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西村あさひのリーガル・アウトルック

サイバーダイン社の上場:議決権種類株式を用いた日本初の事例

松尾 拓也(まつお・たくや)

 日本発のロボットメーカーの上場として大きく報道されたサイバーダイン(CYBERDYNE)株式会社。人の手足の動きを補助するロボットスーツを開発し、医療介護関係者の期待は大きい。そのサイバーダインの上場手法が、別の意味で市場関係者の注目を集めている。「議決権種類株式」を用いた我が国初の上場だったのだ。他企業に買収されるリスク回避のために採用したとも伝えられているが、松尾拓也弁護士が、同社の議決権種類株式の内容を分析し、今後、議決権種類株式を用いた上場事例が増えていくであろうことを踏まえて、強制公開買付規制と種類株式に関する論点について解説する。

 

 

議決権種類株式を用いた我が国初の上場事例の登場
~強制公開買付規制の種類株式への適用について
望まれる解釈の明確化~

西村あさひ法律事務所
弁護士・ニューヨーク州弁護士
松 尾 拓 也

拡大松尾 拓也(まつお・たくや)
 2002年東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。2011年バージニア大学ロースクールLL.M.修了。2012年ニューヨーク州弁護士登録。2011年~2012年ニューヨークのSimpson Thacher & Bartlett 法律事務所を経て、現在、西村あさひ法律事務所パートナー。国内外のM&A案件を含む、企業法務全般を主要な業務分野とする。

 1. 議決権種類株式を用いた我が国初の上場事例の登場

 本年2月19日に東証マザーズへの上場を承認されていた筑波大学発のロボットベンチャーであるCYBERDYNE株式会社(以下「CD社」という)が、予定どおり3月26日に上場された。CD社の創業者・山海嘉之氏(以下「山海氏」という)の上場後における保有割合は、発行済株式総数ベースでは合計約43%にとどまるが、普通株式の10倍の議決権を有するB種類株式を保有する仕組み(以下「本スキーム」という)によって議決権ベースでは約88%となっている。このような議決権数の異なる複数の種類株式(一般に「議決権種類株式」といわれる)を用いて上場後における創業家系経営陣の支配力維持を図る事例は、Google Inc.やFacebook, Inc.をはじめとする米国のIT企業等では少なくないが、我が国ではCD社が初となるため、注目を集めている。

 実は、CD社が上場を承認された2週間前の日である本年2月5日、株式会社東京証券取引所(以下「東証」という)は、「IPOの活性化等に向けた上場制度の見直しについて」と題するリリースにおいて、(1)新規上場時の株主数基準の引き下げや、(2)議決権種類株式に係る上場審査の観点の明確化等の所要の制度整備を、本年3月を目途に実施すると公表していた(但し、東証はその後、3月24日に、「本年3月を目途に実施する予定としておりました『議決権種類株式に係る上場審査の観点の明確化』(上場審査ガイドラインの改正)の改正内容・施行日は、本年4月以降にお知らせいたします。」と公表しており、当該改正の内容は未だ不明である)。これは、昨年6月に閣議決定された「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」において掲げられた、新規ビジネス創出を促すためのリスクマネーの供給促進に取り組む方針や、金融審議会「新規・成長企業へのリスクマネーの供給のあり方等に関するワーキング・グループ」の昨年12月25日付報告書で掲げられた、新規・成長企業の出口戦略を多様化するためのIPO活性化策を含めた諸施策を踏まえて公表されたものであり、東証としては、今後も、議決権種類株式に係る上場審査の観点の明確化等を通じて、議決権種類株式の健全な利用を促進し、ひいてはIPOの活性化を企図しているものと推測される。そのため、今後も議決権種類株式を用いた上場事例が増えていくことが期待される。
 そこで、本稿ではまず、下記2及び3においてCD社の株式の内容を概観し、次に、下記4において、議決権種類株式を用いた上場事例が増えるにつれて重要性が増すであろう、種類株式の取得に対する強制公開買付規制の適用について解説する。

