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西村あさひのリーガル・アウトルック

独禁法・課徴金制度改正で弁護士・依頼者間「秘匿特権」限定導入

小林 和真呂(こばやし・かずまろ)

独占禁止法改正
 課徴金制度の改正及び弁護士・依頼者間秘匿特権の限定的導入を中心に

西村あさひ法律事務所
小林 和真呂

拡大小林 和真呂(こばやし・かずまろ)
 2004年東京大学法学部卒業。2007年弁護士登録。2014年、コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)。2014~2015年、米ワシントンD.C.のクリアリー・ゴットリーブ・スティーン アンド ハミルトン法律事務所で勤務。2015年ニューヨーク州弁護士登録。2019年1月、西村あさひ法律事務所パートナー就任。

 1. はじめに

 我が国の独占禁止法においては、課徴金減免申請の行われた順位に従って法定の減免率が自動的に適用されることとされている。かかる課徴金制度の下では、事業者としては、減免申請を行った上で、要求される報告と資料の提出を行えば、公正取引委員会からのその後の追加報告要請に回答しなかった、又は虚偽の事実の報告を行ったと認定されるような例外的な場合を除き、事実上、報告内容が実態の解明にどの程度寄与したかを厳格に問われることなく、法定の減免率の適用を自動的に受けることができる。

 かかる課徴金制度については、事業者が申請後に公正取引委員会による調査に引き続き協力を継続するインセンティブが限定的であり、効果的な事案解明及び事件処理を行うためには、公正取引委員会に、協力状況に応じて課徴金の減免率を増減させる裁量権を与えるべきではないか、という意見が従来からあった。例えば、2017年4月25日の「独占禁止法研究会報告書」においては、従来の硬直的な課徴金制度を見直し、一定の柔軟性を認めるべきと提言されていた。また、2018年2月6日に閣議決定された「産業競争力の強化に関する実行計画(2018年版)」においても、法執行の実効性をより高め、違反行為を抑止するため、課徴金制度の見直しについて検討を進め、独占禁止法改正法案の提出を視野に、必要な措置を講ずるとされていた。実際、米国等の諸外国においては、課徴金、制裁金、罰金等の額について、当局に裁量を認める制度を採用している。

 もっとも、公正取引委員会に課徴金の減免率についての裁量を与える場合、事業者と公正取引委員会との間で、事業者の行う調査への協力内容をいかに評価すべきかの協議、交渉等が必要となる。また、事業者として、より大きな減免率を獲得するために公正取引委員会に対して積極的に事実を報告することと、不当な取引制限に該当するか否か微妙な行為を報告することのリスクとを慎重に検討した上で、戦略的な対応を採ることが必要となる。事業者においてかかる協議、交渉等及び戦略的な対応を行うに際しては、弁護士との間で綿密な協議を行うことが従来にも増して重要になる。ところが、我が国においては、米国等と異なり、事業者と弁護士との間で弁護士による法的意見を求めて行うコミュニケーションが秘密として扱われて捜査当局や司法機関による事実認定の基礎とされないという、いわゆる弁護士・依頼者間秘匿特権が制度上保障されていない。そこで、経済界を中心に、いわゆる裁量型課徴金制度の導入に当たっては弁護士・依頼者間秘匿特権の保障が必要であるとの意見が出されていた。しかし、弁護士・依頼者間秘匿特権はこれまで我が国において認められていた制度ではないことから、刑事事件や他の行政調査への波及への対応も踏まえた慎重な検討が必要であったこともあって、政府、公正取引委員会、経済界等の関係者の意見調整に時間を要していた。そのため、いわゆる裁量型課徴金制度の導入等を内容とした独占禁止法改正については、2018年1月招集の通常国会に法案提出が一旦計画されながら、断念されたという経緯がある。

 今般、弁護士・依頼者間秘匿特権について、不当な取引制限に係る行政調査手続のみを対象とするなど限定的ではあるものの、実質的に一定の保障をすべく制度が整備されることを前提に、いわゆる裁量型課徴金制度の導入(ただし、後述のとおり公正取引委員会に対して課徴金額の決定に自由裁量権を与えるものではない。)等を内容とする独占禁止法改正案が内閣から国会に提出された。以下、独占禁止法改正案にて導入が予定されているいわゆる裁量型課徴金制度と、それに付随する弁護士・依頼者間秘匿特権の限定的導入について解説する。

