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西村あさひのリーガル・アウトルック

仮想通貨の譲渡、流出補償で個人の所得課税はどうなるか

佐々木 秀(ささき・しげる)

仮想通貨(暗号資産)と個人の所得課税
―流出の際の補償に関連して

西村あさひ法律事務所
弁護士 佐々木 秀

拡大佐々木 秀(ささき・しげる)
 2002年、東京大学法学部卒。2003年に第一東京弁護士会に登録。2010年~2013年、みずほ証券株式会社法務部に出向。2014年にボストン大学ロースクールを卒業(LL.M. in American Law, Sebastian Horsten Prize)。2015年ニューヨーク州で弁護士登録。2014年~2015年には、ニューヨークのデービス・ポーク・アンド・ウォードウェル法律事務所で勤務。
 個人の所得税の確定申告の時期である。昨年は、仮想通貨の「取引所」から、顧客が預けた仮想通貨が不正に引き出され、流出する事件が相次ぎ、我が国だけでも1月のCoincheckからの流出、9月のZaifからの流出の事件が発生した。いずれの事案においても、流出した仮想通貨の全部又は一部については、その価値相当分の日本円で顧客に対する補償を行っているようであり、国税庁の示している見解によれば、雑所得が生じる可能性があり、本年行うべき確定申告にも関係する。
 そこで、この機会に、このような仮想通貨の流出事案の補償の取扱いについて整理し、考えてみたい。なお、筆者を含む西村あさひ法律事務所の弁護士は、仮想通貨流出事案における税務上の取扱いについて、依頼を受け、国税当局との協議を行ったことがあるが、本稿中、意見に亘る部分は、あくまで筆者の個人的な見解であって、依頼者又は当事務所の見解ではないことに留意されたい。

 ■1 仮想通貨取引に関する原則的な個人の税務上の取扱い

 国税庁は、仮想通貨取引が盛り上がる中で、平成29年(2017年)12月1日付「仮想通貨に関する所得の計算方法等について(情報)」(個人課税課情報第4号)を公表し、仮想通貨取引における損益に関する個人の所得税の取扱いについて見解を明らかにした。それによれば、

 「保有する仮想通貨を売却(日本円に換金)した場合、その売却価額と仮想通貨の取得価額との差額が所得金額となります。」
 「仮想通貨を使用することによる損益は・・・原則として、雑所得に区分されることとしています。」

などとされている(https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/171127/01.pdf)。国税庁は、この公表資料で、事例も含めて詳細な説明をしており、記載としては、かなり分かり易く、その点では納税者の利益が十分考慮されているといえる。しかし、ここで示されている見解については、よく考えてみると、若干の疑問が残る。

 まず、租税法の通説的な解釈上、資産とは、譲渡性のある財産権を全て含む観念で、動産、不動産はもとより無体財産権も含む相当に広い概念であるとされており、資金決済に関する法律(資金決済法)の定義や実際の利用方法を見ても、仮想通貨が「資産」であることを否定することは容易ではないと考えられる。また、「譲渡」とは、有償か無償かを問わず、譲渡を行う者の意思に基づくか否かを問わない、所有権その他の権利の移転を指すとされているから、仮想通貨の売却が「譲渡」に該当することを否定することも難しいと考えられる。
 もっとも、仮想通貨の売却が所得税法上の「資産」の「譲渡」に該当するとしても、「雑所得」とされるのは何故であろうか。所得税法35条1項は、

 「雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう。」

と定義しており、これら列挙された所得、特に「譲渡所得」に該当しないのはなぜか、という疑問がある。この点は、所得の性質が雑所得とされてしまうと、他の雑所得の性質を有するものの計算上生じた損失との通算しかできないという損益通算の制限が課されてしまい、結果的に、所得税の額が大きくなりかねない、という影響が生じるため、納税者の利益に直接影響する疑問である。

 この疑問に関連するのが、所得税法33条2項である。同条1項では、

 「譲渡所得とは、資産の譲渡(・・・)による所得をいう。」

としているため、「資産」の「譲渡」である仮想通貨の売却による所得も譲渡所得に該当しそうである。しかし、同条2項では、

 「次に掲げる所得は、譲渡所得に含まれないものとする。」

とし、同項1号が

 「たな卸資産(これに準ずる資産として政令で定めるものを含む。)の譲渡その他営利を目的として継続的に行なわれる資産の譲渡による所得」〔下線は筆者〕

を挙げている。このため、国税庁は、仮想通貨がこの所得税法33条2項1号の「たな卸資産」又は「これに準ずる資産として政令で定めるもの」のいずれかに該当するとの立場をとっているため、国税庁が仮想通貨の売却による所得を雑所得に該当するとしているのではないかと考えられる。