 2. CD社の株式の概要

 CD社の本年2月19日付け有価証券届出書及びその添付書類たる定款によれば、同社の普通株式及びB種類株式の概要及び異同は以下のとおりである。

 (i) 剰余金の配当及び残余財産の分配
 ・普通株式とB種類株式は同順位かつ同額(すなわち、普通株式とB種類株式は、経済的権利においては差異はない)

 (ii) 議決権
 ・普通株式もB種類株式も、全ての株主総会決議事項について議決権を行使できる。
 ・議決権数は、普通株式100株につき1議決権に対し、B種類株式10株につき1議決権(※単元株式数を、普通株式につき100株、B種類株式につき10株とすることで、これを実現している)

 (iii) 種類株主総会の排除
 ・会社法322条1項各号に掲げる行為については、法令又は定款に別段の定めがある場合を除き、普通株主を構成員とする種類株主総会の決議を要しないこととしている。他方、B種類株式についてはそのような定めはない。

 (iv) 譲渡制限
 ・普通株式には譲渡制限は付されていないが、B種類株式については譲渡制限が付されており、B種類株主間の譲渡でない限り、譲渡には取締役会の承認を要する。

 (v) 取得請求権
 ・B種類株主は、いつでも、会社に対し、B種類株式1株と引き替えに、普通株式1株の交付を請求できる。他方、普通株式には取得請求権は付されていない。

 (vi) 取得条項
 ・次のいずれかに該当した場合には、B種類株式1株と引き替えに、普通株式1株が交付される。他方、普通株式には取得条項は付されていない。

(ア) 会社が消滅会社となる合併、完全子会社となる株式交換又は株式移転(他の株式会社と共同して株式移転をする場合に限る)に係る議案が全ての当事会社の株主総会(株主総会の決議を要しない場合は取締役会)で承認された場合

 

(イ) 会社が発行する株式につき公開買付けが実施された結果、公開買付者の所有する会社の株式の数が会社の発行済株式(会社が有する株式を除く)の総数に対して占める割合が4分の3以上となった場合

 

(ウ) 「株主意思確認手続」において、確認手続基準日に議決権を行使することができる株主の議決権(但し、普通株式及びB種類株式のいずれの単元株式数も100株であるとみなして、議決権の数を計算する。以下、本(ウ)において同じ)の3分の1以上を有する株主の意思が確認でき、意思を確認した当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数が、会社が本(ウ)に基づきB種類株式の全部(会社が有するB種類株式を除く)を取得し、B種類株式1株を取得するのと引換えにB種類株主に対して普通株式1株を交付することに賛成した場合

 なお、ここにおいて「株主意思確認手続」とは、(i)山海氏が会社の取締役を退任した場合(但し、重任その他退任と同時若しくは直後に選任される場合を除く)に、当該退任の日(当該退任と同日を含む)から1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までに、並びに、(ii)直前の株主意思確認手続の日の後5年以内に終了する事業年度のうち最終のものの終了後3か月以内に、それぞれ取締役会の決議により定める方法により確認手続基準日に議決権を行使することができる全ての株主の意思を確認するために行われる手続をいう。

 

(エ) B種類株主以外の者がB種類株式を取得すること又は取得したことについて、会社法136条又は137条に定める承認の請求がなされた場合

 

(オ) B種類株主が死亡した日から90日が経過した場合(但し、他のB種類株主に相続又は遺贈されたB種類株式及び当該90日以内に他のB種類株主に譲渡されたB種類株式を除く。)

 

 (vii) 株式の分割・併合等
 ・株式の分割や併合、株式無償割当て、単元株式数の変更等は、普通株式及びB種類株式ごとに、すべて同時に同一の割合で行う。

 3. B種類株式の特徴的な条項 ~ ブレークスルー条項、サンセット条項、B種類株主変更抑制条項~

 (1) 東証の「上場審査等に関するガイドライン」

 東証の有価証券上場規程207条及び214条では、本則市場及びマザーズへの新規上場申請が行われた株券等の上場審査項目が列挙されているが、各条の「(5)その他公益又は投資者保護の観点から当取引所が必要と認める事項」の一内容として、新規上場申請に係る内国株券等が無議決権株式又は議決権の少ない株式である場合において適合する必要のある要件(a~f)が、東証の「上場審査等に関するガイドライン」に列挙されている。ここでは、そのうち特徴的なものである、

