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西村あさひのリーガル・アウトルック

新たな金融ADR制度がスタート、金融商品の紛争を裁判外で解決

 裁判に頼らない紛争解決制度(ADR)の新たな枠組みが金融分野に導入され、昨年10月、スタートした。利用者の高齢化や金融商品の多様化・複雑化に対応し、利用者本位でトラブルを解決する。2005~2007年に金融庁総務企画局市場課の専門官を務めた西村あさひ法律事務所の堀弘弁護士が新制度を解説した。

金融ADR制度の整備とその現状
~指定紛争解決機関制度の導入~

西村あさひ法律事務所
弁護士・NY州弁護士 堀 弘

 ■はじめに

拡大堀 弘(ほり・ひろし)
 1999年、東京大学法学部卒業、2000年、弁護士登録(司法修習53期)。2005年~2007年、金融庁総務企画局金融商品取引法令準備室専門官。2009年、ボストン大学ロースクール(LL.M.)修了。2010年、ニューヨーク州弁護士登録。専門は、金融商品取引法・銀行法等の金融規制法、ストラクチャードファイナンス等の金融取引など。
 昨年(平成22年)10月1日より、平成21年6月24日に公布された「金融商品取引法等の一部を改正する法律」(平成21年法律第58号、以下「改正法」という。)のうち、いわゆる金融ADRに関する部分が施行された。

 金融ADR(Alternative Dispute Resolution)とは、金融分野における裁判外の紛争解決制度をいい、金融商品・サービスに関するトラブルを簡易・迅速に解決する手段として位置づけられている。改正法により、金融ADRの中核として、金融商品取引法(以下「金商法」という。)その他の16の法律において指定紛争解決機関制度が導入された。

 この制度は導入されてまだ日が浅いため、未だ一般に浸透していないが、中長期的には、金融商品・サービスを提供する業者と顧客との関係を大きく変えていくきっかけとなる可能性を秘めている。そこで、以下では、金融ADRに関する従来からの議論や取組みとともに、改正法の下での金融ADRの枠組みを概観することとしたい。

 ■金融取引に関する苦情・紛争の特徴

 金融商品・サービスは、その性質上、それ自体にリスクが内在しており、投資者は、そのようなリスクが存在することを前提に取引を行うのが原則である。しかしながら、金融機関等が取引の勧誘を行う際には、顧客に対するリスクの説明が不十分である場合もあり、そのような場合において、対象となる金融商品・サービスに内在するリスクが顕在化したときは、顧客による苦情や、顧客と金融機関等との間の紛争が発生することになる。近年は、金融商品・サービスが多様化・複雑化しており、それにともない金融商品・サービスに関する苦情・紛争の発生も増加する傾向にあるといわれている。

 紛争解決手段としては訴訟制度が存在するが、訴訟により紛争解決を行う場合、(1)時間がかかること、(2)弁護士費用その他の費用がかかること、(3)顧客の側には証拠となる資料が乏しいこと、(4)裁判の公開原則の下でプライバシーが損なわれるおそれがあること、等の不都合が存在するため、少額のトラブルの場合などには、被害を受けた顧客が泣き寝入りになってしまうこともある。

 そこで、利用者保護の充実・利用者利便の向上の観点から、裁判外において簡易・迅速に紛争を解決する制度として、金融ADRの役割が期待されている。

 ■金融ADRに関する議論の経緯

 平成12年6月の金融審議会答申「21世紀を支える金融の新しい枠組みについて」を受けて、同年9月に消費者行政機関、消費者団体、業界団体、自主規制機関、弁護士会及び金融当局等が参加する金融トラブル連絡調整協議会が設置された。同協議会は、金融ADRについて、(1)機関間連携の強化、(2)苦情・紛争解決支援手続の透明化、(3)苦情・紛争解決支援事案のフォローアップ体制の充実、(4)苦情・紛争解決支援実績に関する積極的公表、(5)広報活動を含む消費者アクセスの改善等に関し、情報交換及び議論を行っており、長期にわたる議論の成果として、平成20年6月24日、「金融分野における裁判外の苦情・紛争解決支援制度(金融ADR)の整備に係る今後の課題について(座長メモ)」を取りまとめている。

 こうした中で、金融審議会金融分科会第一部会・第二部会の合同会合は、平成20年12月17日、「金融分野における裁判外紛争解決制度(金融ADR)のあり方について」(以下「金融審議会報告」という。)を取りまとめ、金融ADRに関する方針を示した。