 しかしながら、「棚卸資産」の定義では、

 「事業所得を生ずべき事業に係る商品、製品、半製品、仕掛品、原材料その他の資産(有価証券及び山林を除く。)で棚卸しをすべきものとして政令で定めるものをいう。」

とされており(所得税法2条1項16号。なお、定義規定では、なぜか「棚卸資産」と漢字表記である)、「政令で定めるもの」とは「商品又は製品(副産物及び作業くずを含む。)」、「半製品」、「仕掛品(半成工事を含む。)」、「主要原材料」、「補助原材料」、「消耗品で貯蔵中のもの」、「前各号に掲げる資産に準ずるもの」であり(所得税法施行令3条)、仮想通貨が直接該当しそうなものはない。加えて、若干、トートロジーにもなりかねないが、いわゆる馬券の払戻金について事業所得性を容易に認めない最高裁の立場(例えば、平成29年12月15日最高裁判決)からすると、「事業所得を生ずべき事業に係る」という要件を満たさないようにも思われる。
 そこで、「譲渡所得に含まれないものと」されているもの(所得税法33条2項1号)を再び見てみると、

 「たな卸資産(これに準ずる資産として政令で定めるものを含む。)の譲渡その他営利を目的として継続的に行なわれる資産の譲渡による所得」〔下線・強調は筆者。以下同じ〕

の括弧書きに該当するのではないか、ということになる。そこで、「これに準ずる資産として政令で定めるもの」が何かを見ると、

 「不動産所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務に係る第3条各号(たな卸資産の範囲)に掲げる資産に準ずる資産」(所得税法施行令81条1号)

である。「準ずる資産」といわれると、かなり範囲が広がるため、仮想通貨がこれに該当する、という考え方があろう。
 しかしながら、このように整理すると、仮想通貨の売却は雑所得を生ずべき業務に係る資産の譲渡であって譲渡所得には含まれないため、雑所得になると考えることになってしまう。言い換えれば、仮想通貨は雑所得を生ずべき資産だから雑所得を生ずるのだ、ということになり、トートロジーのような定義、或いは、仮想通貨の売却が雑所得を生じることが所与の前提になっているようにも思われる。このように、初めから雑所得該当性ありきのような解釈・定義は、雑所得の所得税法上の定義であるところの

 「雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう。」(所得税法35条1項)

という、残余的な概念としての雑所得概念の定義と整合しないのではないかとの疑問が残る。

 ■2 仮想通貨流出の際の補償金

 国税庁は、Coincheckからの流出直後に、その補償金の税務上の取扱いを明確化するタックスアンサーを公表した。
 その内容は、一般論として、

 「顧客から預かった仮想通貨を返還できない場合に支払われる補償金は、返還できなくなった仮想通貨に代えて支払われる金銭であり、その補償金と同額で仮想通貨を売却したことにより金銭を得たのと同一の結果となることから、本来所得となるべきもの又は得られたであろう利益を喪失した部分が含まれているものと考えられます。」
 「したがって、ご質問の補償金は、非課税となる損害賠償金には該当せず、雑所得として課税の対象となります。」

とするものである(http://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1525.htm)。

 流出被害に遭った個人の数に鑑みると、取扱いの明確化を図るべく、極めて異例の早さで対外的にこの公表を行ったこと自体、納税者のための配慮を行ったものと評価できるところであるが、所得の分類についての■1で指摘したような疑問点に加えて、所得税法上の非課税所得に該当しないとの結論で良かったのかについては、一考の余地があるものと考えられる。もっとも、(租税法の通説的解釈上、「譲渡」とは、譲渡を行う者の意思に基づくか否かを問わない、所有権その他の権利の移転を指すとされていることから、)流出してしまった仮想通貨を事実上取り戻すことが困難な状況下では、「譲渡」を否定することは難しく、当初投資額に対して差益が発生した場合に「所得」であることを否定することも難しいと考えられる。

 即ち、所得税法9条1項17号は、

 「損害賠償金(これらに類するものを含む。)で、心身に加えられた損害又は突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得するものその他の政令で定めるもの」

については非課税とすると定めている。そして、「政令で定めるもの」で流出の際の補償金に関連するものは、所得税法施行令30条2号後段の

 「不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害につき支払を受ける損害賠償金(これらのうち第94条(事業所得の収入金額とされる保険金等)の規定に該当するものを除く。)」

であると考えられる。このため、この括弧書きで引用されている所得税法施行令94条に規定されているものに該当すれば非課税とはされず、該当しなければ非課税となる、という関係となる。
 そこで、所得税法施行令94条を見ると、

 「不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務を行なう居住者が受ける次に掲げるもので、その業務の遂行により生ずべきこれらの所得に係る収入金額に代わる性質を有するもの

と定められており、同条1号で

 「当該業務に係るたな卸資産(第81条各号(譲渡所得の基因とされないたな卸資産に準ずる資産)に掲げる資産を含む。)・・・につき損失を受けたことにより取得する保険金、損害賠償金、見舞金その他これらに類するもの(略)」

