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深掘り

臨床研究の不祥事はなぜなくならないのか

大学病院で明らかになった倫理審査体制の不備と臨床現場への周知不足

群馬大学病院肝臓手術8人死亡②

出河 雅彦(いでがわ・まさひこ)

 より有効な病気の治療法を開発するために人の体を使って行う臨床研究は被験者の保護とデータの信頼性確保が欠かせないが、日本では近年明らかになったディオバン事件にみられるように、臨床研究をめぐる不祥事が絶えない。この連載の第1部では、生命倫理研究者の橳島次郎氏と朝日新聞の出河雅彦記者の対談を通して、「医療と研究をきちんと区別する」という、現代の医学倫理の根本が日本に根づいていないことを、不祥事続発の背景事情として指摘した。第2部では、患者の人権軽視が問題になった具体的な事例を検証する。その第5弾として取り上げるのは、群馬大学医学部附属病院で行われた肝臓の腹腔鏡手術で多数の患者が死亡した事故である。第2回の本稿では、院内調査の報告書が発表されるまでの経緯を取り上げる。

拡大群馬大学医学部附属病院=群馬県前橋市昭和町
 前回述べたように、群馬大学病院は、第2外科が腹腔鏡を用いて行った肝臓の手術で8人の患者が死亡した問題を調べるために「腹腔鏡下肝切除術事故調査委員会(以下、院内調査委員会)」を設置した。2014年8月28日に開いた第1回委員会では、外部委員から調査の進め方などについて意見を聞いた。その後、9月17日に開いた第2回委員会では第2外科の竹吉泉教授ら同科の複数の医師からヒアリングを行い、10月16日の第3回委員会では肝臓手術を専門とする第1外科の医師にも加わってもらい、検討を行った。筆者の法人文書開示請求に対して群馬大学が開示した2回目以降の院内調査委員会の議事要旨は第1回調査委員会と異なり黒塗りで開示されたため、具体的な議事内容は不明だ。

 調査が進められていた11月14日、読売新聞が肝臓の腹腔鏡手術で患者8人が死亡していたことを報道したため、群馬大学病院は急きょ記者会見を開いた。朝日新聞は翌11月15日付朝刊で次のように報じた。

拡大腹腔鏡を用いた肝臓手術での患者死亡について発表する群馬大学病院の関係者=2014年11月14日
 病院によると、執刀したのは第2外科助教の40代男性医師。2010年12月~今年(2014年)6月、第2外科で92人が肝臓の腹腔鏡手術を受けた。そのほとんどは男性医師が執刀した。このうち、肝臓がんなどの60~80代の男性5人、女性3人が手術後に容体が悪化し、2週間から100日以内に、敗血症や肝不全などで死亡した。手術と死亡の因果関係は「調査中」という。

 野島美久院長は14日、群馬県庁で記者会見を開き、病院の組織的な対応の不備を認め、「遺族に心より深くおわび申し上げたい」と謝罪した。

 亡くなった8人の手術を含む56人の手術は、高難度の「区域切除」など保険適用外だった。事前に患者や家族に危険性などを説明し同意を得ることに加え、内規で定める臨床試験審査委員会の審査を事前に受ける必要があった。さらに今年度からは、学術性の高い手術以外は新たに設けた臨床倫理委員会に申請するように制度が変更された。

 だが、死亡した8人を含むほとんどの手術について、男性医師は事前申請をしていなかった。病院の調査に「認識が乏しかった」と説明しているという。

 野島院長は「病院の審査組織で審査、検証するべきだが、手続きがなく把握が遅れた。体制上の大きな問題だと認識している」と話した。

 さらに、病院は男性医師が執刀した患者のカルテに、患者本人や家族に事前に説明した内容が十分に記されていなかった点も問題視。患者や家族に聞き取りし、調査委員会で調べる。

 男性医師が、比較的規模の大きい肝臓手術の際に行う事前検査をしていない場合があったことも確認された。男性医師は「通常の検査で十分だと判断した。甘かった」と話しているという。病院は、調査委員会の結果を今年度内にまとめる方針だ。

