メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

西村あさひのリーガル・アウトルック

ベトナムで日系など外資企業が住宅開発プロジェクトを手がける実務

大矢 和秀(おおや・かずひで)

ベトナムにおける住宅開発プロジェクトの実務

西村あさひ法律事務所
大矢 和秀

拡大大矢 和秀(おおや・かずひで)
 2003年、京都大学法学部卒。2004年、弁護士登録。2010年、デューク大学ロースクール(LL.M.)卒業後、シンガポールのKelvin Chia Partnership法律事務所にて研修。2011年から2013年まで金融庁総務企画局企業開示課専門官。2013年にベトナム外国弁護士登録、ハノイ事務所勤務を経て、ホーチミン事務所代表。2014年より、ホーチミン日本商工会労働・雇用委員会委員を務める。

 I. はじめに

 筆者がベトナムに赴任した2013年当時は、ベトナム不動産市場の潜在性が高く評価され、日系デベロッパーを含む外国投資家が旺盛な投資意欲を持っていたにもかかわらず、空き地があちこちで放置されている状況であった。需要も、それに応える資金も存在したにもかかわらず、参入が阻害されていた要因の一つは、複雑すぎるベトナムの不動産法規制であった。

 西村あさひ法律事務所は、ベトナムで最初の日系法律事務所として、日系企業のそうした困難を法務面から支援し、依頼者と共に、この時期に先駆けとなるいくつかの案件をクロージングまで導くことができた。こうしていくつかのモデルケースができた後の日系企業のベトナム不動産市場への進出は目覚ましいものがあったが、その一方で様々な問題も生じてきている。

 本稿では、こうしたプロジェクトを通じて得た知識と経験を社会に還元することで、法律実務の発展に資するという西村あさひ法律事務所の理念に則り、ベトナムにおける様々な不動産プロジェクトのうち、住宅開発プロジェクトに焦点を絞って解説することとしたい。今後の日系企業のベトナムにおけるビジネスの更なる発展、ベトナム社会の更なる発展に少しでも貢献できれば幸いである。

 なお、ベトナムでは、不動産プロジェクトの種類ごとに適用される法規制が異なるのが特徴であり、例えば、本稿で解説する住宅開発プロジェクトと、オフィスビルやショッピングモールなどの商業不動産プロジェクト、ホテル開発プロジェクト、複合目的不動産の開発プロジェクト、インフラ開発プロジェクトでは、それぞれ適用される法規制が異なる。また、同じ住宅開発プロジェクトでも、土地の状況や許認可取得の状況等により、適用される法規制や利用可能な投資ストラクチャーが異なり得る。このように、ベトナムにおける不動産プロジェクトでは、案件毎の個別性が高いため、土地及びプロジェクトのデューディリジェンス(法務監査)を行い、実情に沿った投資ストラクチャーを案件毎に組成する必要性が高い。その意味では、本稿で紹介する一般的な法規制や実例が、他の案件に必ずしもそのまま妥当する訳ではないことを正しく認識いただき、実際に案件を組成される際には、法律事務所など外部の専門家に個別に相談されることをお勧めしたい。

 II. ベトナムの不動産法制の基礎

 具体的なプロジェクトの話に入る前に、ベトナムにおける不動産法制の基礎について簡単に触れておきたい。

 ベトナムでは、土地は全人民に帰属しており、国家がこれを管理することとされている。「私人」すなわち民間人は、土地を所有することは認められておらず、管理者たる国家から土地の「使用権」の付与を受けて、土地を使用することになる。

 中国の不動産法制との類似性はよく指摘されるところであるが、運用の実情は大きく異なることも珍しくない。用地収容などはその最たる例である。

 ベトナム国外で設立された法人が、直接ベトナムの土地使用権を取得することは認められておらず、ベトナム国内に現地法人を設立する必要がある。

 土地使用権には、「割当て」と「リース」の二つの形態がある。昔の制度の影響か、「割当て」は無期限の土地使用権であり、内資企業だけが取得でき、外国投資企業(ベトナムで設立される企業のうち、外国投資家からの投資を受けている企業を念頭に置いている)は期限に限りのある「リース」だけしか認められない、といった誤解がよく見られる。しかし、2013年に制定されている現行の土地法では、土地使用権の期間は土地使用権の形態ごとではなく、土地使用権の目的ごとに定められており、またこの点については内資企業と外国投資企業の差異も縮小しており、概ね対等な条件が実現されている。