 改正法は、これを受けて、指定紛争解決機関制度の創設等による金融ADRに関する制度の整備を行ったものである。

 ■金融ADRに関する従来の取り組み

 近年の苦情・紛争解決に対する需要の増加に伴い、金融ADRに対する様々な取り組みが行われてきた。業界団体や自主規制機関による金融ADRのほか、独立行政法人である国民生活センターのADRや都道府県・市町村が設置する消費生活センターなどが存在する。

 法律面においても、制度の整備が試みられてきており、一般的なADRの枠組みとして、「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(ADR促進法)」が平成19年4月に施行されたほか、平成19年9月に施行された金商法の下では、認定投資者保護団体の制度が導入されている。これらの制度の下で、日本証券業協会においてADR促進法上の認証が取得され、生命保険協会、日本損害保険協会及び全国銀行協会において認定投資者保護団体の認定が取得されていたところである。また、平成22年1月には、第二種金融商品取引業に関する苦情処理・あっせんを行う「証券・金融商品あっせん相談センター(FINMAC)」が認定投資者保護団体の認定を受けている。

 しかしながら、従来の金融ADRに対しては、かねてから以下のような問題点も指摘されてきた。即ち、(1)金融商品や金融サービスが多様化しており、業界ごとの金融ADRの枠組みでは利便性に欠ける場合があること、(2)銀行その他の金融機関において多数の種類の金融商品が販売されるようになったこともあり、トラブルが生じたときに、顧客としては一体どこに相談してよいかが分かりにくくなっており、相談者がたらい回しになることもあったといわれていること、(3)従来の金融ADRでは、中立性・公正性の観点から利用者の信頼感・納得感に限界があるとも指摘されていたこと、等である。

 ■新たな金融ADR制度としての指定紛争解決機関制度

 このような経緯を踏まえ、改正法では、金商法その他の16の法律において指定紛争解決機関制度が導入されている。この16の法律とは、金商法のほか、無尽業法、金融機関の信託業務の兼営等に関する法律、農業協同組合法、水産業協同組合法、中小企業等協同組合法、信用金庫法、長期信用銀行法、労働金庫法、銀行法、貸金業法、保険業法、農林中央金庫法、信託業法、資金決済に関する法律、及び旧抵当証券業の規制等に関する法律である。
 指定紛争解決機関制度は、金融ADRの実施主体の中立性・公正性を確保することを目的とするものであり、業界団体・自主規制機関等の民間団体が金融ADRを担うことを前提に、その申請を受け、金融ADRの実施体制や能力等について行政庁が確認を行い、指定紛争解決機関としての指定を行う制度である。
 なお、金融審議会報告は、「将来的には、専門性・迅速性・実効性等も確保された金融商品・サービス全般を取り扱う権威のある横断的・包括的な金融ADRが構築されることが望ましい。」としている。しかしながら、専門性・迅速性の確保や制度の導入コストなど、横断的・包括的な金融ADRを構築するためには、解決すべき課題も残されている。このため、改正法では、過渡的な措置として、これまでの業界ごとの苦情・紛争解決への自主的な取組みを踏まえ、銀行、保険、証券等の業態ごとに、それぞれ指定紛争解決機関制度を導入している。
 また、金融審議会報告では、「利用者保護の観点からは、金融ADRを実施する金融ADR機関の設置が義務付けられることが望ましいと考えられる。」としつつも、「業界団体・自主規制機関による自主的な苦情・紛争解決の取組状況は業態によって区々であり、現時点では、一律に金融ADR機関の設置を義務付ける状況にはないと考えられる。」としており、改正法も、指定紛争解決機関の設置を義務付けていない。
 そのため、現時点では、生命保険協会、全国銀行協会、信託協会、日本損害保険協会、保険オンブズマン、日本少額短期保険協会及び日本貸金業協会が指定紛争解決機関となっている一方、その他の業態については、指定紛争解決機関が存在しない。

 金融機関等は、その行う業種を対象とする指定紛争解決機関が存在する場合には、指定紛争解決機関との間で手続実施基本契約を締結することが義務付けられている。

 一方、指定紛争解決機関が存在しない場合には、各金融機関等において、指定紛争解決機関に代わる苦情処理措置及び紛争解決措置を講じることとされている。例えば、金融商品取引業者等は、指定紛争解決機関が存在しない場合、

