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深掘り

震災法廷

封印された「無臭のガス漏れ」死亡事故、阪神でも東日本でも

 屋外の道路の地下で都市ガスのパイプの接続部が知られることなく壊れ、そこから漏れたガスが土中で脱臭され、臭いもなく近くの建物の内部に侵入してきて、人の命を奪う――。そんな悲劇が、阪神・淡路大震災でも東日本大震災でも、震災発生から間もない時期に起きていた疑いが訴訟記録に浮かび上がっている。いずれの事故でも、事前にガス漏れ警報が何度も鳴り、業者が点検していた。ガス漏れ警報は生かされることなく、ガスの臭いがしないこともあって、警報器の電源は切られていた。

▽筆者: 奥山俊宏、松本龍三郎

▽この記事は2015年1月19日の朝日新聞岩手版に掲載された原稿に加筆したものです。

▽関連記事: ガス漏れ警報が鳴ったのに、繰り返された死亡事故

▽関連資料: 中三デパート盛岡店ガス爆発事故に関する科警研の鑑定書

▽関連資料: 中三デパート盛岡店ガス爆発事故に関する消防の原因判定書

▽関連記事: 震災が関連する訴訟の事例 阪神・淡路の経験

 

拡大爆発事故が起きた中三盛岡店=2011年3月14日、盛岡市
 2011年3月14日朝、盛岡市のデパート「中三」は午前10時の開店を予定していた。

 午前8時前、地下1階にある鮮魚加工室の寿司(すし)部門で、湯沸かし器に点火しようとしたとき、ガスの元栓あたりで赤い炎が上がり、パイプを伝って下に広がった。目撃者によれば、炎は、焼き鳥店の方に向かって「波のように這(は)うように走っていった」。テナントの店員が消火器2本で刺し身部門の火を何とか消し終えたころ、焼き鳥店の方で爆発が起きた。

 がれきの中に倒れている5人が消防隊によって発見された。焼き鳥店の店長(当時44)が亡くなった。

 警察も消防も、そんな経緯を前提に、空気より重く、下のほうにたまりやすい都市ガスの爆発と推定した。

   ◆   ◆

 事故の3日後、警察が調べたところ、中三に隣接する洋品店の軒先の地下にガス管があり、その接続部がずれてガスが漏れていた。接続部の周りは空洞になっていた。8月18日夜に送風機で煙を送って検証したところ、空洞は中三の地下階に通じていると確認された。警察は、震災発生後にこのルートでガスが中三の地下に流入して爆発した、と推定した。

 県警は2013年3月12日、盛岡東警察署の実験室に、事故の現場にあったのと同じように漂白剤「ハイターE」を薄めて入れたバケツを用意し、盛岡ガス社員を呼び出して、2年前の2011年3月12日夜の点検を再現させた。ガス検知器の先端をバケツの液面に6.6センチまで近づけたが、アラームは鳴らなかった。震災発生の翌日の夜に盛岡ガスの社員が「ガス警報器が塩素系漂白剤に反応し発報」と考えたのは誤りだった可能性が濃くなった。

拡大中三デパートの爆発に関して盛岡中央消防署が作成した火災原因判定書(下線はAJ編集部で引いたもの)
 都市ガスには、漏れを知らせるため「付臭剤」という人を不快にさせるにおいがあえて添加されている。しかし、消防の調査によると、中三の警備員が3月12日午後に「微妙なガスのにおい」を一時的に感じただけで、ほかにガス臭の情報はなかった。現場に出動した消防隊員の中にも臭いを感じた人はだれもいなかった。消防は専門の文献を検討した末に「付臭剤については土砂に吸着されたと考えられる」と結論づけた。