 ・要件a(「極めて小さい出資割合で会社を支配する状況が生じた場合に無議決権株式又は議決権の少ない株式のスキームが解消できる見込みのあること」)と、
 ・要件d(「当該新規上場申請に係る内国株券等が議決権の少ない株式である場合には、議決権の多い株式について、その譲渡等が行われるときに議決権の少ない株式に転換される旨が定められていること」)について、
 CD社のB種類株式の該当条項を見てみよう。

 (2) ブレークスルー条項及びサンセット条項

 まず、要件aは、いわゆるブレークスルー条項やサンセット条項等を企図したものであるとされている。ブレークスルー条項とは、発行済株式総数のうち一定割合(例えば75%)の株式を取得した者が現れた場合、議決権種類株式の構造を解消するスキームのことであり、サンセット条項とは、議決権種類株式導入の目的が終了した場合、同目的を逸脱した場合若しくは同目的を達することが出来ないことが確定した場合、又はこれらの事由が生じたとみなすことのできる場合にスキームを解消させる方策のことである。
 こういった条項が必要とされる趣旨としては、(i)一部の株主がきわめて小さい出資割合で会社を支配する状況は、リスク負担と支配が比例しないことから望ましくないこと、(ii)支配権の移転を過度に制限するのは望ましくないこと、(iii)公開買付けに際して種類株主に売却の機会を与えること等が挙げられる。
 CD社の有価証券届出書は、上記2(vi)の取得条項のうち、(イ)の部分がブレークスルー条項、(ウ)の部分がサンセット条項であるとしている。但し、このようなブレークスルー条項やサンセット条項が発動されてB種類株式が普通株式に転換されるのは、公開買付者の所有する会社の株式の数が会社の発行済株式(会社が有する株式を除く)の総数に対して占める割合が4分の3以上となった場合と、株主意思確認手続において出席議決権の3分の2以上(但し、普通株式及びB種類株式のいずれの単元株式数も100株であるとみなして、議決権の数を計算する)を有する株主が当該転換に賛成した場合に限られる。この点、CD社の有価証券届出書によれば、今回のIPO後、山海氏は発行済株式総数の約43%を保有し、議決権ベースでは約88%を保有することになるとされているため、当該保有状況が継続されることを前提とすると、同氏がその保有分の売却・処分やサンセット条項の発動等に任意に応じない限り、そもそも、ブレークスルー条項やサンセット条項が発動される事態はおよそ生じ得ないと考えられる。

 (3) B種類株主変更抑制条項

 次に、要件dには、上記2(vi)の取得条項のうち、(エ)及び(オ)の部分が対応していると考えられる。但し、B種類株主間での譲渡等の場合には普通株式への転換が起こらない形になっている。
 本件では、B種類株主は、山海氏のほか、同氏が代表理事を務める一般財団法人山海健康財団及び一般財団法人山海科学技術振興財団(以下併せて「本山海財団法人」という)のみであるため、この3者以外へのB種類株式の流出は、原則として生じない仕組みとなっている(但し、下記4の(3)(b)参照)。

 4. 多議決権株式の取得と強制公開買付規制

 今後、本スキームのような議決権種類株式を用いた上場事例が増えることが期待されるが、それにつれて、議決権種類株式のうち上場されなかった方の種類株式(CD社の例でいえばB種類株式であり、通常、議決権の多い方の種類株式が想定される。以下「多議決権株式」という)のみの取得による支配権の移転に強制公開買付規制が適用されるかが正面から問題となる事例が増えることも想定される。そこで、本4では、この点について解説する。