 筆者の法人文書開示請求に対し、群馬大学はこの日の記者会見の概要を記録した文書を開示した。それによると、野島病院長ら病院関係者と記者との間で保険適用外手術の事前審査について以下のようなやりとりがあった。

 Q この倫理委員会は保険適用外手術の実施のために設けられたものか。

 A 臨床倫理委員会はこのようなケースも対象としているが、このほかのさまざまな審査を行う機関である。またこの他に、IRBや各種臨床研究倫理審査委員会などがある。

 Q 保険適用外手術はすべて倫理審査を通っているのか。

 A 全てではないが、高難度の手術や侵しゅう性の高い治療では、倫理審査を行っている。

 Q 腹腔鏡の手術を積極的におこなっていたようだが、保険適用外の実施をどの程度把握できていたのか。

 A 申請されないと把握ができないが、そのための周知等の取り組みが足りなかった。

 Q 病院長や医療安全部長は把握できていなかったか。

 A 今回の8例は把握した後に、委員会を設置した。

 Q 本来必要な手続きは。

 A この手術が行われていた期間では、IRBに申請をいただくべきであったが、申請されていなかった。臨床倫理委員会で保険適用外を審査する体制が最近整ったものであったため、当時ではIRBで申請いただくしかなかった。

 Q IRBの正式名称は。

 A 臨床試験審査委員会である。

 Q 診療科長にも聞き取りはされているのか。

 A 認識が甘かったと語っている。IRBとして申請されており、その中に診療科長は全て含まれていると考えていたようだ。

 Q 執刀医の聞き取りについて

 A 申請していないことは認識していたが、申請手続きをおこなって行わなければならないということの認識が甘かった。決して故意ではない。

 Q 同じように申請しなければならないのに、申請していない他の医療チームはあるのか。

 A 今回の発覚後確認したが、確認した限りそのようなチームはない。

 Q 先進医療で出てきた他の施設とは

 A 他大学である。

 Q 8例はIRBに申請されていたら通っていたか。

 A 先進医療のプロトコルに適合するかどうかの問題があるが、そこまでは確認できていない。

 Q 今回の8例はすべて区域切除か。

 A さまざまなケースがある。もうすこし大きなものである。区域を複数取ると右よう(※筆者注=肝臓の右側ほぼ半分を占める「右葉」を意味する)切除などもある。

 この質疑応答に出てくる臨床倫理委員会、臨床試験審査委員会(IRB)とはいかなる組織なのか。群馬大学病院が「臨床倫理委員会で保険適用外を審査する体制が最近整ったものであったため、当時ではIRBで申請いただくしかなかった」と説明しているように、第2外科で腹腔鏡を用いた保険適用外の肝臓手術が行われていた当時、両者の役割分担は必ずしも明確になっておらず、事前審査に関する現場への周知も徹底されていなかったようだ。それは、すでに紹介した第2外科の腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術が事前審査なしに開始され、2013年になって医師主導臨床試験としてIRBの審査を受けたことからもわかる。

 筆者の法人文書開示請求に対して群馬大学が2017年2月に開示した「群馬大学医学部附属病院臨床試験審査委員会内規」(2004年4月1日制定、2004年9月14日改正)によると、委員会は「臨床試験の実施に関し、倫理的及び科学的観点等」から、①目的、計画及び安全性の確認、②研究上の価値、③臨床試験責任医師及び臨床試験分担医師の適格性、④被験者の健康被害に対する補償措置、⑤被験者への説明及び同意文書、⑥終了報告、⑦その他臨床試験の実施に関する必要な事項――に関することを調査・審議することになっていた。第2外科の腹腔鏡下肝切除術による一連の死亡事例が院内で把握されてから約半年後の2014年12月9日の改訂によって、委員会の役割は「企業治験、医師主導治験、製造販売後調査等及び投薬や手術、侵襲を伴う検査などの医療行為に関わる研究並びに保険適用外の診療行為に関わる研究」の実施に関して調査・審議を行う機関となった。

