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西村あさひのリーガル・アウトルック

大震災、企業が株主総会前に検討しておくべき問題点

河合 優子(かわい・ゆうこ)

 まもなく定時株主総会シーズン。今年は、東日本大震災で多くの企業や株主が直接間接に影響を受けた。東日本大震災を契機として、今年の定時株主総会では、開催企業側に従前以上の準備と配慮が求められる。河合優子弁護士が、定時株主総会における震災対応として企業側が検討すべき問題点を解説する。総会日程変更の方法、総会中に余震が起きた時の避難や食料備蓄から有価証券報告書提出の時期など検討しておかねばならない問題点は多い。

 

東日本大震災と定時株主総会対応

 

西村あさひ法律事務所
弁護士 河合 優子

拡大河合 優子(かわい・ゆうこ)
 弁護士。2006年弁護士登録(第一東京弁護士会)、西村ときわ法律事務所(現・西村あさひ法律事務所)入所。国内及びクロスボーダーのM&A案件、敵対的買収防衛や株主総会対策をはじめとするコーポレート案件を主に担当。

 ■はじめに

 平成23年3月11日に発生した東日本大震災とそれに伴う原子力発電所の事故は、わが国に甚大な被害をもたらしている。今回の未曾有の災害で亡くなられた方、被災された方には心からお悔やみとお見舞いを申し上げたい。

 多くの会社は、東日本大震災により、地震や津波による直接的影響にとどまらず、計画停電などに伴う事業活動の制限や為替相場の変動といった間接的影響も受けた。事業活動に与えるインパクトが広汎かつ重大であることも少なくない。そのような状況において、多くの会社が定時株主総会の開催時期を迎えようとしている。その準備及び対応においては、従前以上の周到さが必要とされている。

 近年、定時株主総会を準備する際の主要な検討点としては、買収防衛策の導入・更新、株主提案とプロキシーファイト、株主向け開示の充実化、あるいは独立役員の確保などが存在していたが、東日本大震災を契機として、震災対応という極めて重要な検討点が改めて認識されることになった。そこで、本稿においては、定時株主総会における震災対応として検討すべき諸問題のうち、主な点について概要を解説することにしたい。

 ■定時株主総会の開催日程 ~ 会社法と定款

 会社法は、定時株主総会は毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならないとしている(会社法第296条第1項)。

 そして、多くの株式会社は、定款において定時株主総会の議決権の基準日を事業年度の末日と定め、基準日における株主の権利行使は基準日から3ヶ月以内に行使するものに限られていること(会社法第124条第2項)との関係から、事業年度末日の属する月から3ヶ月後の月の下旬に定時株主総会を開催している。例えば、3月決算の株式会社は6月下旬に定時株主総会を開催する例が大多数である。

 また、多くの株式会社は、定款において定時株主総会の招集時期についても明示的規定を設けている。例えば、3月決算の株式会社の定款であれば、毎年6月に定時株主総会を招集する旨の規定が設けられていることが多い。

 しかしながら、東日本大震災を原因として、あるいは今後起こり得る別の災害を直接の原因として、例年どおりの時期に開催することが困難なケースが考えられる。

 法務省は、この点に関連して、「会社法上は事業年度の終了後3ヶ月以内に必ず定時株主総会を招集しなければならないとされているわけではなく、東日本大震災の影響により当初予定した時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じている場合には、そのような状況が解消されて開催可能となった時点で定時株主総会を開催することとすれば、会社法第296条第1項に違反することにはならない」との見解を示している。

 この見解によれば、例えば、3月決算のA社が東日本大震災の影響により7月以降に定時株主総会を招集・開催することになっても、A社は直ちに会社法第296条第1項に違反することにはならない。必要に応じて基準日を設定し直した上で、定時株主総会を招集・開催すればよいことになる(会社法第124条)。

 実際に、東証1部上場のサンシティ(仙台市)や東証2部上場の東洋刃物(仙台市)など、東日本大震災を直接の原因として定時株主総会開催予定日の延期を発表し、基準日を設定し直している(または基準日を設定し直す予定の)上場会社も存在する。

 また、A社の定款に、定時株主総会の招集時期を毎年6月とする旨の規定が存在している場合、7月以降に招集手続を行うと、形式的には定款に違反し、総会決議取消事由(会社法第831条第1項第1号)が存在してしまうことになる。

