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西村あさひのリーガル・アウトルック

日経新聞株主権確認請求訴訟を参考に株式譲渡ルールを考える

森本 大介(もりもと・だいすけ)

  会社との間で退職時における株式譲渡の合意をして株式を取得した役員・従業員が、退職の際に会社以外の第三者に高額で株式を譲渡しようとして会社と紛争になることがままある。判例は、これまで一貫して会社に軍配を上げてきたが、疑義をはさむ学説も少なくない。こうした紛争に備え、会社側の法的リスクを軽減する方法として「取得条件付種類株式」を使った株式譲渡ルールが考えられる。森本大介弁護士が日本経済新聞の紛争を題材に、同ルールについて詳しく解説する。

 

取得条項付種類株式を利用した株式譲渡ルールの構築について
   ~日本経済新聞株主権確認請求事件を参考に~

西村あさひ法律事務所
弁護士・ニューヨーク州弁護士
森本 大介

 ■はじめに

森本 大介(もりもと・だいすけ)拡大森本 大介(もりもと・だいすけ)
 2000年東京大学法学部卒業、01年弁護士登録(司法修習54期)。07年にノースウエスタン大学ロースクール修了(LL.M.)。同年アメリカ合衆国ニューヨーク州弁護士登録。07年から08年にかけてKirkland & Ellis LLPにて研修。現在西村あさひ法律事務所パートナー。国内及びクロスボーダーのM&A案件、FCPAをはじめとする危機管理案件を中心に、会社法などビジネスロー全般にわたる各社へのアドバイスに従事。

 非上場の閉鎖会社においては、会社にとって好ましくない株主に株式を取得されることを防止し、あるいは、役員・従業員の会社に対する帰属意識を強化するための手段として、役員・従業員に株式を所有させるものの、株式取得の際に、退任あるいは退職した場合には、あらかじめ合意した価格にて当該株式を会社あるいは会社の指定する第三者(持株会等)に譲渡させるという合意を行うケースが見受けられる(本稿ではこのような株式譲渡の合意を「株式譲渡ルール」という)。

 しかしながら、このような株式譲渡ルールは、特に株式の取得時と比べて会社が成長し、株式の客観的価値が上昇しているようなケースでは、役員・従業員の側からその有効性を争われ、裁判に発展するケースも多い。

 株式譲渡ルールを巡る近時の著名事案としては、最判平成21年2月17日判決(日本経済新聞株主権確認請求事件)があるが、同判決は日本経済新聞における株式譲渡ルールを有効としたものの、学説上はこれに反対する見解も多い。

 そこで、本稿では、当該事件の概要及び株式譲渡ルールを巡る問題点を踏まえた上で、法的により安定的な形の、取得条項付種類株式を利用した株式譲渡ルールを構築する方法につき、検討したい。

 ■ 日本経済新聞株主権確認請求訴訟事件の概要

 日本経済新聞の従業員持株会においては、株主が退職や死亡により保有資格を失ったとき、又は個人的理由により売却する必要が生じたときは、持株会が額面額である1株100円で買い戻す株式譲渡ルールが存在していたところ、原告は当該株式譲渡ルールに従う旨の合意をして日本経済新聞の株式を1株100円で譲り受けたにも拘わらず、当該株式譲渡ルールに違反し、日本経済新聞株式を1株1000円で第三者に譲渡したため、持株会が上記合意に従い原告の株式を取得したものである。原告らは、これに対し、株主権確認の訴えを提起し、当該訴訟の中で上記株式譲渡ルールの有効性が争われた。

 最高裁は、以下の点を理由に、上記株式譲渡ルールは会社法107条及び127条の規定に反するものではなく、公序良俗にも反しないとして有効と判断している。

(1)  上記株式譲渡ルールは、株式の保有資格を原則として現役の従業員等に限定する社員株主制度を採用している当該会社において、同制度を維持することを前提に、これにより譲渡制限を受ける株式を円滑に現役の従業員等に承継させるためのものである。

(2)  非公開会社である当該会社の株式にはもともと市場性がなく、上記株式譲渡ルールにおいては、従業員が持株会から株式を取得する際の価格も額面額とされていた。

(3)  当該従業員は、上記株式譲渡ルールの内容を認識した上、自由意思により持株会から額面額で株式を買い受けた。

(4)  日本経済新聞が、多額の利益を計上しながら特段の事情もないのに一切配当を行うことなくこれをすべて会社内部に留保していたというような事情はない。

 

 ■ 株式譲渡ルールを巡る問題点

 (1) 法的有効性に関する判例・学説

 裁判例は、一貫してこのような株式譲渡ルールの有効性を認めている(例えば、日本経済新聞株主権確認請求事件の他にも最高裁平成7年4月25日最高裁判所裁判集民事175号91頁(その原審である名古屋高判平成3年5月30日判タ770号242頁)、神戸地裁尼崎支判昭和57年2月19日判時1052号125頁、東京高判平成5年6月29日判時1465号146頁など)。

