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西村あさひのリーガル・アウトルック

カジノなどIR施設の整備、その施行令の概要

高木 智宏(たかぎ・ともひろ)

特定複合観光施設区域整備法施行令の概要

 

西村あさひ法律事務所
弁護士  高木智宏
弁護士  池田将樹

 1. はじめに

拡大高木 智宏(たかぎ・ともひろ)
 2004年、東京大学法学部第一類卒業。2012年、ノースウェスタン大学ロースクール卒業(LL.M. with Honors)。2012~2013年、ニューヨークのデビボイス&プリンプトン法律事務所勤務。
拡大池田 将樹(いけだ・まさき)
 2018年、慶應義塾大学法学部卒。同年、第一東京弁護士会登録。同年12月、西村あさひ法律事務所入所。
 近年、制度が整備されつつあるIR(統合型リゾート:Integrated Resort)に関して、2018年7月27日、特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律の規定に基づき、カジノ施設を含む特定複合観光施設区域の整備を推進するために必要な措置を規定する特定複合観光施設区域整備法(以下「IR整備法」という。)が公布された。そして、IR整備法の施行政令である特定複合観光施設区域整備法施行令(以下「本施行令」という。)が、意見公募(パブコメ)手続を経て、2019年3月26日に閣議決定され、同月29日に公布された。本施行令の1条から5条までは2019年4月1日から、その他はIR整備法の施行の日(IR整備法の公布の日(2018年7月27日)から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日)から施行されることとされている。

 本稿では、本施行令の内容を、その背景にある議論とともに概観する。なお、国土交通大臣が定める基本方針については、その案が示され2019年9月4日から10月3日の期間パブコメ手続に付されたところであるが、別稿で論じる予定である。

 2. 特定複合観光施設の基準

 IR整備法2条1項は、特定複合観光施設(IR)について、カジノ施設並びに①国際会議場施設、②展示等施設、③魅力増進施設、④送客施設及び⑤宿泊施設(①乃至⑤を併せて以下「中核施設」という。)から構成される一群の施設(これらと一体的に設置・運営される、その他国内外からの観光旅客の来訪及び滞在の促進に寄与する施設を含む。)をいうと規定しており、中核施設の具体的な要件については政令において定めるとしている。以下、中核施設の規模等に関する基準を定めた本施行令1条乃至5条の背景にある考えについて説明した上で、規定内容について概説する。

 (1) 中核施設に関する基本的な視点

 特定複合観光施設区域整備推進会議が中核施設等に関する議論を纏めた平成30年12月4日付「特定複合観光施設区域整備推進会議 取りまとめ ~主な政令事項に係る基本的な考え方~」(以下「平成30年12月4日付取りまとめ」という。)において、「日本型IRは、これまでにないスケールとクオリティを有する総合的なリゾート施設として世界中から観光客を集め、日本各地の(中略)魅力を紹介し、IR区域への来訪客を全国各地に送り出すことにより、IRが世界と日本の各地をつなぐ交流のハブとなり、世界中から観光客を集める滞在型観光の推進に資するものであること」等の考えの下、中核施設の要件に関して、以下の3つの基本的な視点が示されている(注1)

 基本的な視点1:我が国においてこれまでにないクオリティを有する内容
 基本的な視点2:これまでにないスケールを有する我が国を代表することとなる規模
 基本的な視点3:民間の活力と地域の創意工夫

 (2) MICE施設の規模に関する基準

 ア. MICE施設に関する議論

 中核施設の中でも、①国際会議場施設及び②展示等施設は併せてMICE(注2)施設と言われ、諸外国のIRでは、大規模な国際会議場施設と展示等施設等のMICE施設が内包されている例が多く、IR整備法において、①国際会議場施設及び②展示等施設はIRに必置とされている。

 そして、平成30年12月4日付取りまとめにおいては、MICE施設の開催規模、市場特性、一般的な形式等に関して以下のような特徴が示されている(注3)

 まず、国際会議及び展示会は、開催規模が大きくなるほど開催数が限定的となり、開催規模に対して開催数は反比例する関係にある。

 また、国際会議は、世界中の都市で持ち回り開催されるため、国際会議施設は、国際会議市場を同一とする他国の施設に伍するものとする必要がある。他方で、展示会は、開催地の市場毎に需要を掘り起こして立ち上げ、定着させるものであり、我が国の市場特性を十分に踏まえたものとする必要がある。

