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西村あさひのリーガル・アウトルック

クールジャパン輸出に「壁」、それを乗り越えるには

小林 和真呂(こばやし・かずまろ)

 安倍政権の成長戦略の柱となっている「クールジャパン」。アニメやドラマなどの輸出を促進し、外国の人たちに広く日本の魅力を知ってもらう日本ブランド振興キャンペーンだ。「韓流」に追い付き追い越せで、政府、関係企業は、中国や東南アジアなどへの売り込みに躍起のようだが、そこに立ちはだかるのが、売り込み先の国の自国文化保護などを目的とした海外コンテンツ規制だ。それを乗り越え、進出するにはどうしたらいいのか。小林和真呂弁護士が詳しく解説する。

海外コンテンツに対する規制とその対応


西村あさひ法律事務所 弁護士
小林 和真呂

小林和真呂弁護士拡大小林 和真呂(こばやし・かずまろ)
 2004年東京大学法学部卒業。2007年弁護士登録。独占禁止法、企業危機管理、訴訟、国際通商法等の業務分野に従事。主な著書に『インサイダー取引規制の実務』(共著、商事法務)、『知的財産法概説』(共著、弘文堂)等がある。
 ■ はじめに

 近頃、新聞やテレビ、インターネット等において「クール・ジャパン」という言葉を目にする機会が増えてきた。明確な定義はないようだが、「クール・ジャパン」とは、一般的には、日本文化の強みを産業化して海外展開するための官民連携による推進策、あるいはそのような強みを持つ日本文化そのもののことを言うようである。特に、世界的に評価が高いとされているポップカルチャーについては、積極的に海外展開すべき分野の一つとされ、漫画、アニメ等に代表されるコンテンツの育成、各コンテンツの海外における認知度向上、知的財産の保護等のための具体的方策が議論され、実行されつつある。詳細は、内閣官房・クールジャパン推進会議のウェブページ(http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/cool_japan/)及び経済産業省の「クール・ジャパン/クリエイティブ産業政策」のウェブページ(http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/creative/)を参照されたい。

 本稿では、このようなコンテンツの海外展開を進めるに当たって生じうる問題の一つとして、各国が自国文化、道徳観念等の保護の目的で行っている海外コンテンツに対する規制の内容と、かかる規制に対して国際通商法の観点から採りうる対応について考察する。

 ■ 海外コンテンツに対する規制

 例えば、中国においては、道徳観念の保護等の目的から、放送、出版等あらゆるメディアにおける海外コンテンツの公開が当局による事前の許可の対象となっており、日本製コンテンツの公開が許可される事例は限定されていると言われている。 韓国においては、戦後、自国文化及び国民感情の保護の観点から、日本の漫画、アニメ、映画、音楽等の日本大衆文化に対する制限がなされ、その後、段階的に開放措置が取られたが、現在でも、日本の娯楽番組及び映画の地上波、ケーブル及び衛星放送、並びに日本単独制作ドラマの地上波放送については、一定の制限がなされていると言われている。日本大衆文化の流通を直接制限する規定が明文上定められているのではなく、放送法等の関連法規において定められている各種の審議、輸入推薦、許可等の手続を通じて、事実上の制限がなされていると言われている。 ベトナムにおいては、目的については明確ではないが、2013年5月15日、外国語のテレビ番組について、ベトナム語への翻訳を義務付ける規制が施行された。ニュース番組は規制の対象外とされたものの、一部の現地放送事業者は、NHKを含む複数の外国放送事業者から提供を受けて放映していた外国語テレビ番組の放映を停止したと言われている。また、2012年には、政府が、南沙諸島の領有権問題に絡んで、中国のテレビ番組の放映を制限するように指示したとも言われている。

 これらの制度ないし措置は、いずれも海外コンテンツの流通を制限するものであり、物品及びサービスの貿易自由化について規定したWTO協定、その他国際通商に係る協定上の問題を生じさせるように思われる。

 ■ 設例

 以下では、「日本において映画の制作を行っているA社が、(WTO加盟国である)X国の事業者に対して当該映画の放映権を販売しようとしたが、X国が海外コンテンツの制限措置を採っているために、事実上、当該映画の放映権を販売することができなかった」という場合を例に、このようなX国の措置がWTO協定上許容されるのか、A社に採りうる手段があるのかを検討する。

 ■ サービスの貿易に関する一般協定(GATS)

  (1) 物品貿易・サービス貿易

 物品の貿易に影響を及ぼす措置については、WTO協定のうち、関税及び貿易に関する一般協定(GATT・General Agreement on Tariffs and Trade)が、サービスの貿易に影響を及ぼす措置については、サービスの貿易に関する一般協定(GATS・General Agreement on Trade in Services)が、それぞれ適用される。

