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西村あさひのリーガル・アウトルック

消費増税の転嫁拒否は特措法違反か 「消費税還元セール」は?

中島 和穂(なかじま・かずほ)

 大規模小売業者による消費増税分の価格転嫁を促す一方、納入業者らへの税負担押しつけを回避する特別措置法が10月から施行された。大規模小売業者らの納入業者に対する買いたたきや、「消費税還元セール」の禁止などをうたい、悪質違反については経産省が立ち入り検査して企業名を公表するほか、公取委、消費者庁も是正を勧告し公表できる、とするものだ。特措法は細かくルールを決めており、理解が十分でないと、事業者は意識しないうちに違反してしまう恐れもある。中島和穂弁護士が、無駄な違反をしないための留意点を詳しく解説する。

 

 消費増税の転嫁拒否をめぐる留意点

 

西村あさひ法律事務所
弁護士 中島 和穂

拡大中島 和穂(なかじま・かずほ)
  2001年東京大学法学部卒業、2002年弁護士登録、2009年コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)、2009年~2010年、ニューヨークのワイル・ゴッチェル・マンジェス法律事務所勤務、2010年~2011年、三井物産株式会社法務部出向、2010年ニューヨーク州弁護士登録。
 本年10月1日、安倍首相は、来年4月から予定通り消費税を8%に引き上げることを発表した。消費税は、来年10月、更に10%に引き上げることが予定されている。今回の引上げに際しては、中小企業を中心とする事業者から、増税分の転嫁を取引先が拒否するのではないかという懸念が示されていた。これを受けて、本年6月、「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」(以下「特措法」という)が国会にて可決・成立し、10月1日から施行された。
 公正取引委員会、経済産業省や中小企業庁は、特措法の施行に合わせて、約600名の臨時職員を採用し、いわゆる「転嫁Gメン」として転嫁拒否を監視することとされ、特措法の確実な執行に向けて動き出している。
 企業間取引において優位な立場にある当事者が取引の相手方を不利な扱いをする場合、従来から独占禁止法の優越的地位の濫用や下請法により規制されていたが、そのような規制を除けば、本来的には、取引価格は、市場競争の中で、両当事者間の自由な交渉により決められるものである。売り手が増税分を転嫁しようとし、買い手が転嫁分による価格上昇を抑えようとし、その中で価格が決められていくことは、ごく自然な経済活動である。特措法は、増税分が取引価格に転嫁されなければならないという発想の下、事業者による転嫁拒否や転嫁を阻害するような価格表示を取り締まるものである。公取委が約半年前に実施した書面調査によれば、大規模小売業者の殆どが、今回の増税を見据えた値下げを要請していない、と回答したのに対し、納入業者は、そのような値下げ要請を受けたと回答している。この調査結果は、事業者が、自らが意識しないうちに、日常的に行われる価格交渉において特措法に違反してしまうおそれがあることを示すものである。そこで、今回は、このような違反を防ぐために、特措法に関して特に留意すべきと思われる点を取り上げる。

 1. 転嫁拒否の禁止

 (1) 転嫁拒否が禁止される事業者の範囲は広い

 特措法上、転嫁拒否が禁止される買い手の範囲は、二つの当事者類型に応じて決められている。
 一つ目は、買い手が「大規模小売事業者」であり、売り手は当該事業者と継続的に取引を行っている事業者である場合における買い手たる「大規模小売事業者」である。「大規模小売業者」とは、一般消費者が日常使用する商品の小売業を行う者であって、その規模が大きいものとして公取委の規則で定められるものとされており、公取委の規則は、売上高、店舗面積等の基準を定めている。
 二つ目は、買い手が「資本金3億円以下の事業者と継続的に取引を行っている事業者等」であり、売り手が資本金3億円以下の事業者等である場合における買い手たる「資本金3億円以下の事業者と継続的に取引を行っている事業者等」である。
 つまり、特措法は、買い手が大規模小売事業者か否か、売り手が資本金3億円以下の事業者か否か、継続的な取引か否かという基準で、適用範囲を画している。

