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西村あさひのリーガル・アウトルック

政府がデフォルトしたら 秩序ある国債の条件変更の手法

千明 諒吉(ちぎら・りょうきち)

国債のリストラクチャリング

西村あさひ法律事務所
千明 諒吉

拡大千明 諒吉(ちぎら・りょうきち)
 2005年、京都大学法学部卒業。2006年、弁護士登録(東京弁護士会)。2017年、デューク大学ロースクール卒業(LL.M. cum laude, Dean's Award in the Bankruptcy & Corporate Reorganization)。2019年、西村あさひ法律事務所パートナー就任。

 1. はじめに

 2019年7月1日、ベネズエラでは、フアン・グアイド国会議長(暫定大統領)の率いる反マドゥロ暫定政権が、外貨建ての公的債務の再交渉に関するガイドラインを公表した。ベネズエラは、世界最大の原油埋蔵量を有するが、国営石油会社であるPDVSAは、社会開発目的での国庫への拠出金の拡大により継続して資金不足の状態にあり、これによる生産量の低迷や石油価格の下落によって、ベネズエラの経済は長らく低迷している。これらに加えて、米国の経済制裁により、債券の新規発行による借換えも困難となり、ベネズエラの国債やPDVSAの社債の信用格付けは、元利金の支払い遅延により事実上のデフォルトとなっている。こうした状況を受けて、上記ガイドラインでは、経済制裁の解除やIMFの支援を前提条件として、国債やPDVSAの社債を含む公的債務全般(担保付債務を除く。)を平等に取り扱うことを骨子とする再交渉の基本方針が示されている。

 アルゼンチンでは、2019年8月29日、スタンダード・アンド・プアーズが短期国債の格付けを「選択的デフォルト(SD)」とし、同30日には、フィッチ・レーティングスも長期国債格付けを「部分的デフォルト(RD)」とした。現職のマクリ大統領は、財政規律を重視した経済政策が評価され、2019年6月にはIMFから570億ドルのベイルアウト・プログラムの承認を得ていたが、8月11日の大統領選予備選挙において、緊縮財政を強く批判していたフェルナンデス大統領候補に約15%の差で敗れた。これにより、2019年10月の本選以降の財政政策の継続性が懸念され、直後より、通貨ペソの大幅な下落や、国債のスプレッドの拡大を生じた。こうした状況を受けて、大統領選予備選挙の直後からアルゼンチンの信用格付けは引き下げられていたが、更に、8月28日にアルゼンチン政府が短期国債の償還期限の延長等を実施したことから、一時的にデフォルトまでの格下げが行われた。なお、アルゼンチンは、近年では2001年に国債のデフォルトを宣言し、また、その処理に関する訴訟の影響で2014年にもデフォルトに陥っている。

 国家政府がデフォルトする、あるいはその危機に陥るといった事態は、必ずしも珍しいことではなく、国家政府の債務のリストラクチャリングが行われた例は少なくない。こうしたリストラクチャリングが民間企業で行われる場合、一般的には、資本の手当てや収益・キャッシュフローの改善(資産と負債のバランスや、資金の出入りのバランスを回復させること)に主眼が置かれる。一方で、国家政府は民間企業のように営利を目的とする団体ではなく、国家政府の収入・支出の目的には様々なものがあるため、財政収支の黒字化自体がそもそもの目的にはならないはずである。また、国家政府には(ユーロ圏を除いては)自国の中央銀行があり、通貨発行権を有することから、国家政府が負担する債務の通貨によって、債務負担そのものの意味合いが異なり、それに伴って、国家政府の資産と負債のバランスの意味も異なる。国家政府の財政のモニタリングに際しては、政府負債とGDPの比率(Debt to GDP)や財政赤字(budget deficit)等の様々な指標が参照されるが、以上のような要因もあり、各指標の数値自体は、政府財政の持続可能性に直結するものではないようである(例えば、日本政府のDebt to GDPは危機時期のギリシャ政府より高い状態が続いている。しかし、日本国債の金利は世界的にも極めて低い水準で推移し、安定して国内での消化が続いている。日本国債が円建てで発行されていることや、金融緩和政策により国債残高の半数近くは、日本政府が株式の過半数を保有する日銀の保有となっていることもあり、Debt to GDP等の指標では評価できない要素がある。)。加えて、国家政府には主権免除(慣習国際法上のルールであり、一定の範囲において、国家政府は他国の裁判権に服さないという裁判権免除と、国家政府の財産は他国による強制執行の対象とならないという強制執行からの免除があるが、法廷地によっても運用の詳細は異なり得る。)が認められ、債権の執行の手続や債権の減免を行う枠組みも、民間企業に対するものとは大きく異なる。

