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西村あさひのリーガル・アウトルック

有価証券報告書の復権 記載事項改正 監査状況の開示拡充

野澤 大和(のざわ・やまと)

有価証券報告書の記載事項の改正〔下〕
  -「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正及び「記述情報の開示に関する原則」の制定を踏まえて-

 

西村あさひ法律事務所
 パートナー弁護士 野澤 大和

拡大野澤 大和(のざわ・やまと)
 2004年、東京大学法学部卒業。2006年、東京大学法科大学院修了。2014年、ノースウェスタン大学ロースクール卒業(LL.M.)。2012年~2013年、東京大学法科大学院 非常勤講師。2014年~2015年、シカゴのシドリーオースティン法律事務所。2015年~2017年、法務省民事局出向(会社法担当、商事課併任(~2016年))。

 (承前

 3  情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組み

 情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組みに係る有価証券報告書の記載事項の改正内容の概要は、以下のとおりである。

  1.  「監査役監査の状況」について、監査役会等の活動状況(開催頻度、主要な検討事項、個々の監査役の出席状況及び常勤の監査役の活動等)を記載すること
  2.  「会計監査の状況」について、監査法人による継続監査期間、ネットワーク・ファームに対する監査報酬と非監査報酬の区分の開示、事業報告の会計監査人に関する開示内容(監査公認会計士等を選定するに当たって考慮するものとしている方針、業務停止に関する事項、会計監査人の報酬に監査役会等が同意した理由)との平仄の確保、監査役会等による監査公認会計士等又は会計監査人の評価の開示

 (1) 監査の状況

 (ア) 改正理由

 2016年3月8日、金融庁が設置していた「会計監査の在り方に関する懇談会」により、(i)企業が適正な監査の確保に向けて監査人とどのような取組みを行っているか、(ii)監査役会等が監査人をどのように評価しているか、(iii)監査人の継続監査期間等の開示の充実が提言されていた。また、有価証券報告書における会計監査に関する開示については、米英において開示が求められている、監査役会等による監査人の選任・再任の方針及び理由並びに監査人監査の評価、監査人の継続監査期間、監査業務と非監査業務に区分した監査人が所属するネットワークベースの報酬額・業務内容の開示が求められていないことや、監査人を監査する監査役会等の具体的な活動状況の開示が不十分であること等の問題点がかねて指摘されていた。
 そこで、WG報告書では、以下の見直しの方向性が提言されていた。

  1.  企業が適正な監査の確保に向けて監査人とどのような取組みを行っているかを開示すること

  2.  英米において開示が求められている以下の事項を開示すること 
    • 監査役会等による監査人の選任・再任の方針及び理由並びに監査人監査の評価
    • 監査人の継続監査期間
    • 監査業務と非監査業務に区分したネットワークベースの報酬額・業務内容(但し、企業側の負担を考慮し、重要性のあるものを記載)
  3.  有価証券報告書の総覧性の向上の観点から、会社法上開示が求められている以下の事項を開示すること
    • 監査人の解任・不再任の方針 
    • 監査役会等が監査報酬額に同意した理由 
    • 監査人の業務停止処分に係る事項
  4.  活動の実効性を判断するために必要とされる監査役会等の活動状況として以下の事項を開示すること
    • 監査役会等の開催頻度 
    • 主な検討事項(但し、守秘義務に反しない範囲) 
    • 個々の監査役等の出席状況
    • 常勤監査役の活動等

 (イ) 改正内容

 ① 監査役監査(注1)の状況(改正開示府令第二号様式記載上の注意(56)a(b)、第三号様式記載上の注意(37)))

 監査役監査の状況として、監査役及び監査役会の活動状況(開催頻度、主な検討事項、個々の監査役の出席状況及び常勤の監査役の活動等)を記載することとされた。

 ② 会計監査の状況

 (a) 継続監査期間

 監査公認会計士等(改正開示府令19条2項9号の4)が監査法人である場合における監査法人に関する事項として、新たに、監査法人の継続監査期間(財務書類について連続して監査関連業務を行っている期間)の開示が求められることとなった(改正開示府令第二号様式記載上の注意(56)d(a)ⅱ、第三号様式記載上の注意(37)))。
 また、監査公認会計士等が公認会計士である場合において、継続監査期間が7会計期間を超えるときは、継続監査期間の開示が求められることとなった(改正開示府令第二号様式記載上の注意(56)d(b)、第三号様式記載上の注意(37)))。

 (b) 会社法上求められる事項の開示

 監査公認会計士等を選定した理由について、その選定に当たって考慮するものとしている方針(会計監査人の解任又不再任の決定の方針(注2)を含む)を含めた具体的な記載が求められることとなった(改正開示府令第二号様式記載上の注意(56)d(c)、第三号様式記載上の注意(37)))。
 また、事業報告に会計監査人の業務停止等の処分に係る事項(会社法施行規則126条5号)及び過去2年間の業務停止に係る事項のうち、事業報告の内容とすることが適切であるものと判断した事項(同条6号)を含めた、又は含めるべきときは、その内容と当該監査公認会計士等を選定した理由を開示することとされた(改正開示府令第二号様式記載上の注意(56)d(c)、第三号様式記載上の注意(37)))。
 さらに、監査役会が会計監査人の報酬等についての同意(会社法399条1項)をした理由を開示することとされた(改正開示府令第二号様式記載上の注意(56)d(f)ⅴ、第三号様式記載上の注意(37)))。

