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深掘り

コンプライアンス春秋  日本経営倫理士協会から

「コン活」を社員に呼びかけ ソフトバンクのコンプライアンス推進月間

 特定非営利活動法人「日本経営倫理士協会」は、経営倫理、CSR、危機管理などのスペシャリストである「経営倫理士」の資格を持つ人々を会員として活動している。会員は、さまざまな業種のさまざまな企業でその知識・経験を生かして活躍。社内でふだんからコンプライアンスの文化を深く耕すのも大切な役割のひとつだ。このシリーズ「コンプライアンス春秋」は日本経営倫理士協会の千賀瑛一専務理事が月1回のペースで執筆していく予定。第1回では、経営倫理士が在籍する企業を中心にコンプライアンスの浸透・定着の状況を千賀氏が追った。(ここまでの文責は編集部)

 

 ■日本経団連「企業倫理月間」の呼びかけ

日本経営倫理士協会・千賀瑛一専務理事拡大千賀 瑛一(せんが・えいいち)
日本経営倫理士協会専務理事。東京都出身。1959年神奈川新聞入社。社会部、川崎支局長、論説委員、取締役(総務、労務、広報など担当)。1992年退社。1993年より東海大学(情報と世論、比較メディア論)、神奈川県立看護大学校(医療情報論)で講師。元神奈川労働審議会会長、神奈川労働局公共調達監視委員長、「経営倫理フォーラム」編集長。日本記者クラブ会員。

 日本企業や社会でさまざまな不祥事や不正事件が続いている。企業不祥事は一企業だけの問題にとどまらず、経済界に対する市民の不信を増幅しかねない。このため日本経団連では、コンプライアンスの強化、CSRの推進を強く打ち出している。2002年10月に「企業行動憲章」を改定し、翌03年には「企業倫理月間」(毎年10月)を設け、各企業に取り組みを呼びかけた。(1)事業活動全般の総点検(2)企業倫理への取り組み体制の強化(3)不祥事が起きた場合の適切な対応を呼びかけている。日本経団連は、「企業倫理徹底のお願い」(2009年9月15日)の中で「企業倫理の確立は経営トップの責務です」と強く言い切っている。各企業での企業倫理の徹底、コンプライアンス取り組み体制は強化されつつあるが、経営モラルと同時に現場への浸透・定着状況が注目されている。

 ■自主勉強会やオーダ―メイド研修

「正」の字の形の宇宙船を運転するイメージの東京ガスのポスター拡大「正」の字の形の宇宙船を運転するイメージの東京ガスのポスター
 東京ガスでは2002年にコンプライアンスへの取組みを具体化し、東京ガスグループ及び協力企業約3万人の従業員を対象に活動中だ。担当はコンプライアンス部だ。「コンプライアンス事例集」を主な道具として活用している。東京ガスグループの「私たちの行動基準」浸透の中心となるだけに、以前、半年かけて作った。

 10月の推進月間中には、外部から著名弁護士を招いて、管理者(約300人)向け講習会を開いている。現場中心の勉強会も年2回、ケースメソッドを導入して勉強、深耕している。さらに、同社では、自主勉強会とオーダーメイド研修の2本建てが特色。自主勉強会は各職場のコンプライアンス推進担当者が中心となり、「事例集」を使って読み合わせや理解度テストをする。オーダーメイド研修は、現場からの要請に応じるコンプライアンス部出張型(出前型)研修のこと。末端組織へも担当部がストレートに出向き、キメ細かい教育・助言を行うようだ。

 同部コンプライアンス推進室・北野寿之室長は「『ダメ出しのコンプライアンス』から『知恵出しのコンプライアンス』へをスローガンとしている」と話す。組織を引っ張る「機関車型」ではなく、各自が動力になって動き続ける「リニアモーター型」を目指しているという。

 ■「会社はみなで守るぜよ」

「コン活(コンプライアンス推進活動)は自身の気づきと行動から」という従業員の入選標語を入れてソフトバンクグループの社内に掲示されているカレンダー拡大「コン活(コンプライアンス推進活動)は自身の気づきと行動から」という従業員の入選標語を入れてソフトバンクグループの社内に掲示されているカレンダー

 ソフトバンクモバイルは、8月をコンプライアンス推進月間にしている。ソフトバンクグループの中核をなす「通信3社」と呼ばれるソフトバンクテレコム、ソフトバンクBBと共同で、持ち株会社であるソフトバンクとも連携をとりながらコンプライアンス推進活動にあたっている。法務統括部・コンプライアンス部(大草正二郎部長)が担当、幅広く活動している。

