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深掘り

東京電力「しゃべればいいのに、しゃべらないから言いなりに」

福島第一原発の事故現場回想(4)

奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 大手電機設備会社の社員として長年にわたって東京電力の原発で働いてきた彼は、2011年3月11日から15日にかけて事態が悪化しつつある福島第一原発の現場で3回にわたる爆発に遭遇した。2012年2月、彼は、福島県いわき市内で、編集者の久田将義氏と朝日新聞記者の奥山俊宏のインタビューを受け、1年弱前の記憶をたどった。記事にしない前提のインタビューだったが、このほど、事故発生10年を前にその前提を解除。氏名や勤務先の会社名を伏せた上でインタビューの内容を公にすることに彼は同意した。現在、久田氏はウェブサイト「TABLO(注1)」の編集長を務め、奥山は朝日新聞の編集委員としてウェブサイト「法と経済のジャーナル Asahi Judiciary(注2)」の編集に携わっており、このインタビューの内容はそれらのメディアで一斉に発信することにした。本稿はその最終回。

 ■14日夜、「もういいです」

拡大東京電力本店で記者会見に臨む同社の武藤栄副社長(左から4人目)ら=2011年3月14日午後8時38分、東京・内幸町で
 3月14日午後、今度は2号機の原子炉が冷却不能に陥り始めた。2号機は津波来襲直後に全電源を喪失したにもかかわらず、その直前に起動したRCIC(原子炉隔離時冷却系)の炉蒸気駆動ポンプが制御なしで動き続け、14日まで原子炉への高圧注水を継続していた。しかし、とうとうそれが止まったらしく、14日昼に炉内の水位が下がり始めた。夕方、消防車による注水を試みたが、思うように原子炉内を減圧できず、消防車のポンプでは炉圧に負けて水を押し込めない。そうこうしているうちに炉内は水位が下がって核燃料がむきだしとなり、いわば空焚き状態に陥った。午後8時9分、東電本店では「炉の中の水がほとんどなくなった」と記者たちに公表された。

 2012年2月29日のインタビューの際、彼は次のように振り返った。

 奥山:初っぱなにお聞きしましたけど、その日(14日)の夜ぐらいに、8人いらしたうちの5人は。

 マサ:そうです、「もういい、とりあえず」と。

 奥山:2Fに行ってくれ、ということですか?

 マサ:各々の自己判断ですね。

 奥山:それはたとえば、「こうなったら戻ってね」とか、そういうのは?

 マサ:ないです。

 奥山:とにかく帰って、と。

 マサ:連絡できる人を残して、「あとはいいです」と。

 奥山:それは何時ぐらいですか?

 マサ:たぶん夜もう11時か12時だったと思いますねぇ。

 奥山:深夜ですね。

 マサ:深夜です。

 奥山:それは東電のほうから、もう人数を絞ってっていう。

 マサ:そうです。

 奥山:その理由については特に聞かなかった?

 マサ:理由については聞いてないです。

 奥山:理由は2号機のあれなんだと思うんですけど、その当時は聞いてない?

 マサ:聞いてないです。本当ならば、各請負業者も、うちも所長がいたんで、そういう人が緊対室、中心のところに行って情報を集めてくればいいんですけど、そうできる状況でもなかったような感じで、なかなかあそこには入りづらいみたいな感覚だったみたいですね。ホントであれば、自分のところの所長どうこういう話なんですけど、そういう長が自分の部下を守るために、今の状況はどうなのかとか、東電が何を言おうが、自分の部下を守るために何かしなきゃいけないっていう行動をとるべきじゃないかと、俺は今でも思うんですけど。そのときの所長は別に何もしてなかった。ぜんぜん所長は14日の晩に帰りましたからね、ぼくらを残して。

 奥山:そうですか。

 マサ:「所長が残るって言うんじゃないの?ふつうは。一番頭でしょ?」と思ったけど帰りましたからね。

 奥山:残った人の中では一番上だったんですか?

 マサ:いや、ぼくが一番下です。主任だけど、その3人の中では一番下です。

 奥山:じゃあ所長を除くと上から3人が残ったっていうことですか?

 マサ:そうですね。

 久田:平社員の人は帰った。

 マサ:帰りましたね。管理職ふたりとぼくです。

 久田:やっぱりビックリしたんでしょうかね、所長は。前代未聞の災害で。

 マサ:いやぁ、どうですかねぇ。

 久田:こういうことが起きるとは思ってなかったから。

 マサ:それはなんとも。本人に聞くしか分かんないですけどね。そこらへんはね。

 ■15日朝、4号機爆発、2号機放射能放出

 4号機は前年11月末から定期点検に入っており、原子炉内の使用済み燃料はすべて取り出され、原子炉建屋の最上階にあるプールの水中で保管されていた。原子炉運転中や運転停止直後に比べれば少ないものの、それら使用済み燃料は様々な核分裂生成物の原子核崩壊によって熱を発し続けていた。その4号機でも3月11日に津波の被害で全電源を失い、プール内の使用済み燃料の崩壊熱を取り除き、プールを常温に保つことができなくなっていた。水温が上昇するにつれ、水は気化していき、プールの水位は下がりつつあった。そうしたなかで3月15日朝、4号機の原子炉建屋が人知れず破壊されてしまっているのが見つかった。プール内の使用済み燃料が空気中に露出し、水蒸気と化学反応を起こして水素ガスを発生させ、それが爆発したと疑われた。米政府の原子力規制委員会は16日(日本時間では17日)、4号機のプールに水はない、と発表した(注29)(注30)

 奥山:4号のプールに水があるとかないとかということでずいぶん一時期騒がれてましたけど、そういう話っていうのは当時は全然?