 例えば、本稿で取り上げる住宅開発プロジェクトの実施のための土地使用権の付与については、旧土地法下では、内資企業のみが「割当て」の形式により土地使用権の付与を受けることができたが、現土地法下では、内資企業でも外国投資企業でも、いずれも「割当て」の形式で土地使用権の付与を受けることができるようになっており(土地法55条)、そのような差異は解消している。なお、期間についても、内資企業であれ、外国投資企業であれ、原則として50年までのリースとされており、こちらも内資外資で差異はない(土地法126.3条)。

 もっとも、内資外資の差は完全に解消しているわけではなく、例えば、内資企業では既存の土地使用権を第三者からセカンダリーで入手することが可能であるが、外国投資企業の場合は、そうした方法は原則として認められておらず、(工業団地など一定の場合を除き)国家から直接土地使用権の付与を受けることが必要になる。

 なお、土地法については、今年改正が予定されており、改正提案書が公開されている。本稿執筆時点で公開されている情報によれば、外国人の土地使用権の取得に関する住宅法との齟齬を解消する改正、いわゆるコンドテル(コンドミニアム(分譲マンション)とホテルを組み合わせたもの)に関する法整備、用地収用の制度改良、農地に関する規制の緩和などが提案されているが、現状の制度不備を解消するための改正が主であり、大きな制度変更は見当たらない印象である。

 III. 住宅開発プロジェクトの実務

 1. プロジェクト候補地の選定、用地収用(土地の仕込み段階)

 外国投資家が単独でプロジェクト候補地の選定、用地収用を行うのは、制度上も実務上も困難が多いため、この段階では、売主又は合弁パートナーとなるローカルデベロッパーなどが主導的な役割を果たすことが実務上は多い。

 制度上の制約としては、土地法、不動産事業法、住宅法等における外資規制が挙げられる。例えば、外国投資家が、ベトナムにおける不動産開発を目的とする法人を設立するにあたっては、当局から具体的なプロジェクト対象地と開発計画が定まっていることを求められるのが通常である。そのため、外国投資家の場合には、他の既存プロジェクトでもない限りは、この段階では候補地探しや用地収用の主体として交渉を進める法人自体を設立することができないことになる。

 仮に、何らかの外国投資法人が設立できている場合であっても、先述のとおり、外国投資法人は、国家以外の者から土地使用権だけを譲り受けることは原則として認められていない(土地法169.1条(b))。そのため、複数の地権者が存在するような場合に、土地使用権を買い集めるということが制度上できない。自ら用地収用を行わずに、当局に対して住宅開発プロジェクトの承認を求めることも理論上は可能と思われるが、そのような用地収用も済んでいないプロジェクトを当局がそもそも承認するのか、プロジェクトが承認されたとしても投資家の選定が入札手続に服するのではないかといった懸念などもあり、実務上はあまり見かけないように思われる。

 さらに、ベトナムでは、日本などのように、土地建物の権利関係を第三者が閲覧できる公的なデータベースのようなものが存在しないため、外国投資家が、プロジェクト候補地の権利者をそうしたデータベースを利用して確認することもできない。もちろん、土地の権利関係を管轄する当局では、内部的に土地台帳を管理しており、都市部では既にデータベース化されているが、実務上は、権利者の承諾がなければ閲覧できないのが現状である(土地の権利関係を所管している天然資源環境省(いわゆるMONRE)は、2020年を目処に誰もが閲覧できるデータベースの構築を目指すと発表しているが、実現するかどうかは定かでない。)。

 では、ベトナムでは現状、どうやって土地の権利関係を確認しているかというと、土地使用権証書という紙ベースの証書を確認することが実務上行われている。土地使用権証書は、昔その表紙が赤かったことに由来して、通称、レッドブックと呼ばれている。実際の証書は、簡単に偽造できるような簡素なものであり、もちろんベトナム語で記載されている。こうした土地権利関係の不透明さも、外国投資家が候補地を選定し、用地収用を行うことの実務上の障害となっている。

