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西村あさひのリーガル・アウトルック

企業統治の信頼回復目指す制度改正のポイント

有吉 尚哉(ありよし・なおや)

 オリンパスと大王製紙で相次いだ不祥事は、日本の企業統治に対する信頼を大きく失墜させた。内外の投資家の不信を払拭し、再発防止を目指して、金融庁、法制審議会、東京証券取引所などで制度改正の議論が進められている。焦点は、社外取締役の義務化やM&A情報の開示強化だ。それらは日本の企業社会にどう影響するのか。有吉尚哉弁護士が改正のポイントと見通しを詳しく解説する。

 

オリンパス事件を踏まえた制度改正の動向

西村あさひ法律事務所
弁護士 有吉 尚哉

拡大有吉 尚哉(ありよし・なおや)
 2001年東京大学法学部卒業。2002年弁護士登録。2010年~2011年金融庁総務企画局企業開示課出向。現在、西村あさひ法律事務所弁護士。金融法委員会委員。資産流動化取引その他の金融取引、信託取引、金融商品取引業その他の金融関連規制への対応等を担当。

 ■ はじめに

 オリンパスの損失隠し事件については、真相解明や刑事責任などの追及に向けた検察・警察及び証券取引等監視委員会による捜査が進められている。同時に、同種事件の再発を防止するとともに、オリンパスや大王製紙の不祥事によって低下した日本市場への信頼を回復するための制度改正に向けた取組みが進められている。本稿の執筆時点ではまだ法令改正などの具体的な内容が明らかとなったものはないが、平成23年12月16日の会見において、自見金融担当大臣が、(1)真に実効性のある企業統治の実現、(2)会計監査手続等の充実、(3)外部協力者としての金融関係者等の不正行為の是正・予防、(4)M&A等に関する開示の充実という4項目のための制度整備の必要性を述べており、近々にこれらに沿った制度改正が行われるものと見込まれる。

 本稿では、現時点で明らかになっている情報をもとに、これらの制度改正の見通しについて解説する。

 ■ 真に実効性のある企業統治の実現

 企業統治に関わる制度改正の取組みとしては、法制審議会会社法制部会において会社法制の見直しの議論が行われていることと、東京証券取引所(以下「東証」)における上場制度の見直しが進められていることがあげられる。

 これらの取組みの中では、独立性の高い役員(特に取締役)の機能を活用することによる企業統治の実効性の向上が主な課題の1つとなっている。現行の会社法でも、委員会設置会社においては2名以上の社外取締役を選任することが必要とされているが、我が国の企業の中で委員会設置会社の形態をとっている割合は極めて低く、大多数が採用している監査役(会)設置会社においては社外取締役の選任は義務付けられていない。また、東証の上場規則では、上場企業に対して1名以上の独立役員の確保が求められているが(なお、会社法上の「社外」の要件よりも厳しい「独立」の要件が求められている)、確保する独立役員は取締役ではなく監査役でもよいとされていること、独立役員を親密な取引先から迎えている例もあることなどの点で、実効性が十分ではないという指摘もある。

 このような状況を踏まえ、特にオリンパスの損失隠し事件を契機として独立性の高い役員の活用を促進するための制度改正の動きが生じている。

 ■ 法制審議会における企業統治に関する議論

 平成22年4月より会社法制の見直しに関して法制審議会会社法制部会(部会長:岩原紳作東京大学教授)で審議が行われ、会社法の改正のための検討が進められている。同部会への諮問事項の1つとして「企業統治の在り方」の見直しが取り上げられている。平成23年12月14日には同部会での審議を踏まえて「会社法制の見直しに関する中間試案」が公表された。

 独立性の高い役員の活用という観点については、監査役設置会社に対する社外取締役の選任の義務付けの当否などについて議論がなされている。同部会での社外取締役に関する議論は、オリンパスの損失隠しが明るみに出る以前から進められていたものであるが、事件が明らかになった後、特に社外取締役の選任の必要性が注目されている。また、オリンパスでは3名の社外取締役が選任されていたにもかかわらず、不祥事を防ぐことができなかったことを踏まえて、自社やグループ会社の役職員ではないことだけでなく「重要な取引先の関係者」ではないことを社外取締役の要件として追加すべきとの議論もなされており、中間試案においてもこの点が検討事項であることが注記されている。

