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西村あさひのリーガル・アウトルック

民営化されるベトナム「国営企業」への投資の最新実務動向

廣澤 太郎(ひろさわ・たろう)

ベトナム国営企業の民営化及び投資に関する最新実務動向

弁護士・NY州弁護士
廣 澤 太 郎

拡大廣澤 太郎(ひろさわ・たろう)
 2004年、東京大学法学部第一類卒。2013年、デューク大学ロースクール卒業(LL.M.)。2011~2012年、三井物産株式会社 法務部出向。2013年、ホーチミン事務所勤務。2013年からハノイ事務所勤務。2018年から日越共同イニシアチブ第7フェーズ 国有企業改革・株式市場改革ワーキングチーム委員。

 1.はじめに

 高い経済成長を背景に、ベトナムに対する諸外国からの投資は引き続き堅調であり、日本企業による投資も引き続き活発である。もっとも、ベトナムでは、依然として国営企業の活動が経済に占める割合は大きく、その非効率な経営が更なる経済成長の障害となっているとの指摘も多い。そのため、ベトナム政府は、国営企業の株式を外国の投資家に売却することによって外国投資を呼び込み、その技術や経営に関するノウハウを取り込んで国営企業の経営効率を高めようとしている。
 日本企業については、その技術・経営に関するノウハウへのベトナム政府からの期待も大きく、国営企業への投資家として期待されており、また、高い成長が期待されるベトナム企業へ関心を持つ日本企業も少なくない。
 以上のような国営企業の民営化に関連して、ベトナムでは、近時、重要な法令改正や政府の決定が相次いでいるが、民営化される国営企業への投資については、民間企業への投資とは異なった法規制も多く、日本企業が実際に投資を行うにあたっては、様々な留意点が存する。本稿ではその一端につき、概説することとしたい。

 2.「国営企業」という用語の概念整理と「株式化」手続の概要の解説

 ベトナム国営企業への投資という文脈において、一般論として、「国営企業」という用語は、下記の①②の二つのいずれの意味においても用いられる。ただ、本稿では、①と②とでは、投資の際の法規制において異なる面が大きいため、次のとおり、用語を使い分けることにする(ちなみに、ベトナム企業法においては、①の類型のみが「国営企業」と定義されているが、筆者の案件取扱経験上は、日本を含む諸外国の投資家は、②の類型の企業への投資を検討するケースが圧倒的に多いと思われる)。

①政府出資比率が100%の企業(「株式化」手続の完了前)=「国営企業」
②政府出資比率が過半以上を占める企業(「株式化」手続の完了後)=「元国営企業」

 上記の①と②の分類の基準となる「株式化」手続は、ベトナム国営企業に特有の用語であるが、「株式会社とは異なる政府100%出資の会社形態から、企業価値算定等を経て、外部の投資家への株式売却、株式会社への組織変更が行われる一連の手続」を意味している。「株式化」手続の開始から完了までには時間を要し、数年単位であることも多い。株式化の手続の大まかな流れは、以下のとおりである。

 <株式化の手続の概要>

  1. 株式化及び株式処分を承認する旨の首相決定
  2. 所管官庁による「株式化委員会(Steering Committee)」の設置
  3. 企業価値算定機関による価値評価
  4. 首相又は所管官庁の代表等による株式化計画の内容決定
  5. 戦略的投資家の募集及び決定
  6. 一般投資家向けの公開入札(「IPO」と呼称される)、戦略的投資家への株式売却(戦略的投資家が選定された場合)
  7. 第1回株主総会開催(定款の承認)、株式会社としての事業登録、資産の引き渡し(この7.をもって「株式化」が完了したとされる)
  8. VSD(ベトナム証券保管振替)への登録完了、Upcom市場への上場申請
  9. ハノイ証券取引所ないしホーチミン証券取引所への株式上場