 更に、国際会議は全体会議と分科会で構成されることが通例であり、これらに対応するためには、全体会議と同規模の収容人数を有する中小会議室群が必要となる。他方で、展示会においては、その開催が特定の曜日に集中することに加え、開催日前後に準備・撤収のための期間が必要であることから、日程調整が制約となり、また、繁閑の差が生まれてしまう可能性があるため、同時に複数の展示会を開催することが可能な規模とする必要がある。

 また、上記の基本的な視点1乃至3及びMICE施設の特徴を踏まえるとともに、IRの施設構成や立地地域によって、国際会議と展示会のいずれか、又は双方が優位性を有するかは異なることを考慮し、MICE施設の類型として以下の3つの類型に整理され、そのうちいずれを選択するかについて、都道府県等や事業者の創意工夫に委ねることとされた(注4)

 a. 開催数が極めて限定的である「極めて大規模な展示会」が開催可能な展示等施設であって、数多く開催される「一般的な規模の国際会議」が開催可能な国際会議場施設を併設するもの
 b. 一定数開催される「大規模な国際会議」及び「大規模な展示会」の双方が開催可能な規模を有し、バランスがとれている総合的なMICE施設
 c. 開催数が極めて限定的である「極めて大規模な国際会議」が開催可能な国際会議場施設であって、数多く開催される「一般的な規模の展示会」が開催可能な展示等施設を併設するもの

 イ. 本施行令が定めるMICE施設の基準

 上記の基本点な視点1乃至3及び国際会議の特徴を踏まえ、本施行令1条は、国際会議場施設の基準について、

 ①最大の国際会議室の収容人数がおおむね千人以上、かつ、
 ②主として国際会議に用いられる会議室の収容人数の合計が最大の国際会議室の収容人数の2倍以上であることと規定している。

 また、本施行令2条は、上記の類型に基づき、展示等施設の規模について、以下の通り、最大国際会議室の収容人数の区分に応じた基準とすることを規定している。

 ⅰ. 最大国際会議場の収容人員がおおむね千人以上3千人未満である場合には、展示等施設の床面積の合計が12万㎡以上であること(1号)
 ⅱ. 最大国際会議場の収容人員がおおむね3千人以上6千人未満である場合には、展示等施設の床面積の合計が6万㎡以上であること(2号)
 ⅲ. 最大国際会議場の収容人員がおおむね6千人以上である場合には、展示等施設の床面積の合計が2万㎡以上であること(3号)

 (3) 魅力増進施設

 IRには、カジノやMICE施設以外にも、博物館、劇場等のレジャー施設が設置されることが多く、シンガポールのマリーナ・ベイ・サンズにおいては美術館、博物館、劇場等が設置されている。IR整備法において、このような魅力増進施設はIRに必置とされている。

 本施行令3条は、魅力増進施設の要件について「我が国の観光の魅力の増進に資する劇場、演芸場、音楽堂、競技場、映画館、博物館、美術館、レストランその他の施設とする」と規定している。「我が国の観光の魅力の増進に資する」という点以外に詳細な要件は定められておらず、具体的なコンテンツやその発信手法については都道府県等や事業者の判断に委ねる趣旨であると考えられる(注5)(上記(1) 基本的な視点3参照。)。

 (4) 送客施設

 外国人の延べ宿泊者数の約6割が三大都市圏に集中している現状に鑑み、「全国各地に多く存在している日本の魅力が外国人旅行者によく知られていない」、「チケットの手配等の各種サービスをワンストップで提供できる観光案内所等が少ない」といった課題(注6)を解決すべく、IR整備法において、国内における観光旅行の促進に資する施設(送客施設)がIRに必置とされている。

 本施行令は、送客施設の要件について、日本各地の観光の魅力や旅行者に必要な情報をVR等の最先端技術等を活用して、効果的かつ適切に伝える機能(ショーケース機能。本施行令4条2号イ、ロ。)、及び利用者の関心等に応じ、旅行計画を提案し、必要なサービスの手配をワンストップで実施する機能(コンシェルジュ機能。同条2号ハ、ニ。)を備えるべきことを規定している。また、これらのサービスを多言語で提供すること(同条2号柱書)、利用者の需要を満たすことのできる規模の対面情報提供及びサービス手配のための設備や適当な規模の待合用の設備を備えることも併せて規定している(同条1号)。

