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事件記者の目

関西電力元副社長・内藤千百里の証言

関西電力元副社長「うるさい人が味方になったらこれはすごい」

村山 治(むらやま・おさむ)

 関西電力の役員ら20人が、高浜原発が立地する福井県高浜町の森山栄治元助役(19年死去)から計約3億2千万円分の金品を受領していた問題。関電側は、生命線である原発事業に影響力を持つ森山の機嫌を損ねるのを恐れ、仕方なく受け取った、などと「被害者」の立場を強調するが、果たして、そうか。筆者は朝日新聞記者時代の2014年、関電の政官財の裏工作をかつて取り仕切った元副社長の内藤千百里(18年死去)から地下経済も交差する関電の裏面史を聞いた。森山と関電の関係もその中に登場した。この連載では改めて、内藤証言を軸に「関電の闇」の深層に迫る。2回目の本稿では、関電の事業をめぐる裏社会との関係を語る。(敬称略)

 ●「無法地帯」

拡大関西電力大飯原発=2017年2月22日午前、福井県おおい町、本社ヘリから、遠藤真梨撮影
 電力事業、特に、原発という究極の迷惑施設の立地や稼働をめぐっては、常に反対運動が起き、それを抑え込むため、「カネ」が乱れ飛ぶ。立地自治体への協力金、様々な名目での寄付などの「表カネ」。地元住民らに支払う「裏金」もある。そこに、カネの匂いに敏感な地下社会の住人が群がってくる。

 内藤は1983年、関電の立地本部長兼副社長に就任。事実上、関電の表裏の危機管理を一手に引き受けることになった。内藤は、暴力団や同和を騙るクレーマーへの対応に文字通り、体を張ることになる。

 内藤の証言を紹介する前に、関電の原発が集中する福井県若狭地区でのそのころの暴力団などの暗躍ぶりをルポした前回紹介の雑誌「前衛」の連載記事「原発のある風景」(2)「イレズミの男」(82年6月号)、(3)「病める町政」(同8月号)を引用する。この記事の筆者の柴野徹夫は、原発利権に群がる暴力団幹部らに接触し、生々しい証言を引き出している。その証言内容のドロドロぶりは半端ではない。

 「暴力団は原発の弱みを、ぎょうさんにぎっとる。事故隠しもあるし、原発の偉いさんのスキャンダルもある。妻子ある関電の幹部が敦賀市のTマンションに若い娘を囲うてて、M組の幹部に定期的にユスられとったこともある。『世間にバラそか…』いうたら、肩書き社会やでな、企業の幹部なんてちょろこいもんや」(下請け労働者・山口組系暴力団K組組員(36)・敦賀市在住)

 暴力団は、スキャンダル情報を材料にカネを脅し取るプロである。昭和末期バブルのころ、土地、株のあぶく銭で浮かれた大企業の役員、社員が遊び呆けた東京・銀座は、暴力団の格好の狩場だった。大手都銀の支店課長の巨額横領事件に関する筆者の取材に協力してくれた情報ブローカーは「関西系の暴力団が、クラブに息のかかったホステスを送り込み、親密になった企業経営者らを脅している。多くは体面をはばかってカネを払う」と話した。大銀行のトップが引っかかった疑いがあると捜査関係者から聞いたこともある。

 80年前後の原発銀座・若狭地方は電力マネーで潤い、関電社員も多数、常駐していた。歓楽街は活況を呈し、バブル期の大都会と似たようなことが起きていたと思われる。

 「原発は建設でも定検でも、暴力団のおかげでなりたっとるいうことや。きつい線量の炉心作業に、無理を承知で、注文通りに“兵隊”をかき集めてくるのがヤクザなら、労働者にニラミきかして、統制してくれるのもヤクザやないかい。なんぼ大企業や同盟労組やとデカイつらしてみたかて、いばってられるのは、せいぜい社員。日銭で生きとる人間には“クソくらえ”で通用せえへん。それを、きちんと管理したっとるんやから、恩の字や。まだあるゾ。“兵隊”がいつなんどき、ガンじゃ、白血病じゃと騒ぎだすかわからん。ちょくちょくあるがや。そら、きつい被曝さしとるんやでな。ない方が不思議やろ。それを、ぶつっと黙らしたっとるのもヤクザやいうこと忘れなや。」(同)

