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西村あさひのリーガル・アウトルック

人工衛星などへの国際担保の設定 ケープタウン条約と宇宙ファイナンス

宮城 健太郎(みやぎ・けんたろう)

ケープタウン条約と宇宙ファイナンスへの適用可能性

西村あさひ法律事務所
宮城 健太郎

拡大宮城 健太郎(みやぎ・けんたろう)
 2003年、東京大学法学部卒業。2006年、司法修習(59期)を経て、第一東京弁護士会登録。同年10月、西村あさひ法律事務所に入所。2013年、ノースウェスタン大学ロースクール卒業(LL.M with Honors)。2013年から2014年まで、英ロンドンのノートン・ローズ・フルブライト法律事務所にて勤務。2014年、ニューヨーク州弁護士登録。

 1  はじめに

 クロスボーダーのファイナンス実務において、実効性のある担保の取得は極めて重要であるが、担保法制は国毎に異なるため、対象国の担保法制の調査に時間と労力を要してしまう場合も多い。

 かかる担保法制の統一を企図し、アセット・ファイナンス(Asset-based Financing and Leasing)を促進するための国際的な枠組みとして2001年11月16日南アフリカ共和国ケープタウンで開催された外交会議で採択され、署名が開始されたケープタウン条約(Convention on International Interest in Mobile Equipment)がある。同条約は、日本は締約国となっていないものの、2019年4月末日現在、世界79か国及び欧州連合が締約国となっており、航空機ファイナンス(注1)の実務において重要な法的枠組みを提供している。かかる枠組みを宇宙資産のファイナンスにも広げるべく準備された宇宙資産議定書(Protocol to the Convention on International Interests in Mobile Equipment on Matters specific to Space Assets)は、2012年にベルリンで開催された外交会議で採択されたものの、未だ批准している国は存在しない。

 以下では、法域毎に異なる担保法制に統一された枠組みを提供するケープタウン条約を概説し、航空機ファイナンスの実務における同条約の活用を紹介した後、宇宙資産のファイナンスにおけるかかる枠組みの適用可能性につき論じる。なお、本稿中、意見に亘る部分は、あくまで筆者の個人的な見解であって、西村あさひ事務所その他の筆者の所属する団体の見解ではないことに留意されたい。

 2  ケープタウン条約について

 物権の成立、対抗要件及び効力について、どの国の法を適用すべきかという準拠法の問題については物件所在地法(lex situs)が適用される法制が一般的とされ(注2)、日本の法の適用に関する通則法13条も「目的物の所在地法」に着目したルールを定める。

 しかし、国境を越えて移動することが想定される、航空機、船舶、鉄道車両などの可動動産(以下「航空機等」という。)を担保としてファイナンスを行う場合、航空機等上に設定された担保権を行使する際には、当該航空機等について登録国の法制に基づいて設定された担保権が、他の国(当該航空機の所在地国等)の法制上も有効且つ執行可能なものであるのかという問題が生じる。このような問題について、締約国において登録された航空機に関する権利を相互に承認するアプローチにより、一定の解決をもたらすため1948年に採択されたのがジュネーブ条約であった。しかし、同条約においては、担保権自体は各締約国の担保制度によることとなるため、担保権を取得する担保権者等は関連する締約国の担保制度を調査する必要があり(担保権の準拠法に関する問題)、また、担保権の実行制度は基本的には各締約国の手続法に委ねられることになるため、かかる手続法の調査が必要になる上、締約国の制度によっては実効的な担保権の実行が阻害されるといった問題があった(担保実行に関する問題)。そこで、これらの問題を解決するために各国の国内法とは別に、国家間において統一的な権利の設定、権利の実行方法、優先劣後のルール等を創設することを目的としてケープタウン条約が考案された。

