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事件記者の目

事件記者の目

公取委員長の語るGAFAなどプラットフォーマーによるデータ寡占と競争政策

杉本和行・公取委委員長インタビュー(上)

村山 治(むらやま・おさむ)

 インターネット上で展開されるサービスの基盤(プラットフォーム)となるようなシステムを消費者に提供するグーグル、アマゾンなどのプラットフォーマーが内外の市場を牛耳る時代。日本は、第4次産業革命ともいわれるデジタル化への対応が遅れ、イノベーションは生まれず、格差ばかりが目立つ悪循環に陥っている。そんな中、公正取引委員会の杉本和行委員長が著書『デジタル時代の競争政策』(日本経済新聞出版社、8月27日発売。164ページ)を出版した。出版の狙いや激動する時代の競争政策の在り方などについて杉本委員長に聞いた。2回に分けて掲載する。初回の本稿では著書に沿って公取委のプラットフォーマー規制方針を中心に語ってもらった。

 ■「イノベーションには、競争政策が必要」と強調

拡大杉本 和行(すぎもと・かずゆき)
 1950年、兵庫県生まれ。74年に東大法学部卒業後、大蔵省(現財務省)入省。主計局長などを経て2008年財務事務次官。みずほ総合研究所理事長を経て13年公正取引委員会委員長に就任。18年に再任された。委員長就任後、プラットフォーマーが引き起こす独占禁止法上の問題などについて機会あるごとに警鐘を鳴らしてきた。
 簡単に著作の内容を紹介する。
 まず、イノベーションが起きにくくなっている日本経済の構造的な変化や、戦後に制定された独占禁止法による競争政策の変遷、現行の法執行ツールを概観したうえで、「オンライン・プラットフォーマーへの競争政策上の対応」に筆を進める。
 「今後、主要なイノベーションは、AI(人工知能)、IoT(インターネット オブ シングズ)、ビッグデータといったデジタル技術に関連して起こる」とし、それに対応する競争政策は「反競争的行為によって新たなイノベーションが芽吹く環境が阻害されたり、価格や品質による競争が制限されることにより、日本の生産性向上の妨げとなったり、消費者の利益が害されることのないようにしていく」と宣言。
 日本や欧州での最近のプラットフォーマーの摘発事例なども列挙しつつ、独禁法やデジタル問題にうとい素人にも理解できるよう平易な言葉で、規制方針の詳細を語っている。
 規制のポイントは

  •  不当なデータ収集や不当なデータ囲い込みが独占禁止法上問題となることがある
  •  検索サービスやSNSは、消費者とプラットフォーム企業の間の取引関係と位置付けることができることから、独占禁止法の適用対象となる
  •  消費者に対して優越的地位にあるプラットフォーマーが消費者の利益に反して不当に個人情報を収集する場合には独占禁止法の優越的地位の濫用規制の適用が考えられる

の3点だ。
 続いて、従来の公取委が独禁法適用に消極的だった働き方の問題についても触れ、

 「フリーランサーの労働者は独禁法上の事業者に当たるとも考えられる。独禁法で禁じられている行為を行った場合に、その行為が「取引」に該当する場合は独禁法を適用する」

と断言。
 世界的に問題となっている「所得格差」についても「経済における企業の市場集中度が高まっていることにも起因する」とし、

 「一義的には社会保障政策や租税政策が主役」と断ったうえで、「独占企業や企業集団が競争を妨げるような手段でレント(過剰利益)を蓄積することを防止し(略)格差の拡大にも歯止めを掛ける」

と踏み込んでいる。
 「デジタル時代の競争政策」とうたうが、バブル崩壊後の日本の経済社会の沈滞について広く問題意識を喚起する内容になっている。根底には、「イノベーションを喚起するのに不可欠な競争政策」への世論の無理解に対する杉本委員長の焦燥感も感じられる。企業関係者はもとより、政治家や官僚、学者など政策に携わる人たちも問題意識を共有すべき著作だ。

 ■「憂国」が突き動かした?