と規定されている。
 ここでも、■1に引き続き、「たな卸資産」が出てくるが、■1で見たように、仮想通貨の売却は雑所得を生ずるのだ、という点を是とするのであれば(それ自体に若干の疑問があることは、■1で述べたとおり)、所得税法施行令81条1号が「不動産所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務に係る第3条各号(たな卸資産の範囲)に掲げる資産に準ずる資産」には該当すると考えられる。このため、補償金が所得税法施行令94条柱書の、

 「不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務を行なう居住者が受ける次に掲げるもの」

に該当することを否定することは難しそうである。その結果、非課税所得に該当するか否かは、補償金が「収入金額に代わる性質を有する」か否かという点が分水嶺となると考えられる。

 この、補償金が「収入金額に代わる性質を有する」か否かという点について、上記タックスアンサーは、

 「その補償金と同額で仮想通貨を売却したことにより金銭を得たのと同一の結果となることから、本来所得となるべきもの又は得られたであろう利益を喪失した部分が含まれているものと考えられます。」

と述べており、結果ないし効果の側面から、補償金が「収入金額に代わる性質を有する」との立場をとっていると考えられる。このような立場に対しては、理論的には、顧客が受領する補償金は、顧客が喪失した仮想通貨という資産を回復するためのものであり、必ずしもいずれかの時点で売却した場合と同額の金銭を受け取ることができるわけではないことを強調し、いわば収入金額獲得と直接の関係をもたない資産の減少それ自体を補填するためのものに過ぎない等と主張することも考えられる。しかし、非課税所得から「収入金額に代わる性質を有する」損害賠償金が除かれているのは、商品を手放して金銭を得ている点で、商品を販売して金銭を受領する場合と経済実態が同様であるためであるとの見解があることに鑑みると、実態(結果)を強調する国税庁の立場に比べて、説得力の点では難点があると言わざるを得ない。このため、国税庁の見解のように、非課税所得に該当しない、という結論も論理的には不合理ではないと考えられる。ただし、繰り返しになるが、これは、■1で見たように、仮想通貨の売却は雑所得を生ずるのだ、という点を是とすることを前提としており、それ自体について若干の疑問の余地がある(仮に譲渡所得であるとすると、所得税施行令95条の該当性が問題となるが、論点が拡散するため、ここではその指摘のみにとどめる)。

 もっとも、特に損害賠償金の非課税所得該当性については、必ずしも理論的な帰結のみが重視されるのではなく、事案の実態に着目した解釈及び実務取扱いがされているとの指摘もある。また、より一般的な観点からは、1株未満の株式の代金を株主に交付する場合であっても取得条項付株式の課税繰延べを認める法人税基本通達2-3-1や、新株予約権を利用したライツプランの導入及び発動によっても原則として一般株主に対する課税関係は生じないことを明らかにした「新株予約権を用いた敵対的買収防衛策に関する原則的な課税関係について」(平成17年4月28日 国税庁公表)のように、納税者(個人)の意思に拘らず生じる(実施される)イベントに関して、意図せず税負担が生じることを防ぐ解釈がなされている例が存在する。このため、確かに、日本円での補償を受けた場合には、売却した場合と比べて課税の機会が失われるという側面はあるものの、雑所得として取り扱われることによる損益通算の制限に鑑みても、被害者の救済の観点から、意図せず税負担が生じることを回避すべく、非課税所得の範囲を弾力的に解釈する余地も全くなかったわけではないものと考えられる。

 ■3 終わりに

 以上のとおり、国税庁は、仮想通貨の売却益は、雑所得として取り扱い、且つ、流出時の日本円での補償は非課税所得としては取り扱わない、という立場を公式に公表しており、個人の確定申告に当たってこれと異なる処理をし

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佐々木 秀(ささき・しげる)

 2002年、東京大学法学部卒。2003年に第一東京弁護士会に登録。2010年~2013年、みずほ証券株式会社法務部に出向。2014年にボストン大学ロースクールを卒業(LL.M. in American Law, Sebastian Horsten Prize)。2015年ニューヨーク州で弁護士登録。2014年~2015年には、ニューヨークのデービス・ポーク・アンド・ウォードウェル法律事務所、2015年に同外国法事務弁護士事務所で勤務。
 税務調査への対応への助言、審査請求の申立事案等の税務案件に関与しているほか、主な関与案件として2007年のブルドックソースによる敵対的 TOB への対抗策の導入と実施及び差止仮処分訴訟への対応や2010年の第一生命保険の株式会社化、2017年の仏ヴァレオによる市光工業の公開買付けを通じた子会社化、FWD グループによるAIG 富士生命保険の全株式取得、2018年のみずほフィナンシャルグループによる資産管理サービス信託銀行と日本トラスティ・ サービス信託銀行の統合などがある。

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