 設例のように、X国の事業者に対して自社制作の映画の放映権を販売する取引は、後述のとおり、GATSのサービス分類の一つとして「映画及びビデオテープの制作及び配給のサービス」(Motion picture and video tape production and distribution services)が挙げられていることからすれば、サービス貿易としてGATSが適用されると思われる。一方、本稿では詳細を省略するが、当該取引は、コンテンツがDVDやテープレコーダ等の媒体に化体されて取引されていると評価され、物品貿易であるとしてGATTも適用される可能性もある。

 (2) サービスの分類

 WTO事務局は、GATS上のサービスについて詳細な分類を行っている(MTN.GNS/W/120)。映画の放映権の販売については、「音響映像サービス」(Audiovisual services)中の、「映画及びビデオテープの制作及び配給のサービス」(Motion picture and video tape production and distribution services)に該当すると思われる。

 (3) サービスの形態(モード)

 サービス貿易には、以下の4つの形態が存在し(GATS1.2条)、各形態に応じて、加盟国が自由化を約束している範囲が異なる。

(a)  いずれかの加盟国の領域から他の加盟国の領域へのサービスの提供(第1モード・越境取引)

(b)  いずれかの加盟国の領域内におけるサービスの提供であって他の加盟国のサービス消費者に対して行われるもの(第2モード・国外消費)

(c)  いずれかの加盟国のサービス提供者によるサービスの提供であって他の加盟国の領域内の業務上の拠点を通じて行われるもの(第3モード・業務上の拠点を通じたサービス提供)

(d)  いずれかの加盟国のサービス提供者によるサービスの提供であって他の加盟国の領域内の加盟国の自然人の存在を通じて行われるもの(第4モード・自然人の移動)


 A社がX国の事業者に対して自社制作の映画の放映権を販売する取引は、第1モードに当たると思われる。

 (4) 内国民待遇義務(GATS17条)

 GATS17.1条は、加盟国は、(ア)約束表において自由化を約束した分野において、(イ)他の加盟国のサービス及びサービス提供者に対して、自国の同種のサービス及びサービス提供者に与える待遇よりも不利でない待遇を与えなければならないと規定している。 X国による海外コンテンツの制限措置(以下「本件措置」という。)によって、日本の制作会社A社は、(制限なく自社制作の映画の放映権を販売できる)X国の制作会社よりも不利な立場に置かれると思われ、本件措置は(イ)の要件を満たすと思われる。したがって、(ア)X国が第1モードの「映画及びビデオテープの制作及び配給のサービス」について、内国民待遇を約束している場合には、後述する例外に該当しない限り、本件措置は、GATS17条の内国民待遇義務に違反すると思われる。

 (5) 市場アクセス義務(GATS16条)

 GATS16.2条は、加盟国は、(ア)約束表において自由化を約束した分野において、(イ)以下に列挙する措置を採ってはならないと規定している。

(a)  サービス提供者の数の制限(数量割当て、経済上の需要を考慮するとの要件、独占又は排他的なサービス提供者のいずれによるものであるかを問わない)

(b)  サービスの取引総額又は資産総額の制限(数量割当てによるもの又は経済上の需要を考慮するとの要件によるもの)

(c)  サービスの事業の総数又は指定された数量単位によって表示されたサービスの総産出量の制限(数量割当てによるもの又は経済上の需要を考慮するとの要件によるもの)

(d)  特定のサービスの分野において雇用され又はサービス提供者が雇用する自然人であって、特定のサービスの提供に必要であり、かつ、その提供に直接関係するものの総数の制限(数量割当てによるもの又は経済上の需要を考慮するとの要件によるもの)

(e)  サービスが合弁企業等の法定の事業体を通じサービス提供者によって提供される場合において、当該法定の事業体について特定の形態を制限し又は要求する措置

(f)  外国資本の参加の制限(外国の株式保有比率又は個別の若しくは全体の外国投資の総額の比率の上限を定めるもの)


 米国による越境賭博規制がGATSに違反するとしてアンチグア・バーブータが提訴した事件(米国賭博サービス事件)において、パネル(申立国の要請を受けて加盟国の措置がWTO協定に整合するか否かを審査する小委員会)は、米国の措置は、実質的には「ゼロ割り当て」をしていると評価でき、上記(c)号に該当すると判断し(United States-Measures Affecting the Cross-Border Supply of Gambling and Betting Services(“US-Gambling”), WT/DS285/R. para. 6.355)、上級委員会(パネルの判断に不服がある紛争当事国の申立てを受け、パネルの判断の当否を審査する委員会)も、パネルの判断を支持した(US-Gambling, WT/DS285/AB/R. paras.251-252)。本件措置についても、他の加盟国の制作会社がX国の事業者に対して映画の放映権を販売することを禁止する効果を有しており、他の加盟国の制作会社に対する「ゼロ割り当て」をしているとして、GATS16.2条(c)に該当する可能性がある。