 原発の改修工事や放射能の除染作業をめぐっては、暴力団の関係企業などが介在した偽装請負が横行。労働者の安全管理責任があいまいになり、給与のピンハネも行われてきた。警察は近年、暴力団の資金源になっている疑いがあるとみて摘発に力を入れ、2012年1月には福岡、福井両県警が関電大飯原発の改修工事にからむ職業安定法違反やほう助の容疑で暴力団工藤会関係者らを逮捕。同年5月には福島県警が東京電力福島第一原発の工事をめぐり住吉会系暴力団幹部らを労働者派遣法違反容疑で、さらに、15年8月に愛知県警が同原発事故に伴う除染作業をめぐる職業安定法違反容疑で山口組系暴力団幹部らを逮捕している。

 「ヤクザがいくとこにシャブ(覚せい剤)が動くのは当たり前でないのけ。取り締まり?あのな、ついでにいうとくけどな、警察とヤクザはツーツーや。その警察がまた電力のいいなりや。ほうや。自民党を使うて政治を動かしとるのは電力会社やろが。その用心棒が警察と暴力団やないかい。“三つ巴”のもちつもたれつ。それぐらい知っとけや。なんぼ形だけ取り締まったとこが、根は絶えんわな」(同)

 柴野の1982年の連載「原発のある風景」によると、こういう暴力団がらみの原発利権を背景に、福井県の嶺南地方の中心都市である敦賀市では市長選で保守系候補同士の骨肉の争いが起き、それぞれの候補を支援する暴力団同士の抗争でピストル乱射事件まで起きたという。

 「(福井県の)中川(平太夫)知事が原発推進の態度表明をしぶっていたことがあったが、某組の幹部が、○○に、『中川を殺れというなら殺りまっせ』と語っていた」(元自民党支部役員)

 柴野の記事では「○○」は実名となっており、○○は、韓国ロビーの政治家と親しい元県議で、記事によれば「自民党議員や青年会議所の幹部をあつめては、勝共連合の講義を聞かせてきた」とされる人物だ。

 証言者が誇張して話した部分はあるかもしれないが、筆者が取材した捜査、税務当局などの関係者らの話も総合すると、当時の若狭地方では、記事の証言に近い状況があったと思われる。

 ●「送電線の影で養鯉業者に1億円補償」

 関電経営陣にとって、暴力団や同和を騙る業者への対応は、政官界との対応以上に、負担だったようだ。表に出せないカネの支出もあった。裏処理ゆえ、社内の責任体制、ガバナンス、コンプライアンスもあいまいだった。内藤は自らの体験を含め、それら業者に対する関電の対応ぶりについて、関西なまりをまじえながら語った。

拡大インタビューを受ける内藤千百里・元関西電力副社長=2014年6月2日、大阪市北区、竹花徹朗撮影
 内藤: 電力みたいな大きな所帯がありましたらね、ヤクザも同和も無しでは、電気を送れない。今まで、それは全部、下の専門職に任せていたが、それでは、向こうも満足しない。ひとつのきっかけは、河内のため池に送電線が走っている。その池に日があたってこの電線の影で、養殖している鯉の生育が悪くなると。いくら払ったと思います?大きな池。

 ――1000万円?

 内藤: その当時で1億円払わされた。めちゃくちゃや。私の前任者がね、自分で決裁しているわけ。それで、「なんだ、これは?」と。もう前任者は辞めてますからね、担当者に言ったら、「これは、うるさい同和ですから、こうしておきましょう」と。「今後はこんなことは絶対に許さん」といった。

 2014年6月2日、内藤はリーガロイヤルホテル大阪で筆者らにこのように語った。

 この「1億円」には

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村山 治(むらやま・おさむ)

 徳島県出身。1973年、早稲田大学政経学部卒業後、毎日新聞社入社。大阪、東京社会部を経て91年、朝日新聞社入社。2017年11月、フリーランスに。この間、一貫して記者。
 金丸脱税事件(1993年)、ゼネコン事件(93、94年)、大蔵汚職事件(98年)、日本歯科医師連盟の政治献金事件(2004年)などバブル崩壊以降の政界事件、大型経済事件の報道にかかわった。
 著書に「特捜検察vs.金融権力」(朝日新聞社)、「市場検察」(文藝春秋)、「小沢一郎vs.特捜検察、20年戦争」(朝日新聞出版)、「検察: 破綻した捜査モデル」(新潮新書) 。共著に「ルポ 内部告発」(朝日新書)、「田中角栄を逮捕した男 吉永祐介と 特捜検察『栄光』の裏側」(朝日新聞出版)、「バブル経済事件の深層」(岩波新書)。

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