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西村あさひのリーガル・アウトルック

MSワラントを用いた資金調達、再び増加、その設計は?

杉本 健太郎(すぎもと・けんたろう)

MSワラントを用いた資金調達

 

西村あさひ法律事務所
杉本 健太郎

拡大杉本 健太郎(すぎもと・けんたろう)
 1996年に早稲田大学法学部卒業。2000年、第一東京弁護士会に登録。2006年にアメリカのジョージタウン大学ローセンター(LL.M.)を卒業し、ニューヨークのシンプソン・サッチャー・アンド・バートレット法律事務所に1年間勤務。2007年にニューヨーク州の弁護士登録。

 1 はじめに

 上場企業の資金調達手法としては、銀行借入、公募増資、株式の第三者割当て、社債の発行等様々なものが存在するが、以下では、新株予約権を用いた資金調達手法のうち、いわゆるMSワラントを用いた資金調達手法を解説する。近時、MSワラントの発行事例が増加しており、手元の資料によれば、2018年4月1日から本稿執筆日(2019年2月28日)までの期間にMSワラントの発行を決議した上場企業は82社、調達額の合計は約2,960億円となっている。

 2 MSワラントとは

 MSワラント(”Moving Strike Warrants”)は、会社法的には、新株予約権(会社法第2条第21号)であり、その行使に際して出資される財産の価額(会社法第236条第1項第2号。以下「行使価額」という。)が行使の都度又は高頻度で変動するよう設計されたものである。そして、一般的なMSワラントは、その行使価額が株価を基準として10%程度のディスカウントとなるように設計されることが多い。このような新株予約権が付された社債をMSCB(”Moving Strike Convertible Bonds”)というが、MSワラントとMSCBはかつて盛んに発行されていた。しかしながら、当時のMSワラントやMSCBは、株の空売りと併用することにより、新株予約権者が莫大な利益をあげることが可能であった一方で、大幅な希釈化が生ずることにより既存株主に犠牲を強いるものも多く、批判を浴びるものもあった。すなわち、新株予約権者は新株予約権の目的である株式を空売りすることにより、株価を意図的に下落させ、株価が十分に下落した段階、すなわち、新株予約権の行使価額が十分に下がった段階で新株予約権を行使し、これにより取得した株式をもって空売りのために借りた株式の返還に充てるという方法で容易に莫大な利益をあげることが可能であった。他方で、空売りにより新株予約権の行使価額が大幅に下がったことにより本来あるはずの株式の価値を大幅に下回る金額で新株が大量に発行されることになり、結果、多大な希釈化が生じ、既存株主の利益が害される場合もあったといわれている。また、この新株予約権者の空売りによる株価の下落が他の投資家による売りを誘い、新株予約権者の利益と既存株主の犠牲がますます増大するといういわゆる負のスパイラルに陥っているとの評価もあった。さらには、行使価額が株価に応じて下方にのみ修正される商品も存在し、批判が多かった。このようなMSワラントやMSCBについては有利発行には該当しないとして取締役会決議のみに基づき発行されるものが大多数であったが、その中には、有利発行に該当し、本来は株主総会の特別決議が必要なものも相当数あったのではないかと言われている。

 このような状況を受け、MSワラントやMSCBの発行について様々な規制が強化されてきた。すなわち、金融商品取引法に基づく法定開示では、MSワラントやMSCBが「行使価額修正条項付新株予約権付社債券等」(企業内容等の開示に関する内閣府令第19条第8項)に該当する場合に、これらの発行時に提出する有価証券届出書又は臨時報告書等の発行開示書類(これらの提出が必要となる場合に限る。)において、行使価額修正条項付新株予約権付社債券等により資金の調達をしようとする理由、行使価額の修正基準及びその修正頻度、行使価額等の下限、割当株式数の上限といった事項の開示が追加的に求められ、また、MSワラントやMSCBが東京証券取引所の規則上の「MSCB等」(有価証券上場規程第410条)に該当する場合には、同規則により、発行時のプレスリリースへの追加的な開示に加え、MSCB等の買取契約において、行使数量の制限等を定めることが要求されるようになった。さらに、MSワラントやMSCBの割当先が証券会社である場合には、日本証券業協会の自主規制規則により、割当先である証券会社の行為に一定の制限(一定の空売り制限を含む。)が加えられることになった。