 (c) 監査役及び監査役会の評価

 監査役及び監査役会が監査公認会計士等又は会計監査人の評価を行った場合には、その旨及びその内容を記載することとされた(改正開示府令第二号様式記載上の注意(56)d(e)、第三号様式記載上の注意(37)))。

 (d) 同一のネットワークに属する者への報酬等

 改正前は、提出会社及び連結子会社がそれぞれ監査公認会計士等と同一のネットワークに属する者に対して支払った、又は支払うべき報酬は、その他重要な報酬の例示に過ぎなかったが、改正後は、提出会社及び連結子会社がそれぞれ監査公認会計士等と同一のネットワークに属する者に対して支払った、又は支払うべき報酬(重要性の乏しい報酬の内容を除く)について、監査証明業務と非監査業務に区分して記載することとされた(改正開示府令第二号様式記載上の注意(56)d(f)ⅱ、第三号様式記載上の注意(37)))。
 また、「ネットワーク」の定義が、改正前の「共通の名称を用いるなどして2以上の国においてその業務を行う公認会計士又は監査法人及び外国監査事務所等によって構成される組織」(下線は筆者による)から、改正後は「共通の名称を用いるなどして2以上の国においてその業務を行う公認会計士又は監査法人及び外国監査事務所等を含めて構成される組織」(下線は筆者による)とされた(改正開示府令第二号様式記載上の注意(56)d(f)ⅱ)。そのため、改正開示府令の下では、開示の対象となる監査報酬の支払い範囲は、同一ネットワークに属する法律事務所や税理士事務所等の公認会計士や監査法人以外の法人にも拡大されている(注3)

 (ウ) 実務上の留意点

 ① 監査役監査の状況

 監査役等の活動状況として、「常勤の監査役の活動等」を記載することとされているが、常勤者のみの活動の記載だけでなく、非常勤の者を含めて記載される必要がある(注4)
 また、「主な検討事項」については、守秘義務に反しない範囲で開示すればよい(注5)。監査証明府令の改正(2018年11月30日公布・施行)により、監査法人が監査役等と協議した「監査上の主要な検討事項」が監査報告書に記載されることとなるが(監査証明府令4条1項1号二、5項)、その改正が監査役等の活動状況としての「主な検討事項」の内容に影響を与える可能性に留意する必要がある。さらに、監査証明府令の改正により、監査役等の責任として「財務報告に係る過程を監視する責任があること」を新たに監査報告書に記載することとされていることから(監査証明府令4条1項1号ヘ、7項2号)、かかる責任を踏まえ、有価証券報告書においては、会計監査人への監査の実効性確保という趣旨に沿った監査役等の活動状況を開示することが必要であると考えられる。

 ② 会計監査の状況

 (a) 会計監査人と行っている取組み

 WG報告書では、企業が適正な監査の確保に向けて監査人とどのような取組みを行っているかを開示すべきという提言がされたが、改正開示府令の下では、当該取組みに関する開示は求められていない。もっとも、WG報告書の提言を受けて、有価証券報告書における「監査の状況」に関する開示の中で、企業が会計監査人と行っている取組みについても充実した記載とすることが望ましい(注6)

 (b) 継続監査期間

 継続監査期間の算定に当たっては、以下の整理を踏まえて、基本的には、可能な範囲で遡って調査すれば足り、その調査が著しく困難な場合には、調査が可能であった期間を記載した上で、調査が著しく困難であったため継続監査期間がその期間を超える可能性がある旨を注記する必要がある(注7)。なお、継続監査期間の記載方法については、「●年間」と記載する方法のほか、「●年以降」と記載する方法も考えられる(注8)

継続監査期間の算定が問題になり得る場合 継続監査期間の算定方法
提出会社が有価証券報告書提出前から継続して同一の監査法人による監査を受けている場合 提出前の監査期間も含めて算定
過去に合併等があった場合であって、会計上の取得企業の監査公認会計士等が提出会社の監査を継続して行っているとき

 合併等の前の監査期間も含めて算定

過去に合併等があった場合であって、会計上の被取得企業の監査公認会計士等が提出会社の監査を行っているとき 合併等の前の監査期間は含めないものとして算定
過去に監査法人の合併があった場合 合併前の監査法人による監査期間も含めて算定
提出会社の監査業務を執行していた公認会計士が異なる監査法人に異動した場合において、当該公認会計士が異動後の監査法人においても継続して提出会社の監査業務を執行するとき、又は、当該公認会計士の異動前の監査法人と異動後の監査法人が同一のネットワークに属するとき等、同一の監査法人が提出会社の監査業務を継続して執行していると考えられる場合 異動前の監査法人の監査期間も含めて算定