 したがって、本件措置は(イ)の要件を満たす可能性があり、 (ア)X国が第1モードの「映画及びビデオテープの制作及び配給のサービス」について、市場アクセスを約束している場合には、後述する例外に該当しない限り、本件措置は、GATS16条の市場アクセス義務に違反する可能性がある。

 (6) 約束表

 第1モードの「映画及びビデオテープの制作及び配給のサービス」について、約束表において内国民待遇、市場アクセスを約束しているか否かは、加盟国によって異なる。

 例えば、韓国は、内国民待遇及び市場アクセスのいずれについても約束している。中国は、内国民待遇及び市場アクセスのいずれについても約束しているものの、海外映画の上映については、映画内容に係る当局の規制に従ったものとし、かつ年間20本に限定することができると留保している。マレーシアは、内国民待遇については約束しておらず、市場アクセスについては約束しているものの、マレーシア国内に業務上の拠点があることを条件にしている。ベトナムは内国民待遇及び市場アクセスのいずれについても約束していない。

 X国が、約束表において内国民待遇又は市場アクセスを約束していない場合には、本件措置はGATSの内国民待遇義務違反又は市場アクセス義務違反には該当しないことになる。

 (7) 例外

 仮に、X国が「映画及びビデオテープの制作及び配給のサービス」について、約束表において内国民待遇又は市場アクセスを約束しているとしても、加盟国の措置が、GATS14条及びGATS14条の2に規定する一般的例外に該当する場合には、内国民待遇義務違反にも、市場アクセス義務違反にもならない。本件措置については、一般的例外のうち、GATS14条(a)の「公衆の道徳の保護又は公の秩序の維持のために必要な措置」に該当するか否かが問題になる。具体的には、本件措置は、以下の要件を満たす場合には、内国民待遇義務違反にも、市場アクセス義務違反にもならない。

(ア)  「公衆の道徳を保護」(protect public morals)し、又は

(イ)  「公の秩序を維持」(maintain public order)するために、

(ウ)  「必要な」(necessary)措置であること

(エ)  同じ条件の下にある国の間における恣意的な差別でも不当な差別でもなく、国際貿易に対する偽装した制限でないこと


 以下、各要件の概要を説明する。

 (ア) 「公衆の道徳を保護」(protect public morals)

 「公衆の道徳」とは、「共同体又は国家によって保持されあるいは共同体又は国家のために保持される善悪を識別する基準」(standards of right and wrong conduct maintained by or behalf of a community or nation)を意味し(US-Gambling, WT/DS285/R, para.6.465)、「公衆の道徳」の内容は、支配的な社会的、文化的、倫理的及び宗教的価値を含む幅広い要素によって、時代や場所により異なり得るものであり、加盟国自身のシステムや価値基準に従ったもので、それぞれの領域内における「公衆の道徳」の概念の定義及び適用については、各加盟国はある程度の裁量を与えられるべきであるとされている(US-Gambling, WT/DS285/R,paras.6.461-462)。

 米国賭博サービス事件において、パネルは、傍論の中ではあるが、未成年者による賭博の防止、賭博中毒者の保護、マネーロンダリングの防止、詐欺的な行為の防止は「公衆の道徳」に該当すると述べている(US-Gambling, WT/DS285/R, paras.6.469,486-487)。

 一方、中国による出版物等の貿易権及び外国サービス供給者による流通サービスを制限する措置が、中国のWTO加盟議定書における貿易権供与義務、GATS17条の内国民待遇義務及び同16条の市場アクセス義務等に違反するとして、米国が提訴した中国音響・映像サービス事件(WT/DS363/R, WT/DS363/AB/R)において、中国は、出版物等は「公衆の道徳」に大きく影響するものであり、一連の措置は「公衆の道徳」の保護のために必要な措置であると主張したのに対し、米国は、出版物等は「公衆の道徳」に大きく影響するものであるとの中国の主張については、争わなかった。