 他方で、学説においては、非公開会社における持株会の株式承継スキームは実務上広く用いられており、従業員等が十分に理解し納得していることを前提に、投下資本回収について制約を受けることもやむを得ないとの見解(森本滋「日刊新聞の発行を目的とする株式会社の従業員が持株会から譲り受けた株式を個人的理由により売却する必要が生じたときは持株会が額面額でこれを買い戻す旨の当該従業員と持株会との間の合意が有効とされた事例」私法判例リマークス40号106頁)も存在するものの、「株式保有期間の留保利益をまったく反映しない売買価格の定めの有効性には疑問がないではない」(江頭憲治郎『株式会社法〔第四版〕』237頁)という見解や、「配当性向が100%近いという場合以外は公序良俗に反する可能性がないわけではない」「実際の配当状況によっては、当初の約定譲渡価額が公序良俗に反すると評価すべき場合がある」(弥永真生『リーガルマインド会社法〔第12版〕』67-68頁)と、譲渡価格や配当性向によっては無効と解する見解が多数のようである。

 そこで、合意による株式譲渡ルールについては、後に紛争になった場合において、株式譲渡ルールに関する二つの最高裁判例(平成7年4月25日と平成21年2月18日)の射程を巡って、疑義が生じる可能性もあるため、このような株式譲渡ルールを導入する際には、法的観点からの疑義が生じないようルールを設計する必要がある。

 (2) 株主が株式譲渡ルールに従わなかった場合

 日本経済新聞株主権確認請求事件においては、株主がその保有する日本経済新聞株式を第三者に譲渡しようとしたのに対し、日本経済新聞は、株式譲渡ルールに照らして株主と持株会との間の譲渡を認め、持株会を譲受人として取り扱うこととした。

 この点、定款による株式の譲渡制限が付されている場合、会社は譲渡承認請求を拒絶することにより、会社にとって好ましくない株主に対する譲渡を拒絶することは可能である。しかしながら、株主が、株式譲渡ルールに反し、第三者に対する譲渡を希望してきた場合、当該譲渡を承認しない会社は、当該株式を自ら買い取るか、あるいは譲受人を指定しなければならず(会社法140条)、会社が買い取る場合、株主総会における特別決議を取得することを要する(会社法140条2項、309条2項1号)。そして、その際の買取価格については、協議によるものとされており、会社・指定買取人からの通知があった日から20日以内に、裁判所に対する売買価格の決定の申立をすることができる(会社法144条2項、7項)

 したがって、株券発行会社においては、株主が株式譲渡ルールに背き、譲渡承認請求をしてきた場合、会社として株式譲渡ルールを強制できない可能性がある。

 また、仮に役員・従業員である株主が退任・退職したにも拘らず、株式譲渡ルールに従わず、会社あるいは第三者に対して株式を譲渡しないような場合、裁判によることなく会社あるいは会社が指定する第三者が当該株主から強制的に株式を取得する方法は存在しない(もっとも、例えば、株式譲渡ルール上の譲受人において譲渡代金を供託した上で、譲渡があった旨会社に主張することで、会社が名義書換に応じるケースもあろう)。そこで、当事者間の合意によって株式譲渡ルールを定めた場合、上記のような点において必ずしも会社が意図した効果を得られるか否かは明らかではなく、この点からも取得条項付種類株式を利用することが考えられよう。

 (3) 税務上の取扱い

 通常、非上場会社の株式を譲渡した場合、たとえ低廉価格で譲渡をした場合であっても、当該会社の1株当たり企業価値相当額が時価であるとして、当該価格での譲渡がみなされることになる(所得税法59条1項2号、同法施行令169条)。

 上記に照らすと、例えば株式譲渡ルールに基づき、将来株式を譲渡する際には1株当たりの取得価格である50円で譲渡するという合意をし、当該合意に基づき株式を譲渡した場合において、当該株式の企業価値が1株当たり1000円であったような場合、株主としては時価である1000円と取得価格である50円の差額である950円の譲渡益を得たとして、譲渡益課税がなされる可能性がある。

 実務上、株式譲渡ルールに基づき、取得価格と同額あるいは、これに近い価格で譲渡を行った場合に、どのような課税関係となるのかについては疑義が存する。

 ■ 取得条項付種類株式を利用する方法

 (1) 概略

 上記の通り、当事者間の合意により株式譲渡ルールを規定した場合の論点については必ずしも明確ではないため、株式譲渡ルールを構築する際に取得条項付種類株式を利用することを考えてみたい。