 このように、国家政府が負担する債務の通貨やその債権者の属性によっても国家政府の債務のリストラクチャリングの要否やその方向性は異なる。また、国家の発展状況、人口分布や産業構造といったよりファンダメンタルな要素によっても、リストラクチャリングにおいて何を目指すべきかが大きく異なり得る。以下では、こうした「何をすべきか」はさておき、国家政府がデフォルトした場合に「何ができるか」という観点から、国家政府のデフォルトへの対応の枠組み及び国債のリストラクチャリングの手法の一部を紹介する。

 2. 国家がデフォルトした場合の対応の枠組み

 まず、国家政府については、破産手続のような、法的・公的な倒産手続が存在していない。すなわち、公的機関が関与する一定の手続の中で、資産を換価処分し債務の弁済に充てる(その上で、残存する債務を免除する)こともできなければ、債務者政府が再建計画の承認を受けることで、当該計画に従った債権の減免や期限その他の条件変更を行うこともできない(なお、IMFにより、Sovereign Debt Restructuring Mechanism(SDRM)の検討が進められたことがあったが、債務者政府のモラルハザードへの懸念等もあり、実現に至ることはなかった。)。また、国家政府には主権免除が認められているため、政府の非商業的な目的以外の目的で使用される財産については、主権免除の放棄がなされない限り、外国の司法権により強制執行等を受けることはないし、主権免除が放棄された場合でも、当該国の国内に所在する資産への強制執行等には当該国家の司法権による手続が必要になるため、外国の司法権による判決や国際仲裁の判断を取得しても当該国の国内資産への強制執行は困難である。こうした事情により、ある国家政府がその債務について支払不能となった場合の対応にあたっては、基本的に債権者との合意に基づく手続が必要になることが多い。

 こうした合意形成を目的とする枠組みとして、債権者が国又はこれに準ずる公的機関である場合にはパリクラブ、金融機関である場合はロンドンクラブといった、慣習に基づく債権者グループの会合が存在する。これらのクラブでの協議では、全会一致の原則や連帯・平等の原則等の基本原則に従い、IMFによる金融支援等が受けられることを前提に、ケース・バイ・ケースで債務の削減や延期等の救済措置が合意される。IMFは、債務国がIMFの策定する経済改革・構造改革のプログラムを受け入れることを前提に、一定の金融支援を提供する。こうしたクラブの協議を通じた救済措置は、相対取引による債務であって、主要債権者がクラブの参加メンバーである場合には有効な解決策となり得る。一方で、国債については、民間一般が債権者となり得るものであり、かつ、市場での流通性があるため、債権者がこれらのクラブのメンバーに限られることはほとんどない。こうした理由から、国債のリストラクチャリングに際しては、(IMF等の金融支援と並行する等して)民間企業が発行する債券のリストラクチャリングと同様の手法が採用されることが少なくない。

 3. 国債のリストラクチャリングの手法

 前記のとおり、国家政府に対しては法的倒産手続が存在しないため、債務のリストラクチャリングの手続は、私的整理と同様に債権者との合意をベースとしたものとなる。これは、国債のように流通性があり、不特定多数の債権者を相手方とせざるを得ない債務のリストラクチャリングにあたっても同様であり、国債のリストラクチャリングにあたっては、私的整理による債券のリストラクチャリングに見られるような、債権者集会の決議による条件変更やエクスチェンジ・オファーといった方法がとられることが少なくない。

 こうしたリストラクチャリングにおける特に重要な課題の一つとして、ホールドアウト問題への対応がある。ホールドアウト問題とは、リストラクチャリングの一環としての条件変更やエクスチェンジ・オファーに反対し、これらによる債券の条件変更に拘束されない債権者が発生し得る場合には、リストラクチャリングに協力的な債権者だけが不利益を被ることとなり、また、こうした反対債権者によりリストラクチャリングのプラン全体が瓦解し得ることを懸念して、十分な債権者の同意が得られなくなることである。

 いかに合理的で債権者一般の利益に適うリストラクチャリングであっても、こうした懸念によってリストラクチャリングの成立が阻害されてしまう可能性があることは、国債のリストラクチャリングに限った話ではない。しかし、国家政府のデフォルト事案においては、法的倒産手続のように、一定の多数決により全ての債権者を拘束できるリストラクチャリング手法が存在しないため、ホールドアウトへの対応が、よりクリティカルな問題となり得る。

 ホールドアウト問題の発現の仕方は、債券の条件によって様々であるが、リストラクチャリングの手法を検討する中で、特に重要な法的要素として、Collective Action Clause(CAC)の有無、Pari Passu Clauseの内容、そして債券の準拠法が挙げられる。