 なお、本稿においては取り上げないが、独占禁止法改正案においては、いわゆる裁量型課徴金制度及び弁護士秘匿特権の導入のほかに、①課徴金納付命令の除斥期間(課徴金納付命令を発することのできる期間)を(違反行為実行期間が終了した日から)5年から7年へと延長する、②課徴金算定の基礎となる売上額等の範囲を広げる、③調査開始前に違反事業を継承した子会社等への課徴金の賦課を可能とする、④製造業、卸売業、小売業といった業種別の算定率を廃止して(対象商品役務の売上額の)10%を基本算定率とする、⑤軽減算定率、割増算定率、中小企業算定率についてそれぞれ改正する、⑥課徴金の延滞金利率を引き下げる、⑦検査妨害罪の法人等に対する罰金額上限を引き上げる、⑧犯則調査手続における電磁的記録の証拠収集手続を整備する等の見直しも行われている。また、公正取引委員会による供述聴取において事業者、従業員等の権利保護が十分ではないとの意見が従来よりあったところ、独占禁止法改正に合わせて、課徴金減免申請者の従業員等が供述聴取終了後その場でメモを作成できることが「独占禁止法審査手続に関する指針」に追記される予定である。

 2. いわゆる裁量型課徴金制度

 (1) 減免率

 現行の独占禁止法においては、課徴金減免申請の行われた順位に従って、各申請者に法定の減免率が自動的に適用されることとなっており、公正取引委員会には、調査への協力状況に応じて更に減免率を増減する裁量権はない。独占禁止法改正案においては、申請順位に応じた減免率に、事業者の実態解明への協力度合いに応じた一定の減算率を付加することとされている。具体的には、次のとおりである。

 調査開始(典型的には公正取引委員会による立入検査)前に最初に申請した事業者について課徴金が全額免除されることに変更はない。一方、調査開始前の申請者のうち2位以下の事業者については、現行法では2位が50%、3位から5位が30%の減額であったものが、改正後は2位が20%、3位から5位は10%、6位以下が5%となる一方で、2位以下の申請者は、協力度合いに応じて、最大40%の減算率が加えられる。調査開始後の申請者については、現行法では一律30%の減額とされているものが、改正後は、調査開始前の申請者と合わせて5位以内、かつ調査開始後の申請者のみで3位以内の場合には10%、調査開始前の申請者と合わせて6位以下、又は調査開始後の申告者のみで4位以下の場合には5%となる一方、いずれの申請者も、協力度合いに応じて、最大20%の減算率が加えられる。

 また、現行法では、減免対象となるのは申請の先着順で5社まで(調査開始前の申請の場合は5社まで、調査開始後の申請の場合には、調査開始前の申請者と合わせて5社まで、かつ調査開始後の申請者のみで3社まで)であった。独占禁止法改正案においては、減免対象となる事業者の上限が撤廃されている。具体的には、調査開始前の申請者は6位以下も一定の減算を受けることができる。また、現行法では減免対象とならない調査開始後の申請者(調査開始後の申請者のうち、調査開始前の申請者と合わせて6位以下又は調査開始後の申請者のみで4位以下)についても、改正後は、減算を受けることができる。

 こうした、申請者の申請後の実態解明への協力度に応じて一定の減算率を付加する制度は、公正取引委員会に課徴金額決定に係る自由裁量権を与えるものではない。裁判所の決定する罰金等の刑罰と異なり、行政庁が賦課する行政制裁金は、その金額を自由な裁量で決定することはできないというのが、伝統的な日本の行政法の原則である。このため、公正取引委員会は、こうした伝統的な立場をとる内閣法制局との間で様々な検討を行った模様であり、最終的には、欧州委員会が制裁金額の決定に関して有しているような幅広い裁量権は認められなかった。むしろ、公正取引委員会との協議の中で、事業者が提示した実態解明のための協力行為を実施した場合、公正取引委員会は協議中に提示した一定の幅の減算率を適用するという、昨年導入された司法取引と類似の制度が導入されたという整理の方が正しいかもしれない。例えば、課徴金額の計算の出発点になる「対象商品・役務の売上額」については厳密な認定が必要になるし、今後とも取消訴訟の焦点になり続けることになる。

 (2) 事業者による協力内容及び公正取引委員会による減算率付加についての協議

 独占禁止法改正案においては、事業者による協力の内容と当該協力内容を踏まえた公正取引委員会による減算率の付加について、事業者との間で協議をし、これを事前に合意する制度が設けられている。