 ケープタウン条約は、航空機等の取得及び使用のための資金調達をアセット・ファイナンスの方法で促進することを目的として策定されたもので、かかる目的を達成するために、航空機等に設定される担保権等が国際的に認識され、保護されるための法的枠組みを確立し、かかる担保権等を公示するための国際登録制度を創設するものである。法的枠組みという観点からのケープタウン条約の特色は、各国の法制から切り離された国際担保権(international interest)(注3)を観念した上で、その効力、優先劣後関係(特に法定担保権との間の優劣)、債務不履行時や倒産時における権利実行等についての規定を置いているという点にある。かかる国際担保権は、航空機については、国際民間航空機関(ICAO)の監督下にある国際登録機関(International Registry)に登録され、公示されることになる。

 ケープタウン条約は、資産の類型を問わず共通して適用される本体条約と、資産の類型ごとに個別のルールを定める議定書が合わさって各資産に適用されることになり、これまで、航空機、鉄道車両及び宇宙動産に関する議定書が採択されているが、後二者については現時点では発効していない。

 3  航空機ファイナンスでの活用

 航空機ファイナンスの分野においては、ケープタウン条約は先進国から発展途上国に至るまで多くの国により批准され、既に重要な役割を果たしている。即ち、ケープタウン条約は、資金供給者に対して権利関係を明確にし、権利の実現を迅速に行うことができる枠組みを提供することで、締約国のエアラインに対する航空機担保貸付・リースを促進し、かかる枠組みによりエアラインに以前より低金利での資金提供を受けられるようにすることで、資金提供者・需用者双方にメリットがある枠組みが想定され、実際にも一定程度期待されていた役割を果たしてきたと評価できる(注4)。締約国のエアラインの観点からすると、後述するAlternative Aの選択、IDERAの登録制度の採用等一定の宣言を行った上でケープタウン条約を批准することにより、輸出信用機関(ECA)の信用供与を受けたファイナンス(ECAファイナンス)における最低プレミアム料率の割引(ECA Discount)を受けられるというメリットがあり、これも特に発展途上国を中心にケープタウン条約の批准を促す動機の一つになった。

 ケープタウン条約は、エアラインによる資本市場からの資金調達においても重要な役割を果たしている。航空機ファイナンスにおいては、エアラインが発行するEETC(Enhanced Equipment Trust Certificate)(注5)が資本市場から資金調達をする手法として広がりを見せているが、これを支える重要な法的基盤の一つとして、米国連邦倒産法1110条(US Bankruptcy CodeのSection 1110)及びこれを参考にして作られたケープタウン条約の航空機議定書11条Alternative A という規定がある。当該規定は、エアラインが倒産した場合、当該エアラインは、一定の期間内に航空機の返還を行うか、債務不履行を治癒して支払を続けるかを選択すべき旨を定めており、資金供与者側からすれば早期に権利を実現することを期待できる有利な制度と評価できる。このため、米国において発達を遂げたEETCは、米国以外において発行される場合には、米国連邦倒産法1110条に相当するAlternative A又はこれに準じて倒産時における貸付人・レッサーの権利が保護されることとなる法制を有する国であることを格付機関が要求する場合が多い。このように、ケープタウン条約は締約国のエアラインにとって資本市場にアクセスしやすくするという側面を有する場合がある。

 また、航空機のファイナンスにおいては、資金供与先が債務不履行に陥った場合に、航空機を回収の上第三者に売却したり他のエアラインにリースしたりすることが権利実現の方法として極めて重要であるが、特にフラッグキャリアと言われる各国を代表するエアラインが倒産した場合、国全体で当該エアラインを保護し、債権者の権利実行を妨げる可能性があり、航空機を当該国の登録から外すための登録抹消やこれに続く輸出手続に支障が生ずる可能性が高いとされていた。ケープタウン条約は、このような債権者による航空機の登録抹消・輸出を容易にするために、締約国の宣言により、登録抹消・輸出申請に関する委任状 (IDERA(注6))の登録制度を設け、かかる宣言を行った締約国に対して、登録抹消等に関する協力義務を負わせている(航空機議定書13条)。このようなIDERAの登録は、その宣言を行った締約国のエアラインへのファイナンスにおいては実務上極めて重要なものと認識され、ファイナンス実務に組み込まれている場合が多い。

