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西村あさひのリーガル・アウトルック

知的財産権にひそむ想定外の独占禁止法リスク

山田 浩史(やまだ・ひろし)

 独占につながる行為を規制する独占禁止法と発明者に独占を認める特許法。一見矛盾するかに見える2つの経済法を、整合的に理解し企業活動に明確なガイダンスを与えることが、イノベーションを起こすための「法的イノベーション」になる、とする山田浩史弁護士が、米国で問題になっている「パテント・トロール(特許の怪物)」とジェネリック医薬品関連のリバースペイメントなどの最新事例を題材に、核心に迫る。

 

米国最新事例にみる知的財産権に対する独占禁止法上の制限

西村あさひ法律事務所
弁護士 山田浩史

拡大山田 浩史(やまだ・ひろし)
 弁護士(西村あさひ法律事務所)。2007年東京大学法学部卒業、2008年弁護士登録(旧61期)。2015年コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M., Harlan Fiske Stone Scholar(成績優秀者))、同年ニューヨーク州司法試験合格。現在、米ワシントンDCのクリアリー・ゴットリーブ・スティーン アンド ハミルトン法律事務所勤務。国際的な独占禁止法・M&A案件を中心に企業法務全般に従事。
 1 はじめに

 日本企業の国際競争力を復活させるためには「イノベーション」(技術革新)が必要と言われて久しい。イノベーションと法律の関係を考えてみると、まずは特許法等の知的財産法(以下「知財法」)が思い浮かぶのではないだろうか。知的財産権(以下「知財権」)とは一定の要件を満たした有用な技術上・営業上の情報に、法律によって他者の利用を排除できる排他的な権利を付与するものである。これは、情報という模倣・侵害が容易なものに特別な保護を与えることで事業者の研究開発活動等を促し、革新的な技術・発想を生み出すインセンティブを付与しているといえる。
 また、本稿の主眼である独占禁止法(以下「独禁法」)もイノベーションとの関係で論じられることが多い。独禁法の目的は、事業者が互いに競い合い革新的な商品・サービスを生み出す基盤となる公正かつ自由な競争を促進・維持することである。例えば、ある市場で独占的な地位にある企業は旧来の製品の供給を継続することで利益を得られるため、わざわざ時間と費用をかけて新商品を開発するインセンティブはないであろう。そのため、独禁法は適切な競争がイノベーションを生み出すという発想で独占につながる各種行為を規制している。最近では標準必須特許の問題に関して2016年1月に公正取引委員会(以下「公取委」)が「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」(知財ガイドライン)を一部改正する等、この分野に対する競争当局の関心は引き続き高い。
 このように知財法と独禁法はイノベーションの促進という同一の目的を有するが、知財法は独占的権利の付与によりそれを達成しようとする一方、独禁法は独占を制限することでそれを達成しようとしており、両者は一見すると矛盾するアプローチをとっている。そのため、両者の関係を整合的に理解して企業活動に明確なガイダンスを与えることがイノベーションの促進には必須と言える。いわばイノベーションを起こすための「法的イノベーション」が必要といえるが、本稿ではそれに資するため、米国の最新事例に基づき両法の交錯点として近時議論されている特許行使主体(PAE。いわゆるパテント・トロール)と、近時その普及が強く推進されているジェネリック医薬品関連のリバースペイメント及びプロダクトホッピングに関して検討していきたい。
 なお、本稿における見解はあくまで筆者の個人的見解であって、筆者が所属する法律事務所の見解ではないことには留意されたい。

 2 基本的な考え方

 日本・米国その他主要各国では、法律に基づく排他権である知財権であっても、その行使が独禁法が保護している公正かつ自由な競争に悪影響を及ぼす場合には、独禁法による制限が課せられ得ると考えられている。米国における知財権と独禁法の関係についての考え方は司法省(以下「DOJ」)と連邦取引委員会(以下「FTC」)が共同で作成した、知財権ライセンスに関する独禁法ガイドラインに示されている。そこでは知財権の行使もその他一般の財産権の行使と基本的に同様の枠組みで独禁法上の適法性を検討し、その枠組みの中で知財権の特殊性(容易に模倣が可能である等)もあわせて考慮するとされている。本稿の事例では競争事業者間の合意と市場支配的地位にある企業の独占力の行使が問題になるので、ここでは両者に対する米国独禁法上の判断枠組みを簡単に説明する。