 事業者が公正取引委員会に対して課徴金減免申請を行った後、事業者は別途、協議開始の申出を行う。協議においては、事業者は協力内容を提示し、公正取引委員会は当該協力内容を踏まえて減算率を提示する。事業者と公正取引委員会との間で協力内容及び減算率について合意がなされれば、協議は終了する。協議が不調に終わった場合でも、協議中に事業者からなされた説明内容については、仮に公正取引委員会が記録していた場合でも、公正取引委員会による事実認定の基礎とはされない。協議終了後、事業者は、協力内容に沿って公正取引委員会に対して証拠を提出する。証拠提出を含め、事業者が協議において提示した協力行為を実施した場合には、公正取引委員会は、当該事業者に対して、提示した減算率を適用する。

 公正取引委員会が提示する減算率の基礎となる事業者の協力内容(事業者が自主的に提出する証拠等)の評価方法については、公正取引委員会がガイドラインを整備することとされている。

 ガイドラインの内容としては、公正取引委員会の報道発表資料においては「協力内容(事業者が自主的に提出する証拠等)について、証拠の内容等が実態解明にどの程度資するかを評価することを示す。」、「証拠の内容について、評価対象となる情報(カルテル・入札談合の対象商品・役務、受注調整の方法、参加事業者、実施時期、実施状況等)を示し、その内容に応じた評価をすることを示す。」とされているものの、具体的な内容は現段階では明らかにされていない。

 この点、欧州連合においては、制裁金の減免に関する基準に関して、2006年12月8日付け「Commission Notice on Immunity from fines and reduction of fines in cartel cases」(以下「2006年告示」という。)が公表されている。制裁金の免除は受けられないものの、減額を受けられるようにするためには、事業者は、欧州委員会に対して、欧州委員会が既に保有している違反行為に係る証拠との関係で、重要な付加価値(added value)のある証拠を提出しなければならないとされている。「付加価値」を有するか否かについて、2006年告示の25項において、次のとおり説明しており、参考になる。

  • 「付加価値」とは、その内容及び詳細度に応じて、欧州委員会が問題となるカルテルを証明できる能力をどれだけ強化することができるかという程度のことを指す。
  • かかる程度を評価するに際しては、欧州委員会は、一般的に、違反行為の当時に作成された書面による証拠を、その後に作成された証拠より価値があるものとして考慮する。
  • 欧州委員会は、一般的に、問題となる事実と直接に関係する自己にとって不利な証拠を、間接的な証拠より価値があるものとして考慮する。
  • 欧州委員会は、一般的に、受け入れざるを得ない説得的な証拠は、事後に争われた場合に違反行為に関与した他の事業者の協力が必要となるような証拠と比べて、より価値があるものとして評価する。

 米国においては、司法省がいわゆる量刑ガイドラインを設け、罰金額の決定に際して一定の基準を設けており、参考になる。量刑ガイドラインにおいては、取引額の20%という基礎罰金額に、責任スコア(罰金額に影響するのは0ポイントから10ポイント)に応じた最小倍数と最大倍数が乗じられた上で、具体的な罰金額の下限と上限が決定される。責任スコアを上限させる要素の一つとして、報告、協力、責任の引受けが規定されている。違法行為の発覚後、捜査開始前に違法行為を報告して捜査に全面的に協力し、違反行為に対する責任を引き受けた場合には5ポイント軽減される。捜査開始後に違法行為を報告して捜査に全面的に協力し、違反行為に対する責任を引き受けた場合には2ポイント軽減される。

 ただし、上記のとおり、日本の制度は事前協議と合意に基づく司法取引類似の制度として設計されており、実際に欧州委員会による制裁金の計算の手続きや、米国司法省での司法取引に際しての罰金額の合意のように、協力内容を事後的に評価し、減額幅を、制約はあるものの相当程度の裁量をもって決定できる制度とはなっていないことに注意を要する。

 いずれにしても、事業者が自主的に提出する証拠等の具体的な評価方法については、諸外国の例も参考にしつつ、透明性、公平性、予測可能性の確保の観点から、公正取引委員会の定めるガイドラインの内容及び運用を注視する必要がある。

 3. 弁護士・依頼者間秘匿特権

 いわゆる裁量型課徴金制度の下で事業者による公正取引委員会の調査への協力を引き出す趣旨で、弁護士・依頼者間秘匿特権を実質的に保障するための制度が設けられることとされた。かかる趣旨に鑑み、事業者において弁護士・依頼者間秘匿特権に関わる制度を利用するか否かは、減算率付加に係る調査協力の評価事項とはしないとされている。なお、関連する規定は、独占禁止法47条に基づく公正取引委員会又は審査官の特定の物件に対する権限行使の在り方について規定するものとの整理の下で、独占禁止法本体ではなく、(独占禁止法76条1項の規定に基づいて定めることができるとされている)公正取引委員会の規則において、設けられる。