 (1) 強制公開買付規制の種類株式への適用

 (a) 強制公開買付規制とは

 強制公開買付規制とは、大要、(i)有価証券報告書提出会社の、(ii)「株券等」(金融商品取引法(以下「金商法」という)27条の2第1項、同法施行令6条1項等)の、(iii)市場外での「買付け等」(同法27条の2第1項、同法施行令6条3項等)であって、(iv)当該買付け等の後における買付者の株券等所有割合が3分の1超となる買付け等は、公開買付けの方法によらなければならない、という規制である(同法27条の2等)。例えば、ある者が、CD社が普通株式を上場した後に同社のB種類株式の全部又は一部(株券等所有割合ベースで3分の1超を想定)を山海氏から相対取引で有償で買い取ることを想定すると、当該買取りは上記(i)から(iv)までの全ての要件に該当するため、そのような買取りは、たとえ山海氏1名のみから行いたい場合であっても、公開買付けの方法によらなければならないのが原則である。

 (b) 25名未満全員同意の例外

 上記(a)の各要件に該当する場合であっても、別途、法令に規定された適用除外類型に該当する場合には、公開買付けを実施する必要はない。そして、特定の種類株式のみを買い付ける場合については、いわゆる「25名未満全員同意の例外」(金商法施行令6条の2第1項7号等)の適用の可否が問題となることが多い。
 「25名未満全員同意の例外」とは、大要、(i)「株券等の所有者」が25名未満であって、(ii)公開買付けを行わないことについて当該株券等の全所有者が同意している場合(但し、当該買付け等の後における株券等所有割合が3分の2以上となる場合にあっては、これに加えて、買付け等の対象とならない種類の株券等に係る種類株主総会決議又はその全所有者の同意がある場合)には、公開買付けによることを要しないというものである。

 ここにいう「株券等の所有者」については、買付け等の対象である種類の株券等の所有者に限定されるという説(以下「限定説」という)と、買付け等の対象外の種類の株券等の所有者も含まれるという説が存在したが、カネボウ少数株主損害賠償請求事件の最高裁判決(平成22年10月22日)(以下「カネボウ最高裁判決」という)が限定説を採用したため、この点については限定説によることで実務は固まっている。
 しかし、限定説の中でも、買付者が買付け等を企図している特定の種類の株式と会社法上の意味において同一の種類の株式とは言えないものの、実質的な内容において同一の種類の株式と言えるような株式は、公開買付規制上は同一の種類の株式と捉えるべきという考え方(以下「実質説」という)と、あくまで会社法上の種類の区別に従うべきという考え方(以下「形式説」という)の対立が存在する。この点、金融庁は従前から実質説を採用してきたといわれている。他方、カネボウ最高裁判決は、いずれの説を採ったかを明示してはいないものの、形式説を採用したと考える見解が有力である。同判決についての最高裁判所調査官による解説でもそのように述べられているし、カネボウ事案の事実関係を踏まえても、そのように捉えるのが妥当であろう。

 (2) 形式説の下での多議決権株式の取得と強制公開買付規制

 最高裁が限定説かつ形式説をとっていると考えてこれに依拠するとすれば、多議決権株式のみを市場外相対取引で取得しようとする場合には、(その後の株券等所有割合が3分の2以上とならない限りは、)多議決権株式を保有している所有者が25名未満であり、その全員から同意を得れば、当該取得は公開買付けによる必要はないと解することができる。そうすると、議決権種類株式の利用と25名未満全員同意の例外を組み合わせることによって、各上場会社は、その上場前の時点において、(株券等所有割合が3分の2未満にとどまる範囲であれば)支配権の移転が生じる市場外相対取引にも強制公開買付規制が適用されない会社となることを、任意に選択できることとなり得る。これは、支配権の移転の際に公開買付けを義務付けて一般株主に売却機会を保障する欧州型の機会均等ルールと、支配権の移転の際に公開買付けを義務付けず、相対取引による支配株式の移転を認めるアメリカ型のマーケット・ルールのいずれにも一長一短があるとされている中で、いずれを選ぶのが各社にとって望ましいかを各社自身の判断に委ねるということであり、一定の合理性があるように思われる。

