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深掘り

内部告発 in アメリカ

(6) 原発不祥事 疑惑の当事者に調査丸投げ

奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

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 米ペンシルベニア州ピーチボトムの原子力発電所で、警備員たちは過労で疲れきり、仕事中に居眠りをしている――。

 2007年3月27日、米政府の原子力規制委員会(NRC)に1通の手紙が届いた。差出人は、同原発の元警備マネジャーを名乗る人物。

 NRCの担当官は手紙の内容を信用しなかった。

 「あり得ない話だ。矛盾もある。具体性もない。同じ話を何回調べろというのか」

 実は、同じ人物から2005年にも同様の通報がNRCに寄せられていた。NRCはその際、調査はしたが通報の内容を確認できなかった。手紙は、その経緯に触れて、「居眠りのことをもともと知っているから、本気で調査しないのだ」とNRCと原発会社を非難。小型カメラで警備員を観察するなどの調査をするべきだと提案していた。

 NRCは4月11日、原発会社に疑惑を照会して調査させる方針を決定した。「緊急の安全問題ではない」として、独自の調査は見送り、当事者に調査をいわば丸投げしたのだ。隠し撮りの提案は受け入れなかった。手紙に「私に接触しないで」と書いてあったため、NRCは、元警備マネジャーに連絡をとらず、話を聴こうともしなかった。

 原発会社は5月30日、「懸念は確認されなかった」とNRCに文書で回答。これを受けてNRCは8月、手紙への対応を終結させた。

 このてんまつがやがて、NRCへの世間の信頼を揺るがす事態を招く。

 9月10日、テレビ局の記者からNRCに電話があった。記者はNRCの広報担当官に言った。「ビデオを持っている」。それは、警備員が居眠りする様子を隠し撮りした決定的証拠だった。(次回につづく

  ▽筆者:奥山俊宏

  ▽この記事は2008年10月7日の朝日新聞朝刊の第3総合面に掲載されたものです。

  ▽内部告発 in アメリカ(1):  億万長者になった「スパイ」、病院チェーンの不正請求を政府に

  ▽内部告発 in アメリカ(2):  公金1兆3千億円を回収、内部告発者の協力で

  ▽内部告発 in アメリカ(3):  日本企業も被告、内部告発者が原告となり、米司法省も訴訟参加

  ▽内部告発 in アメリカ(4):  「内部告発者へのサービス」をビジネスに 巨額の報奨金で

  ▽内部告発 in アメリカ(5):  「日本も通報者にメリットを」との意見も

  ▽内部告発 in アメリカ(7):  原発警備で居眠り、暴露ビデオ

  ▽内部告発 in アメリカ(8):  NPOも問題追及の動き、原発警備員の居眠り

  ▽内部告発 in アメリカ(9):  原発労働者の申告制度、日本は信頼に足る実績必要

奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 朝日新聞編集委員。
 1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞入社。水戸支局、福島支局、東京社会部、大阪社会部などを経て特別報道部。『法と経済のジャーナル Asahi Judiciary』の編集も担当。
 著書『秘密解除 ロッキード事件  田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店、2016年7月)で第21回司馬遼太郎賞(2017年度)を受賞。同書に加え、福島第一原発事故やパナマ文書の報道も含め、日本記者クラブ賞(2018年度)を受賞。近刊の共著書に『バブル経済事件の深層』(岩波新書、2019年4月)。
 そのほかの著書として『パラダイス文書 連鎖する内部告発、パナマ文書を経て「調査報道」がいま暴く』(朝日新聞出版、2017年11月)、『ルポ 東京電力 原発危機1カ月』(朝日新書、2011年6月)、『内部告発の力 公益通報者保護法は何を守るのか』(現代人文社、2004年4月)がある。共著に 『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社、2019年4月)、 『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版、2012年12月)、『ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか』(同、2008年9月)、『偽装請負』(朝日新書、2007年5月)など。
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