 このような事情もあり、外国投資家の場合は、ローカルの売主やパートナーが既に保有している(仕込んでいる)候補地をベースに検討することが多いように思われる。

 2. 法務デューディリジェンス及び投資ストラクチャリング

 売主やローカルパートナーとの協議が始まったら、比較的早い段階で法律事務所など、外部の専門家を入れて法務デューディリジェンス及び投資ストラクチャリングを行うことをお勧めしている。これは、前述のように、ベトナムにおける住宅開発プロジェクトは、土地や許認可取得の状況などにより、状況に合わせた個別の対応が必要になることが多いため、一般論ベースで話を進めてしまうのは非効率かつリスクが高いことによるものである。特に、ベトナムの住宅開発プロジェクトの実務にあまり詳しくない外国投資家の場合には、そうした実務に対する知識不足により、交渉が往々にして膠着してしまいがちであるため、法律事務所などの専門家が入ることで、双方の理解が深まり、かえって交渉がスムーズに進むことも珍しくない。もっとも、ビジネス上の交渉と並行して行われることになるため、いきなり包括的な範囲での法務デューディリジェンスを行うのではなく、投資ストラクチャリングに必要な範囲で、土地とプロジェクトの基本的な事項に絞った法務デューディリジェンスのみを先行して行い、案件を効率的かつ柔軟に進めることが求められることも少なくない。

 一般論としては、住宅開発プロジェクトで必要となる主な行政手続には、以下のようなものがある。

  •  土地使用権の取得、1/500のマスタープラン承認、土地使用目的等の変更
  •  非公式承認(いわゆるPreliminary Approvalと呼ばれるものなど)、住宅法上の住宅開発プロジェクトに係る承認
  •  消防、環境、設計に関する承認、建築許可
  •  外国投資家の投資に伴う投資登録証明書、取得登録手続など

 手続になじみのない外国投資家にとって理解しにくいのは、法令上、各手続について一定の前後関係は定められているものの、常に適用される標準的な手続の流れが決まっているわけではなく、土地の状況、投資の内容、ストラクチャリング、地域によって、要否、順番、内容などが変わり得る点である。

 投資ストラクチャリングは、こうした具体的な行政手続の流れも踏まえつつ行うことになるが、同じく売主・ローカルパートナーなどの意向も踏まえて、案件毎に個別に検討することが必要となる。もっとも、様々な規制上の制約から、実務上利用可能な投資ストラクチャーはいくつかのパターンに限定されており、それらを組み合わせたり、アレンジしたりしながら、作り込んでいくのが通常である。外国投資家としては、できる限り行政許認可のリスクを取りたくないため、できる限り多くの許認可を投資の前提条件としたいところであるが、ローカル側としては早期に資金を調達したいという要望が強いため、かかるローカル側の要望を満たしつつ、外国投資家としては取りにくいリスクをいかにヘッジするかがポイントとなることが多い。

 3. その他の実務上よく問題となる法的論点

 (1) ローンによる資金調達

 ベトナムの住宅法では、商業住宅開発プロジェクトに用いることのできる資金が制限されており、ローンによる資金調達は、ベトナムで事業を行う金融機関からの借入れのみが認められている。そのため、外国の金融機関からの借入れや、投資家からの親子ローンを商業住宅開発プロジェクトに用いることは認められていない。

 本規制は、プロジェクト会社が内資企業か、外国投資企業か、ローンが国内ローンか、クロスボーダーローンか、又はベトナム国家銀行への登録が必要となるか否かを問わずに適用される。本規制は、内資企業には適用されず、ローカルデベロッパーは、住宅開発プロジェクトに親子ローンをよく使っているという話を聞くことがあるが、誤解である。内資企業であっても本規制の適用を受けており、単に違反が事実上摘発されていないか、又は通常の運転資金等の他の用途でローンを用いているに過ぎないと考えられる。ベトナム国家銀行へ登録しない短期ローンであれば認められるというのも誤解である。ベトナム国家銀行は、本規制を厳格に適用する傾向にあり、実際に住宅開発プロジェクトのプロジェクト会社宛てのローンの登録が拒絶された事例が複数報告されているが、登録を要しない短期ローンであれば認められるという訳ではなく、事実上摘発されていないに過ぎない。