 転嫁拒否の禁止は、消費者ではなく、事業者を対象とするものであるが、その適用範囲は下請法よりも広い。下請法では、資本金の金額に応じて規制対象が決められていたが、大規模小売事業者は、継続的に取引を行っている相手方との取引であれば、取引の相手方の資本金等の規模に拘らず、転嫁拒否が規制される。また、下請法は、製造委託、修理委託、プログラム作成等、一定の取引類型が規制対象とされていたが、特措法では、取引が継続的か否かというのみであり、取引類型による限定はされていない。
 さらに、独占禁止法の優越的地位の濫用では、「優越的地位」の存在、つまり、取引関係の依存度等を考慮し、取引の継続が困難になれば事業経営上大きな支障を来すため、一方当事者が他方当事者に著しく不利益な要請を行っても、他方当事者が受け入れざるを得ないという地位が認められることが必要であるが、特措法では、そのような地位は必要とされておらず、上記の2類型に該当すれば規制対象となるとされる。

 (2) 禁止される転嫁拒否の具体的内容(減額・買い叩き行為等)

 転嫁拒否として禁止される行為の具体的内容は、

  1. 合意した対価の事後的な減額
  2. 買い叩き(通常支払われる対価に比して低く定めること)
  3. 転嫁に応じる引き換えとしての商品購入、役務提供、利益提供の要請
  4. 消費税を含まない価格(本体価格)での交渉の拒否
  5. 当局に上記1から4を通報したことによる報復行為

 である。これらの違反行為の防止のため、公取委、中小企業庁、主務大臣が指導や助言を行うのみならず、違反行為があるときは、公取委は、必要な措置を執ることを勧告し、その旨を公表するとされている。特措法違反に対する制裁は、この勧告・公表に留まり、排除措置命令、課徴金等は定められていない(但し、当該行為が優越的地位の濫用に該当すれば、そのような制裁はあり得る)。

 ① 客観的な理由なく増税分の転嫁を認めないことは買い叩きに該当

 上記禁止行為の中で特に注目されるものは、「買い叩き」である。特措法上、合理的な理由なく、従来支払われていた価格に税率を上乗せした額よりも引き下げる場合には、「買い叩き」にあたるとされている。これは、従来の下請法で禁止された「買い叩き」よりも厳格なものである。下請法では、「通常支払われる対価に比し『著しく』低い代金を不当に定めること」とされ、「通常支払われる対価」とは、同種又は類似商品の市価とされていた。これに対して、特措法では、「著しく」という限定がなく、また、「通常支払われる対価」とは、市価とのかい離ではなく、当該事業者間の取引において従来支払われていた価格が基準とされている。

 買い叩きにならない「合理的な理由」の具体例は、公取委が策定したガイドラインによれば、

  1.  原材料価格が客観的に見て下落しており、当事者間の自由な価格交渉の結果、当該原材料価格等の下落を対価に反映させる場合
  2.  買い手からの大量発注、売り手と買い手による共同配送、原材料の共同購入等により、売り手にも客観的にコスト削減効果が生じており、当事者間の自由な交渉の結果、当該コスト削減効果を対価に反映させる場合

 等が挙げられている。この「当事者間の自由な交渉の結果」とは、当事者の実質的な意思が合致していることであって、売り手との十分な協議の上に、当該売り手が納得して合意しているという趣旨であると、公取委は解説している。

 上記の例は、何れも「当事者間の自由な交渉の結果」合意されたことのみでは足りず、コスト削減等、増税分を転嫁しない場合に売り手に不利益が生じないことを示す客観的な事由を求めている。