 この点について法務省は、「東日本大震災の影響により定款所定の時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合には、会社法第296条第1項に従い事業年度の終了後一定の時期に定時株主総会を開催すれば足り、その時期が定款所定の時期よりも後になったとしても、定款に違反することにはならない」との見解を示している。

 法務省の見解によれば、A社は会社法第296条第1項のみならず定款に違反することにもならないことになる。ただし、法務省は今回の大震災の状況に鑑みて上記の見解を示しているため、東日本大震災以外の災害についても同様の結論が導かれるかが一義的でないことには、留意が必要である。

 株主総会の招集時期に関する定款規定は、上記のとおり、総会決議取消事由との関連で会社自身を不適切な状況に置かせる可能性をはらんでいる。株主総会の招集時期に関する定款規定は、そもそも任意的規定事項にとどまるものであるから、当該規定が定款の中に残っている会社については、今後、その改廃も積極的に検討されるべきであろう。

 ■定時株主総会の開催日程 ~変更の方法

 株主総会招集に関する取締役会決議(会社法第298条第4項)の後、招集通知を発送する前に日程変更の必要性が生じた場合は、取締役会が日程変更を決議した上で、変更後の内容の招集通知を発送することになる。

 他方、招集通知を発送した後に日程変更の必要性が生じた場合、対応方法としては、主に、(a)開催日時の変更、(b)招集手続の撤回(やり直し)、及び(3)予定どおり開催した上で延期する(会社法第317条)、の3つが考えられる。

 (a)開催日時の変更は、取締役会決議によって株主総会の開催日時を変更し、これを株主に周知する方法である。変更する旨の通知は、変更後の開催日の2週間前までに株主に発送され、かつ当該通知が当初予定していた開催日の前に株主に到達していることが望ましいものの、震災という性質上そのような時間的余裕がない場合もあるため、緊急避難的措置としてのウェブ修正も実務上の対応として提案されているところである。もっとも、会社法には株主総会の開催日時についてウェブ修正を認める明文規定は存在しないため慎重な検討が必要であると思われる。

 (b)招集手続の撤回(やり直し)は、取締役会決議によって招集手続を撤回し、後日改めて招集手続を最初からやり直す方法である。この方法も、(a)と同じく、撤回する旨の通知が当初予定していた開催日の前に株主に到達していることが望ましいと考えられる。この方法による場合は、日程変更の必要性が生じた時点ではまだ新たな開催日時の目途が立っておらず、議決権行使の基準日を設定し直すケースが典型的ではないかと思われる。また、招集手続をやり直す際は、株主から改めて議決権行使書や委任状の提出を受ける必要がある。

 (c)延期(会社法第317条)は、株主総会を当初予定日程どおり一旦開催した上で、審議に入る前に出席株主の議決権の過半数をもって延期の決議を行うという方法である。先行の総会と後日の総会は同一性を有すると解されており、招集通知の再発送や議決権行使の基準日を設定し直す必要はない。なお、株主に対する特段の通知は原則不要であって次回開催日時について議長一任とした場合には出席株主のみに通知が必要とする見解も存在するが、実務上は、自社ウェブサイトでの告知、プレスリリースの実施、案内書の送付などの方法により、可能な限り広く株主に延会の開催日時などを告知すべきであろう。

 どの方法によるかは、日程変更の必要性が生じたタイミングや設定済みの基準日との関係を勘案し、具体的事情に応じて判断することになろうが、総会開催予定日の直前に日程変更の必要性が生じた場合は、招集手続や基準日設定のやり直しが原則不要である(c)の方法が、実務上は有力な選択肢になるものと思われる。また、まさに総会開催中に大規模な余震その他の災害が発生した場合においても、(c)の方法によることになると思われる。

 ■事前準備

 (1)総会の開催場所、進行要領など

 総会の開催場所は、定款に特別の定めがない限り、取締役会決議により決せられるが、電力供給が依然として逼迫している現状においては、株式会社が例年利用していた総会開催場所が電力供給の不安定なエリアにあることも予想される。また、総会開催の場所や建物の状態によっては、東日本大震災による被害は免れたとしても、今後発生し得る災害に備える観点からは、開催場所としての適格性に疑問が残るケースも考えられる。

 そこで、当該取締役会決議に先立ち、各社は、安全性・安定性を十分に備えた開催場所を確保する必要がある。また、総会開催中に大規模な余震その他の災害や停電が発生した場合を想定し、避難経路の確認、避難誘導担当人員の配置、更には総会出席者分の備蓄食料を保管するスペースの確保なども検討すべきであろう。