 ただ、(i)我が国の公開買付規制の趣旨は、(市場外取引に限っての話であるが)長らく機会均等ルール的な観点から説明されることが多かったことや、(ii)従前から実質説を採用してきたと言われている金融庁が、カネボウ最高裁判決の後にその立場を改めたといった話は聞こえてこない一方で、(iii)カネボウ最高裁判決も形式説を採用したと明示まではしていないこと等から、(カネボウ最高裁判決でこの論点については一応の決着をみたと考えられるものの、)実務においては、現状、上述のような考え方(すなわち、各上場会社が、その上場前の時点において、(株券等所有割合が3分の2未満にとどまる範囲であれば)支配権の移転が生じる市場外相対取引にも強制公開買付規制が適用されない会社となることを任意に選択できるといった考え方)が必ずしも広く普及しているわけではないのが実情である。今後、議決権種類株式を用いた上場事例が増えることが期待され、それにつれて多議決権株式のみを取得したいというニーズが増えてくることも想定されるため、その円滑な実務を後押しすべく、金融庁が「株券等の公開買付けに関するQ&A」(http://www.fsa.go.jp/news/24/sonota/20120803-1/02.pdf)の改訂等を通じてカネボウ最高裁判決を踏まえた立場を早期に明確にし、議論の深化を促すことが望まれる。また、今後、議決権種類株式を用いた上場事例が増えれば、上場している普通株式と非上場の多議決権株式の両方を対象とする公開買付けが行われる場面が増えてくることも想定されるため、複数種類の株券等の間における公開買付価格の均一性規制の適用範囲や、買付予定数の上限・下限を種類ごとに設定することの可否といった論点についても、議論の深化、解釈の明確化が早期に進むことが望まれる。

 (3) 東証の「上場審査等に関するガイドライン」による限界と具体的検討

 (a) 多議決権株式の譲渡時における普通株式への転換

 ところで、そもそも論として、現状においては、東証がその「上場審査等に関するガイドライン」において、上記3(1)に記載の要件dに適合することを求めているため、これが厳格に適用される限り、東証に株式を上場している会社(以下「東証上場会社」という)においては、多議決株式のみを取得することで支配権の移転を生じさせるといった場面は実際には生じ得ないのではないか、という疑問もあり得よう。
 なぜなら、もし多議決権株式のみを市場外相対取引で買い付けようとしても、その買付けの瞬間に当該種類株式が必ず普通株式に転換されてしまう仕組みになっているとすると、買付けの対象としている種類の株式自体がもともと、多議決権株式ではなく、普通株式であると解されるおそれがあり、従って、たとえ形式説を採用したとしても、買付対象としている種類の株式たる普通株式の所有者は当然25名以上であるため25名未満全員同意の例外は使えない、と解されてしまうおそれがあるからである。

 (b) CD社のB種類株式の取得条項

 ・ 多議決権株主間の譲渡等による支配権の移転

 しかし、当該要件dに対応する規定と考えられる、CD社のB種類株式の取得条項の(エ)及び(オ)の部分(上記2(vi)参照)を見ると、B種類株主間の譲渡等の場合は、例外的に、普通株式への転換が起こらない形となっている。このようなB種類株主間の譲渡等についての例外的取扱いのため、(25名未満全員同意の例外における「株券等の所有者」の解釈について限定説かつ形式説をとるとすれば、)CD社のB種類株主間における支配権の移転は、(株券等所有割合が3分の2未満にとどまる範囲であれば)B種類株式の相対譲渡によって実現可能であると考えられる。
 これとパラレルに考えると、例えば3つの創業家グループからなる会社があったとして、CD社のB種類株式と同内容の多議決権株式を当該3グループに分散して保有させる形で創業家グループの支配権を維持しつつ、同社の普通株式を上場させたという事例の場合には、(「株券等の所有者」の解釈について限定説かつ形式説をとるとすれば、)その上場後における当該3グループ内での多議決権株式の譲渡及びその結果としての当該3グループ内での支配権の移転は、公開買付けによらずに実施可能になると考えられる。従って、CD社のB種類株式の内容を踏まえると、上記3(1)に記載の要件dへの適合を求められる東証上場会社であっても、上述のような限度で、多議決権株式の相対売買によって、公開買付けによらずに支配権の移転を生じさせる余地はあり得るように思われる。

