甘く考えて、深刻に受け止めなかった可能性がある。仮に、石川が摘発を受ける危険を強く認識していたとすれば、しっ責を覚悟してでも、被告人に相談するなどして、本件土地公表の先送り自体を断念したはずであると考える余地もある。

 (オ) したがって、被告人は、○○売り主○○等との本件売買の決済全体の先送りの交渉が不十分に終わり、本件合意書の限度で交渉が成立しており、したがって、所有権の移転を平成17年に遅らせることができなかったことについては、石川から報告を受けず、認識していなかった可能性がある。

 イ 本件売買の決済等の認識

 石川が、平成16年10月5日に手付金を支払い、同月29日に残代金を支払ったことを被告人に報告したかについては、石川も、被告人も、これを認める旨の供述はしておらず、したがって、その旨の直接証拠はない。

 この点について、指定弁護士が主張するように、石川が、同日、本件売買の決済を終えた直後に、被告人の元を訪れて、本件預金担保貸付の融資関係書類に署名を受けていることから、この際に、被告人に説明したと疑うことも、考えられなくはない。

 しかし、前記検討のとおり、本件売買の決済そのものは、既に了承済みの本件売買契約の履行過程、本件土地公表の先送りの実行過程であり、秘書の裁量の範囲内であるとして、石川が被告人への報告を必要としないと考え、また、被告人が報告を求めない事柄であると考える余地がある。

 しかも、同日、本件預金担保貸付の実行前に、本件4億円を原資とする資金を流用するなどして本件売買の決済を終えたという事実は、本件4億円を原資に本件定期預金を設定して本件預金担保貸付を受け、陸山会に転貸したりそな4億円を本件土地の購入資金等に充てるという、前記認定の石川の被告人に対する説明とは矛盾する内容であり、本件4億円の簿外処理のための外形作りとも矛盾する内容である。この事実を被告人に報告すれば、これから融資を受けて転貸するりそな4億円の使途について、疑問を呈される可能性があるから、石川が、本件預金担保貸付の融資書類に署名を得るために、被告人に説明したはずの事柄であるとは必ずしもいえない。むしろ、前記検討のとおり、本件土地公表の先送りの交渉が不成功に終わり、決済日を変更できなかったことについては、石川において、被告人の不興を恐れて報告しなかったと考える余地があり、この事実につながる本件売買の決済の事実も、報告しなかったと考える余地はある。また、石川が、本件売買の決済に先立って融資書類に署名を得るはずであったのが、当日朝に被告人に会えなかったことから、間に合わなかったということも、いわば石川の不手際であり、やはり、被告人の不興を恐れて報告しなかったと考える余地もある。

 したがって、被告人は、同月5日に手付金を支払い、同月29日に残代金を支払うなどして本件売買の決済が終了していること、したがって、同日、本件土地の所有権が陸山会に移転したことについて、石川から報告を受けることはなく、これを認識しなかった可能性がある。

 ウ 本件売買契約の決済全体の先送りに関する認識

 前記認定のとおり、石川は、当初、本件土地公表の先送りのため、売主である○○売り主○○と交渉するに当たり、本件売買契約の決済全体を遅らせようとしていたことが認められるところ、被告人も、平成16年10月20日頃、当初の本件土地公表の先送りの方針を了承した際、本件土地の所有権取得時期や残代金支払等の決済時期を含めた決済全体を遅らせるものとして、報告を受け、認識していた可能性がある。

 被告人は、平成19年2月、民主党代表の地位にあった際、国会議員の事務所費問題に対応するためであるとして、事務所費をマスメディア等対外的に公表したことが認められ、この際、本件土地の取得費等も平成17年の支出として公表したことが認められる。このことは、被告人において、本件土地の取得費は、実際にも平成17年に支出されたと認識していたことをうかがわせる。

 以上によれば、被告人は、本件土地の所有権の移転及び残代金等支払等の決済全体が平成17年に先送りされたと認識していた可能性があり、したがって、本件土地の取得及び取得費の支出を平成16年分の収支報告書に計上せず、平成17年分の収支報告書に計上することが、適法であると考えていた可能性もある