 (1) Collective Action Clause

 Collective Action Clause(CAC)とは、債権者が保有する債券の金額の多数決(又は特別多数決)により債券の元利金や期限等の条件変更を行うことができる旨の契約条項(債券の要項における定め)である。CACが設けられていない場合、個々の債券の元利金変更には当該債券の保有者の個別の同意を要することが多く、まさしく、こうした同意が得られない債券の保有者がホールドアウトとなる。こうした場合には、Exit Consentといって、エクスチェンジ・オファーを行うと同時に、多数決で変更可能な元利金以外の条件変更の同意を求め、多数決の要件を充たす債券の保有者からの応募があれば、応募されなかった債券の権利が弱体化されるようなストラクチャーが検討されたりする。一方、CACが設けられている場合には、多数決の要件を充足する金額の債券を保有する債権者の同意を得れば、反対する債権者に対しても条件変更の効力を及ぼすことができるため、ホールドアウト問題の解決策となり得る。

 もっとも、複数のシリーズの債券を発行している場合、それぞれの債券の要項にCACが定められていれば、シリーズ毎のホールドアウト問題には対応できても、全体としてのホールドアウト問題に対応できない場合がある。例えば、特定のシリーズの債券が反対派により買い占められ、当該シリーズについて条件変更の要件が充たせない場合には、他のシリーズの債券についてはホールドアウト問題が解決できても、当該特定のシリーズが全体の中でホールドアウトとして機能するため、前記同様の問題が残ることになる。

 こうした問題意識を受けて、IMFでは、いわゆるEnhanced CACを国債(厳密には、外国法に準拠するソブリン債)の要項に含めることを推奨している。Enhanced CACとは、複数のシリーズに提案される条件変更が同内容の場合には、当該複数のシリーズを合算した多数決により、全てのシリーズとの関係で条件変更が成立するというものである。Enhanced CACには、Single Limbと呼ばれる、複数のシリーズを単純合算して多数決を行う方式もあれば、Two Limbと呼ばれる、複数のシリーズを合算した多数決が成立していることに加え、個別のシリーズごとにも(合算した多数決に求められる水準よりは低い)一定水準の同意が得られていることを求める方式もある。こうした合算にあたっては、複数のシリーズの債券に条件が大きく異なる債券がある場合には、類似の条件の債券毎に合算を行う(sub aggregation)など、柔軟な運用も可能とされている。Enhanced CACが定められていれば、その定めのある債権者全体での多数決により条件変更が可能となるため、特定のシリーズの買占め等によるホールドアウト問題の発生を抑制することも可能となり得る。

 IMFの推奨を受け、近年発行される国債は、Enhanced CACが含まれるものが大多数のようであるが、こうした推奨が開始される以前に発行された国債には、期限が数十年にわたるものも少なくなく、その入替えには長期間を要することが見込まれている。

 (2) Pari Passu Clause

 Pari Passu Clauseとは、当該条項が含まれる債券の債権者を、他の債権者と返済順位等に関して平等に扱うことを義務付ける条項である。Pari Passu Clauseは、国債に限らず、多くの債券に一般的に定められる条項であり、通常それほど問題視される局面は生じないが、アルゼンチンによる国債のリストラクチャリングの事例では、当該条項を含む債券の処理を巡って深刻な問題を生じさせることとなった。

 具体的には、2001年にデフォルトを宣言したアルゼンチンは、2005年にエクスチェンジ・オファーによる国債(NY州法準拠)のリストラクチャリングを実施したが、当該リストラクチャリングでは、多数のホールドアウト債権者が残ることとなった(エクスチェンジ・オファーは、原債券と引換えに、額面や期限等を原債券より緩和した債券を発行する募集であり、原債券と新債券の任意の交換を提案するものであるため、募集に応じない債権者がホールドアウトとなる。)。これに対し、アルゼンチンは、ホールドアウト債権者に対する元利金の支払いや和解交渉を行うことを禁止する国内法を整備して対抗したが、ホールドアウト債権者は、原債券のPari Passu Clauseを根拠に、エクスチェンジ・オファーで交付された(債務の縮減及び期限の延長後の)新たな国債の利払いと、原債券の期限が到来した元本及び利息が同順位に扱われるべきものとして、ニューヨーク地裁に対し、世界の主要な決済機関を非申立人として、エクスチェンジ・オファーで交付された国債の利払いの取扱いの差止命令を求めた。当該差止請求は、ニューヨーク地裁において認められ、上級審においても当該判断が支持されることとなったため、これにより、アルゼンチンは再度デフォルト状態に陥ることとなった。