 このように、ケープタウン条約は、航空機ファイナンスの分野において、銀行やリース会社等の資金供与者側の問題意識や需要、既存の航空機ファイナンスの実務等を取り込み、またECAファイナンスや資本市場からの資金調達と結びつくことにより、一定の成果をあげていると評価できる。

 4  宇宙資産のファイナンスへ

 上記のとおり航空機のファイナンスの分野においては、アセット・ファイナンスに重要な枠組みを提供することに成功しつつあるケープタウン条約であるが、人工衛星等の宇宙資産を対象とする宇宙資産議定書は2012年に採択されたものの、未だに発効しておらず、近い将来この分野においても重要な役割を果たすことができるかについては未知数である(注7)。しかし、近時は宇宙ベンチャー等のいわゆるNew Spaceの潮流が注目され、民間による人工衛星の開発・打ち上げが活発になっている。かかる民間企業の宇宙事業においては現在は自己資本(エクイティ)により資金需要を賄うことが通常ではあるものの、今後更に宇宙ビジネスが活発になりその資金需要も拡大するであろうことから、銀行やリース会社が融資やリースの形でその資金需要に応える試みも増えていくものと考えられる。

 資金需要者の信用力を補完し、またより有利な金利その他の条件によって資金調達を行うために、宇宙資産の価値やその生み出すキャッシュフローに着目するアセット・ファイナンスの手法は、宇宙資産のファイナンスにおいても重要な役割を果たす可能性があるが、そのためには宇宙資産の上に有効かつ実行可能な担保権を設定し、これを公示することが重要になる。この点、航空機の場合と異なり、宇宙資産については、米国の統一商事法典(Uniform Commercial Code)第9編やカナダ、オーストラリア等の動産担保法制(Personal Property Securities Act)等の対象となる動産を限定しないものを除き、非占有型の担保権を設定し、第三者に対抗する制度は存在しないとされ(注8、注9)、また、仮に第三者に対抗することのできる担保権が設定できたとしても、宇宙空間に存在する物体についてはいかなる方法で担保権を実行することが可能かについて疑義が存在する。宇宙資産議定書は、宇宙資産について統一的かつ実行可能な担保権を観念し、その公示を可能にする基盤を提供しようとするものであり、宇宙資産の性質やその利用を巡る利害状況・規制を念頭に置きつつ規定を設けている。以下に特徴的な規定をいくつか紹介する(注10)

 (1) 適用対象

 宇宙資産議定書の適用対象である宇宙資産(space asset)には人工衛星、宇宙ステーション等の宇宙機(spacecraft)が含まれるほか、これに搭載された計測器やセンサーなどのペイロード(搭載物)やトランスポンダーその他の宇宙機又はペイロードの一部も、登録規則に従って独立の登録をすることができる場合には宇宙資産として宇宙資産議定書の対象となる。宇宙機のみならずその積載物についても独立の担保取引の対象となる可能性があることを踏まえた規定である。

 また、宇宙資産自体の価値に加えて、宇宙資産の生み出すキャッシュフローを捕捉することを可能とするため、管制業者による管制を受ける権利や人工衛星のユーザーから利用料の支払いを受ける権利を含む、宇宙資産について国際担保権の設定者が有する諸権利を、債務者の権利(debtor’s rights)と定義し(宇宙資産議定書1条2項(a))、「債務者の権利」は国際担保権に附随して権利譲渡(rights assignment)の対象となり、かかる権利譲渡は国際登録機関(注11)に登録可能なものとしている(同議定書9条、10条1項、12条)。

 

 (2) 公共の利害との調整

 宇宙資産は公共サービスの用に供されている場合が多く、突然担保実行がなされた場合には、公共サービスに悪影響が生ずる可能性がある。かかる公益との利害調整のため、宇宙資産が契約に基づき公共サービスに供されている場合において、公共サービスの告知(public service notice)の登録が国際登録機関になされたときには、権利の実行前に待機期間(注12)を置き、関係当事者の調整や公共サービスの委託先の移転等を行う猶予を持つことができるようにしている(宇宙資産議定書27条)。