 このように規制が強化されたことに加え、倒産寸前の会社が最後の手段としてMSワラントやMSCBによる資金調達をする事例が散見されたことから、これらの資金調達手法は健全な会社が行うものではないとのイメージが持たれたと言われており、一時MSワラントやMSCBによる資金調達は下火になっていた。

 3 新株予約権による資金調達のメリット

 しかしながら、MSワラントを含む新株予約権による資金調達には、他の資金調達手法との比較で以下のような利点があるとされる。すなわち、公募増資や株式の第三者割当てによる資金調達は、一時に大規模な希釈化を引き起こすことから一般的には株価の下落を招きやすいと言われているが、MSワラントを含む新株予約権による場合には、その設計次第で希釈化のタイミングや規模を一定程度コントロールすることが可能であり、公募増資や株式の第三者割当てに比して株価に対する影響を緩和することが可能である。また、公募増資による資金調達は、証券会社による引受審査を経るものであることから、準備に時間がかかると共にそのコストも多額となる場合がある一方で、MSワラントを含む新株予約権の発行を第三者割当ての方法で行う場合は、比較的短時間且つ低コストで発行することが可能である。銀行借入や社債等のデット性の資金調達は、財務の健全性の維持の観点から実行できない場合もあり得る一方で、エクイティ性の資金調達方法であるMSワラントを含む新株予約権による資金調達は、財務の健全性に資するものである。

 4 新株予約権による資金調達のデメリット

 一方で、MSワラントを含む新株予約権による資金調達には、以下のようなデメリットがあると言われている。すなわち、新株予約権の発行時点では新株予約権の払込金額(会社法第238条第1項第3号)しか調達できず(行使価額の払い込みは新株予約権の行使時になされる。)、通常、この払込金額は新株予約権の全量が行使された場合に調達できる金額に比してごくわずかであり、新株予約権の全量が行使されるまでには相応の時間が必要であることから、即時の資金調達には向いていない。また、新株予約権はあくまでも投資家側のオプションであり、本質的にその行使のタイミングは投資家がその裁量で決めるものであることから、発行体としては、資金が必要なタイミング及び当初想定していた金額で資金調達が可能であることは保証されないといった点である。

 5 MSワラントの有利発行性

 また、有利発行に該当していたのではないかというかつてあった批判を踏まえると、このような新株予約権を資金調達方法として利用することのメリット・デメリットの検討とは別に、有利発行性についての考え方が整理されることが、MSワラントの利用にとっては重要である。この点については、MSワラントの行使価額が行使の都度又は高頻度で修正されることについて、新株予約権者が必ず利益を得るものであり、そのことをもって有利発行に当然に該当するとする議論や、一方で、公募であれば10%程度のディスカウントが許されるのであり、MSワラントの場合はこのような公募が連続して発生するに過ぎないと見ることができることから有利発行に該当しないという議論がかつてあった。しかしながら、いずれも乱暴に過ぎる議論であり、今日では、そのような議論がされることは少ない。むしろ、MSワラントの行使価額が新株予約権の行使の都度修正されることを認める条項や、高頻度で修正されることを認める条項を、MSワラントのオプション価値算定の際に適切にその評価に織り込むことが重要であり、これら条項を含め適切に算出されたMSワラントのオプションとしての価値と新株予約権の払込金額として決定された金額を比較して、「特に有利な金額」(同条第3項第2号)となっていなければ、かかる条項が付されていたとしてもそれのみにより有利発行と評価されることはなく、その発行決議に株主総会の特別決議は不要とする考え方が定着している。

 6 具体的な設計・条項

 上記の通り、MSワラントは、株価が下落すればするほど新株予約権者の得る利益が増加する一方で、株主が希釈化による不利益を被る可能性があるものであることから、その設計においては、希釈化を抑制するための工夫が必要となる。また、資金調達の確実性を一定程度確保するため及び発行体にとって不都合な時期や行使価額で新株予約権が行使されることを可及的に防ぐため、新株予約権の行使時期、行使価額及び数量について発行体による一定程度のコントロールを確保する又はこれらについて一定の制限を設けるといった工夫もなされる。これらの他にも発行体ごと又は投資家ごとのニーズに応じて様々な条項が規定される。以下では、MSワラントの具体的な条項・取り決め・設計をいくつか解説する。