 ――現職の公取委員長が本を出すのは珍しいですね。なぜ、いま、書かれたのですか。

 杉本氏: 世の中に、競争政策がよく理解されていないと感じたからです。いまだに談合、カルテルは何でいけないのか、という考え方が、実際には経済界などにも多くあるように感じている。去年、リニア新幹線談合で検察と一緒にゼネコン4社を摘発しましたが、そのときも、民間企業間の契約であるのに談合してなぜ悪い、取り締まる公取委の方が問題ではないか、というような声も聞こえてきました。

 リニア新幹線談合は、JR東海などが2017年までに発注したリニア中央新幹線の関連工事をめぐって大林組、鹿島建設、清水建設、大成建設の大手ゼネコン4社が談合したとされる事件。東京地検特捜部と公正取引委員会は2017年12月、品川駅と名古屋駅の新設工事で受注調整したとして、独禁法違反の疑いで4社を捜索。2018年3月に法人としての4社と鹿島、大成の元幹部2人を起訴した。東京地裁は同年10月、大林組と清水に罰金刑を言い渡して確定。鹿島、大成は法人、個人とも無罪を主張して公判中。

 ――竹島一彦・前委員長時代の2005年に公取委が検察とともに橋梁談合事件を摘発した際にも、経済界から同様の声があり、当時の検察幹部が激怒しました。変わりませんね。

 杉本氏: 「和を以て貴しとなす(聖徳太子の言葉)」文化が日本にはある、企業同士が話し合って仲良く(仕事を)すればいいじゃないか、(なのに)公取委は過当競争をあおって企業の体質を貶める、生き残れないようにしている、そう考えている方々がいらっしゃるのでしょう。しかし、そうではありません。
 競争政策は、第一義的には消費者のためのものです。消費者が(本来の対価より)高いものを買わされるのは問題だからです。ただ、実は、競争政策は企業のためのものでもあるのです。
 企業が成長・発展するためには、ガチンコで消費者と向き合わなければならない。消費者のニーズに合った商品を提供するのが企業の社会的使命です。できるだけ消費者のニーズを満たす商品・サービスの値段を安くして広く行き渡るように効率的に供給する、ということです。その使命を果たすには、企業同士、取引先同士で話し合ったりしてはいけない。企業は直接、消費者と向かい合うべきなのです。それをせず、企業同士で共謀して消費者の選択を害するようなことをするのは、経済の基本ルールに反する。
 そのルールはものすごく重い規律なのです。そこを経済界や一般の人たちにもわかってもらいたい。競争のない環境では、企業は切磋琢磨する努力をしなくなる。結果、イノベーションを起こす力は失われ、企業自体がだめになる。そういうことを発信したい、と思ったわけです。

 著書は「自由で公正な競争が確保される市場というリングで、独占者や既得権益者に対して挑戦者が勝負できるような環境を確保することがイノベーションを促進することになる」と明記している。

 ――いろんなところで、イノベーションが生まれない、それが日本の経済や社会にとって最大の危機だ、という声を聞きます。著書を読むと、まさに、このイノベーションが生まれなくなってしまったことに対する危機感がひしひしと伝わってきます。このままでは、日本という国、社会がおかしくなるぞ、これで大丈夫かという憂い。国や、経済を立て直すために、自分の持ち場からどういう提言ができるのか、という危機感が執筆の原点にあるのでは、と感じました。

 杉本氏: まさにそういう思いです。そこを発信したかったのです。日本の経済構造は変わった。先進国にキャッチアップする時代は終わった。1990年頃までは(国際経済社会で日本は)マラソンの先頭集団の後ろをついていけば、風の抵抗もなく楽に走れた時代であった。しかし、キャッチアップが終わって先頭集団に立つと、風を受け、自分でペースを作らないと走れない。リスクをとって投資して、市場を切り開くイノベーションが必要だが、多くの経営者はそのマインドを失っているのではないかと懸念しています。
 何をやっているか、というと、コストカット中心。人件費を始めとするコストを削減する。それで企業として生き延びる。これから雨の日に備えて貯蓄を持っておこう、という後ろ向きのマインドです。この調子では、日本の企業は競争力を失い、雇用を守れなくなって社会不安が起きる恐れがある。しかも少子高齢化。じっとしていたらどんどん企業は競争力を失い劣化する。そこが一番心配です。