 エ 池田の捜査段階の供述

 池田は、捜査段階において、「平成18年3月頃、被告人に対し、『石川から引き継いだとおり、平成17年分の支出に、平成16年に支払った深沢8丁目の約3億5000万円の土地代金を計上しております。』などと念のため説明したところ、当然のことながら被告人も事情は分かっていたので、『ああ、そうか。』と言って、スムースに了承を得ることができた。」旨供述しており(甲115)、この供述から、被告人が本件土地の代金が実際には平成16年に支払われていたことを認識していたと疑うことは、考えられなくはない。

 しかし、池田の説明は、簡単なやりとりにとどまっている上、本件土地公表の先送りの方針が被告人と石川の間で合意された平成16年10月から1年以上も経過した時点におけるものである。その説明内容に照らしても、本件土地の取得費が実際には平成16年に支出されていることを指摘して、平成17年分の収支報告書に計上することの問題点を注意喚起するような趣旨はうかがわれない。被告人の立場からみても、本件土地の取得費が平成16年中に支払われた旨の池田の指摘を聞き流し、あるいは、それを平成17年分の収支報告書に計上することの問題点を認識しなかったと考える余地がある

 オ まとめ

 以上のとおり、被告人は、本件土地公表の先送りのための交渉は不成功に終わり、所有権移転登記手続の時期のみを先送りする旨の本件合意書が作成され、本件土地の取得費が平成16年10月5日及び同月29日に支出され、同日、本件土地の所有権を陸山会が取得したこと等については、報告を受けず、これを認識していなかった可能性があり、かえって、本件売買契約の決済全体を先送りしようとしていた当初の方針どおり、本件土地の取得や取得費の支出が、実際にも平成17年に先送りされたと認識していた可能性がある。

 したがって、被告人は、本件土地の取得及び取得費の支出を平成16年分の収支報告書に計上する必要があり、平成17年分の収支報告書には計上すべきでないことを、認識していなかった可能性がある。

 (2) 本件4億円の収入計上の必要性の認識

 ア 本件4億円の資金の流れの認識

 (ア) 前記検討のとおり、本件4億円を収支報告書に計上すべき借入金として認定すべき根拠としては、石川が、本件4億円のうち一部を手付金等の支払分として陸山会の金庫の資金に混入させ、その残部を分散入金して本件口座に入金し、陸山会の一般財産に混入させたという具体的な経緯があげられる。

 しかし、これらの経緯について、石川が被告人に報告した旨の直接証拠はない。

 そして、このような資金移動の具体的な経緯は、被告人から受け取った本件4億円を保管し、本件売買の決済に向けた準備をするものに過ぎず、既に了承済みの本件売買契約や本件4億円の貸付の履行過程として、秘書に任されていた事柄と考える余地があり、このような事柄について、被告人が石川に報告を求め、あるいは、石川が被告人に報告したはずであると、直ちに推認することは難しい。

 (イ) また、本件4億円を収支報告書に計上すべき借入金として認定すべき根拠としては、本件売買の決済日において、本件預金担保貸付の融資関係書類の署名が遅れて、融資が間に合わず、本件4億円を原資とする本件口座の残高の相当部分が、本件売買の決済に充てられたという経緯も重要である。そして、この経緯について、融資関係書類に署名を受ける機会に石川が被告人に報告したと疑うことは考えられなくはない。

 しかし、この経緯についても、石川が被告人に報告した旨の直接証拠はない。

 そして、前記検討のとおり、このような経緯は、秘書の裁量の範囲内であるとして、被告人が報告を求めない事柄であると考える余地がある上、本件預金担保貸付によるりそな4億円を本件売買の決済資金に充てるという方針と反する内容であること、石川が、自らの不手際として被告人の不興を買うおそれがあること、いずれにせよ、本件土地公表の先送りを実行するつもりであり、摘発の危険は高くないと甘く考えていたことから、あえて被告人に報告しなかったと考える余地もある。

 (ウ) 以上によれば、本件4億円が陸山会の一般財産に混入し、その後、本件売買の決済に充てられたといった資金の流れ等の経緯について、被告人は、石川から報告を受けず、これを認識しなかった可能性がある。

 イ 本件4億円の使途についての石川の説明を受けての認識

 前記検討のとおり、被告人は、本件4億円を石川に手渡した際、本件土地の購入資金等として陸山会において費消することを許容しており、この時点では、陸山会の借入金収入として認識していたものと認められる。