 制度の対象となるのは、不当な取引制限に係る違反事件であり、かつ行政調査手続に限定される。違反行為の限定がなく、かつ刑事事件を含む政府機関による調査に対して弁護士・依頼者間秘匿特権の保障がなされている米国等とは大きく異なる。

 基本的な考え方としては、不当な取引制限に関する法的意見について事業者と弁護士との間で秘密に行われた通信の内容を記載した文書で、公正取引委員会の判別官において一定の要件を満たすことが確認されたものは、公正取引委員会の審査官がアクセスすることなく、速やかに事業者に還付することとされている。

 対象となる物件として、事業者から弁護士への相談文書、弁護士から事業者への回答文書、弁護士が行った社内調査に基づく法的意見が記載された報告書、弁護士が出席する社内会議で当該弁護士との間で行われた法的意見についてのやり取りが記載された社内会議メモ等が例示されている。一方で、弁護士への相談前から存在する一次資料、相談の基礎となる事実を収集して取りまとめた事実調査資料、独占禁止法の不当な取引制限以外の規定又は他法令に関する法的意見等の内容を記載した資料は制度の対象外とされている。事実と法的意見との区別は実際には困難な場合があるところ、弁護士・依頼者間秘匿特権が適用されるか否かについて長年に亘る裁判例等の蓄積がある米国等の取扱いも参照しつつ、我が国においても議論を積み重ねていく必要があると思われる。また、独占禁止法の不当な取引制限に係る違反行為には、官製談合防止法違反や補助金適正化法違反など他の法律違反が不可避的に伴う場合もあり、その際の具体的な取扱いも問題となり得よう。

 対象となる弁護士は、基本的には外部弁護士とされている。ただし、社内弁護士であっても、違反事実の発覚等を契機として、雇用主である事業者からの指示により指揮命令監督下になく、独立して法律事務を行うことが明らかな場合には、範囲に含めるとされている。もっとも、かかる要件を満たす事例は限られるように思われる。なお、違反被疑事件と関連する国際カルテルに関して、外国競争法の対応に係る事業者と外国弁護士との相談内容を記載した物件については、一次資料・事実調査資料を除き、提出命令の対象としないとされている。我が国は、米国、欧州委員会及びカナダとの間で独占禁止協力協定を締結しているほか(反競争的行為に係る協力に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定(1999年10月7日)、反競争的行為に係る協力に関する日本国政府と欧州共同体との間の協定(2003年7月10日)及び反競争的行為に係る協力に関する日本国政府とカナダ政府との間の協定(2005年9月6日))、経済連携協定(EPA)に基づき、各国競争当局と情報交換を行っている。先に述べたとおり、米国等の一部諸外国においては弁護士・依頼者秘匿特権が保障されているところ、弁護士・依頼者秘匿特権が保障されていない我が国の行政調査において得られた情報、資料等の取扱いについては、従前より議論があった。今回の方針については、かかる議論に一部対応したものである。さらに、公正取引委員会においては、他の国における競争法の違反被疑事件と関連する国際的独占禁止法違反被疑事件など、本制度の対象範囲の拡大について早急に検討すると表明している。

 制度適用の要件として、①公正取引委員会による提出命令時に事業者が本制度の取扱いを求めること、②公正取引委員会の審査官において事業者による適切な保管がなされていることの確認がなされたこと、③提出命令後、一定期間内に、文書ごとに、作成日時、作成者・共有者の氏名、物件の属性、概要等を記載した文書(いわゆるログ)を公正取引委員会に提出すること、④本制度の対象外の資料が含まれている場合には、その内容を報告すること、及び⑤違法な行為を目的としたものではないことが必要とされている。その上で、濫用防止措置として、判別官による判別手続が設けられる。判別官は、公正取引委員会の官房の下に置くことで、事件審査を行う部局とは分離されることとされている。事業者から本制度の取扱いの求

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小林 和真呂(こばやし・かずまろ)

 2004年東京大学法学部卒業。2007年弁護士登録。2014年、コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)。2014~2015年、米ワシントンD.C.のクリアリー・ゴットリーブ・スティーン アンド ハミルトン法律事務所で勤務。2015年ニューヨーク州弁護士登録。2019年1月、西村あさひ法律事務所パートナー就任。カルテル対応をはじめ、国内外の企業結合規制への対応、個別取引への助言を含む競争法業務を幅広く手掛けるほか、農林水産業関係を中心に国際経済法(WTO、EPA)業務に携わる。

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