 ② 客観的な理由の説明は買い手に求められる

 実際の企業間取引では、客観的な事由があるか否かは不明であるものの、両当事者、特に売り手が、増税分を転嫁しないことに納得しているという事態は十分に予想される。企業間取引では、消費税を含む最終的な価格が一番の関心事項であり、必ずしもその価格における売り手のコストや利益の内訳が両当事者で議論されて値決めされているわけではなく、また、売り手としても自らのコスト構造を買い手に示すことをためらうことが多いと思われる。
 客観的な事由は別として、転嫁しないことにつき売り手が十分に納得しているという場合であれば、転嫁「拒否」に当たらないのではないかという疑問もあるが、特措法では、売り手が、買い手との関係上、やむを得ず転嫁しないことを受け入れざるを得なかったと当局に訴えて、当局が調査する場合、買い手は、買い叩きではない合理的事由を当局に示さなければならないことになる。公取委のガイドラインに関するパブリック・コメントの回答によれば、売り手の納得の基礎となる客観的な事情(利益の増加等)が認められない場合には、買い叩き等に該当すると判断することになる、とされている。
 つまり、売り手に「十分に納得の上で転嫁しないことに合意します」という書面に署名してもらえれば足りるというわけではなく、コスト削減効果などの合理的な事由を示すことが買い手に求められている。公取委は、パブリック・コメントの回答において、コスト削減以外の合理的な事由が認められる余地があると述べているが、個別の事案ごとに慎重に判断する必要があるとして、具体的な事例を挙げていない。
 このように、売り手に不当に不利益を与えない客観的な事由を求めるという点は、2 買い叩きのみならず、1 対価の事後的な減額や、3 買い手による商品購入、役務利用又は利益提供にも共通している。

 ③ 小括

 このように、買い手にとっては増税分の価格上昇を抑えづらい状況にあって、売り手との値引き交渉を行うに際しては、少なくとも、(1)売主に不利益を与えないことを示す資料や、(2)売主との交渉経過を記録に残すという点は留意すべきであろう。

 2. 消費税転嫁を阻害する表示

 (1) 「消費税還元セール」という広告や「消費税分のポイント付与」は禁止

 上記「1. 転嫁拒否の禁止」に挙げたような一定の事業者間の転嫁拒否に加えて、特措法は、事業者が商品・役務を供給する際に、消費税が転嫁されていない旨を表示することを禁止している。この規制は、上記「1. 転嫁拒否の禁止」とは異なり、消費者向けの取引や、あらゆる事業者間の取引における表示(宣伝、広告等)を対象とするものである。
 典型的には、小売業者等が、消費者に対して、「消費税還元セール」というような顧客を引き付ける宣伝、広告等を行うことが禁止されている。この規制の趣旨は、もしこのような表示を認めれば、本来は転嫁されるべき消費税が転嫁されていないと消費者に誤解を与えたり、このような表示をする小売店が納入業者に対して買い叩きを行うことに繋がったり、競合する小売店の転嫁を阻害するおそれがあるためであるとされる。
 禁止される表示には、

  1.  消費税を転嫁していないという表示
  2.  消費税分を減額する表示
  3.  消費税分の経済的利益を取引の相手方に提示する表示

 の3類型がある。上記3は、典型的には、ポイント制度(購入に応じてポイントを顧客に付与し、そのポイントに応じて経済的な利益を供与する)を採用する企業が、消費税分のポイントを顧客に付与する旨表示するという例である。
 これらの違反行為について、公取委、中小企業庁、主務大臣が指導や助言を行うことは上記「1. 転嫁拒否の禁止」で挙げた転嫁拒否の場合と同様であるが、違反行為があるときは、公取委ではなく、消費者庁が、必要な措置を執ることを勧告し、その旨を公表するものとされている。

 (2) 認められる値引き表示

 この表示規制には、消費税引き上げのタイミングで、事業者が値引き表示をすることを委縮させるおそれもあるが、消費者庁によるガイドラインでは、表示全体から見て、消費税を意味することが客観的に明らかでなければ、禁止されないとされている。例えば、(a)消費税との関連がはっきりしない「春の生活応援セール」や、(b)たまたま増税分と一致するだけの「3%値下げ」という例は禁止されないとされた。この後者の「たまたま」増税分と一致するか否かは、事業者の主観的な意図ではなく、表示を全体から見て客観的に判断されるものとされており、消費税を意味することが客観的に明らかな場合でなければ禁止されないとされている。
 但し、従来、税込105円(本体100円)で販売していた商品を、来年4月1日以降、税込108円ではなく、105円で販売する際に、「3%値下げ」と表示する際には、「消費税引き上げ後の税込価格」(108円)から3%分を値引いたことを明瞭に表示しない限り、景表法に違反するおそれがあるとされる点に留意を要する。上記表示がなければ、増税前の税込価格(105円)から3%を値引きしたと消費者が誤解するおそれがあるとされているためである。

