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深掘り

オピニオン

監査役協会の岡田会長にインタビュー「毅然とした態度への覚悟も」

加藤 裕則(かとう・ひろのり)

 7千社近くが会員会社として加盟する日本監査役協会がいま、会計監査人(監査法人など)とともに変わろうとしている。監査法人の業界では、東芝の不正決算の影響もあり、東証1部の上場企業を中心に2020年3月期から、新たにKAM(カム=Key Audit Matters、監査上の主要な検討事項)を監査報告書に記入する制度が始まる。さらに、今年1月に金融庁から「会計監査についての情報提供の充実に関する懇談会(充実懇)」の報告書が公表され、会計監査人の説明責任が強く求められることになった。外部から決算書を調べる監査法人に対し、監査役は会社の内部から、社長ら取締役の業務を点検する役割を負っている。その監査役(監査委員も含む)も、KAMや充実懇によって大きな役割を課されている。監査法人と監査役、似て非なるものだった両者は、どんな関係になるのか。日本監査役協会の岡田譲治会長(三井物産監査役)に聞いた。

拡大岡田 譲治(おかだ・じょうじ)
 1951年生まれ、横浜国大経済学部卒業。74年に三井物産に入社。経理部長などを経て2014年に副社長執行役員CFO(最高財務責任者)。15年から常勤監査役。
 部下の一人によれば「気さくで聞き上手」。17年11月から日本監査役協会会長。企業不祥事があるたびに批判が集まる会計監査人(監査法人や公認会計士)に比べ、社会の注目度が低い監査役。その現状に強い危機感を持ち、認知度向上のため積極的に講演やインタビューに応じている。
 ――最近の制度改正を見ていると、監査役は、経営者と監査法人の間に立った仲介者のような役割を期待されているような気がします。実際、どうなのでしょうか。

 まず基本的な監査法人との関係を話します。会計監査について監査役は、監査法人の監査に依拠します。その結果が相当かどうかを判断するのです。直接、会計監査をするのではなく、監査法人による会計監査の方法を評価します。また、2014年に会社法が改正され、監査法人の選任と解任の株主総会議案決定権が監査役にあたえられました。それまでは経営者の判断に同意するかどうかでした。4年ほどたち、上場会社を中心にこの選解任に関する権限に対して、各社、真剣に取り組んでいます。さらに、監査法人が十分に会社を監査できる環境にあるのかという環境整備も監査役の仕事です。監査法人の仕事について、経営者の理解を促進し、両者の関係がうまく行くように橋渡しをするする役目もあります。監査役と会計監査人とのコミュニケーションも大事です。仲介役といえば、仲介役ですが、独立した機関としてもっとプロアクティブ(能動的)の役割があると考えています。受け身ではなく、ものごとを先取りして自ら判断して能動的に動いていくことが、監査役にますます期待されています。

 ――充実懇の中では、監査役の責務もあちこちに盛り込まれています。

 特に、異例な監査意見が出た場合ですね。限定付き、不適正意見、意見不表明といった意見のときです。そのとき、監査役は「はい、そうですか」と傍観してはいけません。特に「継続企業の前提に関する開示」があるような場合に、会社から十分な開示がないと意見不表明の原因となることが考えられます。会計監査人から「会社から十分な資料が出てきませんでした。意見を表明できません」と言われるようでしたら、監査役は、社長ら執行側に対し、包み隠さず開示させることが重要です。監査役は、株主とか投資家の立場を考えて行動するべきで、経営者側に開示を促すことも必要と思っています。

 ――KAMが導入されますが、何か問題があった場合、監査役は経営者と会計監査人の間に入るのでしょうか。

 監査人は監査役と十分に打ち合わせたうえで、まずはどういうものをKAMの候補にするのか考えます。監査役も大いに関与していくわけです。そのうえで、監査人がKAMとして書きたいとした事項に対し、経営側が「これはいやだ。開示したくない」と言った場合、ここに監査役が間に入り、経営側に開示を促すことも必要です。一方、監査役が経営者と同じ意見のこともあるでしょう。監査人が言っている事実関係と、会社が言っている事実関係と、双方の主張を聞いて、監査役は株主の負託を受けているという意識を持ってフェアに中立に対応する必要があります。場合によっては、監査人と一緒になって経営者を説得する必要もあるのです。

 ――これまで、監査役は経営者から指名されることもあり、経営者に近い存在だと思っていました。少し監査法人の側に寄ってきた感じがします。

 間違ってはいないと思います。監査役をどう考えていくのか、経営者側の意識もまちまちです。うるさい監査役をいらないという会社もありました。自分の言うことを聞く人を監査役にしようとする経営者もいるのかもしれませんが、監査役にはぜひ、期待される職務を果たした上で4年の任期をまっとうしてほしいと思っています。

 ――3月に出た日産自動車ガバナンス改善特別委員会の報告書では、「うるさい監査役」を再任しなかったり、カルロス・ゴーン前会長が何も言わない監査役を探してこいといったりしたことが明らかになりました。昨秋、スルガ銀行でも監査役が機能したかどうかが問題になりました。

 日産の報告書を見ると、内部通報を受けた監査役が調査し、不正行為の把握の端緒になったことが記されており、これは監査役の職責を果たしたといえると考えています。いざとなったらやるべきことをやる。そのモデルケースかと思います。スルガ銀行の件では、最初の第三者報告書で、常勤監査役の善管注意義務違反があっと指摘されており、「不正等の兆候に直面した場合、ちゅうちょせずに経営陣に対して毅然とした態度で臨む覚悟が求められます」との会長声明を出して、会員に注意喚起を促しました。監査役には、他社のケースを他山の石として、監査品質の向上に努めてもらいたいと思っています。

 ――充実懇でも取り上げていましたが、会計監査人の交代理由の説明として「任期満了」だけの記載が多く、適切ではないと指摘されていました。そもそもですが、監査役が自主的にこの改善を求めることはできなかったのでしょうか。

 「任期満了」は間違いではありませんが、実際の交代理由が明らかとなっていないのも事実であり、監査役として反省すべきところもあります。ただ、日本の企業には、開示はできるだけ少なくして余計なことは言わない方がいいという意識があったことも否定できません。一方、欧米では、後で問題が起きた場合、開示していないがために責任が問われることに加え、開示により企業に対する株主や投資家の信頼を得るとの考え方があると思います。KAMの導入等の開示の充実のための施策が、企業価値の向上につがるとの意識を監査役も持つべきです。

加藤 裕則(かとう・ひろのり)

 1965年10月、秋田県生まれ。岩手大人文社会科学部卒業。89年4月に朝日新聞社入社。静岡支局や浦和支局(現さいたま総局)などに赴任した後、99年東京本社経済部員。その後、名古屋本社経済部員、青森総局次長、大阪本社経済部員。2011年4月から14年9月まで2度目の東京本社経済部員で、金融情報面(株式面)や社会保障取材班を担当した。
 経済記者としては、これまで通産省(現・経産省)、鉄鋼業界、トヨタ自動車(名古屋)、関西空港などを取材してきた。通産省クラブ時代から、コーポレート・ガバナンスや会計監査について自主的に取材を重ね、朝日新聞のオピニオン面に掲載される記者有論などで論じてきた。2014年9月から石巻支局員として東日本大震災からの復興の過程を取材。2018年4月から東京本社の経済部員として財界などを取材している。

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