 【1】苦情処理措置として、(1)苦情の処理に関する業務を公正かつ的確に遂行するに足りる業務運営体制及び社内規則を整備し、これらを公表すること、又は(2)金融商品取引業協会又は認定投資者保護団体が行う苦情の解決、国民生活センター又は消費者生活センターのあっせん、他の業法上の指定紛争解決機関が実施する苦情を処理する手続、等のいずれかにより苦情の処理を図ることが求められ、

 また、

 【2】紛争解決措置として、(1)金融商品取引業協会又は認定投資者保護団体のあっせん、(2)弁護士会の仲裁センターにおけるあっせん又は仲裁手続、(3)国民生活センター又は消費者生活センターのあっせん又は合意による解決、(4)業務の種別に応じた指定紛争解決機関又は他の業法上の指定紛争解決機関が実施する紛争の解決を図る手続、等のいずれかにより、紛争の解決を図ることが求められている(金商法37条の7第1項1号ロ、2号ロ、3号ロ、4号ロ、5号ロ、金融商品取引業等に関する内閣府令115条の2)。

 ■指定紛争解決機関の指定に係る審査基準

 指定紛争解決機関の指定を行うための要件については、各法律において定められているが(金商法156条の39第1項等)、その具体的な審査基準については、金融庁総務企画局より平成22年4月「金融分野における裁判外紛争解決制度(金融ADR)に関する留意事項について(金融ADRガイドライン)」(以下「ガイドライン」という。)が公表されている。

 ガイドラインでは、法律において指定要件とされている経理的基礎及び技術的基礎(金商法156条の39第1項5号等)等についての留意事項が示されているほか、法律において指定紛争解決機関の業務規程に定めることが求められている、他の指定紛争解決機関等との連携(金商法156条の44第1項6号等)及びホームページやポスター等における指定紛争解決機関による苦情処理・紛争解決の周知(金商法156条の44第2項10号等)等についての留意事項が、審査基準として明確化されている。

 こうした審査基準を通じて、単に中立・公正な紛争解決を行うための能力を確認するだけでなく、他の業態との連携(業界ごとの金融ADRとされていることによる不便の緩和)や、相談先(どこに相談すればよいか)の明確化・周知徹底にも配慮されており、従前の金融ADRにおいて指摘されてきた問題点の改善が図られている。

 ■指定紛争解決機関による金融ADRの特徴

 指定紛争解決機関による紛争解決手続は、当事者の一方(顧客又は金融機関等)からの申立てによって開始される(金商法156条の50第1項等)。指定紛争解決機関は、紛争解決手続の申立てを受けた場合、紛争解決委員を選任する(同条2項等)。紛争解決委員は、弁護士・法律学に関する教授等として5年以上従事した者、消費生活専門相談員等として5年以上従事した者、苦情処理業務を行う法人等において顧客保護の業務に10年以上従事した者等の要件を満たす者でなければならない(同条3項、金融商品取引法第五章の五の規定による指定紛争解決機関に関する内閣府令11条等)。

 紛争解決委員は、適当と認めるときは他の法律上の指定を受けた金融ADR機関(受託紛争解決機関)に、紛争解決手続業務を委託することができることとされており(金商法156条の50第4項等)、他の業態との連携手段が用意されている。また、顧客からの申立てに基づいて紛争解決手続が開始した場合において、指定紛争解決機関又は紛争解決委員が当該手続に応じるよう求めたときは、金融機関等の側において正当な理由なくこれを拒むことができない(金商法156条の44第2項2号等)。

 紛争解決手続において、紛争解決委員は、金融機関等に対して報告又は帳簿書類その他の物件の提出を求めることができ、金融機関等は正当な理由なくこれを拒むことができない(金商法156条の44第2項3号等)とされており、豊富な情報を有する金融機関等側と証拠資料に乏しい顧客側との間の実質的公平が図られている。さらに、紛争解決委員は、和解案を作成してその受諾を勧告し、又は特別調停案の提示を行うことができる(金商法155条の50第6項等)。特別調停案とは、和解案であって、一定の例外的場合を除いて金融機関等が受諾しなければならないものをいう(金商法156条の44第6項等)。これらの権限を紛争解決委員に与えることにより、実効的な紛争解決が図られている。

 紛争解決手続は、原則として非公開とされており(金商法155条の50第7項等)、当事者のプライバシーにも配慮されている。

 ■終わりに

 以上のように、指定紛争解決機関制度では、

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