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西村あさひのリーガル・アウトルック

移転価格文書化 企業はどう対応すべきか

 企業が海外取引を通して課税所得を国外に移転することを防ぐ「移転価格税制」で巨額の申告漏れを指摘される企業が相次いでいる。海外関連会社との取引価格を低く抑えるなどの方法で、日本国内の課税所得を圧縮した場合、通常の価格(独立企業間価格)で取引したとみなして追徴課税する仕組みだが、特許権やブランド、特殊な事業ノウハウなど「無形資産」の取引価格に対する評価が問題になることが多い。なぜその価格にしたのか、根拠資料を文書にして残す「文書化」が日本でも事実上、必要になるという。企業、そして、国税当局は、これにどう対応すべきか。公認会計士でもある北村導人弁護士が提言する。(ここまでの文責はAJ編集部)

 

「日本版」移転価格文書化制度の導入
―納税者はどのように対応すればよいか―

西村あさひ法律事務所
弁護士・公認会計士
北村 導人

 ■はじめに

北村導人弁護士・公認会計士拡大北村 導人(きたむら・みちと)
 弁護士・公認会計士。1994年慶應義塾大学卒業。1992年会計士補登録、1992年から1997年まで朝日監査法人で監査業務に従事、1996年公認会計士登録。2000年弁護士登録(司法修習53期)。2007年ニューヨーク大学ロースクール(LL.M. in International Tax Program)。2007年から2008年までオランダ・アムステルダムのNauta Dutilh N.V.にて勤務。
 製造拠点を海外に移転する、海外に地域統括会社を置いて販売活動を行うなど、わが国の企業がますますグローバルな経済活動を展開するようになった今日、移転価格税制の重要性は一層増している。

 移転価格税制は、法人と海外にある親会社や子会社等の特殊の関係のある法人(国外関連者)との間の取引対価を操作することによる所得の海外移転を防止するために設けられた制度である。基本的な仕組みとしては、法人が、国外関連者との間で資産の販売・購入や役務の提供等の取引(国外関連取引)を行った場合に、その対価が独立した当事者間において通常設定される価格(これを「独立企業間価格」という)と異なることによりわが国の課税所得が減少しているときは、その取引は独立企業間価格で行われたものとみなして、課税所得の計算を行うというものである。この制度に基づき、わが国の法人が行った国外関連取引の対価と独立企業間価格との間に差額がある場合には、課税当局によって修正申告が促されたり、場合によっては更正処分がなされたりすることがある。

 移転価格税制に基づく更正処分は、2006年に武田薬品工業並びにソニー及びソニー・コンピュータエンタテインメントが相次いで更正処分を受けた(更正税額は前者が約571億円、後者が2社合計で約279億円)ことなどで、社会的に大きな注目を集めたが、それ以降は余り話題に上らなくなっていた。しかしながら、今年に入って、京セラ、東レ及び商船三井などが立て続けに、移転価格税制に基づく更正処分を受けたこと又は受ける見込みであること(更正税額又は更正見込み税額は各々、約25億円、約52億円及び約53億円)を公表するなど、再び移転価格税制の問題がクローズアップされつつある。

 以上の事例からも明らかなとおり、移転価格税制に基づく更正処分による更正税額は多額に上るケースが多く、企業経営に与えるインパクトも大きいことから、わが国企業としては、移転価格税制コンプライアンスに全社的に取り組んでいくことが非常に重要である。今回は、平成22年度税制改正において、移転価格税制に係る調査にあたって納税者が課税当局の要求に応じて提示又は提出すべき「独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類」の範囲が明確化されたため、当該改正の内容と納税者として必要となる対応について検討することとしたい。

 ■移転価格税制に係る「文書化」-「間接的な」文書化義務の導入

 移転価格税制においては、納税者が設定した国外関連取引の対価が「独立企業間価格」であるか否かが問題となる。納税者としては、移転価格税制に係る調査を受けた場合において、その対価の算定根拠、決定の経緯等を示して、当該対価が独立企業間価格であることを課税当局に対して説得的に説明する必要がある。一般に、このような移転価格税制における独立企業間価格の算定の根拠となる書類等を作成し、保存することを「文書化」といい、当該書類等を国外関連取引が行われた時点に作成することを「同時文書化」という。

 移転価格税制は、二国間以上の国にまたがる国際的な取引が適用対象になるところ、近年、このような移転価格税制に係る「文書化」を、納税者の義務として法定化することが世界的潮流となっている。具体的には、米国をはじめとして、欧州では、英国、ドイツ、スペイン及びフランス等が、アジアでは、韓国、インド、ベトナム、中国及びマレーシア等が、それぞれ「文書化」義務を既に導入している。

 このような世界的潮流の中、わが国では、納税者の「文書化」義務を直接定める規定は未だ存在しない。もっとも、平成22年度税制改正において、いわゆる推定課税(一定の算定方法に基づき独立企業間価格の推定を認めること)を定めている租税特別措置法(措置法)66条の4第6項(平成22年9月末までは第7項)が改正され、推定課税の要件の一つである、納税者が、課税当局の要求に応じて提示又は提出すべき「独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類」の範囲が明確化されることとなった(措置法施行規則(施行規則)22条の10第1項)(なお、同業他社に対する質問検査権の行使要件についても同様に改正されているが、本稿では推定課税に絞って述べる)。この改正により、納税者が、税務調査時において、税務職員等の要求に応じて、提示又は提出すべき書類の

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