 また、想定問答や進行要領については改めて見返し、震災対応という観点から不足がないか入念に確認する必要がある。想定問答のトピックとしては、東日本大震災により会社が受けた影響、会社の対応(従業員への指示、救援物資の提供など)、今夏の電力不足への対応策、東京電力をはじめとして株価が大きく下落した企業の株式を保有していた場合の評価損などへの対応、社内の危機管理体制の整備状況などが考えられる。また、進行要領については、総会の冒頭に、今回の大震災で亡くなられた方についての黙祷を行うことや、被災者へのお見舞いの言葉を申し上げることなどを検討しておく必要があると思われる。その他、総会開催中に規模の大きな余震や停電その他の災害が生じることを想定した進行要領を準備していくことも必須であろう。

 (2)有価証券報告書

 上場会社その他の有価証券報告書の提出が必要な会社は、事業年度経過後3ヶ月以内に有価証券報告書を提出する必要がある(金融商品取引法第24条第1項)。

 この点に関し、企業内容等の開示に関する内閣府令第15条の2は有価証券報告書提出期限の延期の承認について定めており、また、金融庁は有価証券報告書等の提出期限に係る特例措置を定めている。実際に、東証1部上場のサンシティ(仙台市)や東証1部上場のハニーズ(いわき市)など、東日本大震災を原因として後者の特例措置が適用された上場会社は複数存在する。

 もっとも、有価証券報告書は定時株主総会開催前の提出も可能である(企業内容等の開示に関する内閣府令第17条第1項第1号ロ参照)ことから、事業年度終了後3ヶ月以内に株主総会を物理的に開催することが困難な会社であっても、計算書類の確定が可能な会社については、かかる制度は基本的に適用されないものと考えられる。

 なぜなら、有価証券報告書の提出は定時株主総会の開催を前提条件としていないため、計算書類確定済の会社が定時株主総会の日程を後ろに変更しても、依然として、事業年度経過後3ヶ月以内に有価証券報告書を提出することが事実上可能だからである。

 したがって、平時において有価証券報告書を定時株主総会に先立って早期提出しているか否かにかかわらず、計算書類の確定が可能な会社においては、定時株主総会の日程が後ろに変更される場合には有価証券報告書を総会前に提出することとなる。詳細は会社によって異なるが、有価証券報告書のうち、例えば、役員の状況、配当状況、コーポレートガバナンスの状況といった項目の記載ぶりが、定時株主総会の前後によって異なる可能性があるため、各社は、各項目の記載の基準時を網羅的に確認しつつ案文を準備しておくべきであろう。

 ■定時株主総会の内容の開示

 入念な事前準備のもと適切な招集手続を経て定時株主総会を開催し、総会が無事終了した段階においては、決議通知を送付したり、臨時報告書により議決権行使結果を開示する(企業内容等の開示に関する内閣府令第19条第2項第9号の2)といった従来の対応に留まらず、定時株主総会の内容を可能な限り開示する必要があると思われる。

 特に今年度は、東日本大震災などの影響により、定時株主総会に実際に足を運ぶ株主の数が例年に比べ少ないことが予想されるため、総会に出席しなかった株主に対する情報開示の充実は、シェアホルダーズ・リレーション(SR)の観点からも、より一層重要になるものと思われる。

 具体的かつ合理的な情報開示方法としては、自社ホームページなどにおいて、(a)質疑応答の要旨を掲載する、または、(b)オンデマンド方式での動画配信を行うことが考えられる。

 このうち、(a)の方法は、会社にとっては定時株主総会における質疑応答の内容を忠実に再現する必要まではなく、過大な負担を強いられるものではないし、実際の作業においては、株主総会議事録の作成作業を一部利用することも可能で

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河合 優子(かわい・ゆうこ)

 西村あさひ法律事務所パートナー弁護士。
 2006年弁護士登録。2013年コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)、2014年ニューヨーク州弁護士登録。
 M&A、ジョイントベンチャー、データ関連法制、ライセンス・電子商取引その他企業法務全般について、クロスボーダー案件を中心に数多く担当。日本の個人情報保護法制については、多国籍企業を含む国内外の企業・組織をクライアントとし、データの域外移転、データ利活用、医療・遺伝子関連データの取扱い、漏洩時対応といった多岐に渡る問題点について、多くのアドバイスを継続的に提供。
 情報法制学会会員。一般社団法人遺伝情報取扱協会監事。

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