 ※ ちなみに、国営企業への投資、元国営企業への投資のいずれにおいても、「戦略的投資家(Strategic Investor)」という単語がよく使われる。よく誤解されるところであるが、法的には、「戦略的投資家」とは、国営企業への投資の場面においてのみ用いられ、元国営企業への投資の場面では用いられない。「戦略的投資家」に該当する場合、株式化対象企業が事業登録を終えてから少なくとも3年間は株式を譲渡しないこと(=3年間のロックアップ期間)、新技術、人材育成、財政・ガバナンス支援、資材調達、市場開拓に関する支援計画を提出、といった義務が課される。なお、政令126号により、「戦略的投資家」は、「政府による株式の過半保有が認められた業種」にのみ存在する旨、定められている。

 

 3.近時の重要法令及び政府決定

 近時の国営企業及び元国営企業に関連する重要法令及び政府決定のうち主要なものは、以下のとおりである。

 <近時の重要法令改正/政府決定>

① 首相決定58号(2016年12月28日公布) 国営企業の株式売却に関する計画を定める。240社の国営企業がリストアップされ、それぞれにつき、2020年までに政府の出資比率を何%まで引き下げるのかが具体的に示されている。すなわち、103社については引き続き100%を保有する計画である一方、4社は65%超100%未満、27社は50%超65%未満、106社は50%未満に引き下げる計画であるとされている。
② 首相決定1232号(2017年8月17日公布) 元国営企業の政府保有株式処分の具体的な計画(添付されているリストには、合計406社それぞれの最低株式売却割合や売却完了時期等が記載されている)、及びその実行促進を目的とした進捗管理(各所管官庁による四半期ごとの報告等)等について定めている。
③ 政令126号(2017年11月16日公布) 国営企業の株式化に関して、株式化の具体的手続、株式化を行うことができる国営企業の要件、戦略的投資家の要件や選定手続、企業価値評価の手法等について、新しいルールを定めている。
④ 政令32号(2018年3月8日公布) 元国営企業のベトナム政府保有株式の売却に関して、公開入札の要否や最低譲渡価格等についての新しいルールを定めている。
⑤ 通達83号(2018年8月30日公布) 主要な国営企業及び元国営企業の代表権限を、所管官庁から国家投資公社(SCIC)に移管することを定めている。下記⑥の政令131号の施行に合わせて、主要な国営企業及び元国営企業のコントロールが「国家資本の管理に関する委員会」に移管されることになる。
⑥ 政令131号(2018年9月29日公布) 首相が選任する委員長の下、「国家資本の管理に関する委員会」を設立すること、並びに国家投資公社(SCIC)をはじめとする19の主要な国営企業及び元国営企業の代表権限が同委員会に移管されることを定めている。


 以上の各政令及び通達は、大別すると、以下のとおり分類できる。

①②・・・ベトナム政府が個社名を挙げて、政府保有株式の売却計画(ロードマップ)を具体的に定めたもの

③④・・・政府が保有株式を売却する際の手続やルールを定めたもの(詳細は後記4参照)。

⑤⑥・・・主要な国営企業及び元国営企業のコントロールを(国家投資公社(SCIC)経由で)「国家資本の管理に関する委員会」に移管することで、国営企業の民営化を加速させるもの

 4.国営企業及び元国営企業への投資に関する法制面での留意点

 国営企業や元国営企業への株式投資を検討する上で、外国投資家が留意すべき規制は数多くあるが、その代表的なものが、以下の(1)売却方法についての規制(公開入札手続の適用の有無)及び(2)最低譲渡価格規制である。

 (1) 公開入札の適用の要否

国営企業の株式取得 元国営企業の株式取得
【一般原則】
・公開入札(ベトナムではこれが「IPO」と呼称される)、引受、相対取引、ブックビルディングの4種類の方法が規定されている(但し、実例としては、公開入札で行われている例がほとんど)。