 一方で、社外取締役の選任を法律で義務付けることに対して、人材の確保が困難であることなどから経済界には反対論が強く、日本経済団体連合会としても反対する意向であることが報じられている。また、「重要な取引先の関係者」でないことを会社法上の社外取締役の要件とすることに関しては、要件が抽象的であり、取締役会決議の有効性が不明確になるなど、法的安定性の点で懸念が生じるおそれもある。

 会社法の改正法案は今年(平成24年)の秋の臨時国会での提出を目指しているとの報道がなされている。監査役設置会社に社外取締役の選任を義務付けるか、義務付けるとした場合、義務付ける会社の範囲をどのようにするか、社外取締役の要件をどのようにするかなどの点については、改正法の成立まで議論が続くことが予想され、企業経営者や市場参加者は、立法の動向を注視することが必要となろう。

 なお、法制審議会会社法制部会においては、社外取締役の選任に関する論点のほかにも、監査役の監督機能の強化や資金調達の場面における企業統治の在り方など、企業統治の向上のための会社法制の見直しに関する審議が行われている。

 ■ 東京証券取引所における独立役員制度の見直し

 自見金融担当大臣の発言も踏まえて、東証においても独立役員制度の見直しが図られる模様である。平成23年12月20日の会見において、東証の斉藤社長は、オリンパスや大王製紙の事件が生じたことに関して、企業価値の向上に資するコーポレート・ガバナンスが日本では機能していないのではないかとの上場企業全般に対する不信感を指摘する声が内外の投資家の間で高まっていることを踏まえて、(1)独立役員の独立性を明確化すること、(2)独立役員に期待する役割を明確化することの2つを柱とした上場制度上の対応を行うことを表明している。

 (1)については、独立役員に関する情報開示を拡充することが想定されているようである。具体的には、東証は、独立役員について、その者が、会社からの寄付を受け入れているなど資金面で結びつきがある企業や団体、あるいは主要な取引先に在籍していたり、あるいはその者が所属する企業に対して会社が独立役員を派遣している場合(いわゆる「社外役員の持合い」の状況にあるような場合)には、独立役員の出身企業などの関連する情報の株主・投資家に対する開示を求める方針であると報じられている。

 また、(2)について、斉藤社長は、取締役会における決議や、取締役が行う経営の妥当性に対する監督に一定の影響力を行使する役割を独立役員が果たせるようにするための方策を検討することを表明している。具体的には、会社の経営に懸念がある場合には取締役会などで報告するよう求めたり、独立役員に適切に内部情報が伝わるようサポート体制の整備を求める方針であることが報じられている。

 これらの制度改正の時期については、今年(平成24年)1月末にも上場規則の改正案を公表し、速やかに実施したい考えであると報じられている。

 ■ 独立性の高い役員の活用

 このように、独立性の高い役員の活用のために会社法や上場制度を見直すための取組みが進められている。この点、個人的な私見としては、内外の投資家の間で我が国の企業統治の在り方に不信感が生じている現状においては、社会経済に一定の影響力を有する企業に対して、社外取締役の選任を義務付けることは不可避であると考える(なお、「会社法制の見直しに関する中間試案」においては、社外取締役の選任を義務付ける会社の範囲について、(1)公開会社かつ大会社である監査役会設置会社とする案と(2)有価証券報告書提出会社とする案を提示している)。もっとも、単に経営陣から独立した者が取締役となれば、企業統治の実効性が高まるというものではなく、社外(独立)取締役に就任した者が、その役割や責任を十分に理解して、監督機能を発揮することが必要であろう。