 (2) 取得条項付種類株式とは

 取得条項付種類株式とは、一定の事由が生じたことを条件として会社が一定の対価と引換えに当該株式を取得することが可能な種類株式であり(会社法107条1項3号)、一部の株式を対象とすることも可能であるし、全部の株式を対象にすることも可能である。そこで、対象会社の発行する全株式に取得条項を付し、対象会社が別途定める日に、予め定める額の金銭を対価として、対象会社の役員及び従業員の地位を失った者並びに対象会社の定年に達した者(以下「退任役員等」という)の保有する全株式を取得対象とすることで、対象会社が強制的に低額で退任役員等から株式を取得することが可能となる。

 (3) 種類株式の内容

 取得条項付種類株式の内容として、定款において以下の事項を定めることが必要となる。

(1)  一定の事由が生じた日に当該株式会社がその株式を取得する旨及びその事由

(2)  当該株式会社が別に定める日が到来することをもって上記(1)の事由とするときは、その旨

(3)  上記(1)の事由が生じた日に上記(1)の株式の一部を取得することとするときは、その旨及び取得する株式の一部の決定の方法

(4)  上記(1)の株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の株式等以外の財産を交付するときは、当該財産の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法

 

 取得条項付種類株式を利用して株式譲渡ルールを構築する場合、上記(1)及び(2)については、「一定の事由」を客観的事由とすることで、当該事由が発生した場合に強制的に取得の効果が生じるよう構築することも可能であるし、また、「当会社が別途定める日」とすることで、取得するか否かの判断を会社の選択に委ねることも可能となる。

上記(3)については、一部の株式の決定方法として「当会社の役員及び従業員の地位を失った者並びに満60歳(又は対象会社の定年として適切な年齢)に達した者の保有する全株式」と規定することが考えられる。

上記(4)については、対価の相当性は特段要求されていないので、予め一定の金額と規定することで、当該金額での強制的買取が可能となる。

 (4) 導入のための手続

 株主総会特別決議による定款変更(会社法466条、309条2項11号)と株主全員の同意が必要となる(会社法110条)。なお、種類株式の内容は、登記事項になるので、対象会社の全株式が上記のような取得条項の付された株式であることは登記により第三者に公示されることになる。

 上記のとおり、株主全員の同意が必要となるため、本スキームを利用できるのは、閉鎖会社の中でも株主数が少なく、株主全員の同意を物理的に取得できるような会社に限られる点は、デメリットとして挙げられよう。もっとも、会社を設立する当初において、将来における事業承継まで見据えて、本スキームを導入したり、あるいは会社自体は成長を遂げているものの、株主が比較的少数であるという段階で導入することは十分検討に値しよう。

 (5) 取得のための手続

 対象会社が退任役員等から株式を取得する必要が生じた場合に、対象会社の取締役会において取得日を決議し(会社法168条1項)、取得対象となる株主に、取得日の2週間前までに取得日を通知することが必要となる(同条2項)。

なお、取得対価の帳簿価額が取得日の分配可能額を超える場合には取得の効力が生じない点に留意が必要となる(会社法170条5項、107条2項3号ト)。

 ■ 税務上の取扱い

 取得条項付種類株式の譲渡であっても、上記「株式譲渡ルールを巡る問題点」(3)において述べた税務上の取扱いの枠組みは同様である。

 しかしながら、取得条項付種類株式については、当初から当該金額での取得が予定されていることから、当該株式の時価は、企業価値を反映した価格ではなく、取得が予定されている価格であり、株主に課税関係は発生しないという整理が可能ではないか考えられる。

 もっとも、この点に関して明確なガイドラインなどはまだ出ておらず、最終的にはこのような株式譲渡ルールを導入する際に、課税当局との間で折衝を行うことが不可欠であろう。

 ■ おわりに

 以上見てきた通り、取得条項付種類株式を利用することで、現在実務において幅広く実施されている株式譲渡スキームに内在する法的リスクを軽減できるものと考えられる。

 もっとも、取得条項付種類株式を利用した株式譲渡スキームを導入する際に、定款変更などの手続が必要になる点で、煩雑になることは否めず、合意によるスキームとするか、あるいは取得条項付種類株式を利用したスキームにするかは、最終的には会社の判断に委ねられよう。なお、取得条項付種類株式を利用した株式譲渡スキー

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森本 大介(もりもと・だいすけ)

 2000年東京大学法学部卒業、01年弁護士登録(司法修習54期)。07年にノースウエスタン大学ロースクール修了(LL.M.)。同年アメリカ合衆国ニューヨーク州弁護士登録。07年から08年にかけてKirkland & Ellis LLPにて研修。現在西村あさひ法律事務所パートナー。国内及びクロスボーダーのM&A案件、FCPAをはじめとする危機管理案件を中心に、会社法などビジネスロー全般にわたる各社へのアドバイスに従事。

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