 (5) 宿泊施設

 IR整備法において、カジノや魅力増進施設への観光客やMICEの参加者等のために宿泊施設が必置とされている。我が国の既存の宿泊施設は、諸外国の宿泊施設等と比較すると、最小客室面積、総客室数及びスイートルームの割合等、どれをとっても大幅に下回っているのが現状である(注7)。そのような現状を踏まえ、宿泊施設自体もIRを構成する誘客施設の一部として需要を生み出すものとするためには、世界水準の客室面積を有することが必要であり、また、国内外を問わず、富裕層の需要にも対応すべくスイートルーム等の客室をまとまった規模で備える必要があるのではないかとの議論がなされてきた。

 そして、本施行令5条は、

 全ての客室の床面積の合計がおおむね十万平方メートル以上であること(1号)、並びに、
 (a)客室のうち最小のものの床面積、(b)スイートルームのうち最小のものの床面積及び(c)客室の総数に占めるスイートルームの割合が、国内外の宿泊施設の実情を踏まえ、適切なものであること(2号)

を宿泊施設の基準として規定している。

 なお、宿泊施設は、かかる要件を満たすのみならず、更に、事業者の経営判断により趣向の凝らした魅力的な構造・デザインとされることが予想されるが、そのような宿泊施設の建設には、とりわけ時間がかかることが予想される。我が国のIR制度において、そのような大規模かつ象徴的な宿泊施設や当該宿泊施設を含むIRの建設に要する期間が十分に考慮されているかについては検討の余地がある。すなわち、区域整備計画の認定がなされてから環境アセスメントが開始され、その後ようやくIRの建設が開始されるとなると、区域整備計画の認定がなされてから、IRの営業開始まで相当な時間的隔たりがあることは否めない(注8)。そして、区域整備計画の認定については更新制が採用されており、初回の認定の有効期間は10年であり(IR整備法10条1項)、初回の認定の有効期間10年のうちIRを営業できる期間はかなり短期間となる。更に、区域整備計画の認定の更新には都道府県等議会の議決が必要であり、政治リスクが存する。そうすると、例えば、事業者がIRの設置にあたり必要な初期投資についてローンにより資金調達をする際に、金融機関が、確実な営業期間の短さを理由に多額の貸付を渋る可能性がある。そうすれば、翻って大規模かつ象徴的な宿泊施設やこれまでにないクオリティ及びスケールを有するIRの設置が困難となることが予想される。

 かかる問題については、実施協定(IR整備法13条)において、都道府県等議会で更新の承認の議決がなされなかった場合の都道府県等による補償を規定することによって、合理的な理由のない更新拒否を事実上抑止するとともに、逸失利益の補償を受けられることとすることによって多額のローンを確保するという方法が考えられ、特定複合観光施設区域の整備のための基本的な方針(案)において、実施協定において都道府県等による補償に関する規定を設けることができることが明確にされた。

 (6) カジノ施設の面積及びカジノに関する広告の制限

 IR整備法においては、カジノ行為への依存を防止するため、①ゲーミングに触れる機会の限定、②誘客時の規制、③厳格な入場規制、④カジノ施設内での規制、⑤相談・治療につなげる取組まで、重層的かつ多段階的な取組を制度的に整備することが必要であるとの考えの下に、様々な規制が設けられている(注9)

 まず、IR整備法は、①ゲーミングに触れる機会の限定という観点から、「カジノ施設のカジノ行為区画のうち専らカジノ行為の用に供されるものとしてカジノ管理委員会(注10)規則で定める部分の床面積の合計が、カジノ事業の健全な運営を図る見地から適当であると認められるものとして政令で定める面積を超えないこと」をカジノ免許を付与する際の基準としている。そして、「政令で定める面積」について、本施行令は、「特定複合観光施設の床面積の合計の百分の三の面積」と規定している(本施行令6条)。この3%という数値は、厳格なカジノ規制の下で公共政策としてのカジノを含むIRを整備し一定の効果を上げているシンガポールにおける実例を踏まえて決定されたものである(注11)

