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西村あさひのリーガル・アウトルック

外国投資家によるインバウンド日本直接投資に関する外為法改正の最新動向

神保 寛子(じんぼ・ひろこ)

対内直接投資等に関する近時の外為法関連改正

 

西村あさひ法律事務所
神保 寛子

拡大神保 寛子(じんぼ・ひろこ)
 2000年東京大学法学部卒業、2006年第一東京弁護士会登録。2012年米国 デューク大学ロースクール卒業(LL.M.)、2013年ニューヨーク州弁護士登録。2012~2013年モリソン・フォースター法律事務所(New York)勤務。2019年より財務省「関税外国為替等審議会・外国為替等分科会」委員。

 対内直接投資等、いわゆる外国投資家によるインバウンド投資等について、外国為替及び外国貿易法(以下「外為法」)に関連する法令の改正が相次いでいる。ここでは、改正の概要と留意点について述べる。

 1. 対内直接投資等に関する外為法上の事前届出・事後報告制度(現行)の概要

 外為法は、対外取引が自由に行われることを基本とし、必要最小限の管理又は調整を行うとの考え方の下で一定の場合に海外投資家に事前届出を行うことを義務付けている(外為法27条1項)。実務上最も頻繁に問題となるケースは、(a)投資先の事業目的が事前届出業種である場合であり、外為法上、国の安全、公の秩序、公衆の安全及び我が国経済の円滑な運営の観点から、一部の業種が告示で指定されており(当該業種を「事前届出業種」という。)、その上で、発行会社及び発行会社の子会社又は完全対等合弁会社の事業に事前届出業種が含まれる場合、外国投資家による当該発行会社への対内直接投資等及び当該発行会社の株式・持分の特定取得について、事前届出を行うことが義務づけられている。
 上記のほか、(b)外国投資家の国籍又は所在国(地域を含む。)が、日本及び掲載国(対内直接投資等に関する命令別表第一に掲げる国又は地域で、約160の国及び地域が掲載されている。)以外の国である場合、(c)イラン関係者によって行われる特定業種の株式取得等の場合についても、事前届出が必要である。

 事前届出が必要な対内直接投資等に該当する取引又は行為(以下「届出対象取引等」)については、当該届出対象取引等を行おうとする日の前6か月以内に、所定の様式で日本銀行経由で財務大臣及び事業所管大臣宛に届出をする必要がある。そして、審査のため、日本銀行が届出書を受理した日から起算して30日を経過するまで、届出対象取引等を実行することが禁じられる(当該期間を「禁止期間」という。)。但し、財務大臣及び事業所管大臣が特に審査をする必要があると認める場合を除き、禁止期間は2週間を経過した日までに短縮される。また、グリーンフィールド投資案件、ロールオーバー案件、パッシブ・インベストメント案件については、同様に特に審査の必要があるとされる場合を除き、届出書を受理した日から起算して4営業日を経過した日までに禁止期間を短縮するよう努めることとされている。
 届出対象取引等を実行した場合は、事前届出に加えて事後に実行報告が必要である。また、届出対象取引等以外の、事前届出を要しない対内直接投資等を実行した場合も、事後報告が必要である。

 なお、外国投資家が非上場の会社の株式又は持分を他の外国投資家から譲り受けにより取得することを「特定取得」といい、投資先又はその子会社若しくは完全対等合弁会社の事業に、特定取得に係る事前届出業種として指定される業種が含まれている場合、事前届出が必要である(外為法28条1項)。事前届出を行った特定取得については、実行報告が必要だが、事前届出不要の特定取得について事後報告を行う必要はない。

 届出がなされた対内直接投資については、財務大臣及び事業所管大臣により、国の安全、公の秩序、公衆の安全及び我が国経済の円滑な運営の観点から審査され、審査のために必要がある場合は禁止期間が最大4か月延長される。また、財務大臣及び事業所管大臣が、国の安全を損ない、公の秩序の維持を妨げ、又は公衆の安全の保護に支障を来すことになるおそれ、我が国経済の円滑な運営に著しい悪影響を及ぼすことになるおそれがあると認めるときは、届出者に対して、対内直接投資等に係る内容の変更・中⽌を勧告でき、勧告を応諾しない者に対しては、内容の変更又は中止の命令をすることができる(外為法27条5項、10項)。さらに、無届け、虚偽届出等で⾏われた対内直接投資等について、国の安全の観点から必要な場合には、財務⼤⾂及び事業所管⼤⾂は、株式売却等の事後措置命令をすることができるとされている(外為法29条)。

 2. 事前届出業種の拡大(2019年8月1日~)

 対内直接投資等や特定取得について事前届出が必要とな事前届出業種は告示で定められているが、近年、サイバーセキュリティーの確保の重要性が⾼まっていることなどを踏まえ、安全保障上重要な技術の流出や、国の防衛関連の⽣産・技術基盤の棄損など、国の安全保障に重⼤な影響を及ぼす事態が⽣じることを適切に防⽌する観点から、事前届出業種を追加する旨の告示の改正が行われ、2019年8月1日から適用されている。