 

 (3) 他の権利者との調整

 上記(1)のとおり宇宙機の一部についても国際担保権の対象となり登録が可能となるところ、権利実行の場面においては一つの宇宙機について複数の国際担保権が登録された場合、どの担保権者の担保実行を優先すべきかという問題が生ずる。この点について、物理的に結合した宇宙資産に対する権利の実行に際し、実行対象の国際担保権登録より先に登録された国際担保権等の毀損又は干渉になるような国際担保権の実行をしてはならない旨の規定を置き、利害調整を図っている(宇宙資産議定書17条3項)。

 

 (4) その他

 宇宙資産に係る担保権の実行の困難という問題については、宇宙資産議定書は宇宙資産のコントロールを可能とするためのコマンドコード等の寄託を当事者間の合意によりなし得る点を明確にしており(宇宙資産議定書19条)、締約国はかかる寄託を禁止できないとされている(同議定書26条2項(c))。

 また、宇宙保険との関係では、保険会社のサルベージ権といわれる保険金支払後に保険会社が宇宙資産の所有権や収益受領権を取得することができる権利について、宇宙資産議定書に規定を置くことも検討段階で議論されたようであるが、結局サルベージ権の準拠法に委ねるという規定を置き、宇宙資産議定書はこれに踏み込まなかった(宇宙資産議定書4条3項)(注13)

 

 航空機議定書についてはその検討段階である程度確立した航空機ファイナンス・担保実務が存在し、これを踏まえることができたものの、宇宙資産議定書についてはそのような実務が検討段階で存在していなかったため、ある意味手探りで策定されたものであり、その有用性については今後検証されることとなる。逆にいうと、宇宙資産議定書に示された考え方が今後の宇宙ファイナンスの実務を形作っていく可能性があり、その意味でも宇宙資産議定書を巡る動向は興味深いものと言える。

 5  最後に

 日本は、宇宙の開発及び利用の重要性が増大していることに鑑み(宇宙基本法1条)、2008年に宇宙活動の基本事項を定める宇宙基本法を制定し、更に2016年に宇宙活動法(「人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律」)と衛星リモセン法(「衛星リモートセンシング記録の適正な取扱いの確保に関する法律」)を制定するなど、宇宙ビジネスに関する法整備を進めているが、ケープタウン条約は宇宙ビジネスの資金需要に応える宇宙ファイナンスの重要な基盤となる可能性のある条約である。日本政府としては、その動向を注視しつつその有用性を見極めた上で批准を検討することも考えるという対応をとっているものと思われるが、今後の世界における宇宙ビジネスを牽引していくためには日本が宇宙資産議定書の活用を主導的に促進しその枠組みを築く役割を担っていくことも考えられる。ケープタウン条約の批准の際には国内の倒産・執行法制との整合性が問題になることも多いと考えられるが、まずは宇宙資産に関する特則としてケープタウン条約を位置づけ、国内法制を整備することも考えられる。前向きに検討が進むことを期待したい。

 ▽注1:ケープタウン条約は

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宮城 健太郎(みやぎ・けんたろう)

 2003年、東京大学法学部卒業。2006年、司法修習(59期)を経て、第一東京弁護士会登録。同年10月、西村あさひ法律事務所に入所。2013年、ノースウェスタン大学ロースクール卒業(LL.M with Honors)。2013年から2014年まで、英ロンドンのノートン・ローズ・フルブライト法律事務所にて勤務。2014年、ニューヨーク州弁護士登録。
 共著に『ファイナンス法大全(上)[全訂版]』(商事法務、2017年8月)、『最新 金融レギュレーション』(商事法務、2009年7月)がある。主な論文に、「世界の宇宙ビジネス法(第8回) 宇宙ビジネスとファイナンス」(国際商事法務Vol.47 No.1、国際商事法研究所、2019年1月)(共著)などがある。

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