 (1) 行使価額修正条項

 新株予約権の発行後に行使価額の修正を認める条項である。行使価額修正条項を有する新株予約権のうち、行使価額が行使の都度又は営業日ごとといった高頻度で修正されるものがMSワラントと呼ばれ、行使価額が概ね行使時の株価の90%程度に修正されるものが一般的である。但し、希釈化への配慮から、下限行使価額を定めるのが通例であり、発行時の株価を一定程度ディスカウントした金額を下限行使価額とするのが一般的である。なお、MSワラントにおいては、その行使価額が行使の都度又は高頻度で修正されるにもかかわらず、当初行使価額としては確定額が定められることになるが、行使期間の初日から行使価額修正条項の適用があるのであれば、当初行使価額は名目的なものに過ぎないことになる。

 (2) 行使指示条項・行使停止条項・行使許可条項

 上記の通り、新株予約権は本来的には新株予約権者のオプションであり、特別な取り決めをしない限り、新株予約権の行使(すなわち、発行体にとっては資金調達)のタイミング及び数量は新株予約権者の自由な判断によることになる。しかしながら、発行体による資金調達のタイミングを可及的にコントロールすべく、①発行体が新株予約権者に対して新株予約権の行使を指示したときは、新株予約権者は新株予約権を行使しなくてはならないとする行使指示条項、②原則として新株予約権者はいつでも新株予約権を行使できるとしつつ、一定の事由が生じた場合や発行体の指示があった場合には、新株予約権の行使ができないとする行使停止条項、③原則として新株予約権者は新株予約権を行使することはできないが、発行体の許可があった場合にはこれを行使することができるとする行使許可条項、といった条項やこれらの条項を組み合わせたものが規定されることがある。①の行使指示条項において、新株予約権者は新株予約権の行使により交付を受けた株式を売却して利益を得ることが想定されていることから、未公表のインサイダー情報がある場合には、行使指示ができないといった制限を付す場合がある。なお、これらの条項については、いわゆる新株予約権の「内容」(会社法236条1項)として定められるのではなく、新株予約権の発行の際に発行体と新株予約権者との間で締結される買取契約(名称は様々である。)において定めるのが通例である。また、これらの定めとは別に、上記の通り、東京証券取引所の規則に従い、1ヶ月間の合計行使数量の上限等を定める必要がある。

 (3) 譲渡制限条項等

 MSワラントとして発行される新株予約権は、発行時に締結する買取契約上の様々な制限と権利のもと当初新株予約権者がその行使をすることが想定され、譲渡を予定しないものとして設計するのが通例であることから、新株予約権の譲渡には発行体の取締役会の承認を要するものとするのが一般的である。他方で、発行時の想定と異なり新株予約権を第三者に譲渡せざるを得ない場合も想定され、このような場合に第三者への譲渡を承認するとしても、当該第三者(すなわち新たな新株予約権者)との関係でも発行当初の建て付けを維持すべく、当初の買取契約と同内容の契約を新たな新株予約権者に締結させることを当初の新株予約権者に義務付けるのが通例である(なお、行使数量の上限等の東京証券取引所の規則に基づき買取契約に規定することが義務付けられる一定の制限については、同規則により、新たな新株予約権者との間の契約においても規定することが義務付けられている。)。

 (4) ターゲット・イシュー・プログラム(TIP)

 TIPとは、例えば、行使価額(TIPの文脈では「ターゲット価額」と言われることもある。)を100円、200円、300円でそれぞれ固定した新株予約権を3種類発行し、発行体の成長とともに株価が上昇するのに応じて、新株予約権が段階的に行使されることを意図するものである。通常、ターゲット価額が固定額であることから、TIPはMSワラントそのものには分類されない。しかしながら、株価がターゲット価額を超えることが事実上困難になったと判断されるような場合にも資金調達が可能となるように、発行体の選択により行使価額修正条項が適用される(すなわち、MSワラントになる)よう設計されることがある。

 7 最後に

 これまで解説したとおり、様々な工夫によりMSワラントのデメリットは克

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杉本 健太郎(すぎもと・けんたろう)

 1996年に早稲田大学法学部卒業。2000年、第一東京弁護士会に登録。2006年にアメリカのジョージタウン大学ローセンター(LL.M.)を卒業し、ニューヨークのシンプソン・サッチャー・アンド・バートレット法律事務所に1年間勤務。2007年にニューヨーク州の弁護士登録。
 主に、国内発行体の株式公募・第三者割当、株式売出し、新株予約権付社債の公募・第三者割当、MTNプログラムの設定、債券発行、国内発行体の香港上場等のキャピタルマーケッツ分野に従事。その他、証券業務、ファイナンス取引等も手がける。

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