 2007年8月、コンプライアンス・マニュアルを作成。日常業務に即したケーススタディ形式が特徴。入社時に全員に配布し、管理職研修でも活用している。8月の推進月間には、各種講演などさまざまなプログラムで浸透を図っている。昨年のテーマは「No.1企業を目指して」。福岡ソフトバンクホークス会長・王貞治氏が「No.1であり続けるために~フェアプレー精神~」という内容で講演した。今年のテーマは「他社事例に学ぶ」。浸透月間ポスターでは「会社はみなで守るぜよ」と呼びかけている。これは、孫正義社長が敬愛する坂本竜馬にちなんだもの。竜馬ブームも背景にあって、社員にも好評という。またコンプライアンス標語コンテストの優秀作品を掲載した社内カレンダーもグループ各社で掲示されている。その標語は「コン活(コンプライアンス推進活動)は自身の気づきと行動から」。ひらめきのある呼びかけにグループ内の反応もよい。

 ■人権週間に合わせて、取り組み強化も

 中外製薬では、特に月間型の集中方式をとっていない。同社は、企業の社会責任を果たすための具体的な指針として「中外ビジネス・コンダクト・ガイドライン(中外BCG)」を制定。年間を通して企業倫理、社会責任など啓発活動を展開している。全従業員約6600人を対象に年2回、研修に参加してももらっている。

 同社の取り組みの特色の一つとして「人権研修」がある。中外製薬はタミフルで広く知られているが、人の生命にかかわる製薬会社ならではの高い倫理観の醸成を目指している、という。毎年12月の「人権週間」に先立ち、全従業員とその家族から人権標語を募集、各職場に所属している約80名の企業倫理推進委員の投票により優秀作品を選出する。この作品をモチーフとしたポスターを制作、教育・研修用の道具としている。このポスターを職場に貼り、日頃から人権を意識できる環境づくりを目指している。またポスター以外には、名刺サイズの中外BCGカードやシールなどもある。

 同社の社会貢献推進部の企業倫理・人権グループの担当者は「人権啓発のメッセージは、自分や周りに気付きや元気を与えてくれるものを…」と話している。

 ■企業倫理順守宣言に全社員が署名

 北陸電力では、毎年6月をコンプライアンス推進月間として取り組んでいる。今年の主な活動は講演会、メールマガジンの集中発行、全従業員対象のコンプライアンス事例に基づく集団討議、グループ会社コンプライアンス推進会議などだ。

 以下、昨年10月、推進月間として取り組んだ企業には次のようなケースも。

 積水ハウスでは、「行動規範」実践カードを配布し、ケーススタディを活用して意見を交換した。

 リンナイでは、コンプライアンスポスターを作成。「企業倫理順守宣言」に全社員の署名を求めた。

 INAXでは、行動憲章を読み合わせたり、誓約書を提出してもらったり。社員を対象にアンケートを実施して社員教育に反映した。

 千代田化工建設では、外部講師による業務関連法規のセミナーを開いた。

 ■年々強化される取り組み

 今回、企業のコンプライアンスへの取り組みを、現場重点に調べてみたが、大きな流れとして見えてきたのが次の動きだ。

 (1)コンプライアンスを社業発展の基盤として位置付け、その取組みを一段と強化している。

 (2)業界、業種によって制度、組織は異なるものの、それぞれ本業のコンプライアンスに人間性や環境問題も関連させ、ステークホルダー等に理解してもらうための努力を続けている。

 (3)取り組み形態としては、日本経団連の呼びかけによる10月の企業倫理月間が多いが、一部で独自に浸透月間を設けたり、月間方式をとらず年間を通して企業倫理推進活動をしている会社もある。

 (4)非正規社員を含む全従業員を対象とするのは常識化しているが、大組織の末端での浸透状況はみえにくい面もある。

 今回の調査だけで結論をまとめるのは、やや早計だが、企業倫理、コンプライアンスへの各企業の取組みは、年々強化されており、今後この動きはさらに大きく拡がっていくものとみられる。

 〈経営倫理士とは〉
 NPO法人日本経営倫理士協会が主催する資格講座(年間コース)を受講し、所定の試験、論文審査、面接の結果、取得できる。企業不祥事から会社を守るスペシャリストを目指し、経営倫理、コンプライアンス、CSRなど理論から実践研究など幅広く、専門的知識を身につける。これまでの14期(14年間)で、377人の経営倫理士が誕生、各企業で活躍している。
 経営倫理士第15期生講座受け付けは11月ごろから。問い合わせは03-5212-4133へ。

 千賀 瑛一(せんが・えいいち)
 東京都出身。1959年神奈川新聞入社。社会部、川崎支局長、論説委員、取締役(総務、労務、広報など担当)。1992年退社。1993年より東海大学(情報と世論、比較メディア論)、神奈川県立看護大学校(医療情報論)で講師。元神奈川労働審議会会長、神奈川労働局公共調達監視委員長、日本経営倫理学会常務理事、経営倫理実践研究センター先任研究員、日本経営倫理士協会専務理事。「経営倫理フォーラム」編集長。日本記者クラブ会員。

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