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西村あさひのリーガル・アウトルック

平成23年金融商品取引法改正で何が変わるか

 資本市場や金融業の基盤強化のため金融商品取引法が改正された。規制と実態のずれを解消し、金融取引を適正な形で活性化させるのが狙いだ。福田匠弁護士が、今回の改正の目玉であるライツオファリングの開示制度や資産流動化スキームに係る規制の弾力化などについて、その内容や金融実務への影響を詳しく解説する。

平成23年金融商品取引法改正の概要

西村あさひ法律事務所
弁護士 福田 匠

拡大福田 匠(ふくだ・たくみ)
 2001年、東京大学法学部卒業。2002年、弁護士登録。2008年、コロンビア大学ロースクール修了(LL.M.)。2009年、ニューヨーク州弁護士登録。2008年~2009年東京証券取引所自主規制法人上場管理部に出向。
 投資ファンドの組成、不動産流動化、その他ファイナンス業務一般を主な業務分野とする。

 ■ はじめに

 平成23年5月25日、資本市場及び金融業の基盤強化のための金融商品取引法等の一部を改正する法律(以下「改正法」という)が公布された。同法は、金融商品取引法(以下「金商法」という)及びその他の法令を改正するもので、ライツ・オファリングに係る開示制度などの整備や無登録業者による未公開株式などの取引などの対応といった特に報じられている内容のほかにも、金融実務上重要な改正を含むものである。今回は、同法の改正の主な内容を概観し、今後の金融取引への影響を考察したい。

 ■ ライツ・オファリングに係る開示制度等の整備

 ライツ・オファリング(ライツ・イシューとも呼ばれる)とは、株主全員に新株予約権を無償で割り当て、その行使を受けて新株を発行するという増資手法である。既存株主は新株予約権を行使することもできる一方、増資に応じない場合は新株予約権を市場で売却することにより理論上は権利落ちした保有株式の値下がり分に相当するであろう金額を回復するという選択をすることもでき、第三者割当増資や公募増資と比較して、既存株主の保護に配慮した増資の方法として活用が期待されている。ライツ・オファリングを採用するにあたっては、(i)新株予約権の既存株主による取得の効力が発生する以前に、それら既存株主全員に目論見書を交付する必要があり、費用と時間がかかること、及び(ii)いわゆる「コミットメント型」のライツ・オファリング(証券会社が、行使されなかった新株予約権を株主から買い取った上でこれを行使することを約束するタイプのもの)については、現行の金商法上、行使されない新株予約権を買い取る証券会社が公開買付けの手続や大量保有報告書の提出などを行わなければならないと考えられていることが、実務上支障とされていた。

 これに対し、改正法により、(i)発行会社が有価証券届出書などを提出し、その結果、電子開示システムであるEDINET上にそれが掲載されれば、EDINETのウェブページのアドレスなどの情報を有価証券届出書などの提出後遅滞なく(遅くとも新株予約権の割当てが行われるまでに)日刊紙に掲載することにより、目論見書の交付を不要とする、(ii)コミットメント型のライツ・オファリングにおける証券会社による未行使の新株予約権の取得及び行使を金商法上の「有価証券の引受け」と位置づけることにより、公開買付け及び大量保有報告書の提出の負担を免れるものとしつつ、証券会社の行為に対して所要の行為規制などを課して投資家保護を図る、という改正がなされた。さらに、新株予約権無償割当てがインサイダー取引の重要事実として明記された。

 ■ コミットメントラインの借主の範囲拡大

 コミットメントライン契約とは、貸主が一定の期間及び金額の融資枠を設定するとともに、借主がそれに対し手数料を支払う契約をいう。コミットメントライン契約を用いることができる者は会社法上の大会社などの一定の者に限られていたところ、改正法は、純資産10億円超の株式会社、大会社の子会社、純資産の額が10億円を超える者に相当する外国会社、資産流動化のための合同会社、保険業法上の相互会社、第一種金融商品取引業者、投資運用業者、証券金融会社、貸金業者などもこれを用いることができるようにした。より多くの企業がコミットメントライン契約を利用できるようになり、資金調達方法の多様化に資するものといえよう。

 ■ 金融機関本体によるファイナンスリースの活用の解禁

 ファイナンス・リースとは、中途解約禁止及び物件価格と付随費用をリース料で全額回収(フルペイアウト)するという2つの要件を満たすリース取引をいう。改正法は、従来、銀行・保険会社等金融機関の子会社などにおいて容認されているファイナンス・リース業務を、本体にも解禁した。金融機関による融資やリースのサービスのワンストップでの提供や、中小企業などの潜在的な設備投資ニーズの掘り起こし、金融機関の収益機会の多様化といった効果が期待されている。