 一方の臨床倫理委員会は、筆者に開示された2010年1月1日制定の「群馬大学医学部附属病院臨床倫理委員会規程」では、「病院長の諮問に応じ、臨床現場における倫理に関する事項(終末期医療に関する事項を含み、臨床研究に関する事項を除く。)について、社会的・医学的観点から審議する」ことが任務として定められていた。群馬大学病院は第2外科における一連の死亡事例が永井弥生・医療安全管理部長の予備的な調査で発覚し、野島美久病院長に報告された8日後の2014年7月8日にこの規程を改訂し、「必要に応じて専門委員会を置くことができる」という条文を追加した。ただし、専門委員会の設置は、第2外科における一連の死亡事例がわかる前から決まっていたものだった。

 筆者の法人文書開示請求に対して群馬大学が2019年10月に一部黒塗りで開示した「群馬大学医学部附属病院臨床倫理委員会議事録」(2014年6月6日開催)によれば、この日の臨床倫理委員会で「必要に応じて専門委員会を置く」という同委員会規程の改正が了承されている。

 臨床倫理委員会専門委員会の第1回会議が開かれたのは、肝臓の腹腔鏡手術事故の院内調査委員会の初回が開催される前の2014年8月19日である。筆者の法人文書開示に対して群馬大学が2017年4月に一部黒塗りで開示した同日の専門委員会議事録によれば、この日の会議では主に、集中治療室(ICU)での治療によっても救命が困難な60代の女性患者への対応をどうするか、が討議された。この時点では、主に終末期医療への対応が必要な場合や、「臨床現場で対応困難と考えられた場合」などに専門委員会を開催することが想定されていたことがわかる。

 同じく群馬大学が開示した臨床倫理委員会専門委員会第2回会議(2014年10月7日)の議事録によれば、委員の一人だった永井弥生・医療安全管理部長が同委員会の新たな役割について以下のような説明を行い、実施が確認されている(下線は筆者による)。

  • 終末期医療やICUの治療困難事例に関する討議の場として臨床倫理委員会があるが、外部委員参加の規定等があり、現場の問題に対する迅速な対応が難しい。このため、臨床現場での問題の討議の場として、各診療科に委員を依頼し、臨床倫理専門委員会を立ち上げることとなった。
  • これに加え、新規の先進的・侵襲的医療行為の審査やモニタリングを行う機関がなかったことが問題として認識され、この承認も本委員会でお願いすることとなった。IRB審査が臨床研究を対象とするのに対し、本委員会での審査はあくまで診療の一環として行う場合を対象とする位置づけである。あまり煩雑とならないようにしたいが、手続き方法等についても今後意見をいただき検討、改善していきたい。
  • さらに、同意書の統一化を進める方針であり、その承認を本委員会で行う体制を考えている。

 このように群馬大学病院は第2外科における一連の腹腔鏡手術事故に関する調査を進める一方で、新規性や難度の高い医療行為の事前審査を行うためのルールや組織を整備していった。

 筆者の法人文書開示請求に対して群馬大学が2017年4月に開示した2014年度の臨床倫理委員会専門委員会議事録によると、読売新聞の報道によって第2外科における腹腔鏡手術事故が明るみに出る2014年11月14日までに計5回の臨床倫理委員会専門委員会が開かれ、そのうち第2回(10月7日)、第3回(11月4日)、第5回(11月12日)で、新規性や難度の高い医療行為の事前審査を行っている。筆者の法人文書開示請求に対して群馬大学は2019年7月、臨床倫理委員会専門委員会で実際に審議された医療行為の申請書や実施状況報告書を一部黒塗りで開示した。その一つは、読売新聞の報道の2日前の2014年11月12日に循環器内科が実施した、重症の慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の患者に対する経皮的肺動脈形成術(BPA)に関する文書である。

