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深掘り

内部告発 in アメリカ

(3) 日本企業も被告、内部告発者が原告となり、米司法省も訴訟参加

奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

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 内部告発者に報奨金を渡すという米国特有の制度で、大阪市の繊維メーカー「東洋紡」がワシントンDCの地裁で被告の座にすえられている。

 原告は、東洋紡の取引先だった米国企業「セカンドチャンス・ボディーアーマー」の元幹部アーロン・ウエストリックさん(47)。同社は90年代末から、東洋紡が製品化した高強度繊維「ザイロン」を織った素材で防弾チョッキを生産し、政府や地方の警察などに販売していた。ところが、ザイロンには、光にさらされるなど環境によって品質が劣化する性質があることが分かってきた。

 原告側の主張によれば、品質劣化を裏付けるデータが出てきたことを受けて、2001年12月13日、セカンドチャンス社と東洋紡の幹部はロサンゼルスで「危機管理会合」を開き、「共同での対応」を確認。その5日後、ウエストリックさんは上司から「すでに8万着を販売しており、リコール(回収)はしたくない」と言い渡された。10日ほど後、東洋紡は品質劣化のデータについて「統計的に誤っており、信頼に足らない」と顧客に説明したという。

 こうした一連の行為を「欠陥隠し」と主張して、ウエストリックさんは2004年2月に東洋紡などを相手に政府への賠償を求める内部告発者訴訟を起こし、司法省に社内の資料を提供した。ザイロン製の防弾チョッキを撃ち抜かれて、警官が死傷する事件が2003年に発生していた。司法省は2005年夏にウエストリックさん側の立場でこの訴訟に参加。さらに2007年6月、セカンドチャンス以外のメーカーの販売分について、司法省は独自に東洋紡を追加提訴した。

 訴訟では現在、証拠開示の手続きが進められている。東洋紡は「米政府に不正な請求をしたことは一度もない。当社は防弾チョッキではなくザイロンを生産したに過ぎない。ザイロンの品質特性を何ら隠していない」と反論している。

 ウエストリックさんの側は司法省という援軍を得て、訴訟の行方に自信満々だ。「何のために争っているのか」と東洋紡の強気を不思議がる。一方、東洋紡は「相手方の主張が誤りであることを立証し、適切な防御を行っていく所存である」と公表している。

  ▽筆者:奥山俊宏

  ▽この記事は2008年10月2日の朝日新聞朝刊の第3総合面に掲載された原稿に加筆したものです。

  ▽内部告発 in アメリカ(1):  億万長者になった「スパイ」、病院チェーンの不正請求を政府に

  ▽内部告発 in アメリカ(2):  公金1兆3千億円を回収、内部告発者の協力で

  ▽内部告発 in アメリカ(4):  「内部告発者へのサービス」をビジネスに 巨額の報奨金で

  ▽関連資料:米政府司法省の訴状(修正版)

奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 朝日新聞編集委員。
 1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞入社。水戸支局、福島支局、東京社会部、大阪社会部などを経て特別報道部。『法と経済のジャーナル Asahi Judiciary』の編集も担当。
 著書『秘密解除 ロッキード事件  田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店、2016年7月)で第21回司馬遼太郎賞(2017年度)を受賞。同書に加え、福島第一原発事故やパナマ文書の報道も含め、日本記者クラブ賞(2018年度)を受賞。近刊の共著書に『バブル経済事件の深層』(岩波新書、2019年4月)。
 そのほかの著書として『パラダイス文書 連鎖する内部告発、パナマ文書を経て「調査報道」がいま暴く』(朝日新聞出版、2017年11月)、『ルポ 東京電力 原発危機1カ月』(朝日新書、2011年6月)、『内部告発の力 公益通報者保護法は何を守るのか』(現代人文社、2004年4月)がある。共著に 『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社、2019年4月)、 『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版、2012年12月)、『ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか』(同、2008年9月)、『偽装請負』(朝日新書、2007年5月)など。
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