 (c) 監査役及び監査役会の評価

 監査役及び監査役会の監査公認会計士等又は会計監査人の評価に当たっては、外部会計監査人候補を適切に選定し会計監査人を適切に評価するための基準(CGコード補充原則3-1①(i))に則して行うことが考えられる(注9)

 (d) 同一のネットワークに属する者に対する報酬等

 「ネットワーク」とは、品質管理基準委員会報告書第1号「監査事務所における品質管理」11項(16)を参考に、「監査事務所よりも大きな組織体であって、所属する事業体の相互の協力を目的としており、かつ以下のいずれかを備えている組織体」であるか否かで判断される(注10)

  • 利益の配分又は費用の分担を目的にしていること
  • 共通の組織により、所有、支配及び経営されていること
  • 品質管理の方針及び手続を共有していること
  • 事業戦略を共有していること
  • ブランド名を共有していること
  • 事業上のリソースの重要な部分を共有していること

 「ネットワーク」の記載時点は、事業年度末時点である必要はなく、各企業の実情に応じ、把握できる時点での開示が考えられるが、把握した時点を記載する必要がある(注11)。もっとも、同一のネットワークに属する者への監査報酬及び非監査報酬の範囲は、監査基準委員会報告260「監査役等とのコミュニケーション」15項(2)①に基づき、監査人から上場企業の監査役等に対し伝達される「監査事務所とネットワーク・ファームが企業及び企業が支配する構成単位に対して提供した監査及び監査以外の業務について、監査対象期間に関連した報酬金額」と同等であり(注12)、現状の実務を前提にすることができる。
 なお、複数の連結子会社が、監査公認会計士等とは別のネットワークに属している監査法人に監査業務に基づく重要な報酬を支払っている場合には、その他「監査証明業務に基づく報酬等として重要な報酬がある場合」(改正開示府令第二号様式記載上の注意(56)d(e)ⅲ、第三号様式記載上の注意(37)))に該当するため、その内容についても開示が求められる点(注13)に留意が必要である。

 (2) 適用開始時期

 改正開示府令における監査役会等の活動状況の開示(前記(1)(イ)①)及び継続監査期間の開示(前記(1)(イ)②(a))に関する改正は、2020年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書から適用される(改正府令附則8項本文)。但し、2019年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書から任意に適用することができる(同項但書)。なお、その場合には、投資者に誤解を与えないよう、その旨を記載することが考えられる。
 ネットワーク・ファームに対する監査報酬等の開示(前記(1)(イ)②(d))に関する改正は、2019年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書から適用される(改正府令附則6項)。但し、2019年3月31日から2020年3月30日までに終了する事業年度に係る有価証券報告書については、読替により従前のとおり適用することができる(改正府令附則9項、別表)。
 それ以外の改正(前記(1)(イ)②(b)、(c))は、2019年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書から適用される(改正府令附則6項)。

 第4  まとめ

 安倍政権の成長戦略である「未来投資戦略2018」(2018年6月15日閣議決定)においては、2019年前半を目途として、「国際的に見て最も効果的かつ効率的な開示の実現及び株主総会日程・基準日の合理的な設定のための環境整備を目指す」とされており、WG報告書並びにその提言を受けた今般の開示府令の改正及びガイドラインの制定もその取組みの一環として位置づけられる。
 それら以外の近時の有価証券報告書の開示に関連する政府の取組みとしては、2018年12月28日、内閣官房、金融庁、法務省及び経済産業省から、事業報告等と有価証券報告書の一体的開示を行おうとする企業の試行的取組を支援するための方策の検討内容が公表され、さらに、2019年2月14日、法制審議会総会において、「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱」が採択されたが、それに基づいて会社法が改正された場合に整備される新たな株主総会の電子提供制度の下では、EDINETを通じて、事業報告等の内容を含む有価証券報告書を総会前に提出することを可能とするための措置が講じられる見込みである。このように、有価証券報告書の開示のあり方については、改正開示府令及びガイドライン以外の動向にも注意を払う必要がある。この上場会社等の情報開示制度の近年の流れは、情報開示の基本書類である有価証券報告書の内容を一層充実させるとともに、定時株主総会前の提出を奨励するものであり、「有価証券報告書の復権」と位置付けることができる(注14)
 有価証券報告書の開示については、投資家への情報の効果的かつ効率的な開示の実現のための取組みが進められているが、本稿が、当該取組みの下で、有価証券報告の記載事項の改正への対応が求められる企業にとって「効果的かつ効率的な開示」を実現するための一助になれば幸いである。

 ▽注1:「監査役監査」は

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野澤 大和(のざわ・やまと)

 2004年、東京大学法学部卒業。2006年、東京大学法科大学院修了。2014年、ノースウェスタン大学ロースクール卒業(LL.M.)。2012年~2013年、東京大学法科大学院 非常勤講師。2014年~2015年、シカゴのシドリーオースティン法律事務所。2015年~2017年、法務省民事局出向(会社法担当、商事課併任(~2016年))。
 主な業務分野は、国内外のM&A、コーポレートガバナンス、その他一般企業法務、商事紛争一般。会社法および金商法をはじめとする企業関連法制に関する近時の改正動向にも精通。

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