 X国の海外コンテンツの規制措置の目的としては、自国文化の保護、道徳観念の保護等が考えられるが、上記のとおり、「公衆の道徳」の解釈については加盟国に広範な裁量が認められていること、中国による一連の措置について、パネル・上級委員会による判断はされなかったものの、先例においても敢えて争点化されていないことからすると、規制目的が「公衆の道徳」を保護することにあると認定される可能性が高いと思われる。一方、外交問題に係る報復措置として海外コンテンツの規制措置がなされた場合等については、当該措置は「公衆の道徳」の保護を目的としたものではないと主張する余地があると思われる。

 (イ) 「公の秩序を維持」(maintain public order)

 「公の秩序」とは、「公共政策又は法律によって示される、社会の基本的利益の保護」(the preservation of the fundamental interests of a society, as reflected in public policy and law)に関連し、特に「法規範、安全、道徳規範」(standards of law, security and morality)に関連するものとされている(US-Gambling, WT/DS285/R, paras.6.463,6.466-467)。米国賭博サービス事件において、パネルは、加盟国には「公の秩序」の内容確定について裁量を認めているが、「公の秩序」に関しては、footnote5(「公の秩序を理由とする例外は、社会のいずれかの基本的な利益に対し真正かつ重大な脅威がもたらされる場合に限り、適用する」)が適用されるため(US-Gambling, WT/DS285/R, para.6.467)、「公衆の道徳」よりも、加盟国の裁量権は制限されていると思われる。

 もっとも、米国賭博サービス事件においては、パネルは、未成年者による賭博の防止や賭博中毒者の保護は第一義的には「公衆の道徳」の保護に該当するが、「公の秩序を維持」にも同様に該当し得るとしていることからすると(US Gambling, WT/DS285/R, para. 6.469)、「公の秩序を維持」は、いわばキャッチオール的な規定であり、GATS14条で特定されている他の全ての正当な目的は全て等しく「公の秩序を維持」に含まれる可能性もある。 したがって、X国の海外コンテンツ規制の規制措置が「公の秩序を維持」することに当たるか否かについても、基本的に、上記(ア)で述べたことが当てはまると思われる。

 (ウ) 「必要な」(necessary)な措置

 米国賭博サービス事件において、上級委員会は、(i)当該措置によって保護される共通利益や価値の重要性、(ii)当該措置の目的達成に対する貢献度、(iii)当該措置が貿易に与える影響の3要素を考慮するとともに、(iv)貿易制限のより少ない代替措置の有無も考慮した上で「必要な」措置かどうか判断するとし(US-Gambling, WT/DS285/AB/R, paras.306-307)、中国音響・映像サービス事件においてもかかる判断が踏襲されている(China-Audiovisual, WT/DS363/R, paras.7.783-787)。

 (i)どのような利益や価値が重要性を有するか定めたGATS上の規定は存在しないものの、中国音響・映像サービス事件において、パネルは、公衆の道徳は「公共政策事項としては、最も重要な、又は最も関心の高い価値に位置づけられる」と述べた(China-Audiovisual, WT/DS363/R, para. 7.817)。 したがって、X国の海外コンテンツの規制措置の目的が公衆の道徳の保護にあるとされた場合、当該措置は重要な価値の保護を目的としていると判断される可能性がある。 (ii)の貢献度について、中国音響・映像サービス事件において、上級委員会は、貢献を認定するためには実質的な貢献(a material contribution)が必要であるとして、貢献度の要件を厳密に検討している(China-Audiovisual, WT/DS363/AB/R, paras.279-299)。 X国の海外コンテンツの規制措置が、仮に、内容の如何を問わずコンテンツの流通を制限するものである場合、規制目的が道徳観念の保護といった「公衆の道徳」に該当しうるものであると認められたとしても、すべての海外コンテンツが自国文化や道徳観念に対して影響を及ぼすものとは通常考えにくいので、目的達成に貢献していないとされる可能性もあると思われる。 (iii)の当該措置が貿易に与える影響について、X国における海外コンテンツ規制が、仮に、外国の映画制作会社による映画の放映権の販売を事実上、全面的に、あるいは大幅に禁止するものである場合には、当該措置は貿易に与える影響が大きいと認められると思われる。ただし、米国賭博サービス事件パネルにおいては、規制目的が「最高位に不可欠で重要な価値」であれば「貿易に与える影響」は重視しないという衡量が示唆されており(US-Gambling, WT/DS285/R, para.6.493)、X国の規制措置についても、かかる重要な価値の保護を目的としていると判断された場合、当該措置が貿易に与える影響が大きいことは重視されない可能性がある。 (iv)の貿易制限のより少ない代替措置の有無については、道徳観念の保護等の規制目的を実現するために、他に採りうる手段、例えば、暴力、薬物、その他国民の多数が信奉する宗教上許容されない行為について描写した映画や場面についてのみ放映を制限する等の措置をもって代替できる場合には、貿易制限のより少ない代替措置があるとされる可能性がある。