 国債のリストラクチャリングにおける重要な目標の一つに、国債の発行による資金調達とその返済というサイクルの持続可能性の回復が挙げられ、そのためには、デフォルト状態や信用不安を解消して国債の発行マーケットに復帰することが重要となるが、決済機関による取扱いの差止めを受けて、新たに発行した国債の利払いが停止されれば、こうした市場へのアクセスは絶たれてしまうことになる。そのため、当該差止命令を受けたアルゼンチンは、ホールドアウト債権者に対し、元利金の大半及びリーガルコストを支払うという条件での和解を受け入れざるを得なくなった。こうした事態は、ホールドアウト問題の最たるものであり、ホールドアウト債権者が、リストラクチャリングに応じた債権者と比較して著しく有利な条件による償還を受けられるだけでなく、リストラクチャリングによる条件変更後の国債に対しても影響力を行使して、国債が正常化された状態を覆すことすらも可能となるならば、いかに合理的な条件のリストラクチャリングを提案しても、ホールドアウトの可能性がある限り、債権者がこれに同意するインセンティブは著しく損なわれてしまう。

 これを受けて、IMFは、Pari Passu Clauseのワーディングについて、アルゼンチンの例で問題視された部分を修正したEnhanced Pari Passu Clauseを推奨している。具体的には、アルゼンチンの例におけるPari Passu Clauseには、返済順位等に関して平等に扱うことの一内容として、同順位の債権に対して比例的な返済(equal or ratable repayment)を行うことを記載していた。前述したニューヨーク州の裁判例については政府側の強硬な姿勢等を含む様々な周辺事情があり、新債券への利払いのみをもってPari Passu Clauseの違反とされたかには議論があるが、当該文言が、リストラクチャリング後の新たな国債の「利払い」とホールドアウトされた原国債の「元本の返済」を同じ比率で行わなければならない(新国債の利払いを条件どおりに支払う場合、原国債の元本も全額返済しなければならない)と結論付けられる根拠の一つとなった。そのため、IMFは、当該義務を負わないことを明示する形にPari Passu Clauseの文言を修正することを推奨している。

 この推奨案についても、近年の発行事例の多数において採用されているようであるが、既に発行されていた長期国債の入替えに長期間を要することは、CACの場合と同様である。

 (3) 準拠法

 国債のリストラクチャリングにおいては、国債の準拠法は非常に重要な要素である。これまでに紹介したIMFの推奨は、国内法準拠の国債についても役立ち得るものであるとしつつも、外国法準拠の国債に重点を置いて議論されているものであり、その理由として、外国法準拠の国債については、ホールドアウト債権者がより強い法的なレバレッジを有することが挙げられている。

 例えば、ギリシャ危機における国債のリストラクチャリングにおいては、ギリシャの国債にはCACは含まれていなかったが、その大半がギリシャ法準拠のものであったため、ギリシャは、法改正により遡及的に(既に発行されていた国債についても適用される形で)CACの仕組みを導入し、これを用いて、ホールドアウト債権者も条件変更に拘束される形でのエクスチェンジ・オファーによる国債のリストラクチャリングを実行した。一方で、前述したアルゼンチンの例では、ホールドアウト債権者に対する元利金の支払いや和解交渉を行うことを禁止する国内法を整備したが、国債の準拠法がニューヨーク州法であったこともあり、こうした法整備が功を奏することはなかった。このように、債務者が立法権を有することとの関係で、準拠法が国内法か外国法かによって、ホールドアウト債権者が有する法的なレバレッジが大きく異なるということが生じ得る。

 4. おわりに

 ここまで、国債のリストラクチャリングにおいて重要となる幾つかの要素を紹介してきたが、IMFにより推奨されるEnhanced CACやEnhanced Pari Passu Clauseについては、債券の保有者にとっては、自らが反対しても条件変更に拘束され得るという点で、権利を弱めるものととらえられ、それが要求利回りの上昇等の発行条件の悪化につながるのではないかという懸念も

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千明 諒吉(ちぎら・りょうきち)

 2005年、京都大学法学部卒業。2006年、弁護士登録(東京弁護士会)。2017年、デューク大学ロースクール卒業(LL.M. cum laude, Dean's Award in the Bankruptcy & Corporate Reorganization)。2019年、西村あさひ法律事務所パートナー就任。
 主な著作に「法的整理計画策定の実務」(共著、商事法務、2016)や「会社法実務解説」(共著、有斐閣、2011年)、「三角株式交換等における実務上の諸論点-シティ・日興の件を踏まえて-」(共著、旬刊商事法務No.1834、2008年7月5日号)がある。

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