 「先進的・侵襲的な新規医療行為 臨床倫理専門委員会審査申請用紙」という申請書には、BPAの実施方法が記され、群馬大学病院での実施経験はないものの、他の大学病院などで100例以上行われ、「有効性が示されている」と記されていた。また、公的医療保険が適用されないため、校費を申請することも記載されていた。この治療が行われた翌日の11月13日付の「実施報告書」によると、BPAの実績がある慶応大学の循環器内科医師の指導を受けながら実施したことがわかる。報告書には「BPAの手技は専用の特別なデバイスが必要なわけではなく、通常の末梢血管インターベンションのデバイスで治療可能。手技自体は平易なため、インターベンション専門医と指導医の資格を有していれば術者として問題ないと思われる。また、通常のBPAは数日にわたって複数回こまめに行うため、初回の治療から5日後に2回のBPAを行うことは通常のケースと同様である。また、5日後に施行することも指導医からご教授いただいたものである」と記載されていた。

 群馬大学病院は当時、厚生労働省医政局地域医療計画課長宛てに「腹腔鏡手術後における患者死亡に関する改善報告書」を提出したとみられる。群馬大学が2019年に7月に筆者に開示した同名の文書に日付はないが、記載内容から、11月14日の記者会見の前後に作成、提出されたものと思われる。その報告書には第2外科の一連の手術死亡事例で明らかになった、有害事象の院内報告の不徹底や不十分なインフォームド・コンセント、保険診療制度の理解不足などについてどのような対応策を立案、実施(予定)しているかがまとめられている。その中には「新規もしくは高難度の医療行為導入時における指導、審査、認定方法の不備」の対応策として次の4点が記されていた。

  1.  IRBを始め各種審査委員会の規程を見直し、審議対象を明確に定める。
  2.  医師等が倫理審査適応を自己判断が簡便にできるようにフローチャートを作成し、届け出すべき委員会とその手続きが分かりやすいようにする。
  3.  臨床試験には該当しないが、先進的侵襲的な医療行為の審査機関として、臨床倫理委員会に専門委員会を設置する。
  4.  臨床倫理委員会専門委員会で承認した医療行為についても実施結果の報告を義務付け、検証する体制とする。

 この改善報告書には、すでに5回の臨床倫理委員会専門委員会が開催され、4件の医療行為が申請、承認されたことや、実施報告書が3件提出されていること、今後IRB(臨床試験審査委員会)との審査対象の違いを明確にしていく予定であることも記載されていた。群馬大学病院は2014年12月9日、前述の臨床試験審査委員会内規の改訂と同時に、臨床倫理委員会規程を改訂し、その第2条で臨床倫理委員会の任務を次のように定めた。

 委員会は、病院長の諮問に応じ、臨床現場における倫理に関する次の各号に掲げる事項(臨床研究に関する事項を除く。)について、社会的・医学的観点から審議する。

 (1) 終末期医療に関すること。

 (2) 保険適用内の医療行為ではあるが、高度侵襲的など特に倫理審査を要すると判断されたもの。

 (3) 保険適用外であるが、生命維持のために必要かつ緊急性を要する医療行為

 (4) 説明・同意文書に関すること。

 (5) その他臨床現場における倫理に関すること。

 このように新規性や難度が高い医療行為の審査ルールを整えていった群馬大学病院は12月19日、記者会見を開き、院内調査委員会の中間報告書(2014年12月9日付)の内容と改善策を発表した。2010年12月から2014年6月までの4年間に第2外科で実施された92例の肝臓の腹腔鏡手術のうち58例(それまでの説明では56例)が保険適用外の手術である疑いがあり、そのうち8人の患者が術後4カ月以内に亡くなっていたことを明らかにした。群馬大学が記者会見で配った資料には、それまでに計4回開催された院内調査委員会での検証の結果、指摘された問題点として次の5点が記されていた。

  1.  新規医療技術の導入に際し、診療科として組織的取組が行われていなかった。
  2.  術前評価が不十分であり、過剰侵襲から予後を悪化させた可能性が考えられる。
  3.  手術に関する説明同意文書の記載が不十分であり、適正なインフォームドコンセントが取得できているか確認ができなかった。
  4.  院内の報告制度は確立されているが、診療科から報告がなされておらず、病院として問題事例の把握が遅れた。
  5.  保険診療制度に対する理解が浅く、不適切な保険請求がなされた。