 本規制は、2015年に現行の住宅法が施行された際に新たに導入された規制であり、ローカルパートナーからは本規制を無視したキャッシュフローの提案がなされることが少なくない。本規制については批判も多く、ベトナムの不動産業協会をはじめ、各所から撤廃要望が出されているが、未だ撤廃されていないため、当面は本規制を遵守したキャッシュフローを組まざるを得ないのが現状である。社債や優先株についても本論点に関連する議論があるため、それらの利用を検討する場合には注意が必要である。

 (2) 外国人による住宅購入

 2015年に現行の住宅法が施行された際には、「外国人への住宅販売解禁」といった宣伝文句が多く見られたところであり、実際にも多くの外国人がベトナムの住宅を購入しているのが現状のようであるが、実務上は課題も少なくない。

 往々にして、規制の緩和のみが注目され、忘れられがちであるが、外国人が事業・利益獲得のために転売する目的でベトナムの居住用不動産を購入することは、現在も禁止されている(政令99/2015/ND-CP号79.8条)。こうした目的の有無をどのように判断するのかについてのガイドラインは、少なくとも筆者の知る限りでは現時点において公表されてはいない。

 また、ベトナムの住宅を購入したにもかかわらず、契約どおりに建物の所有権証書の発行を受けられていない外国人も多数いるようである。ホーチミン市を含めた一定の省・市では、国防のために外国人の居住が認められない地域の指定が国防局により行われていない状態であったため、土地登録局が外国人への建物の所有権証書の発給を中断する事態が生じていたことなどが背景にある。

 さらに、外国人がベトナムの住宅を購入する際の資金の送金方法についても注意が必要である。これは、関連規制を遵守して購入時の資金を送金しておかないと、将来住宅を売却する際に、売却代金をベトナム国外に持ち出せなくなるリスクがあるため、非常に重要な点となる。もっとも、実務上は不明確な点が多いのが実情である。

 いずれにせよ、外国人へのベトナムの住宅販売を行う場合は、こうした規制、リスクを十分に認識した上で、適切な販売説明を行うことが肝要である。

 (3) デポジットの問題

 住宅販売の当局への登録前であるにもかかわらず、プレスリリースを行い、潜在顧客からデポジットを受け取る例が実務上は散見される。しかしながら、このようなデポジットの受け取りは、一定の場合に関しては法令上明確に禁止されており、他の場合についても、受領の可否について実務上争いがある状態である。販売戦略上、ローカルパートナーとしては何らかの手付けを受領したいというニーズは強いものの、規制の観点からは疑義のあるところであり、外国投資家としては慎重な対応が必要となるところである。

 IV. 最後に

 上記以外にも、社会福祉住宅に関する規制、瑕疵担

この記事の続きをお読みいただくためには、法と経済のジャーナルのご購読手続きが必要です。

朝日新聞デジタル購読者(フルプラン)の方なら手続き不要

法と経済のジャーナル Asahi Judiciaryは朝日新聞デジタルの一部です。
有料(フルプラン)購読中の方は、ログインするだけでお読みいただけます。

朝日新聞デジタルのお申し込みはこちら

大矢 和秀(おおや・かずひで)

 2003年、京都大学法学部卒。2004年、弁護士登録。2010年、デューク大学ロースクール(LL.M.)卒業後、シンガポールのKelvin Chia Partnership法律事務所にて研修。2011年から2013年まで金融庁総務企画局企業開示課専門官。2013年にベトナム外国弁護士登録、ハノイ事務所勤務を経て、ホーチミン事務所代表。2014年より、ホーチミン日本商工会労働・雇用委員会委員を務める。
 主な共編著に『アジア進出・撤退の労務』(中央経済社、2017年)、『ベトナムのビジネス法務』(有斐閣、2016 年)がある。

Facebookでコメントする

ご感想・ご意見などをお待ちしています。