 マサ:4号って、実際15日までの中で話題になんにも上ってないです。あそこは定検中で、炉には燃料がない、定検中だから抜いてる状態なので。っていうところまでしかないので、じゃあ貯蔵プールのほうの状況はどうなってるかは、何もわからないですね。

 奥山:15日の朝に、寝てるときに音を聞かれたわけですよね。

 マサ:はい。

 奥山:それは結果的には4号の爆発なんだろうかなと、今となっては言われてるみたいなんですけど。

 マサ:そこは不思議なんですよ、ぼくらも。

 奥山:でも、音だけだと4号か2号かわからないですよね。

 マサ:もちろんわからないです。そのときにぼくらが聞いた噂というか伝わってきたのは、2号のサプチャン(格納容器の下部にある圧力抑制室)が爆発して穴あいたっていう話を聞いたんで、ああ2号なんだな、と。

拡大水素爆発で無残に壊れた福島第一原発3号機(左手前)、4号機(右奥)=2011年3月15日に東電社員が撮影し、同社が2013年2月1日に公表した写真
 奥山:4号の建屋が爆発して見るも無残に壊れましたが、それはご存知でした?

 マサ:知らないですよ。それってもっとあとでしょ? ぼくらが出ていっちゃったあとの話みたいなんで。

 奥山:情報が出たのが。

 マサ:そうです。だから知らなかったです。

 奥山:実際に壊れたのは15日の午前6時過ぎですよね。

 マサ:そうですね。それをぼくらは2号のサプチャンって聞いてたんで、4号って話は全然なかったんで。

 奥山:2号のサプチャンって聞いたっていう人が、誰が聞いたんですかね。

 マサ:サプチャン自体を見られるわけじゃないので、そこに穴があいたのを見た人がいるわけじゃないんで。圧力が全部ゼロになったらしいんですよ、その爆発のあと。2号の。で、サプチャン抜けたっていう話なんですよねぇ。で、ぼくらも、「ああ、計器全部ゼロになった、圧力抜けちゃったんだ。じゃあ穴あいたんだね」っていうふうなんですよね。

 奥山:15日の朝はどんな音でした?

 マサ:もう寝てたんで、あんまりこうあれはないですけど、ズンッて。

 奥山:大きな音ですか。

 マサ:大きいというより、低音の響く音ですよね。

 奥山:1回ですよね。

 マサ:1回です。地下を伝わってくるような感じの、ズンッていう感じの。でも、やっぱり地震とどっちだ?って思うぐらいだから、それなりの衝撃はありましたよね。
 4号って話じゃないですよね。2号のサプチャンとしか聞いてない。

 奥山:4号については定検中で、GEのアメリカ人がたくさん来てたそうですけど、そういう人は11日とかはいました?

 マサ:11日当時にいた外国人っていうのは、もともと震災前の仕事で来てる人たちが帰れなくていたわけで。震災の対応でわざわざ来たっていう人たちじゃない。外人さんもまだ、事務員の女の子もいっぱいいましたからね、いろんな人が。廊下といわず、階段といわず、人だらけだったんで。12、13日ぐらいまでは。

 彼がいた免震重要棟と4号機原子炉建屋は直線距離で600メートルほ

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奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 朝日新聞編集委員。
 1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞入社。水戸支局、福島支局、東京社会部、大阪社会部、特別報道部などで記者。『法と経済のジャーナル Asahi Judiciary』の編集も担当。
 著書『秘密解除 ロッキード事件  田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店、2016年7月)で第21回司馬遼太郎賞(2017年度)を受賞。同書に加え、福島第一原発事故やパナマ文書の報道も含め、日本記者クラブ賞(2018年度)を受賞。近刊の共著書に『バブル経済事件の深層』(岩波新書、2019年4月)。
 そのほかの著書として『パラダイス文書 連鎖する内部告発、パナマ文書を経て「調査報道」がいま暴く』(朝日新聞出版、2017年11月)、『ルポ 東京電力 原発危機1カ月』(朝日新書、2011年6月)、『内部告発の力 公益通報者保護法は何を守るのか』(現代人文社、2004年4月)がある。共著に 『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社、2019年4月)、 『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版、2012年12月)、『ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか』(同、2008年9月)、『偽装請負』(朝日新書、2007年5月)など。
 ツイッターはhttps://twitter.com/okuyamatoshi
 ご連絡は okuyama-t@protonmail.com、または、okuyamatoshihiro@gmail.comに。メールの内容を暗号化する場合はPGPで。パブリックキーのIDは7D2BAD43550EAD96

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