【戦略投資家向けの売却】
・公開入札の後、戦略的投資家に限定した入札(不成立の場合は相対交渉)が実施される。
【上場株式、Upcom市場登録株式】
・市場内での売却又は市場外での売却。
・なお、市場内の売却の場合、いわゆる”put-through method”を利用することにより実質的な相対売買は可能。
・市場外の売却の場合には、①公開入札、②Competitive Bid、③相対取引、の3種類が定められており、①→②→③の順に、それぞれの方法が不成立の場合に実施される。

【未上場株式】
・上記の市場外売却の方法による。


 (2) 株式売却価格規制

国営企業の株式取得 元国営企業の株式取得
【一般原則】
・株式価値評価機関が選任され、(一般投資家向けに行われる)公開入札の入札開始価格が決定される。

【戦略的投資家向けの売却】
・戦略的投資家向けのオークションの入札開始価格は公開入札の平均落札価格を下回ってはならず、相対取引で株式を取得する場合も同価格を下回ってはならない。

【上場株式、Upcom市場登録株式】
「株式評価機関の株式評価額」と「売却公表日の直近30日の平均株価」のいずれか高い方を「最低価格」とした上で、

・市場売却の場合、当日の証券取引所の取引可能価格帯の範囲内(前日の終値の、ホーチミンの場合±7%、ハノイの場合±10%、Upcomの場合±15%)かつ上記の「最低価格」以上で行われる必要あり。
・市場外売却の場合、上記の「最低価格」以上で行われる必要あり。

【未上場株式】
・株式評価機関の株価評価額に基づき、公開入札の入札開始価格が決定される。


 上記のルールの下、まとめると、

 ①「元国営企業の株式」、②「上場株式、Upcom市場登録株式の市場内売却」、③「『最低価格』が当日の証券取引所の取引可能価格帯の範囲内に収まっている場合」、のすべての条件を充足する場合を除いて、公開入札が行われることになると考えられる。
 そして、i)現行法令下における評価方法は、ベトナム政府側に極めて有利なものになっていること、ii)株式評価機関はベトナム政府によって選任されることもあり、ベトナム政府に有利な評価結果が出やすいこと等から、上記の「最低価格」が当日の証券取引所の取引可能価格帯の範囲内に収まることは少なく、結局、現行法下では、実際上、多くのケースで公開入札が行われることになると考えられる。

 公開入札が行われる場合の具体的な手続はケースバイケースであると考えられるが、投資家がデュー・デリジェンスを十分に行うための時間や情報開示がなされないことや、株式譲渡契約書や株主間契約書等の条件交渉が十分にできないことが懸念される。
また、公開入札が行われるとしても、実際には、水面下で、相対で交渉を進め、ある程度の情報開示や契約書の条件交渉を行うことができる可能性はあるが、これらの点は、ベトナムの国営企業投資を目指す日本の投資家にとっては大きな障壁になるものと考えられるので、立法又は運用による事態の改善が望まれるところである。

 5.契約上確保すべき権利について

 ベトナム国営企業ないし元国営企業への投資に際しては、株式の売主であるベトナム政府との間で、株式譲渡契約や株主間契約の交渉を行うことが必要となるが、契約上、特に確保すべき権利は、以下のとおりである。

 <投資家としての権利確保に関する条項>

  • 出資比率の維持(希釈化防止条項)
  • 競業他社等への株式発行や株式譲渡に係る制限(他の戦略的投資家が参入する可能性の排除)
  • 役員指名権
  • 一定の重要事項への拒否権
  • 経営上重要な会議体(実質審議がなされている会議体)への参加権

 <投資後の事業の協業に関する条項>

  • 一定の協業事業に係る取り決め(協業事業実施時の独占的・優先交渉権等の確保)
  • 人材やノウハウ等の提供の外延(範囲)と対価(有償・無償の区別)
  • 政府株主=監督官庁からの特別な許認可等の確保

 6.終わりに

 ベトナム政府が掲げる国

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