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訴訟代理の「紹介料」めぐるベリーベスト弁護士懲戒は杓子定規すぎる

Stephen Givens(スティーブン・ギブンズ)

べリーベスト懲戒事件:被害者のない「罪」?

 

外国法事務弁護士・米NY州弁護士
スティーブン・ギブンズ(Stephen Givens)

拡大Stephen Givens(スティーブン・ギブンズ)
 外国法事務弁護士、米ニューヨーク州弁護士。ギブンズ外国法事務弁護士事務所(東京都港区赤坂)所属。
 東京育ちで、1987年以降は東京を拠点として活動している。京都大学法学部大学院留学後、ハーバード・ロースクール修了。
 日本企業に関わる国際間取引の組成や交渉に長年従事している。

 東京弁護士会が2020年3月、弁護士法人ベリーベスト法律事務所(以下「ベリーベスト」)の弁護士2名に対して業務停止6ヶ月という厳しい処分を言い渡した。これは、ルールの前提条件―目的・政策・被害者の有無など―を考慮せず、杓子定規にルールを適用したものであり、リーガル・マインドを欠如している、と私は思う。

 この懲戒事件の焦点の一つは、訴訟案件の代理がAからBに移る際にBがAに金銭を払うことは、弁護士職務基本規程第13条第1項で禁止されている「紹介の対価」に当たるかどうかだ。懲戒委員会は、代理の移転に伴う支払いには必ず「依頼者の紹介を受けたことに対する謝礼その他の対価」が含まれているので、本件の支払いもその例外に漏れず、違反である、という結論に達した。

 しかし、私の分析では、本件のAB間の取引の内容と性質は純粋な「紹介料」とは異なる。懲戒委員会の結論は結局、被害者のない「罪」に厳しい処分を科すもので、正義に反する。

 本件の「紹介料」の性質を評価するには、事実関係を精査する必要がある。

 某司法書士法人は大勢の個人依頼者の代理人として、貸金業者を相手にする過払金請求訴訟事件を扱い、法定利率を上回る利息を請求していた。認定司法書士は、簡易裁判所において訴額140万円を超えない案件の代理権を有するが、訴額が140万円を超える案件は地方裁判所の管轄で、司法書士ではなく、弁護士が担当しなければならない。

 この司法書士法人と依頼者との間では、貸金業者から最終的に過払金を回収できた場合、司法書士法人が成功報酬を受け取る契約になっていた。回収できなかったら、報酬はない。

 司法書士法人は、依頼者の案件ごとに処理・分析を行っていた。処理の結果、請求できる金額が140万円を超えることが分かると、依頼者に連絡し、その同意を得た上で案件を丸ごとベリーベストに譲った。

 ベリーベストは、引き継いだ案件1件ごとに一律の金額を司法書士法人に支払っていた。ベリーベストは、当該支払いは紹介料ではなく、司法書士法人が行った事件の処理、分析および裁判書類作成業務のコストと成果の対価であると強く主張している。

 これに対する懲戒委員会の分析は極めて抽象的だった。懲戒委員会は、支払いの一部がそれまでの司法書士による「成果物」の対価だとしても、「成果物とともに依頼者が依頼しないのであれば意味がなく、依頼者(及びその抱えている紛争)と成果物をワンセットとして引き継いで初めて意味を持つのである。」と結論づけた。「成果物の対価が発生したとしても、その対価を払うのはあくまでも依頼者である」、つまり「依頼者」と「成果物」が不可分であるというのだ。したがって、代理の変更に伴う支払いは自動的に弁護士職務基本規程第13条第1項に抵触し、厳しい処分の対象になるという結論だ(注)

 「依頼者」と「成果物」が不可分であるから、その「ワンセット」の移転に伴う支払いには禁止されている「紹介料」が混じっているという分析はかなり抽象的だ。だが同時に懲戒委員会は、この支払いが純粋な紹介料とは異なり「依頼者の利益になる」ものだと認めている。このような支払いを禁じると、誰が利益を受けるのか?逆に、許すと、誰が被害を受けるのか?懲戒委員会の理屈はルールの意図、目的、政策、被害者の有無等を見落としている。

 諸外国でも純粋な紹介料を禁止するルールは珍しくない。ルールの主な目的は、紹介料を稼ぐために市民に無駄な訴訟を薦める「事件屋」から生じる紛争を防ぐことだ。更なる目的として、依頼者が弁護士を選択する際、弁護士の経験や能力に関して正確な情報を得られるようにすることも挙げられる。弁護士から紹介料を受けとっている仲介人は、依頼者にその弁護士の強みと弱みを客観的に説明できないからだ。

 しかし、本懲戒事件の対象の支払いは上記のような純粋な紹介料と大きく異なる。本来ならば司法書士は弁護士に譲らず最後まで依頼者を自身のクライアントとして持ち続けたかっただろう。訴額の規定により、仕方なく弁護士に案件を引き渡す必要が生じた。

 このような代理の変更はよくあることだ。例えば、

 弁護士の都合による変更:元の弁護士が、必要な知識を持っていない、病気になった、退職する等の理由で別の弁護士に依頼人や案件を引き継ぐ。

 依頼者の都合による変更:依頼人が元の弁護士に満足しておらず、新しい弁護士に案件を引き継がせる。

 通常の(成功報酬制度でない)報酬体系であれば、変更の際に依頼者がそれまでの元の事務所の請求書を払い、新しい事務所のそれ以降の請求書を払う、いわゆるクリーン・ブレークが可能だ。この場合なら、懲戒委員会の言う「成果物の対価が発生したとしても、その対価を払うのはあくまでも依頼者である」という理屈は妥当かもしれない。

