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監査役の実務とは? 監査懇話会 会長インタビュー

加藤 裕則(かとう・ひろのり)

 監査役と監査役経験者でつくる一般社団法人監査懇話会(社員数320人)が11月に創立60周年を迎えた。戦後間もない時期、親睦組織として始まり、現在は監査役制度の研究や監査役の研鑽のための組織として活動している。来年5月に施行される改正会社法や、金融庁などで議論されているコーポレートガバナンス・コードなどで監査役をめぐる環境は大きく変わろうとしている。これまでの活動状況や監査役のあり方などを監査懇話会の高世庸行会長に聞いた。

拡大高世 庸行(たかせ・つねゆき)
 1947年4月、東京生まれ。70年に日本鋼管(JFE)に入社。2006~2008年にJFEミネラル常勤監査役。2006年に監査懇話会に入り、09年に理事就任。10年から会長。
 ――なぜ60年も続いたのでしょうか。また、会の特徴は。

 高世会長:当初は懇親組織の性格が強かったが、年代によって会の性格が少しずつ、変わってきている。1990年代後半から監査実務も重視するようになってきた。現在は、幅広いテーマの講演会やユニークな会社を訪問する研修見学会、社員同士の相互研鑽の場である生涯学習部会、監査セミナーや実務研究会、新任監査役セミナーなどを毎月開催している。内部統制や会社法などに関する相互研鑽の場である分科会もある。懇話会は、監査役経験者も多く、その知見を生かし活動している。この10年間ほどは、特に監査役関連の活動が活発になった。もちろん、今も「生涯学習部会」として、写真、絵画、合唱、俳句など活気あふれた活動を行っている。最近、江戸文化研究会も出来た。すべてボランティアで運営しているのも特徴だ。

 ――最近はどのようなことに力を入れていますか。

 高世会長:今秋、法令改正検討委員会をつくった。会社法施行規則のパブリックコメントを今回提出した。金融庁のコーポレートガバナンス・コードについても検討している。また、11月に1030ページにわたる「最新監査役の実務マニュアル」(新日本法規)を出版した。法律主体の解説というより、執筆者の実務経験、当会が蓄積した知見を活かした解説を心がけた。実務上特に留意すべき事項を盛り込み、監査役の活動に役立つはずだ。これらの活動は皆、会長主導というよりも、都度、リーダーシップをとる人が現れ、推進している。当会の大きな特徴である。

 ――監査役が本来の役割を果たしているのかが問われています。監査役の任務懈怠責任を認めたセイクレスト事件などこの数年、監査役に法的責任を問う動きが強まっています。何をすべきですか。

 高世会長:もともとトップらによる不正や不祥事の発生は見えにくい。常勤監査役でも情報収集力に限界がある。従って、私は、監査役の主たる働き場所は取締役会、経営会議だと考えている。違法性が疑われる議案や報告が出たとき、監査役が正論を言い、違法なことは止めなければいけない。株主代表訴訟になったダスキンのケースが典型例だと思う。ただし、正論を言ったのは社外取締役だったが。セイクレスト事件では、経営者の不正が2、3年続く中で、監査役は問題意識を持ち、経営者に対して相当なことを言っていた。しかし、勧告など法的な動きを欠いていたと判断されている。責任が認められたのは、やむを得ない部分があったと考える。ただ、懇話会の中では、「厳しすぎる判決」という意見が多数だと思う。この数年監査役に法的責任を問う動きが強まっていることは、監査役の存在意義に関する期待を表しているのではないか。そこまでやらなければいけないと求められていると理解している。

 ――会社法改正で会計監査人の選任権が監査役になります。監査役の業務は変わりますか。その他の課題として、監査役が監査役を選ぶべきだという考えもあります。監査役スタッフの少なさについても指摘があります。

 高世会長:選任権が監査役に移ることにより、そのことに関し監査役を支援するため会社の組織・体制を変える必要があるという意見があるが、そんなことはないと思う。会計監査人は問題がなければ代えることにならない。平常時に会計監査人を代える必要が生じた場合は、経理部などの関係部署に相談し、監査役が決めることになると思う。今回の件は、本来あるべき姿にしたということと理解している。なお、オリンパス事件では当時の社長が会計監査人を代えた。こういうときには、独立した立場の監査役が会計監査人の選任権を持っていることは何らかの効果が期待できるはずである。監査役の人事権について、「今の日本では会社の人事権は社長が持っていることが前提。監査役の有用性は監査役自身の強い使命感、独立性、職業的懐疑心によって決まる。」という意見がある。私もこの意見を現実的なものとして賛同したい。監査役の役割を担う存在を社長以外が選ぶというのは、会社がモニタリングモデルとなることによって、実現の可能性が生じることに他ならないと思う。監査役スタッフの配置は、実際にはかなり少数だと認識している。監査役が必要とすることに適時・的確に対応できる監査役スタッフが望ましいことは、「あるべき論」としてはその通り。あるべき体制が整っている会社も少数はあると思う。しかしこの問題は運用上かなり難しい。実際に何を頼むのか。例えば監査役が経理出身でない場合、会計に詳しい部下がいれば助かるが、どの会社も経理部門は人手不足で回せる余裕がないことが多いと思う。また、監査役監査のことを知らずに突然異動で来る社員も想定できるが、彼は何ができるのか。一から教え込まないといけないのか。彼のモラルは?キャリアパスは?運用のことを考えるとかなり難しいところがある。この件は、監査役と内部監査との連携も含め、会社ごとに具体的に検討せざるを得ないテーマと考えている。

 

加藤 裕則(かとう・ひろのり)

 1965年10月、秋田県生まれ。岩手大人文社会科学部卒業。89年4月に朝日新聞社入社。静岡支局や浦和支局(現さいたま総局)などに赴任した後、99年東京本社経済部員。その後、名古屋本社経済部員、青森総局次長、大阪本社経済部員。2011年4月から14年9月まで2度目の東京本社経済部員で、金融情報面(株式面)や社会保障取材班を担当した。
 経済記者としては、これまで通産省(現・経産省)、鉄鋼業界、トヨタ自動車(名古屋)、関西空港などを取材してきた。通産省クラブ時代から、コーポレート・ガバナンスや会計監査について自主的に取材を重ね、朝日新聞のオピニオン面に掲載される記者有論などで論じてきた。2014年9月から石巻支局員として東日本大震災からの復興の過程を取材。2018年4月から東京本社の経済部員として財界などを取材している。

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