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深掘り
山本病院事件(7) 2011年3月~2012年11月
(2013/12/10)
山本病院で不要な肝切除の手術をされて亡くなったAさんの父親は朝日新聞記者の取材に応じ、息子の思い出や裁判への思いを語っている。2010年2月6日付夕刊社会面(大阪本社発行版)と2011年3月23日付奈良版に掲載された記事に基づき、生前のAさんや遺族の思いを紹介してみよう。
Aさんは、愛媛県の南部、高知県との県境にある愛南町の出身だった。地元の中学校を卒業した後、父親が営む鉄工所で溶接の仕事を手伝っていた。大阪府堺市の機械部品メーカーの工場が同町にでき、1991年に入社。数年後、堺市の本社に転勤したが、4、5年ほどで退職したという。Aさんはその後、大阪市西成区で日雇い仕事に従事したが、体調を崩し、生活保護を受けるようになった。大阪府内の病院から山本病院へ転院したのは、亡くなる5カ月前のことだった。
2006年6月、山本病院からAさんの死を電話で知らされた父親はすぐに病院へ駆けつけた。病院では「病気で死んだ。死因は心筋梗塞」などと説明されたという。
Aさんは入院生活の様子を日記に残していた。「早く退院して働きたい」「お世話になっている看護師には感謝している」という記述の一方で、肝臓がんと告知されたことについては、「(検査結果などの説明を聞いても)難しいカタカナ用語が多く、意味がわからない。本当に大丈夫だろうか」などと不安な気持ちをつづっていた。
父親は山本、塚本両医師が逮捕された2010年2月6日、奈良県警を通じて以下のような談話を公表した。
「息子(長男)が死亡する前日まで付けていた日記には、健康を取り戻すために医師を信じて手術を受けることを決心した心境が書きつづられています。信頼していた医師にむちゃくちゃな手術をされ、何も知らずに息子が死んでいったのかと思うと無念でなりません。今後の捜査により事件の真相が明らかになることを望みます」
山本医師の初公判直前の2011年3月初めには、朝日新聞記者に対し、「モルモットのように実験台にされた。息子の無念を晴らしてほしい」と語った。
初公判で山本医師は「患者が肝血管腫であることは認めるが、それ以外は否認する」と誤診は認めたが、手術態勢と患者の死亡との因果関係などは否認し、争う姿勢をみせた。
裁判では、かつて山本病院に勤務していた医師、看護師、診療放射線技師らが出廷し、証言した。Aさんが肝臓がんであるとの診断や、山本病院の診療態勢で肝臓の切除手術をすることに疑問を感じ、山本医師にその疑問をぶつけたと証言した元職員もいた。一方、山本医師は「主治医である塚本医師の『肝臓がん』という診断を信じた」と主張した。
また、Aさんの遺体が解剖されていなかったことから最大の争点になった死因について弁護側は「出血死とは言えない」と主張した。その主張の根拠について最終弁論の一部を引用してみよう。
手術中の出血量が2500ミリリットル以上あったことを示す証拠はなく、その出血量に見合う輸血や輸液が投与されていた。手術終了の午後1時30分までの間、血圧や心拍数も一定程度保たれており、尿量も確保されていたのだから、止血はされており、出血が続いていたということはできない。麻酔記録によると、午後2時以降、心拍数や血圧が上下し、それまでの状況とは打って変わって患者に明らかな異変が生じた。患者の診療報酬明細書に「急性循環不全」「出血性ショック」と記載されたことについて検察官は出血死を裏付けるものと主張するが、術中の症状をとらえてそのように記載したとしても何らおかしいわけでない。使用した新鮮凍結血漿などの診療報酬を請求するための記載であって、出血死を裏付けるものではない。患者の右冠動脈には75%の狭窄があったのだから、これによって急性心筋梗塞をもたらし、死亡した可能性を否定できるものではない。
2012年6月22日、奈良地裁は山本医師に禁錮2年4カ月の実刑判決を言い渡した。判決要旨によると、地裁は「注意義務及び注意義務違反」として次の5点を指摘した。
判決は、最大の争点となった死因について「証拠中のデータや、これを説明する関係者及び専門家の証言等からすれば、被告人及び塚本が、本件手術当時、手技上のミスにより被害者の肝臓を傷つけて出血させ、この止血を十分になさなかったこと、そのため、被害者はその後も出血が継続した状態にあったことが認められる。そして、その状態は、本件手術終了時までは、出血部位が圧迫されるなどしてある程度安定していたものの、手術後の体位変換により、循環動態が変動し又は更なる急な出血を来して、急変したと認められる。そうすると、被害者の死因は、本件手術の実施により大量出血したことによる出血死である。急性心筋梗塞等の他の死因については、その具体的可能性をうかがわせる所見や事情はない」と結論づけた。
量刑の理由について判決は、「本件腫瘍が摘出の必要のない肝血管腫であることは容易に判断できたのに、軽率にもこれをがんと誤診し、不十分な人員態勢等のまま、被害者の生命に対する危険性の高い本件手術を実施し、被告人はその実施に主導的な役割を果たした。塚本を信じたという被告人の弁解は、医師としての基本的姿勢に問題があることを示している。被告人の過失は、患者の生命を預かる医師として最も基本的な義務に反した、重大なものである。被害者の死亡という結果は重大であり、遺族に対する慰謝の措置も講じられておらず、他人に責任を転嫁する被告人の態度には反省が見られない。また、医療に対する信頼を大きく揺るがした本件事件の社会的影響の大きさも軽視できない」とした。
判決の最後に橋本一裁判長は山本医師を証
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