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いつも先見性のない経団連が「経済界として反対」と言える根拠は?

上村教授「会社は人間がより良く生活するための道具立て」

加藤 裕則(かとう・ひろのり)

 早稲田大学法学部の上村達男教授の最終講義が2019年1月22日、早稲田キャンパスの8号館であった。講義のタイトルは「株式会社法にルネッサンス(人間復興)を求めて」。上村教授は「株式会社に人間復興を求めるは『木に縁りて魚を求む』の類いか?」と問題提起した。企業・市場・市民社会のあり方を問い続け、人間を中心に据えた会社観を提唱した上村教授にコーポレート・ガバナンスの課題を聞いた。

 ――最終講義で「人間復興」を掲げました。どんな意味を持つのでしょうか。

拡大上村 達男(うえむら・たつお)
 1948年生まれ。早稲田大学法学部卒業、北九州大学法学部助教授などを経て1997年に早大法学部教授。早大グローバルCOE「企業法制と法想像」総合研究所所長や法学部長などを務める。法務省の法制審議会会社法制部会委員、NHK経営委員会委員長職務代行者、資生堂社外取締役などを歴任した。
 「株式会社は人間が作った人間のためのものです。その原点が失われています。株主という主体、特にファンドの中には徹底的に人間のにおいのしないものも多いのですが、そうした株主像を安易に肯定したまま株主価値の最大化を肯定することは、要は『俺にカネ寄こせ株主』の横行を認めることになります。それでいいのでしょうか。会社は人間のためのものなのです。人間がより良く生活していくための道具立てであることを確認する必要があります。」

 ――お金を持った人の声ばかりが大きくなることも懸念しているようでした。

 「お金を持った人というよりも、人のにおいがしない組織が、人の社会を支配していることの問題について申しました。真っ当な存在理由を有するファンドもありますが、株主総会における議決権を通じて人間を支配する根拠がほぼゼロなものも多いと思います。人間との関わりの薄い法人を、生身の人間並みに扱いすぎると人間は阻害されます。マーケットで株式を買えたというだけで人間社会の主権者になるわけではありません。おカネがあれば買えるのです。また、わずか、1万分の数秒という世界で売買を繰り返すような者を株主扱いして良いのでしょうか。機械とカネが人間を支配していることに鈍感すぎるのではないでしょうか。匿名性の問題もあります。日本の著名な鉄道企業の株式を買い集めたあるファンド(サーベラス)を調べたことがありますが、買収者は半年前にケイマンで設立された100株しか有しないファンドで、有限責任パートナーシップという形態であるためにジェネラル・パートナーの名前と連絡先しか明らかでなく、14のその他関係者であるオランダのファンドが1億株以上を有していましたがまったくの匿名です。匿名の大株主による支配などは決して認めてはなりません。議決権行使とは人間のありようを規定するデモクラシーの関与権ですが、そもそも匿名のデモクラシーという観念はないのです」

 ――「市場とデモクラシー(民主主義)の調和」という主張をしてきました。どのような意味なのですか。

 「株式には、財産権と議決権という二つの側面があります。財産権は配当や株式価値のことで、株式市場を中心にその価値が評価されます。議決権はデモクラシーの問題です。もっと簡単に言うと、お金と支配の問題です。会社法は、財産権ないし市場とデモクラシーの調和の歴史なのです」

 ――公開会社法の構想も訴えてきました。どんな考え方なのでしょうか。

 「本来、株式会社というのは証券市場を使いこなせるための仕組みとして形成されてきた会社形態です。けれども,戦後の日本の企業社会は証券市場を意識しないできました。大企業については、いわゆる銀行による間接金融でやってきて,証券市場はメインなテーマになっていませんでした。株式会社の大半が小規模で同族的なものだったという状況もありました。したがって株式会社とは証券市場を使う仕組みなんだという問題意識が乏しかったわけです。言い換えると、株式会社本来の姿を想定しないで株式会社を論じてきたのです。それが、現実にいよいよ証券市場と真正面から向き合う時代になっていったのですが、証券市場を規律する法と株式会社法は別物という感覚を変えることができないできました。株式会社制度の構築・運営に経験豊富な諸外国ではこの二つの法領域は一体のものに決まっています。不特定多数の投資家・株主にとって、『いつでも、どこでも、買いたいときに買うことができ、売りたいときに売ることができ、しかも公正な統一的な価格であること』の要請は本質的な問題ですから、公正な株式市場の存在があっての株式会社制度です。投資家が頻繁に使う有価証券報告書は金融商品取引法に基づいていますが、会社法上の事業報告は会社法で、それぞれの法律を所管する金融庁と法務省も完全な縦割りでやってきています。二つの法律が併存するといっても実態は株式等の金融商品にとっては金融商品取引法の優先適用に他なりません。そのことを素直に認めて法制化しようという公開会社法の構想は諸外国では当たり前のことを一気に実現させようという主張なのです」