   ◆   ◆

 阪神大震災発生の翌日、一家5人がガス中毒となり、3人が死亡しているのが見つかった兵庫県洲本市(淡路島)の事故でも、無臭のガス漏れが問題となっていた。

 事故後、玄関先2メートルほど離れた私道の地下で、ガス管の接続部が破断し、都市ガスが漏れていることが警察の調査で判明した。

 遺族側は、都市ガス供給会社の洲本ガスを相手取った訴訟の法廷で「ガスの付臭剤は土中浸透により濾過(ろか)されてガス臭を喪失した」と主張した。これについて洲本ガスは「不知」と答え、肯定も否定もしなかった。洲本ガスは反論の中で「警報器がガス漏れを伝えていたのであるから、なんらかの措置をとれたはずである」として被害者側の落ち度を指摘し、また、都市ガスではなくプロパンガスの不完全燃焼が中毒の原因だった可能性に触れた。「プロパンガスの業者がもう少し注意して点検を行っていさえすれば事故は発生しなかったはず」とも主張した。

 震災の3年余後の1998年4月、洲本ガスの側が8600万円を遺族や被害者の次女に払う内容で和解が成立した。

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 阪神大震災の1年後の1996年1月、都市ガス事業を監督する通産省(現・経産省)の検討会は、洲本市の事故について、「道路下に埋設されていた都市ガスの供給管が接合部で折損、漏えいしたガスが被害者宅に入り、事故に至ったものと推定」との報告書をまとめた(注1)。報告書の中で検討会は、地震直後の緊急巡回点検を着実に実施し、また、地元のプロパンガスの業者との連絡体制を整えるよう都市ガス各社に求めた(注2)

 一方、経産省の審議会が東日本大震災の翌年の2012年3月にまとめた報告書は「今回の震災において、都市ガス供給におけるガス漏えい等を原因とする火災や人身事故に関しては、現時点において発生していない」と断定した。中三の事故については、注釈の中で「地震によるガス漏えいと事故との因果関係は明確になっていない」と触れるにとどめた(注3)。経産省は翌4月「震災による都市ガス事故の死傷者の報告はない」と断定する報告をまとめた(注4)。中三の事故については盛岡ガスの説明に基づき「原因調査中」とした。「震災による事故」には含めていない。

 いずれの報告にも、都市ガスの臭いが地中で失われることがあるとの指摘は見あたらない。

 経産省によると、同省は中三の事故に関する警察や消防の記録について、捜査終了後の今も把握していない。朝日新聞記者の問い合わせを受けて、同省はそれらの提出を盛岡ガスに打診したが、今月7日、断られた。

 盛岡ガスは、遺族や中三から起こされた訴訟で、爆発の原因が自社のガスかどうかということから争っている。ガス管接続部の破損は、震災ではなく、爆発により起きた可能性があるとも主張。ガス漏れ点検の後に警報が鳴った際、盛岡ガスへ通報しなかったとして中三社員の過失も指摘する。

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 中三の爆発も、洲本の中毒死も、震災発生から間もなく発生し、事故後、近所の地下ガス管の接続部に漏れ口が見つかった点で共通している。

 都市ガスが地中を漏れ伝わる過程で脱臭され、臭いがなかったために誤作動とみなされた――。そんな疑いが指摘されているのに、ガス会社も監督官庁もきちんと答えず、真相や教訓は今もあいまいなままだ。

 「警報器が鳴ったが、ガスのにおいはしない。そういうときにも気をつけなければならない。それが洲本ガスの事故の教訓だった」。洲本ガスの訴訟で原告の代理人を務めた小越芳保(こごし・よしやす)弁護士(兵庫県弁護士会)はそう振り返る。「中三の事故の経緯を聞くと、その教訓がしみじみ感じられます」

 ▽注1:ガス地震対策検討会、1996年1月、「ガス地震対策検討会報告書」、5ページ、http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g50303b20_1j.pdf#7
 ▽注2:同上、24ページ、http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g50303b20_1j.pdf#26
 ▽注3:総合資源エネルギー調査会 都市熱エネルギー部会 ガス安全小委員会 災害対策ワーキング、2012年3月、「東日本大震災を踏まえた都市ガス供給の災害対策検討報告書」、5ページhttp://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/toshinetsu/saigai_taisaku_wg/report_001_02.pdf#9
 ▽注4:原子力安全・保安院、2012年4月、「2011年の都市ガス事故について」、http://www.meti.go.jp/committee/summary/0004482/pdf/h2401_02_00.pdf#2

 

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