 (1) 競争事業者間の合意

 米国独禁法ではシャーマン法1条が競争事業者間の合意(例えばライセンス契約)を規律しているが、価格協定等の競争に対する悪影響が明らかで「当然違法」(Per Se Illegal)とされる類型を除き、基本的にいわゆる「合理の原則」(Rule of Reason)で判断される。合理の原則とは、当該合意の違法性を主張する者(多くの場合は競争当局)に当該合意が競争に対する実質的な悪影響を及ぼすものであることの証明を求め、その後、防御側(多くの場合は独禁法違反の嫌疑をかけられた企業)に、当該合意が競争を促進する効果を有することの証明を求めるものであり、端的に言えば、当該合意が有する競争制限効果と競争促進効果を比較衡量・バランシングするものである。
 競争制限効果の証明にあたっては、関連市場における市場支配力(ある製品に関し競争的な市場における想定価格よりも高い価格を課すことができる力)の有無を中心に、当該合意の競争への悪影響(例えば競争の停止や競合他社の排除)の有無を検討することとなる。他方、競争促進効果の証明にあたっては、当該合意の競争・消費者への好影響(例えば価格の低下、品質の向上、新商品の提供)の有無を検討することとなる。

 (2) 独占力の行使

 米国独禁法ではシャーマン法2条が私的独占を規制しており、違法行為となるには通常は、①独占力の存在、及び②意図的な独占力の形成行為または維持行為が必要と考えられている。独占力とは価格を支配または競争を排除する力をいい市場支配力より強度のものと考えられている。独占力の存在を立証するためには裁判例では、関連市場における支配的な市場シェアや参入障壁の存在の立証等が必要とされている。
 意図的な独占力の形成行為または維持行為とは、競合他社を排除する行為とも言われているが、この排除行為の違法性判断方法については米国でも確定的な意見の一致は見られていない。裁判例ではマイクロソフト事件等、問題視された行為が有する競争制限効果と競争促進効果を比較衡量・バランシングして判断するケースが近時多く見られる。より具体的には、原告(多くの場合競争当局)が当該行為の競争制限効果の立証に成功した後、被告にビジネス上の正当化事由(競争促進効果)の立証を要求するものであり、これは前記の合理の原則下でのバランシングに類似した判断構造と評されている。

 3 特許行使主体(PAE)

 (1) 問題点

 特許行使主体(Patent Assertion Entity。以下「PAE」)とは、特許権の購入及び行使を主要なビジネスモデルとする事業体を指し、特許権に基づき実際に製品を製造・販売している事業会社との対比で論じられる。つまり、PAEは特許権に基づくライセンス料の獲得や特許侵害訴訟の提起及び和解金の獲得により利益を稼ぐことに特化したものであり、典型的にはいわゆるパテント・トロールを念頭に置いた用語である。
 PAEはイノベーション及び競争に有益な面と不利益な面の双方を有すると考えられている。まず有益な面であるが、特に個人発明家やスタートアップ企業が他社が自社の特許権を侵害していると考える場合であっても、特許権行使に要する各種費用や人的リソースを考慮するとその行使を断念する場面も多いと思われる。ここで特許権行使の人員・ノウハウを蓄積しており特許権を「収益化」できるPAEに特許権を譲渡することで、発明家やスタートアップ企業は特許権の対価としての金銭を得ることができる。また、通常の事業会社が競合他社に対して特許侵害訴訟を提起する場面を考えると、競合同士では相手方からの反訴(自社の製品が相手方の特許権を侵害しているとの訴訟)を誘発する可能性が高い点やレピュテーションリスクを考慮する必要があり、結局、特許侵害訴訟の提起を思いとどまることが多いと思われる。しかし、PAEは自ら製品を製造・販売していないのでこれらを考慮する必要がなく、積極的な特許権の行使が促進される。
 他方で米国ではPAEによる濫用的な訴訟提起が問題になっている。2006年では特許侵害訴訟のうちPAEによって提起されたものは約20パーセントにすぎなかったが、2012年では約60パーセントに増加しているとされる。さらに、当初はIT・テクノロジー企業が主な被告であったが、近年ではオンラインビジネスを行っている金融機関やレストラン等が被告とされる割合が増加しているともされる。被告企業としては米国訴訟で必要となる多額の費用を考慮すると、特許侵害はないと考える場合であっても早期に和解金を支払って解決するのが合理的であり得る。これは本来不要な支払いを企業に強いて研究開発等への投資を減少させるものであり、イノベーション及び競争に不利益をもたらす。
 このようなPAEに対しては、米国では知財法の観点に加えて独禁法の観点からも規制の必要性が議論されており、FTC及びDOJは2012年に専門家を交えたワークショップを開催したほか、現在はPAE規制検討の前提となる、PAEのビジネスモデルや活動に関する情報の収集・検討を行っているが、最終的な検討結果は未だ公表されていない。

