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ベテラン監査役は東芝不正会計をどう見たか 「待ってはいけない」

加藤 裕則(かとう・ひろのり)

 東芝の不正会計によって日本企業のガバナンスや会計に対する信頼性が大きく揺らいでいる。監査委員会、内部統制部門、監査法人のどこに問題があったのか。現役とOBの監査役でつくる監査懇話会(東京都文京区)監事で、同会の新任監査役セミナーで講師も務める監査役歴14年というベテランの眞田宗興さん(75)に、東芝問題や監査役制度のあり方について聞いた。

 ――東芝の第三者委員会の報告書でどんなことを思われましたか。

拡大眞田 宗興(さなだ・むねおき)
 1964年、慶応義塾大学経済学部卒業、三菱電機(株)入社。同社群馬製作所で総務部長、静岡製作所で経理部長。95年、東洋高砂乾電池(株)(三菱電機関連会社。現(株)トーカン)入社。経営企画部長、常務取締役などを歴任した後、常勤監査役。2003年、監査懇話会事務局長就任。トーエイ工業(株)(三菱電機関連会社)監査役就任。2006年、(株)システムインテグレータ常勤監査役就任。2012年、同社(非常勤)監査役就任(現任)。
 眞田監査役:東芝は委員会設置会社で、監査委員が自ら監査するというよりも、内部監査部門を活用する方法です。その内部監査部門は、経営監査部という組織で44人の社員を配置していました。ところが、ここは事業性監査に重きを置き、経営改善を図る観点から業務の有効性や効率性を調べていました。会計監査やコンプライアンスが軽視された可能性があります。

 監査委員会も行動を起こしていない、会計監査人に伝えたという明確な記述は報告書には見当たらない。会計監査は監査法人に任せる、という誤った考えを持った人は東芝以外の監査役にもおります。監査法人の無限定適正を待っている。東芝の監査委員もそうだったのではないでしょうか。また、監査委員長が財務担当(CFO)の元副社長でした。当然、今回の不正に関与している。だから監査しない。オリンパスと同じ構図です。法務部長だった監査委員が一度、検証を進言しているが、財務担当者に「問題ない」と答えさせています。

 社外の監査委員が3人いますが、2人が外務省出身でもう一人が証券会社。いずれも会計の専門家ではありません。さらに、監査委員長が「K案件についてはあまり質問しないように」と発言し、61億円の超過分についても「知らなかったことにする」としたことが第三者委員会の報告書に記されています。会計の知識がなくても、監査委員は「これはおかしい」と言わなければならない。これは見過ごせません。

 元法務部長の進言も結局、実現していません。これには独任制の問題があります。監査役は一人一人に調査権が与えられていますが、監査委員会では個々の監査委員は違法行為の差し止め請求権など一部は認められていますが、調査権は認められていない。あくまで監査委員会の承認が必要です。これは制度として改善すべきです。

 ――取締役会や監査法人についてはどう思われますか。

 眞田監査役:取締役会も機能していません。第三者委員会の報告書では、質疑応答があったという記述だけで、具体的な内容は不明としています。議論もされていない。会社法で、業務執行を担う取締役は3カ月に一度は自分の担当する事業について取締役会に報告しなければいけません。その取締役会の重要な機能が形骸化していたようです。委員会設置会社の場合、取締役会への付議事項が極めて限られています。監査役会設置会社から移行する場合、一定の報告や付議事項を確保しておくべきだと思いますが、東芝の案件では、委員会設置会社の欠陥が見え隠れします。

 会計監査人の問題について、報告書は言及を避けています。しかし、例えば、パソコン事業における製造委託先への部品支給価格のマスキング。実態価格を知られたくないためとは言いながら仕入れ価格の数倍です。監査法人はここに注意を払うべきで、何年も監査をやっている監査法人であれば、不自然な数字に気が付いているはずです。2012年度の12月、パソコン事業で806億円の営業利益で、これは637億円の売上高を上回りました。監査法人は理由を聞いていますが、通り一遍の説明を受けて終わっています。いくら何でも利益が売上高を上回るのはおかしい。

 ――経理部門の規律が緩んでいたのでしょうか。

 眞田監査役:牽制機能が無力化されたようです。工事進行基準では、赤字が出るとわかった時点で引当金を積みます。これは各カンパニーの経理部長が判断します。つまり、現場の判断でした。ところが、これを本社の社長らの判断に変え、引当金の計上をやりにくくしています。社長らは当然、「もっと原価低減できないか」などと言ってきます。各カンパニーの経理担当者がやる気をなくし、黙認するようになったのではないでしょうか。また、電力社の経理部は、見積書を出すことで売上高の増額が可能としています。がくぜんとします。

 ――東芝が8月18日に新経営陣と改革案を公表しました。どう受け止めましたか。

 眞田監査役:意義のある改革だと思いました。経営監査部を廃止し、内部監査部をつくって適法性監査などに限定するという。内部監査部長は監査委員会が任命する、監査委員は独立社外取締役とし、法務及び会計の専門家を入れる、とあります。

 報告書をよく読むと、J-SOX(内部統制制度)を忠実に守ろうとした経理担当者もいた。正しいことをしようとした社員も大勢いる。今回の改革によって早期に立ち直れる可能性があります。