 3. 特措法上認められる売り手による転嫁・表示カルテル

 上記「1. 転嫁拒否の禁止」では買い手による転嫁拒否の禁止について述べたが、このような禁止に加えて、消費税を転嫁しようとする売り手への特別措置が講じられている。中小事業者等が取引上弱い立場に置かれていることを考慮し、増税分を転嫁する体制を整備するため、公取委の定める規則に従って、公取委に事前に届け出れば、事業者や事業者団体は、消費税の転嫁及び表示の方法の決定について共同行為をすることが認められることとなった。これらは転嫁カルテル・表示カルテルと呼ばれている。報道によれば、この公取委への事前届出を既に行った業界が幾つかあるようである。

 (1) 転嫁カルテルとは

 転嫁カルテルとは、消費税の転嫁方法について事業者間で合意することであり、例えば、①事業者が自主的に決めた本体価格に消費税分を上乗せすることの決定や、②消費税の上乗せの結果生じる端数の処理の仕方について決定することが含まれている。この転嫁カルテルは、あくまでも消費税に関する共同行為を認めるものであり、本体価格について、情報を交換したり、共同して決定する等の行為は認められていないことには注意を要する。この転嫁カルテルは、中小事業者等の保護という観点から、共同行為の参加事業者の3分の2以上が中小事業者でなければならないとされている。この中小事業者の定義は、特措法で定められており、業態に応じて資本金や従業員数が一定数以下の者が該当するとされている。
 このような合意がある場合でも、参加する中小事業者の一部が、売上増加を狙って、小売業者や流通事業者等の間で、増税分を転嫁しないことを合意してしまうという抜け駆けがあり得る。そのため、共同行為の参加事業者が転嫁の合意に違反する場合に制裁を課すことも認められているが、その内容を公取委に届け出なければならず、また合意の履行を担保するために必要な範囲を超えた過度な制裁(事業者団体からの退会や過剰な制裁金)を課し、違反事業者の事業を困難にさせることは認められないとされている。

 (2) 表示カルテルとは

 他方、表示カルテルとは、消費税の表示方法について事業者間で合意することであり、例えば、①税込価格と消費税額を並列して表示する、②税込価格と税抜価格を並列して表示するというような統一的な表示方法を用いることを合意するものである。これについては、参加事業者の一定割合が事業者でなければならないというような制約は存しない。

 4. 総額表示義務の例外

 消費税の転嫁やその拒否とは直接関連しないが、特措法に定められているものとして、総額表示義務の例外がある。
 消費税法上、消費税を含めた税込価格の表示の義務(総額表示義務)が定められているが、今次の二度にわたる消費税引き上げに際しては、値札の張り替え等の事務負担を考慮し、事業者は、税込価格と誤認されないための措置を講じている限り、税込価格を表示することを要しないとされている。但し、事業者は、出来るだけ速やかに税込価格を表示するように努めるよう求められている。

 5. 最後に

 これまで見てきたように、特措法は、消費税の転嫁を確実にするための法律であり、転嫁が拒否され

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中島 和穂(なかじま・かずほ)

 2001年東京大学法学部卒業、2002年弁護士登録、2009年コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)、2009年~2010年、ニューヨークのワイル・ゴッチェル・マンジェス法律事務所勤務、2010年~2011年、大手商社法務部出向、2010年ニューヨーク州弁護士登録。現在、西村あさひ法律事務所のパートナー弁護士。
 M&A、国際取引、規制対応、訴訟・紛争を中心とする企業法務全般を支援している。事業再生局面での官民ファンドによるM&A、証券会社と証券取引所間の巨額の損害賠償紛争、日本で初めての買収防衛策の導入、世界に拠点を有する企業間の統合、地政学的なリスクを抱える中東への進出案件、M&Aの価格調整に関する巨額の仲裁案件など、様々な論点が複雑に絡む案件の経験が豊富。
 近時は、安全保障、技術覇権やテロ対策に関する国際社会の関心の高まりを踏まえて、非米国企業にとっての米国の経済制裁や輸出・再輸出規制、及び、日本の輸出規制やマネーロンダリング規制に関する案件に多数関与している。

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