 形式的に一定の範囲で社外取締役の選任を義務付けることもさることながら、東証における独立役員に期待する役割の明確化に関する取組みなども踏まえて、個々の社外(独立)取締役が企業統治の向上のために適切な行動をとるようになることが望まれる。また、そのような取締役のなり手となる人材の育成も重要な課題であろう。

 ■ M&A等に関する開示の充実

 前述の会見において、自見金融担当大臣は、M&A等に関する開示の充実の必要性にも言及している。

 この点、オリンパス株式会社第三者委員会が平成23年12月6日に公表した調査報告書によれば、オリンパスは、買収を仲介した第三者に著しく高額な手数料を支払うなどの方法により、損失処理に必要な資金を環流させていたようである。自見金融担当大臣は、M&A等に関する開示の充実のための制度整備に関して、具体的な開示内容には言及していないが、報道ではM&A(合併・買収)を仲介した金融機関などに支払う手数料や買収先の開示を義務付けることが柱となるとされている。

 既存の開示制度の中でも、上場企業などについて一定の子会社の異動があった場合や一定の組織再編を行った場合には臨時報告書の提出が必要とされている(なお、東証の上場制度上も一定の子会社などの異動や組織再編は適時開示事項とされている)。M&A等に関する開示の充実のための制度整備としては、このような場合の臨時報告書の記載内容の拡充や、有価証券報告書などの記載事項として企業が実行したM&Aに関する事項を追加することが考えられよう。

 このようにM&A等に関する開示の充実を図ることにより、不公正な取引の是正・予防を図ることが可能となると考えられる。一方で、情報開示のための規制コストが高まることにより、企業取引を阻害することが懸念される。確かに、既存の開示制度の中でも手数料や費用の開示を求めている例として、有価証券報告書などにおける監査報酬の開示や、公開買付届出書における買付手数料などの開示などがあるが、M&Aの手数料の詳細な開示を求めることはM&Aを仲介する金融機関の反発を招く可能性も高く、開示内容によっては我が国の企業のM&Aに関与することを忌避するようになる事態も生じかねないと思われるし、また、手数料の水準のみに過度に焦点が当たって、そのサービスの水準・品質が軽視される風潮が生じないかという懸念もある。

 日本市場の信頼を回復するために取引の透明性を高めるための開示制度の整備が期待される一方で、過剰な規制により我が国のM&A取引を萎縮させる結果となることは避けるべきであり、実務への影響にも十分に配慮した制度改正が期待される。

 ■ その他の取組み

 ここまで述べた事項のほか、自見金融担当大臣の会見では、会計監査手続等の充実と外部協力者としての金融関係者等の不正行為の是正・予防の2つの項目が言及されている。

 このうち前者の会計監査手続等の充実に関しては、平成23年12月27日に、日本公認会計士協会において、会計監査及び企業統治のあり方について検討を行うことを目的とし、外部有識者もメンバーとする「監査制度充実強化調査会」を同協会会長の諮問機関として設置することが公表されている。そして、同調査会での検討の結果を受け、制度的手当てが必要であれば、法改正や監査に関する指針などの改定を提言する予定であるとされている。平成24年1月13日には、同調査会での主な検討項目として、「企業統治と外部監査との関係の検討」などの5項目を取り上げることが公表された。

 後者の金融関係者等の不正行為の是正・予防については、本稿の執筆時点では具体的な取組みは公表されていないが、今後、金融商品取引法や関連政府令などの改正により規制が整備されるものと予想される。

 ■ 終わりに

 冒頭で述べたとおり、オリンパスや大王製紙の不祥事により日本市場への信頼が著しく低下したことは否定できず、個別事件としての処理だけではなく、市場一般の信頼性の向上のための制度改正は避けられないものと考える。

 もっとも、信頼性の向上の

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有吉 尚哉(ありよし・なおや)

 2001年東京大学法学部卒業。2002年弁護士登録。2010年~2011年金融庁総務企画局企業開示課出向。現在、西村あさひ法律事務所弁護士。金融法委員会委員。資産流動化取引その他の金融取引、信託取引、金融商品取引業その他の金融関連規制への対応等を担当。

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