 同じような工事進行基準の運用で課徴金処分を受けたIHIは四半期ではなく、月次できちんと処理していく方法に変えました。これは参考になるはずです。また、若干、手前味噌になりますが、監査懇話会が作成している「取締役職務執行確認書」が有効です。年に一度、監査役が全取締役に書いてもらう仕組みで、「私は、不適正と思われる会計処理や法令違反及び重大な損失の恐れがあることを知ったので、それを取締役会で指摘し、併せて監査役にも報告した」「私は利益相反取引をしていない」などの項目に署名をしてもらいます。正直に書いてくれると思いますが、仮にウソを書けば、胸がちくちく痛むはずです。

 ――長年、新任監査役のセミナーで講師を務めているのですね。

 眞田監査役:監査役を救ってやりたい、監査役の犠牲者を少なくしたいと思っています。どのような監査をすれば、損害賠償請求されずに済むのか。そのためにも現実に起きた事件を見て、その中から何をすべきかを学ぶべきです。そのため、監査役の行動に絞って、情報を集めています。弱い監査役の立場に立って話をしています。

 ――「監査役事件簿――監査役と訴訟事件」という題で講演をしているようですが、どんな内容ですか。

 眞田監査役:不正会計や企業不祥事に関し、裁判記録や第三者委員会の調査報告書について、監査役の動きを中心に分析し、それを話しています。例えば、2010年に発覚したメルシャンの循環取引。監査役は疑惑を持ち、専務に報告しています。だが、社長にも取締役会にも報告していません。監査役も専務もプロパー。社長は親会社から来ており、親会社の社長の耳に入ると、その事業部がつぶされると心配したようです。私も同じような思いをしたことがあります。気持ちはよく分かります。でもダメなんですよ。

 同じような循環取引が明らかになったある照明会社では、親会社から監査役が送り込まれていましたが、何と12社の監査役を兼ねていた。毎月の取締役会にも満足に出られません。でも、第三者委員会の報告書で責任ありと判断された。何社も兼務をさせられている監査役がたくさんいます。報酬が増えるわけではない。気の毒です。

 ――セイクレストにおける不正な増資事件では、監査役に厳しい判決が言い渡されました。

 眞田監査役:厳しいですね。監査役は取締役会で何度も発言しています。通常の監査役のレベルから言えばよくやっています。しかし、裁判所は、要するに監査役監査基準にある「勧告」まではしていないということを指摘しています。監査役の言うことに経営者が耳を貸さない場合、一歩進んだ行動を起こさないといけないということなのでしょう。監査役監査基準にも書かれているからもっと有効に使いなさいよということです。このような厳しい判決もあり得るのかなとも思います。でも、ここで社長が解任されれば、銀行借り入れもできなくなる状態でした。そのような状況下での監査役の立場を考えると、気の毒だなと思います。

 ――今年、東洋ゴムの免震偽装事件も大きな話題となりました。監査役の立場で見ると、どんな感想をお持ちになりましたか。

 眞田監査役:品質問題を話し合うQA委員会という組織があり、それが委員会開催の直前になって、特段の理由も明示されないまま中止になっています。監査役であれば、出席要請されていた会議が直前で中止になった場合、なぜだと聞かなければいけません。また、開発部で担当していた人が前任者から引き継ぎ、どうもおかしいと感じ、上司に言っています。社長らたくさんの関係者に届いているようで、それがなぜ監査役の耳に入らなかったのか残念です。

 財務だけでなく、品質問題に対する内部統制は大きなテーマで、タカタのエアバック、マクドナルドの中国の鶏肉の扱いなど、会社の命運を制します。雪印の食中毒事件でも、倉庫の中に日付が入っていない商品がありました。私であれば必ず倉庫を見ます。往査の場合、クレームの処理の様子を見るべきです。メーカーの場合、クレームは出先から上がってきます。通常、クレームはランク付けされ、本社にあげる基準が決まっていますが、どうしても本社や親会社に報告することをためらいがちです。私が現場に行くと、抜き取り調査などをしたうえで、「これは本社に報告しなければいけないのでは」と助言するようにしています。監査役には職業的懐疑心が必要です。

加藤 裕則(かとう・ひろのり)

 1965年10月、秋田県生まれ。岩手大人文社会科学部卒業。89年4月に朝日新聞社入社。静岡支局や浦和支局(現さいたま総局)などに赴任した後、99年東京本社経済部員。その後、名古屋本社経済部員、青森総局次長、大阪本社経済部員。2011年4月から14年9月まで2度目の東京本社経済部員で、金融情報面(株式面)や社会保障取材班を担当した。
 経済記者としては、これまで通産省(現・経産省)、鉄鋼業界、トヨタ自動車(名古屋)、関西空港などを取材してきた。通産省クラブ時代から、コーポレート・ガバナンスや会計監査について自主的に取材を重ね、朝日新聞のオピニオン面に掲載される記者有論などで論じてきた。2014年9月から石巻支局員として東日本大震災からの復興の過程を取材。2018年4月から東京本社の経済部員として財界などを取材している。

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