 しかし、本件の成功報酬体系の場合となるとそうはいかない。依頼者は最後に良い結果が出た場合のみ報酬を払うことになっていた。代理が途中で新しい事務所に移ったら、元の事務所はそれまでの仕事の対価を依頼者に求めることは困難だった。

 ある高齢の弁護士を例に考えてみよう。彼は長年、ある依頼人のために成功報酬で訴訟を手がけてきた。弁護士は、その事件のために何百時間も自身の時間を割いて調査を行い、様々な経費を自腹で支払ってきた。この弁護士はもうすぐ70歳で、もはや本来注ぐべきエネルギーや能力をもって依頼人の代理を務めるのは無理だと感じている。そこで退職を決意する。ちょうど同じ町に将来有望な若手弁護士がいて、高齢弁護士はその若手にこの案件を引き継ぎたいと考えている。

 懲戒委員会の理由づけに従えば、案件の引き継ぎにあたっての若手弁護士から退職する弁護士への一切の金銭の支払いは、弁護士職務基本規程第13条第1項の下、できないことになる。なぜならば、その支払いは必然的に案件の「紹介」に対する対価が含まれるからだ。

 結果として、高齢の弁護士は恐ろしく気の毒な立場に置かれる。彼は最後まで自分でこの案件を扱い続けるか、それまでこの事件のためにつぎ込んできた労力の対価を完全に放棄して、事件を無償で引き継がなくてはならない。前者を選べば、判決がでるまで依頼人に支払いを請求することができない。後者なら、若手弁護士が勝訴したとしても報酬を請求することはできない。

 この若手弁護士が高齢弁護士に彼の労働と費用の対価を支払うのを禁じることで、どのような合法的な目的が達成され、あるいはどのような損害が回避できるというのだろうか。高齢の弁護士は「紹介料」を得たいがために依頼人を探して他の弁護士に「売った」わけではない。実際のところ若手弁護士による支払いを禁じることに有効な目的はなく、逆に支払いがなされないことで高齢弁護士は多大なる不公平を被る。

 弁護士が最後まで一定金額(例えば100万円)の報酬で事件を引き受けるという取り決めの場合にも似たような問題が発生する。事件の途中で弁護士が交代されると、100万円の報酬をどう分けるかという問題が発生する。総額が同じであれば、それを弁護士間でどう分配しようと依頼者にとってどうでもよい話だ。元の弁護士が100万円を前払いとしてすでにもらっていれば、事件の移転の際に(弁護士同士で合意した)その一部を払えばよい。事件が完了してからの後払いであれば、新しい弁護士がその一部を元の弁護士に払えばよい。にもかかわらず、後者は、懲戒委員会によればできない。

 いずれにせよ、このような弁護士間の支払いを違法な「紹介料」ではなく、正当な清算取引として解釈できる余地は十二分にある。

 ベリーベストが主張している「成果物の対価」という解釈は十分成り立つ。新事務所が依頼者の旧事務所に報酬を払う(未確定の)債務を肩代わりしたという考え方もできる。さらに、旧事務所がその未確定の債権を新事務所に有料で譲渡したというふうにも考えられる。どれも合法であるはずだ。

 懲戒委員会はなぜ、取り決め全体の中の経済的本質についてもっと現実的な見方ができなかったのだろう。実務的な脈絡や支払いの経済的本質を考えず抽象的に弁護士職務基本規程第13条第1項を適用したために、このような甚だしく不当な結論を出すに至ったのではないか、というのが私の見立てである。

 ベリーベストの2人の弁護士は、倫理的・道徳的に悪いことをしたと暗に非難され厳しい制裁を受けた。

 だが、こうした支払いで実際にはだれか損害を被った人がいたのか? 被害者はどこにいるのか?実際の損害または損害の恐れとは具体的に何だったのか? 公表された懲戒委員会の議決の文面を見ても、こうした問題が論じられているところは一切ない。

 ▽注: 本懲戒事件では、弁護士職務基本規程第13条第1項違反のほかに、弁護士法第27条(非弁護士との提携の禁止)違反も処分理由に挙げられていた。懲戒委員会の分析はそれについても非常に抽象的なものであった。懲戒委員会は、当該某司法書士法人が140万円を超える事件を取り扱うことが禁止されている「弁護士又は弁護士法人でない者」にあたることを前提に、弁護士が「弁護士又は弁護士法人でない者」である司法書士とこのような取引を行ったことが、弁護士法に禁止されている非弁護士との「報酬を得る目的」での「周旋」であるとされた。この論理は140万円まで司法書士が問題なく事件を取り扱うことが合法だった、140万円を超えることが判明された時点で事件を弁護士に譲った、依頼者に実害がなかったこと等の事実関係を無視して、弁護士職務基本規程第13条第1項違反の論理と同様に極めて形式的でご都合主義的な断定の仕方だと思う。

Stephen Givens(スティーブン・ギブンズ)

 外国法事務弁護士、米ニューヨーク州弁護士。ギブンズ外国法事務弁護士事務所(東京都港区赤坂)所属。
 東京育ちで、1987年以降は東京を拠点として活動している。1976年から77年にかけて京都大学大学院に留学した後、1982年にハーバード大学ロースクール修了。現在、上智大学法学部教授。日本企業に関わる国際間取引の組成や交渉に長年従事している。国際間M&Aから、コーポレート・ガバナンス問題、民間・公的融資、戦略的提携、合弁事業などに経験を持つ。

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