 ■ プロに限定した投資運用業の緩和

 金商法上、投資運用業に係る登録に当たっては、取締役会を設置した株式会社で、最低資本金額が5,000万円以上であることが要求されるなど、厳格な登録拒否事由が定められている。このような制約は、投資判断能力が十分なプロを顧客としてファンドの運用を行う場合に実務上制約となり得るものであった。改正法では、顧客が一定の適格投資家に限定された一定規模以下の投資運用業(適格投資家向け投資運用業)について、投資運用業の登録要件を一部緩和する特例を新設し、監査役設置会社でも足りるものとしたほか、政府令において最低資本金額及び最低純財産額の緩和(1,000万円とすることが予定されている)、人的構成要件の緩和を行うことが検討されている。また、投資信託の受益証券などの販売勧誘については、適格投資家向け投資運用業を行う者が第一種金融商品取引業の登録を受けなくても自ら運用を行う投資信託の受益証券などの私募の取扱いができるよう、これを第二種金融商品取引業とみなすこととした。適格投資家の範囲には、適格機関投資家、特定投資家などが含まれる予定である。後述する投資助言・代理業の登録拒否事由の拡充と合わせ、業者が現実の必要性に即しつつも適正に業務を遂行することを促すものと期待される。

 ■ 資産流動化スキームに係る規制の弾力化

 資産の流動化に関する法律(いわゆるSPC法)に基づく資産の流動化について、より弾力的なものとするための改正が行われた。具体的には、(i)資産流動化計画の軽微な変更についての届出義務の免除、(ii)特定目的会社又は特定目的信託の受託信託会社が不動産と一体となった備品などを取得する場合の信託設定義務などの免除、(iii)不動産の価格について鑑定評価及び第三者調査を二重に義務付けることを廃止し、鑑定評価に一本化、(iv)特定目的会社の資産取得に当たっての資産譲渡人等による重要事項の告知義務の廃止、(v)特定目的会社が借り入れた資金の使途制限の撤廃、(vi)資産流動化の応用スキーム(特定目的信託の仕組みを利用したイスラム債の発行)の促進などである。(i)から(iv)を通じて従来取引の実態と規制の内容との関係が必ずしも明確でなかった点が明確化されるとともに、不必要な手続を省いた合理的な内容の規制となり、さらに(v)及び(vi)により資産の流動化に関する法律に基づくスキームがさまざまな形で使いやすい仕組みとなることが期待される。

 ■ 英文開示の範囲拡大

 これは、現在、有価証券報告書などの継続開示書類についてのみ認められている外国会社などによる英文開示の対象を、有価証券届出書などの発行開示書類及び臨時報告書に拡大するものである。有価証券届出書については、当該外国会社などに関する情報が外国において適正に開示されているなど公益又は投資者保護に欠けることがないと認められる場合に、日本語の有価証券届出書に代えて、有価証券届出書に記載すべき日本語による証券情報、外国において開示が行われている有価証券報告書又は有価証券届出書などに類する書類であって英語で記載されているもの、日本語による要約などの補足書類を提出することで足りるとしている。また、臨時報告書については、臨時報告書の提出理由が日本語で記載されている場合など公益又は投資者保護に欠けることがないと認められる場合に、日本語の臨時報告書に代えて、臨時報告書に記載すべき内容が英語で記載されたものの提出が認められる。外国会社などによる開示書類の作成に必要なコストの低減により外国会社などによる本邦での資金調達を容易にすることが期待されるが、制度が活用されるか否かは補足書類についてどの程度の内容が要求されるかにも影響を受けるものと思われる。

 ■ 無登録業者による未公開株式等の取引に関する対応

 (最近社会問題化しているが、)金商法上の登録を行っていない無登録業者が非上場の株券等の売付けなどを行った場合には、暴利行為に該当するものと推定して、その売買契約を原則として無効とした。これにより、投資者側の立証責任が軽減され、迅速な被害者救済に資することが期待される。また、無登録業者による広告・勧誘行為の禁止、罰則の引上げもなされた。

 ■ 投資助言・代理業の登録拒否事由の拡充

 投資助言・代理業の登録拒否事由に、金融商品取引業を適確に遂行するに足りる人的構成を有しない者が追加された。従来、投資助言・代理業の登録は投資運用業に比べ簡易な要件で行われてきたところ、近年は十分に業務を遂行できる体制を有しない者が参入しているとの懸念が背景にある。

 ■ 施行までのスケジュール

 改正法の施行日については、原則、公布後1年以内の政令で定める日から施行することとされている。但し、無登録業者による未公開株式の取引に関する対応のうち無登録業者に対する罰則の引上げについては、それらの行為が社会問題化していることもあって、既に平成23年6月14日から施行されており、また、その余の無登録業者による未公開株式に関する対応と、資産流動化スキームに係る規制の弾力化については公布後6月以内の政令で定める日から施行することとされている。

 ■ 終わりに

 改正法は、こ

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