 ――言葉が熱いですね。財務省と太いパイプを持つ法務・検察幹部にこの本は是非読んだ方がいいよ、と話したら、「杉本さんらの世代の財務官僚には、国や社会の現状を憂える『国士』が多いからな」と言っていました。

 杉本氏: ははは。そうですか。イノベーションがどんどん起きる米国など先進国には追い付けず、後ろからは新興の中国・韓国に猛追される。間に挟まれて、窒息してしまうんじゃないか、という危機感を持っています。なかなかそこまで読み取っていただけないとは思いますが。

 杉本氏は、1969年1月、東大闘争で東大の入試がなくなった時の受験生だ。全国の秀才の多くは、最難関となった京大を受験した。杉本委員長も京大に合格したが、翌年東大を受け直した。70年安保闘争から内ゲバ、過激派のテロ、と社会を揺さぶった時代。多くの学生が内外の構造的な矛盾に対する問題意識を持った。ちなみに、筆者も杉本氏と同学年。杉本氏が委員長に就任するまで面識はなかったが、90年代初めには、杉本氏の先輩の大蔵幹部から「将来の大蔵事務次官候補」との評価を聞いていた。

 ■デジタル市場競争の土俵を作る

 ――著書を拝読して、経済のデジタル化、グローバル化で世界経済そのものが構造転換期を迎え、公取委の競争政策も大きく変化していることを実感しました。GAFAに代表される巨大プラットフォーマーが現下の日本経済に多大な影響を与えていることもよくわかりました。ただ、そこは、従来の競争政策にとっては未知の世界。規制するにしても、新たな「土俵(インフラ)」と「決まり手(ルール)」をつくることから始めるようなものではないですか。

 杉本氏: 競争政策には、独禁法に基づく法執行と、競争環境の整備の2つの側面があります。法執行は、反競争的行為の摘発です。カルテルや談合で課徴金をかけたり刑事告発をする。(取引上の地位が優越していることを利用して取引相手に不当に不利益を与える)優越的地位の濫用もあれば、企業の経営統合による競争制限が起きないかをチェックする企業結合審査もあります。競争が制限されることとなると認められれば、合併にノーといいます。いずれも、既存の制度を前提として競争法違反行為を監視・是正するのが仕事です。
 例えばいま、プラットフォーマーが、取引先などの情報データを独占している実態がありますが、もしプラットフォーマーが不当に情報を囲い込んだり、集めたりしていれば、これは法執行の対象となる。

 ――2017年、18年に、アマゾンやアップルに対して取引業者の独禁法違反(同等性条件の強要等)容疑で調査に入り、解消措置をとったため審査を終了した事件がそうですね。

 杉本氏: もうひとつ、なかなか理解していただけないが、重要な仕事として、競争環境の整備がある。デジタル市場で健全な競争環境をつくるために重要なのは、デジタル市場でレベル・プレーイング・フィールド(対等な競争環境)が確保されているのかどうか、です。逆にいうと、企業が活動していくうえで、プラットフォーマーとのレベルプレーイングフィールドをどうやって確保するか、が課題になる。

拡大『デジタル時代の競争政策』(日本経済新聞出版社)
 「データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト」(信頼のおける自由なデータの流通)です。個人情報保護法で守られたデータが、自由に流通して、いろんな人がアクセスできるほうが、企業にとってレベルプレーイングフィールドを確保できることになる。情報がすべて囲い込まれていて、同業者がアクセスできないと、レベルプレーイングフィールドは確保できない。
 「データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト」を確保するためどうするか。そこは、私どもだけではできない。経済産業省、総務省や個人情報保護委員会にも加わっていただき、検討する必要がある。

 ――著書では「(プラットフォーマーの)急成長の背景には、ビッグデータの事業活動への利用がある。(略)機械学習をはじめとするAI技術を用いてデータを利用することで、製品・サービスの性能向上につなげている。これが顧客増に寄与し、さらなるデータの蓄積が可能となる好循環が発生する」と書かれています。このビッグデータの利活用をイノベーションにつなげようというわけですね。