 しかし、被告人は、その後、本件預金担保貸付の融資関係書類に署名する機会までに、石川から、本件4億円をそのまま本件土地の購入資金等に充てるのではなく、本件4億円の簿外処理を目的として、本件4億円を原資に本件定期預金を設定し、これを担保に被告人が本件預金担保貸付を受け、陸山会にりそな4億円を転貸した上、本件土地の購入資金に充てる旨の説明を受けており、したがって、本件4億円の代わりに、りそな4億円を本件土地の購入資金に充て、陸山会の借入金とすることになった旨の認識を抱いた可能性がある。

 もちろん、前記検討のとおり、これをもって、被告人と陸山会の間で本件4億円についての消費貸借が解除されたと認めることはできないが、被告人において、漠然とであれ、りそな4億円が借入金になる代わりに、本件4億円は、本件土地の購入資金に充てられるのではないと認識した可能性があり、さらに、後記ウで検討するように、借入金として計上する必要がなくなると認識した可能性がある。

 ウ 本件定期預金の性質、帰属の認識

 (ア) さらに、被告人が、石川から本件4億円を原資として設定する旨の説明を受けた本件定期預金について、その性質や帰属を認識したか、そして、この認識から、本件4億円の借入金計上の必要性を認識し得たかを検討する。

 石川の説明を前提とすれば、被告人は、本件4億円を原資として、本件預金担保貸付の担保となる本件定期預金を設定することは了承したものの、本件預金担保貸付の目的は、あくまで本件4億円の簿外処理にあり、陸山会に4億円の資金を追加して融資したものではなかったと認められ、したがって、陸山会に費消を許した金はりそな4億円だけであり、本件4億円を原資とする本件定期預金は、被告人のために確保されると認識した可能性がある

 すなわち、石川が、被告人に、本件定期預金を本件4億円の返済原資として確保する旨の説明をしたことをうかがわせる証拠はないが、前記検討のとおり、陸山会においては、不動産を取得する際に、預金担保貸付を利用する慣行があったことが認められ、被告人は、石川から具体的な説明を受けなくても、このような慣行や経験から、本件定期預金がそのまま確保されると軽信することは、あり得るといえる。

 (イ) そして、被告人は、陸山会に本件土地の取得資金等として費消を許したのは、りそな4億円であり、本件定期預金は本件4億円の返済原資として確保されると考えて、本件預金担保貸付や本件定期預金の設定を了承したものの、被告人は、その了承の範囲内で具体的にどのような取引形態を取るかは、裁量の範囲内であるとして、石川に任せて報告を求めず、認識もしなかった可能性がある。

 弁護人が主張するように、石川が、本件4億円を被告人に帰属する定期預金とした上で、預金担保貸付を受けるなどすることによって、本件4億円を収支報告書に計上しないことが、違法とまでいえない場合があり得るとすれば、被告人が、石川に任せた範囲内において、本件4億円を計上しないことが適法に実現されると認識することも、あり得ることになる。

 (ウ) 被告人が署名をした融資申込書には、「陸山会代表小沢一郎」の一般定期預金を担保として、被告人が4億円を借り入れ、転貸する旨の記載がされており、したがって、被告人は、本件定期預金の名義が陸山会であることを認識していた可能性があり、ここから、本件定期預金が陸山会に帰属することや、その原資とされた本件4億円を借入金として計上する必要性を認識したと疑うことは、考えられなくはない。また、定期預金の名義を被告人個人とすると、資産報告書で公表する必要があるから、具体的な報告を問題にするまでもなく、暗黙のうちに、陸山会名義の定期預金を設定して担保にしていたとの認識を持っていたものと疑うことも、考えられなくはない。

 しかし、融資関係書類に被告人の署名を得る際に石川が被告人に行った説明は、被告人から提供を受けた本件4億円を定期預金にして、それを担保として、本件預金担保貸付を受け、りそな4億円を本件売買の決済に充てるというものであって、本件定期預金の名義について説明をしたとは認められない。前記の融資申込書に記載された定期預金の名義は、比較的小さい字で記載されており、さほど目立つものでもなく、また、被告人が署名した「借入申込人」欄とは離れた位置に記載があることからしても、被告人が、署名した際、直ちに、本件定期預金の名義を認識、把握できたかは疑わしい。また、被告人が、仮に、本件定期預金の名義が陸山会であることを認識したとしても自らが陸山会に貸したのは4億円にとど

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