 記者会見の1週間前に厚生労働省に提出された改善報告書の内容も説明された。すでに述べた「新規もしくは高難度の医療行為導入時における倫理審査体制の整備」のほか、入院期間中の予定外の再手術や手術関連死亡、退院後7日以内に生じた合併症で再手術などが必要になる事例、集中治療室(ICU)への入室期間が2週間を超える事例、急変や予定外手術による緊急ICU入室事例といった「問題事例」を早期に漏れなく把握するための院内ルールの変更や、患者への説明同意文書の記載内容、書式の院内統一と説明同意文書の承認制度の導入、医療安全管理部の医療の質・安全管理部への改組、ナンバー外科診療体制の廃止と臓器別外科診療科への再編成などが含まれていた。

拡大「保険適用外の新規手術は臨床試験として実施するという意識が診療科に欠けていた」と指摘した群馬大学病院院内調査委員会の最終報告書
 院内調査委員会の最終報告書(2015年2月12日付)が発表されたのは、2015年3月3日だった。中間報告の発表後、第2外科の肝臓の腹腔鏡手術の実施例1例が新たに確認されたことから、2010年12月~2014年6月に同科で行われた肝臓の腹腔鏡手術の総件数は93例で、手術関連死亡はいずれも保険適用外の手術を受けた8人だった。8人に関する「術後経過」は以下のように報告書に記載されていた(患者を示す数字の後は診断名)。

  • 患者1(肝細胞癌) 術前診断は、C型肝炎、肝硬変。手術翌日から腹腔内出血があり輸血、その後ビリルビン上昇があり、5日目以降は12~14mg/dlと高値が持続した。重症胆管炎から敗血症、出血傾向、ショックとなり、術後66日目に多臓器不全で死亡。
  • 患者2(肝細胞癌、胆管内腫瘍塞栓) 術中出血が2801mlと多かった。術後8日目に腹腔内出血で出血性ショックとなり、血管塞栓療法で治療。その後も血漿交換、透析等で治療を行う。肝機能、腎機能ともに著明な改善なく、肺炎も重篤化し、多臓器不全の状態で術後26日目に死亡。
  • 患者3(悪性リンパ腫) 術前診断は、ステロイド抵抗性の炎症性偽腫瘍。術後に急性呼吸促迫症候群を発症、人工心肺装置などで救命を図るが、多臓器不全となり、36日目に死亡。手術標本の病理診断は悪性リンパ腫であった。
  • 患者4(転移性肝癌) 術前は下垂体ACTH産生腫瘍のためACTH異常高値の状況。手術後に血圧と脈拍の変動が強くなり、出血が多くICUへ入室。術後8日目より肺炎兆候があり、肝機能が悪化し、血漿交換を行う。肺炎は改善せず術後17日目、多臓器不全の状態となり死亡。
  • 患者5(胆管細胞癌) 腹水が持続していたが術後20日目に退院。退院後6日目に腹部膨満にて救急外来受診、腹水排液後帰宅するが、翌日自宅で意識消失、救急搬送されたが同日死亡確認。
  • 患者6(肝門部胆管癌) 術後に胆管空腸吻合の縫合不全による感染をきたし、その制御が困難となる。重症胆管炎が制御できず、肺炎、カンジダ敗血症を合併し、術後97日目に死亡。
  • 患者7(肝細胞癌) 術後15日目から胆管空腸吻合部の遅発性縫合不全のため腹腔内出血を発症、肺炎の遷延や消化管出血を繰り返し腎障害が進行、制御困難となる。多臓器不全の状態となり、術後59日目に死亡。
  • 患者8(肝細胞癌) 術前診断は慢性C型肝炎、肝硬変。術後に大量の腹水、胸水、が持続した。術後42日目に肝機能、腎機能ともに急激に悪化。術後46日目に出血傾向、呼吸状態、肝機能の悪化、心不全など多臓器不全の状態で死亡。

 手術関連死亡の割合は肝臓の腹腔鏡手術全体に対しては8.6%(8/93)、保険適用外手術(58例)のみで解析すると13.8%(8/58)だった。最終報告書には、群馬大学病院で一連の死亡事例があったことが明るみに出た後に関係学会が行った調査の結果も記され、以下のように、群馬大学病院との対比が行われている。