 ・ 会社法136条又は137条に定める承認請求を要さない方法でのB種類株式の取得

 さらに言えば、CD社のB種類株式の取得条項の(エ)(上記2(vi)参照)を見る限り、会社法136条又は137条に定める承認請求を要さない方法でのB種類株式の取得は、B種類株式の普通株式への転換のトリガー事由には該当しないように読める。従って、例えば、全く外部の一般社団法人による本山海財団法人の吸収合併(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律242条以下参照)を通じたB種類株式の取得や、本山海財団法人の意思決定権限を有する地位の確保(評議員会の過半数のポジションの確保等)を通じたB種類株式の実質的な(間接)取得といった方法による場合には、B種類株式が普通株式に転換されることはないものと考えられる。そうすると、山海氏の保有するB種類株式がいったん本山海財団法人に譲渡された後に、CD社の当初のB種類株主以外の者が、上述のような方法によって、公開買付けによらずにCD社の支配権を取得できる余地もあるように思われる。
 なお、これは、合併や間接買収を用いた典型的な公開買付規制の潜脱の問題ではない。合併や間接買収を用いた典型的な公開買付規制の潜脱の問題においては、「合併や間接買収は形式的には対象者の『株券等の買付け等』には該当しないものの、実質的にはその一形態に過ぎない場合があるため、そのような場合には、その実質を重視して、対象者の『株券等の買付け等』であると捉えて強制公開買付規制を適用すべき」といった議論がなされる(金融庁の「株券等の公開買付けに関するQ&A」の問12及び問15参照)。しかし、上述のケースでは、たとえ、実質的にはCD社の「株券等の買付け等」であると解されたとしても、B種類株式が普通株式に転換されない限りは、(「株券等の所有者」の解釈について限定説かつ形式説をとるとすれば、)強制公開買付規制は結局、25名未満全員同意の例外によって適用除外となると考えられるのである。

 (c) 今後の東証のスタンスと議決権種類株式の上場実務を注視する必要性

 上記(b)のような方法でのCD社における支配権の移転を東証がどのくらい想定していたか(ひいては許容する意図であったか)は定かではない。そのため、今後、東証が、上記(b)のような方法での支配権移転の余地のある議決権種類株式を有する会社の上場審査に

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松尾 拓也(まつお・たくや)

 2002年東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。2011年バージニア大学ロースクールLL.M.修了。2012年ニューヨーク州弁護士登録。2011年~2012年ニューヨークのSimpson Thacher & Bartlett 法律事務所を経て、現在、西村あさひ法律事務所パートナー。
 国内外のM&A、組織再編、資本・業務提携等の案件のほか、株主総会対応、コーポレート・ガバナンス体制の構築、役職員の報酬体系の構築、危機管理対応などを含む企業法務全般を主要な業務分野とする。また、創業家系の大株主がいる上場会社における経営上の諸問題についても造詣が深く、講演も多数行っている。
  主な著書(いずれも共著)として、「論点体系金融商品取引法1」(第一法規、2014年)、「日本経済復活の処方箋 役員報酬改革論」(商事法務、2013年)、「金商法大系I - 公開買付け(2)」(商事法務、2012年)、「新株予約権ハンドブック」(商事法務、2012年)、「会社法実務解説」(有斐閣、2011年)、「金商法大系1 - 公開買付け(1)」(商事法務、2011年)、「会社法・金商法の実務質疑応答」(商事法務、2010年)、「企業法務判例ケーススタディ300【企業組織編】」(金融財政事情研究会、2008年)がある。その他、コーポレート分野の論稿多数。

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