 ――最近のコーポレート・ガバナンス(企業統治)は金融庁が主導している観があります。

 「金融庁設置法にはコーポレート・ガバナンスという項目はありません。設置法違反を指摘する学者もいます。実際、2015年6月に始まったコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)は東証の上場規程の別添という位置づけで、いかなる意味で上場のためのルールとされるのかははっきりしません。私は、この設置法違反だという指摘に対し、半分正しく、半分間違っているように思います。金融庁は様々な金融商品を扱います。金融商品には必ずガバナンスがついています。信託型であれば信託の、会社型投信であれば会社のガバナンスが必要で、情報開示や会計や監査をちゃんとやれるガバナンスかどうかを金融庁が問うことは正しいと思います。ですが、何となくみんながガバナンスと言っていることを全て金融庁がやるんだということになると、業務が拡散して小手先になってしまい、これでは『何となくガバナンス』と言わざるを得ません。金融庁が本来持っているミッションは、資本市場の機能の十全な発揮による金融商品等の公正な価格形成などです。金融商品の質を維持するためのガバナンスです。しっかり真実の価値を把握できるようにすることです。『何となくガバナンス』の状態では金融庁設置法違反ではないかと思っています。どこまでも株式という金融庁所管の金融商品に係る会計・監査・内部統制等を確実に実行できるガバナンスであって欲しいというスタンスを維持し、公正な価格形成の確保という最大のミッションの実現に邁進する姿勢が必要だと思います」

 ――金融庁のコーポレートガバナンス・コードについてはどのように考えますか。

拡大上村達男教授
 「株主の権利、株主の平等、運営機関、情報開示……、コードで求められていることは、すべて会社法で定められていることです。会社法を厳しく受け止めていれば、すでに守られているはずです。会社法の理解に自信があればコードを守っていなくとも自信を持ってエクスプレイン(説明)すればいい。実際にはエクスプレインは少ないのですが、それは形だけ守ろうとしてためで、むしろ、コード適用外の会社はコードに書かれていることを守らなくてよいかのように受け止める傾向もあり、その点では弊害をまき散らしていると言える面もあります。また、コードの適用は上場会社ですので、非上場の有価証券報告書提出会社は対象になっていません。そこに合理的な理由があるとは思えません。会社法の社外取締役の規定は有価証券報告書提出会社が適用対象ですので」

 ――コーポレートガバナンス・コードというソフト・ロー(指針や規範など)よりも、会社法という強制力のあるハード・ローを重視すべきですか。

 「コーポレートガバナンス・コードは英国のコードを参考にしています。ただ、ソフト・ローと言いますが、イギリスはハード・ローにすごく熱心な国です。100年も前から必ず20年おきに大改正しています。ハード・ローに熱心な国だからこそソフト・ローを語る資格があ

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加藤 裕則(かとう・ひろのり)

 1965年10月、秋田県生まれ。岩手大人文社会科学部卒業。89年4月に朝日新聞社入社。静岡支局や浦和支局(現さいたま総局)などに赴任した後、99年東京本社経済部員。その後、名古屋本社経済部員、青森総局次長、大阪本社経済部員。2011年4月から14年9月まで2度目の東京本社経済部員で、金融情報面(株式面)や社会保障取材班を担当した。
 経済記者としては、これまで通産省(現・経産省)、鉄鋼業界、トヨタ自動車(名古屋)、関西空港などを取材してきた。通産省クラブ時代から、コーポレート・ガバナンスや会計監査について自主的に取材を重ね、朝日新聞のオピニオン面に掲載される記者有論などで論じてきた。2014年9月から石巻支局員として東日本大震災からの復興の過程を取材。2018年4月から東京本社の経済部員として財界などを取材している。

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