 2015年1月15日に発表された日本外科学会と日本消化器外科学会合同による緊急調査結果(速報)によると、全国2236施設で1198例に実施された保険適用外の腹腔鏡下肝切除術の死亡率は2.27%であった。一方、附属病院第二外科における死亡率は13.8%(8/58)である。また、上記全国調査における「外側区域を除く1区域以上の肝切除術(=腹腔鏡保険適用外)」における腹腔鏡手術の割合が5.1%であるのに対し、附属病院第二外科では2010年12月以降に実施された同手術の50%以上が腹腔鏡で行われており、他施設に比べてかなり積極的に腹腔鏡手術を導入してきたと言える。患者背景が異なることから、附属病院第二外科の成績が全国成績に比して不良であるとは直ちに結論できないが、新規治療の積極的な推進に際し、診療科として安全確保への配慮が足りなかったと推察される。特に、導入後1年未満に4例の死亡例が認められたことは重視される。死亡例が続いた早期の段階に診療科で問題意識が生まれ、十分な検証と対応策が立てられるべきであったが、その形跡が認められなかった。難度の高い手術が多い肝胆膵外科領域で、チームの構成員は2名のみであり、回診やカンファレンスで十分な審議が行われず、卒後20年の当該主治医が全ての診療を担っていた。他からの意見や批判を受けることなく、閉鎖的診療体制が続いていたことが、事故の背景因子として存在すると考えられる。以上のことから、主治医はもとより、新規治療を導入する上での診療体制を整備・統括すべき診療科長の管理責任は重大である。

 保険適用外手術が多数行われた経緯について最終報告書には次のように記載された。

 主治医は、開始当初、腹腔鏡下で行うのは肝臓の脱転(※筆者注=手術のために臓器を動かすこと)のみであり、(腹腔鏡補助下の)開腹手術として保険請求することに問題はないと考えていた。その後、事務からの指摘を受けて、病院の先進医療等開発経費(病院の校費)で申請を行った。その後、内側区域等の切除も部分切除として請求が可能との解釈を行い、保険請求を行っていた。

 保険適用外の侵襲的医療行為を審査する体制として、附属病院には臨床試験審査委員会(IRB)が設置されているが、先進医療として実施した多施設共同の「ラジオ波焼灼システムを用いた腹腔鏡補助下肝切除術」を除いてはIRBへの申請はなされなかった。保険適用外の新規手術は臨床試験として実施するという意識が診療科に欠けていた。実施症例をまとめて学会報告や論文発表をしており、臨床試験としての認識のもとにIRBに申請すべきであった。

 医師の認識が不十分であった背景について最終報告書は「倫理審査体制」という項で次のように述べている。

 人を対象とした医学系研究若しくは臨床研究を審査する組織として、群馬大学には、ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理審査委員会、臨床試験審査委員会(IRB)、臨床研究倫理審査委員会、附属病院臨床倫理委員会などが設置されている。それぞれの規程に対象とすべき研究内容が記載されているが、十分に理解・周知されているとは言い難く、各研究者の判断に委ねられている現状であった。

 最終報告書に記載された8人の患者の個別検証結果では、術前の検査や検討が十分でなかったといった評価がくだされた。特記すべきは、すべての患者について「手術前のインフォームドコンセントにおいて、代替治療の選択肢、合併症や死亡率の具体的データが示された記録がないことから、不十分な説明であったと判断した」と記され、いずれのケースについて「過失があったと判断される」と記載されたことだった。

 すでに述べたように、2014年8月28日に

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出河 雅彦(いでがわ・まさひこ)

 朝日新聞記者。1960年生まれ。92年朝日新聞社入社。社会部などで医療、介護問題を担当。2002~2013年、編集委員。2013~2016年、青森総局長。医療事故や薬害エイズ事件のほか、有料老人ホームや臨床試験について取材。著書「ルポ 医療事故」(朝日新聞出版)で「科学ジャーナリスト賞2009」受賞。近刊の著書に「混合診療」(医薬経済社)、「ルポ 医療犯罪」(朝日新聞出版)など。

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