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調査・検証

検証・ロッキード事件

1-5) 「2つの頭をロッキードに食われたヤマタノオロチ」

奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 米国の大手航空機メーカーから総理大臣・田中角栄ら日本の政治家に裏金が渡ったとされるロッキード事件は1976年に明るみに出た。この連載『秘密解除・ロッキード事件』では新たな資料をもとに新たな視点からこの事件を見直していく。第1部では、疑惑が発覚した当時に自民党の幹事長を務め、のちに首相になった中曽根康弘のメッセージとして米政府ホワイトハウスに届いたある言葉に焦点をあてる。その第5回。

  ▽筆者:奥山俊宏

  ▽敬称は略します。

  ▽この記事は岩波書店の月刊誌『世界』2011年1月号に掲載された原稿に加筆したものです。

 

 2月9日、月曜日の早朝、国務副長官ロバート・インガソルは日本の駐米大使館からの電話を受けた。外務審議官・有田がワシントンに来ているので、会ってほしい、という要請だった。インガソルはその日の午前、自宅アパートに有田を迎えた。

 国務長官へのインガソルの報告によると注8、有田は「日本政府高官の名前は明るみに出るでしょうか?」とインガソルに問うてきた。インガソルは「パーシー上院議員と小委員会の法律顧問は、公務員の名前は明るみに出さないと我々に確約している」と答えた。パーシーは共和党の上院議員で、ロッキードの疑惑を暴露した上院多国籍企業小委員会のメンバーの一人だ。

 インガソルからも有田に質問した。有田は次のように率直に答えた。

 「児玉、小佐野、丸紅を通じて資金を受け取った可能性が大きい公務員として報道記者らの憶測の中心にいるのは田中と中曽根(ロッキードの支払いがあったときは通産相だった)」

 「どのような影響があるか予測できない。三木政権が倒れて、米国への態度が異なる政権に交代するかもしれないし、あるいは、三木は年末まで総選挙を延期せざるを得なくなるかもしれない」

拡大外務審議官・有田と国務副長官インガソルの会話の内容を報告した1976年2月9日の国務省公電

 この3日後の2月12日、木曜日、インガソルから駐日大使館にあてて発せられた公電は次のように書き出された注9

 「国会の『調査』がワシントンにやってきた」

 11日、水曜日、中曽根派に属する自民党衆院議員・佐藤文生に東アジア・太平洋担当の国務次官補フィリップ・ハビブが応対した。

 国務長官への報告によれば注10、佐藤は、多国籍企業小委員会の委員長を務める上院議員のフランク・チャーチに10日に会った際のやりとりを次のように紹介した。

 「小委員会は、関係する日本政府高官の名前を公開する予定ですか?」

 「ノー」

 「ならば、小委員会は、名前のない『政治家』または『政府高官』が関与していると言うのですか?」

 「ノー。小委員会はそのような証拠を持っていない」

 「丸紅は『政治的影響力』のためのカネをロッキードから受け取ったことを否定していますが、小委員会はその点を調査しますか?」

 「ノー。ロッキードの証言を疑う理由はない」

 佐藤によれば、自民党は国会で疑惑を晴らそうと努めているが、同時に、みずからの立場も守らなければならない。いずれにせよ、そのうちに「床に血が流れる」ことになるだろう――。佐藤はそう予測してみせた。ハビブは佐藤に「情報を持っているのは議会であって国務省ではない」と同僚議員に説明してほしいと依頼した。

 同じ日、民社党衆院議員の永末英一に国務次官補代理のウィリアム・グレイスティーンが応対した。

 インガソルから駐日大使館に送られた公電によると、永末は、関与した日本政府高官の名前の提供を米政府に求めるよう日本政府に要求する議案が国会に提案されるだろうという見通しを明らかにし、「そうなると、国務省は難しい立場に追い込まれるだろう」と述べた。グレイスティーンが「国務省は日本政府の要請を議会に仲介することしかできない」と答えると、永末は次のように言った。

 「私は国務省の立場を分かっている。しかし、日本人の目からすると、国務省はすごい力を持っていて、もし日本政府の正式な要請にもかかわらず情報が来なかった場合には、国務省は、自民党指導者を守るために日本政府と協力しているとみなされるだろう」

 付け加える形で、永末は、日本の神話に登場する架空の動物ヤマタノオロチを紹介した。

拡大 民社党衆院議員・永末英一との会話の内容と駐日大使館に伝えた1976年2月12日の国務省公電

 「自民党は

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奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 朝日新聞編集委員。
 1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞入社。水戸支局、福島支局、東京社会部、大阪社会部などを経て特別報道部。『法と経済のジャーナル Asahi Judiciary』の編集も担当。
 著書『秘密解除 ロッキード事件  田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店、2016年7月)で第21回司馬遼太郎賞(2017年度)を受賞。同書に加え、福島第一原発事故やパナマ文書の報道も含め、日本記者クラブ賞(2018年度)を受賞。近刊の共著書に『バブル経済事件の深層』(岩波新書、2019年4月)。
 そのほかの著書として『パラダイス文書 連鎖する内部告発、パナマ文書を経て「調査報道」がいま暴く』(朝日新聞出版、2017年11月)、『ルポ 東京電力 原発危機1カ月』(朝日新書、2011年6月)、『内部告発の力 公益通報者保護法は何を守るのか』(現代人文社、2004年4月)がある。共著に 『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社、2019年4月)、 『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版、2012年12月)、『ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか』(同、2008年9月)、『偽装請負』(朝日新書、2007年5月)など。
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