 杉本氏: 全ての情報を公開しろ、みんなにアクセスできるようにしろ、というのは困難でしょうが、産業分野別に検討してみたらどうか、と思います。ひとつは金融の世界。これはなじむのではないか。医療の世界もそう。個人情報の要素を除去しなければいけないが、ビッグデータ化することで、人工知能で予備診断ができたり、診療方針が図式的にできたりする。いわゆるエビデンス・ベイスド・メディスン(科学的根拠に基づく医療)です。実際、データ開放でエビデンス・ベイスド・メディスンは実現するのではないかと思います。医療の効率化で、無駄な薬は使わない。そのためにも、医療データをビッグデータとして集めてアクセスできるようにすることを医療分野で考えていくべきだと思います。

 ――医療水準を落とさず、医療費の削減につながるとすれば、国民の納得も得やすいでしょうね。しかし、それを実現するためには、データ問題以前に、古色蒼然の日本の医療体制にメスを入れる必要があるのではないですか。

 杉本氏: おそらく医師会等から異論もあるかもしれません。かつて(大蔵省主計局時代の)予算要求のときにレセプトやカルテの電子化等の関係で、データの電子化、データの共通化の推進に対し、かなりの反対論もあったと記憶しています。しかし、世の中全体を考えると、データを開放し、みながアクセスできる、共通財産みたいなものにしていくことには大きな価値がある。そういう分野は相当ある。これは私の個人的な考えですが、そういうことも含め内閣(デジタル市場競争本部)で検討してほしいと思っています。

 杉本委員長は、巨大IT(情報技術)企業への規制を取り仕切る政府の専門組織「デジタル市場競争本部」の主要メンバーでもある。

 ――まさに、レベル・プレーイング・フィールドにかかわる重要なテーマですが、ビッグデータ活用には個人情報保護法の障壁もありますね。

 杉本氏: 個人情報の権利は個人が持っている。その情報をどこに、どう預けるか、どう出していくか。それぞれ個人の判断だということかもしれません。(企業などがサービスを通じて収集・蓄積した個人データを本人の意思でいつでも引き出し、他のサービスへ移転できる)データポータビリティについての検討もしてもらいたいと思っています。私の観点からすると、囲い込まれた情報が流れていくわけだから、参入障壁が下がる。障壁が下がり、新規事業が参入できることが競争環境整備の大きな観点だと思っている。

 ■プラットフォーマーによるデータ寡占

 問題は、プラットフォーマーが巨大化し、ビッグデータについて事実上の寡占状態となっている点だ。
 同書は、

 2018年での世界の検索市場におけるシェアとしてではグーグルは90%以上を占めている。SNS市場では、フェイスブックのシェアが約70%、これに続くのはピンタレストが約13%、ツイッターが約7%、インスタグラムが約2%となっている。eコマース市場においては、アマゾンのシェアが約50%、約7%のイーベイが続いている

とデータを引用し、寡占が進む要因として

 ビッグデータが利用される場合には、この強力な好循環の発生により、ネットワーク効果が強力に発生する(略)特定のプラットフォームへの利用者の集中がさらに進む。工場における生産能力に一定の限界がある製造業に比べ(略)限界費用が極めて小さいから、利用者の増加に応じて事業を拡大しやすい。このため、事業が拡大し、シェアを獲得しやすい。したがって、市場支配力が強い事業者が出現することになる

と分析し

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村山 治(むらやま・おさむ)

 徳島県出身。1973年、早稲田大学政経学部卒業後、毎日新聞社入社。大阪、東京社会部を経て91年、朝日新聞社入社。2017年11月、フリーランスに。この間、一貫して記者。
 金丸脱税事件(1993年)、ゼネコン事件(93、94年)、大蔵汚職事件(98年)、日本歯科医師連盟の政治献金事件(2004年)などバブル崩壊以降の政界事件、大型経済事件の報道にかかわった。
 著書に「特捜検察vs.金融権力」(朝日新聞社)、「市場検察」(文藝春秋)、「小沢一郎vs.特捜検察、20年戦争」(朝日新聞出版)、「検察: 破綻した捜査モデル」(新潮新書) 。共著に「ルポ 内部告発」(朝日新書)、「田中角栄を逮捕した男 吉永祐介と 特捜検察『栄光』の裏側」(朝日新聞出版)、「バブル経済事件の深層」(岩波新書)。

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