 次に、IR整備法は、②誘客時の規制の一つとしてカジノ事業に関する広告物を表示する場所を制限しており、「主として公共交通機関を利用する外国人旅客の乗降、待合いその他の用に供する施設として政令で定めるもの」を除きIR以外の場所での広告物の表示を禁止している(IR整備法106条2項)。本来刑法で禁止されているカジノ事業を例外的特権として認めるものであることから、カジノ事業に伴う副次的弊害については徹底的に排除する必要があると考えられており(注12)、例外的に広告物を表示することが許容される場所について「可能な限り限定すること」とされている(注13)。また、依存症を防止し善良な風俗及び清浄な風俗環境を保持するとの目的を達成するため(注14)、例外的にカジノ事業等の広告物を表示することが許容される場所は不特定多数の日本人が利用できない施設である必要があるとの考えが採用されている(注15)。上記の議論や考えの下、本施行令は、例外的にカジノ事業等の広告物を表示することが許容される施設を、国際線が就航する空港や外航クルーズ船等が就航する港湾の旅客ターミナルのうち、外国人旅行客が入国手続を完了するまでの間に滞在することができる部分に限定している(本施行令15条)。

 3. 本人確認の対象となる特定取引の範囲・現金取引報告(CTR)の対象となる取引の範囲

 IR整備法109条1項は、「カジノ事業者は、顧客との間で、(中略)チップの交付等をする取引その他の政令で定める取引であって、政令で定める額を超える現金の受払いをするものを行ったときは(中略)カジノ管理委員会に届け出なければならない。」と規定している。これは、カジノ事業は、多額の現金とチップの交換等が頻繁に行われること等から、マネー・ロンダリングのリスクが高いという特性に鑑み、犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下「犯収法」という。)の規制に上乗せして、一定額以上の全ての現金取引についてカジノ管理委員会への届出(現金取引報告(CTR:Cash Transaction Report))を義務づけるべきであるとの考えに基づくものである(注16)。本施行令16条1項は、現金取引報告の対象となる取引の範囲について、カジノ事業者と顧客との間のチップの交換等、現金の受払いが行われる取引を列挙している。また、同条2項は、現金取引報告が必要となる額について、米国(1万米ドル超)やシンガポール(1万シンガポールドル)を参考として、100万円と規定している。

 また、現金取引報告に加え、IR整備法附則11条により、カジノ事業者は犯収法上本人確認等を行うことが義務づけられている「特定事業者」(犯収法4条1項・別表)と位置付けられた。また、犯収法施行令も改正され、IR整備法2条8項に規定するカジノ業務のうち、特定資金移動業務又は特定資金受入業務に係る口座の開設を行うことを内容とする取引(同7条1項4号イ)、特定資金貸付契約(同7条1項4号ロ)、チップの交付、付与及び受領で30万円以上のもの(同7条1項4号ハ)、特定資金受入業務に係る金銭の受入れ(同7条1項4号ニ)、特定資金受入業務に係る金銭の払戻し、特定資金貸付契約に係る債権の弁済の受領又は同号ニに掲げる業務に係る金銭の両替であって、当該取引の金額が30万円を超えるもの(同7条1項4号ホ)、カジノ行為関連景品類の提供であって、当該提供に係るカジノ行為関連景品類の価額が30万円を超えるもの(同7条1項4号ヘ)が「特定取引」(犯収法4条1項)とされ、犯収法上の本人確認等が義務づけられることとなった。

 4. その他

 上記に加え、本施行令において、カジノ事業の免許等の際の欠格事由となる罰金刑の対象(IR整備法41条2項1号へ)やカジノ施設入場規制(IR整備法69条)及び一定の者のカジノ行為の禁止規制(IR整備法173条)の例外の対象となる者等に関し規定が設けられた。

 本施行令は、IR整備法とともに我が国のIR制度の枠組みとなるものであり、特に、上記2.で見てきた中核施設の規模に関する要件等、IRが備えるべき施設のミニマムスタンダードが示されるとともに、「諸外国と比較して遜色ない世界最高水準のカジノ規制」(注17)が示された。

 ▽注1:平成30

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高木 智宏(たかぎ・ともひろ)

 2004年、東京大学法学部第一類卒業。2012年、ノースウェスタン大学ロースクール卒業(LL.M. with Honors)。2012~2013年、ニューヨークのデビボイス&プリンプトン法律事務所勤務。

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