 (2) 事例:Intellectual Ventures v. Capital One

 PAE規制に対する近時の注目裁判例はIntellectual Ventures I LLC v. Capital One Fin. Corp.(D. Md., 2015年3月2日)である。本件は特許権の購入とライセンスを主な事業とするIntellectual Ventures(以下「IV」)が、オンラインバンキングサービスに関するIVの特許権を金融機関であるCapital Oneが侵害しているとして提訴したものである。Capital Oneは、IVは個々では脆弱な特許権を集積して合理的根拠のない連続した特許侵害訴訟の脅威を創り出しているPAEである等として反訴を提起した。
 独禁法に関する主張としてCapital Oneは、IVがシャーマン法2条の私的独占に違反する等と主張する。すなわち、①IVは3500もの特許からなる金融サービス用の特許ポートフォリオを創り出しており、銀行は事業を行うにはIVからライセンスを受ける以外の選択肢がない。これは「金融サービスに不可欠な特許のライセンス市場」においてIVが100パーセントの市場シェアを有していることになるため独占力を有する、②企業が現に提供している既存製品のデザインから逆算して特許権を集積し、企業が侵害を回避できない特許ポートフォリオを創り出す行為は、IVが自らの特許ポートフォリオの詳細を明かそうとしないこととあわせれば排除行為に該当する等と主張した。
 連邦地方裁判所は、Capital Oneは証拠開示(ディスカバリー)手続を実施するのに十分な事実の主張を行っていると判断した。これはあくまでCapital Oneの前記主張が証拠開示を行い妥当性を検討してもよい程度に合理的である旨が示されたにすぎず最終的な裁判所の判断ではない。しかしここでは、PAEは事業を行っていないため典型的な製品・サービスの市場を観念できないにもかかわらず、「ライセンス市場」に基づいたCapital Oneの主張を認めた点等が注目される。なお本稿では詳述しないが、IVによる多数の特許権の取得が市場における競争に悪影響を与え得る資産の取得でありクレイトン法7条に違反するとのCapital Oneの主張についても裁判所は同様の判断をしており、いずれについても最終的な判決の内容が期待される。
 日本ではPAEの活動は米国ほど活発ではないが今後増加することはあり得、また、日系企業が米国で事業を行うに際してPAE関係の紛争に巻き込まれることは十分あり得る。その場合には知財法のみならず独禁法の観点からの主張を検討することは非常に有益と言えよう。

 4 リバースペイメント(Reverse Payments)

 (1) 問題点

 リバースペイメントとは、特許権者である先発医薬品メーカー(以下「先発メーカー」)からジェネリック医薬品メーカー(以下「ジェネリックメーカー」)に対するジェネリック薬が先発薬の特許を侵害しているとの特許侵害訴訟の和解において、先発メーカーからジェネリックメーカーに対し、ジェネリック薬の市場への投入を遅らせることの対価として金銭その他の利益を支払う旨を合意することである。「リバース」とされているのは、通常の特許侵害訴訟においては侵害を行ったジェネリックメーカーから特許権者である先発メーカーに金銭が支払われるのが通常であるが、ここでは金銭の流れが逆になっているためである。市場参入を遅らせることの対価であることを捉えてPay-for-delayの問題とも言われている。
 リバースペイメントの独禁法の観点からの問題は、特許侵害訴訟の和解によって、本来であれば判決で無効にされたはずの先発薬の特許権が有効に存続することになりその結果、ジェネリック薬の市場参入による競争・薬価の下落も生じないことになる点である。これは本来消費者が得ることができた薬価の低下という利益を奪い特許権に基づく独占的利潤として確保し、先発メーカーとジェネリックメーカーが和解という一種の「競争事業者間の合意」でその独占的利潤を分け合っているのではないかとの疑いを生じさせる。FTCの統計ではジェネリック薬の参入により先発メーカーは参入前の販売量の90パーセントを失うとされている。
 リバースペイメントの背景には米国特有の複雑な医薬品規制(Hatch-Waxman法)が存在している。ここではその詳細を論じることはできないが、ポイントは一番最初にジェネリック薬の販売承認を得たジェネリックメーカーに対してのみ先発薬の特許期間中であってもジェネリック薬の180日間の独占販売期間が付与される点である。先発メーカーは当該第一位のジェネリックメーカーに対して特許侵害訴訟を提起できるが、先発メーカーとしては第一位のジェネリックメーカーと和解することで第二位以下のジェネリックメーカーの参入をも事実上抑制できる(第二位以下のジェネリックメーカーは、莫大な収益源である独占販売期間を得られない一方で先発メーカーからの特許侵害訴訟の脅威にさらされるため参入するインセンティブを有しない)ため、多額のリバースペイメントを支払ってでも和解成立に大きなインセンティブを持つのである。