 (エ) 同じ条件の下にある国の間における恣意的な差別でも不当な差別でもなく、国際貿易に対する偽装した制限でないこと

 米国賭博サービス事件において、上級委員会は、米国の州際競馬法(IHA・The Interstate Horseracing Act)が、一定の場合に州際の遠隔地賭博供給を許容しながら、外国から供給される同種の賭博についてはかかる例外が適用されていないとのアンチグア・バーブータの主張に対し、米国は反論に成功していないとし、米国の措置が本要件を充足していないとした(US-Gambling, WT/DS285/AB/R, para.372)。

 本件措置についても、一見、内外無差別な規制文言となっていたとしても、規制の適用において自国の事業者又はサービスと外国の事業者又はサービスとの間で差別的な適用がなされていた場合には、本件を充足しないとされる可能性がある。

 (8) 小括

 以上のように、自国文化や道徳観念の保護を目的とした海外コンテンツ規制という、一見、他国にとっては動かしがたい規制であっても、WTO協定違反となる余地がある。

 実際、中国音響・映像サービス事件において、中国は、米国の申立てによって設置されたパネルにおいて、出版物等の貿易権及び外国サービス供給者による流通サービスを制限する措置の一部について、WTO協定違反を認定され、上級委員会においてもパネルの判断が維持されたため、措置の変更を余儀なくされた。

 我が国においても、コンテンツの海外展開を進めるに当たって、外国における海外コンテンツ規制が障壁となる事態が生じた場合、解決策の一つとして、当該措置がWTO協定に整合するか否かを調査し、必要に応じて当該国家との協議、場合によってはWTOの紛争解決機関への提訴を行うことも検討に値すると思われる。

 ■ TPP交渉参加に伴う今後の展開

 以上で述べたとおり、一定の国家による海外コンテンツ規制に対しては、WTO協定への整合性の観点から対応の余地はあるものの、前述のとおり、一部の国家については、サービス貿易の自由化を約束している範囲は広いとは言えず、WTOの枠組のみで問題を解決することは必ずしも容易ではない。

 また、日本は、既にシンガポール、メキシコ、マレーシア、チリ、タイ、インドネシア、ブルネイ、ASEAN、フィリピン、スイス、ベトナム、インド及びペルーと経済連携協定(EPA・Economic Partnership Agreement)を締結し、各EPAにおいて、相互にWTO協定上の約束の範囲を超えて貿易の自由化を約束しているが、サービス分野については、必ずしも十分な自由化が達成されているとは言えない。

 これに対し、日本が正式に交渉に参加することになった環太平洋戦略的経済連携協定(TPP・Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement)においては、サービス貿易の分野について、ネガティブ・リスト方式(リストに掲載したものについてのみ自由化の対象外とする方式。GATSや既存のEPAのようにリストに掲載したものを自由化の対象とするポジティブ・リスト方式に比べ、自由化の水準が高い)で交渉が進んでいると言われており、参加国の自由化の範囲が相当程度拡大するものと思われる。そうすると、仮に日本がTPPに参加した場合には、他の参加国の海外コンテンツ規制がTPP違反となる場合が増え、規制の撤廃ないし縮小がなされることも期待できる。

 さらに、TPPにおいては、相手国が協定に違反して外国の投資家に対して不当な取り扱いをした場合に、当該投資家が相手国に対して仲裁手続を通じて直接賠償を求めることを認める(ISD・Investor State Dispute Settlement)条項が盛り込まれる予定である。ISD条項は日本が既に締結しているEPAの多くにおいても規定されているものの、上記のとおり、自由化を約束した範囲が限定されていることもあって、実際に活用されるには至っていない。日本がTPPに加盟することになった場合には、日本の企業自身がISD条項を利用して投資仲裁を求める場面も生じることが考えられ、その場合には、他のTPP加盟国の海外コンテンツ規制についても、対象の一つとなることもありうると思われる。

小林 和真呂(こばやし・かずまろ)

 2004年東京大学法学部卒業。2007年弁護士登録。2014年、コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)。2014~2015年、米ワシントンD.C.のクリアリー・ゴットリーブ・スティーン アンド ハミルトン法律事務所で勤務。2015年ニューヨーク州弁護士登録。2019年1月、西村あさひ法律事務所パートナー就任。カルテル対応をはじめ、国内外の企業結合規制への対応、個別取引への助言を含む競争法業務を幅広く手掛けるほか、農林水産業関係を中心に国際経済法(WTO、EPA)業務に携わる。

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