 (2) 事例:FTC v. Actavis

 後記のFTC v. Actavisまで、リバースペイメントの独禁法上の違法性の判断基準について下級審裁判例は分かれており、FTCは一貫して厳格な審査を求めていたが、特許侵害訴訟の和解は特許権の適法な行使の範囲内であるとして独禁法は適用されないとする考えも有力であった。2013年6月17日、FTC v. Actavisにおいて合衆国最高裁判所はリバースペイメントも独禁法の適用を免れるものではなく、その違法性は合理の原則によって判断されることを判示した。最高裁は、リバースペイメントは重大な競争制限効果をもたらし得るものであり、支払者がその支払いを正当化できない場合があること、多額の支払いが可能であるという事実自体が支払者の特許権に由来する市場支配力の存在を強く示していること等からその反競争性を指摘しつつ、その反競争性は支払金額の大きさや正当化理由等の考慮要素による複雑な分析が必要であるため、FTCの主張する厳格な基準ではなく合理の原則に基づいて判断するとした。
 最高裁はリバースペイメントに対する合理の原則の具体的適用については下級審裁判所に委ねており、現在その事例が積み重ねられてきている。基本的には競争当局は将来の訴訟コスト(特許権者が和解によって避けることができる負担の一例)等と比較しても多額の支払い・利益の提供が行われていることを主な根拠に競争制限効果を主張し、対して和解合意者はその競争促進効果・正当化理由(支払いは和解によって合意された販売協力等の対価である等)を主張することとなろう。
 リバースペイメントには米国特有の医薬品規制が大きく影響しており、日本においても同様の問題が生じるかについては更なる検討が必要と思われるが、一般的な意義としては、特許訴訟の和解にも独禁法上の検討が必要ということが確認された点にあり、例えば特許侵害訴訟の和解の条件としてしばしば行われるクロスライセンスについても独禁法上の違法性を検討する必要はあり、和解当事者のみならず関与する法曹も十分に留意する必要があろう。

 5 プロダクトホッピング(Product Hopping)

 (1) 問題点

 プロダクトホッピングとは、特許切れが迫った先発薬の製造メーカーが、特許切れに伴うジェネリック薬の参入の脅威に対抗するために、当該先発薬に「改良」を加えることで新特許権で保護される第二世代薬を作り出し、医師・患者への働きかけや第一世代薬の供給を停止する等の方法で、第一世代薬のジェネリック薬が市場に参入する前に患者の第二世代薬への切り替えを完了させてしまうことである。つまり、ジェネリックメーカーが第一世代薬のジェネリック薬を市場に供給できる時期には既に大多数の患者は新特許権で保護された第二世代薬を使用しており、患者の心理としては通常、「改良」された第二世代薬から旧薬(第一世代薬)のジェネリック品への切り替えには抵抗があるため、結局患者は旧薬のジェネリック品を選択せず引き続き先発メーカーはジェネリック薬の脅威を避けることができることになる。
 プロダクトホッピングは私的独占の成否が問題とされているが、その成立要件のうち①独占力の存在については特許権で保護された医薬品の存在により肯定されることが多く、②排除行為該当性に関し、プロダクトホッピングが有する競争制限効果と競争促進効果の比較衡量が主要な争点となる。ジェネリックメーカーは、第二世代薬は第一世代薬に無意味な変更を加えたにすぎず実質的には同一のものであり、ジェネリックメーカーを市場から排除するために第二世代薬が市場に投入されたと主張する一方で、先発メーカーは、旧薬の改良によって新たな高品質の医薬品を提供しており競争を促進していると主張する。

 (2) 事例:New York v. Actavis (Namenda)

 プロダクトホッピングに関しては米国でも裁判例の蓄積は少ないが控訴審レベルでの現状唯一の裁判例であるNew York v. Actavis PLC (Namenda)(連邦高等裁判所(2nd Circuit)2015年5月22日)がリーディングケースである。
 ActavisはNamenda IRというアルツハイマー治療薬を製造していたが、その特許は2015年7月に切れる予定であった。そのため、ActavisはNamenda XRという新薬(成分はNamenda IRと同様であるが、1日2回の投薬が必要であったNamenda IRとは異なり1日1回の投薬で足り、2029年まで特許権で保護される)を市場に投入することとして2013-2014年にかけて様々な普及策を実施した。それらのうち強制的な移行策(Hard Switch)として実施されたのは、旧薬IRの供給を近日中に停止することを公表するとともに医師に対して新薬XRへの切り替えを患者と検討するように強く要求するものであった。
 このHard Switchが私的独占に該当するとしてニューヨーク州司法長官が仮差止命令を求めたところ、連邦地方裁判所はそれを認容してActavisに対し、旧薬IRのジェネリック薬の市場参入が可能になってから30日後まで旧薬IRを従前と同じ条件で供給し続けるよう命じた。Actavisの控訴に対して連邦高等裁判所は概要を次の通り判示して地方裁判所の判断を是認した。
 一般に製品のイノベーションは消費者の利益になり製品の供給停止や製品の改良はそれ自体が直ちに競争を阻害するわけではない。しかし、独占者が製品の供給停止をその他の行為と組み合わせることで全体として消費者を強圧し(coerce)、競争を阻害する効果を有する場合には違法となる。旧薬の供給停止とともに新薬を投入するHard Switchはアルツハイマー病の患者に新薬への切り替えを強制し、ジェネリック薬の参入による競争を排除するものであり独禁法に違反する。旧薬をジェネリック薬の参入前に供給停止にすることでActavisは消費者から旧薬という選択肢を奪い安価なジェネリック薬との競争を避けることができたのである。Actavisは高品質の新薬の投入は競争を促進すると主張するが、これは旧薬の供給を停止して消費者から選択肢を奪うことを正当化する理由にはならない。
 本件では裁判所は消費者への強圧性の存在と安価なジェネリック薬を排除するという競争制限効果が大きい点を重視していると考えられるが、ここには、薬の品質の高低は裁判所が判断するよりも旧薬・新薬双方を選択肢として市場へ残し消費者の判断に委ねることが適当との考えがあると思われる。
 プロダクトホッピングも米国特有の医薬品規制を前提としており、日本でジェネリック薬の普及に伴い今後同様の問題が生じるかについては、日本の法制度下で、第二世代薬の特許取得や、安定供給の要請に反し得る旧製品の供給停止が容易か否か等について更なる検討が必要と考えられる。本件の一般的な意義としては、一定の場合には支配的地位を有する事業者は旧製品の供給を継続して消費者に多くの選択肢を提供する義務や競合他社を援助する義務(本件では旧薬の供給を継続しジェネリック薬の開発を容易にすべき義務)を負うという点である。知財権の保有は支配的地位を示す重要な要素の一つであるため、知財権が関係する旧製品の供給停止・新製品の投入を行うにあたっては独禁法違反の有無を検討することが有益であろう。

 6 おわりに

 本稿でみてきたPAE、リバースペイメント及びプロダクトホッピングは

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山田 浩史(やまだ・ひろし)

 弁護士(西村あさひ法律事務所)。2007年東京大学法学部卒業、2008年弁護士登録(旧61期)。2015年コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M., Harlan Fiske Stone Scholar(成績優秀者))、同年ニューヨーク州司法試験合格。現在、米ワシントンDCのクリアリー・ゴットリーブ・スティーン アンド ハミルトン法律事務所勤務。国際的な独占禁止法・M&A案件を中心に企業法務全般に従事。

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