 具体的には、下記の図表に記載の業種が追加された。

拡大

 これまで、情報処理関連機器・部品の製造業やソフトウェア・システムエンジニアリング等の事業については、輸出管理規制の対象となるような仕様の製品の製造業やそのような技術を有する業種のみが事前届出業種とされていたが、上記の図表に記載の業種に該当する場合は製品の仕様と関係なく事前届出業種に該当することとなったため、これにより事前届出業種に該当する会社が倍増することとなった。ソフトウェア開発・システム開発等の業種については、ゲームソフトウェア業を除き、全て事前届出業種に該当すると考えられる。
 このため、特にベンチャー投資の実務において、外国投資家が対内直接投資等に係る事前届出が必要となり、禁止期間は投資を実行できないことからタイムリーに資金調達に参加できないなど、ベンチャー企業による迅速で機動的な資金調達に支障が生じている事例も発生している。
 禁止期間については、特別な場合を除き、2週間を経過した日までに期間短縮されることとなっており、実際には多くのケースで5営業日以内に期間短縮はなされているようであるが、事前届出業種の該当性の確認や届出書作成、期間短縮通知までの待機期間など、実務上の負担があるため、外国投資家が参加する資金調達においては、投資や資金調達のスケジュールやデューディリジェンスの段階から、事前届出の準備、書類作成及び禁止期間を考慮する必要がある。

 3. 対内直接投資等に該当する行為の見直し(2019年10月26日~)

 事前届出や事後報告が必要となる、「対内直接投資等」は外為法及び対内直接投資等に関する政令(以下「直投令」)で定められており(外為法26条2項、直投令2条9項)、従前は、主なものとして以下の行為が対内直接投資等とされてきた。

  • 非上場会社等の株式又は持分の取得(1株の取得でも該当する)
  • 非居住者個人が、非居住者となる以前から引き続き保有する非上場会社の株式又は持分を、外国投資家に譲渡すること
  • 上場会社等の株式の取得であって、取得の結果、取得者及び取得者と特別の関係にあるもの(政令に定めるものをいい、以下「密接関係者」)が既に保有している株式と合算して、当該上場会社等の発行済株式総数の10%以上の数の株式を所有することとなる場合
  • 議決権の3分の1以上を所有する国内会社の事業目的の実質的な変更に関して行う同意
  • 国内会社等に対する期間1年超の1億円超(且つ対象会社の負債の過半数となる金額)の日本円以外の金銭による貸付け
  • 1億円超(且つ対象会社の負債の過半数となる金額)の円建て以外の私募債の取得
  • 上場会社等の株式への一任運用(委任者が議決権を留保しないもの)であって、その結果、運用者の密接関係者の一任運用対象株式と合算して、一任運用の対象となる株式の数が当該上場会社等の発行済株式総数の10%以上となる場合

 従前、特に上場会社等の株式の取得については、外国投資家が取得の結果保有することとなる株式数が密接関係者と合算して発行済株式総数の10%以上となる場合を対内直接投資等と定めるなど、株式数を基準に定義されてきたが、政府は、近年投資の形態が多様化していることを踏まえて議決権を基準に定義するように見直しを行い、政令を改正して、「対内直接投資等」に該当する行為及び取引を拡大した。当該改正は、2019年10⽉26⽇から施⾏された。

 拡大のポイントとしては、①少ない株式数で多くの議決権を取得すること、②他の株主から議決権行使を受任すること、③共同での議決権行使について同意すること、これら①~③を通じて海外投資家が上場会社の10%以上の議決権を取得することを対内直接投資等として事前届出の対象とすることにある。具体的には、下記の行為が、「対内直接投資等」(直投令2条9項3号~)に追加された。

  1.  上場会社等の議決権の取得であって、取得の結果、取得者及び取得者の密接関係者が既に保有している議決権と合算して、当該上場会社等の総議決権の10%以上の議決権を有することとなる場合
  2.  他の者が保有する議決権の行使について当該他の者を代理する権限を受任する行為、すなわち議決権代理行使の受任(※)であって、国内非上場会社の議決権に係るもの
  3.  上場会社等の議決権に係る議決権代理行使の受任(※)であって、受任の結果、取得者及び取得者の密接関係者が既に保有している議決権と合算して、当該上場会社等の総議決権の10%以上の議決権を有することとなる場合
  4.  非居住者個人が、非居住者となる以前から引き続き保有する非上場会社の議決権の行使について、外国投資家に議決権代理行使を委任すること
  5.  上場会社等の株式への一任運用(委任者が議決権を留保しないもの)であって、その結果、運用者の有することとなる議決権数(運用対象か、直接保有か、議決権代理行使の受任かを問わず、密接関係者の有する議決権と合算する)が当該上場会社等の総議決権の10%以上となる場合
  6.  共同して上場会社等の株主としての議決権その他の権利を行使することにつき、他の非居住者外国投資家の同意を得ることであって、同意取得者、同意者並びに同意取得者及び同意者の密接関係者が当該上場会社等の総議決権の10%以上の議決権を有することとなる場合

 ※ 但し、「議決権代理行使の受任」は、①発行会社又はその役員以外の者が受任者となって、②発行会社の経営を実質的に支配したり経営に重要な影響を与えるおそれがあるものとして省令で定める議案(具体的には、取締役の選解任・任期短縮、事業目的の変更や種類株式発行に係る定款変更、事業譲渡等、解散、合併契約、に係る議案)に関する受任に限られる。

 また、議決権に着目して、株式取得者の密接関係者の定義に、共同して議決権その他の権利を行使することに合意した者の密接関係者が追加された(直投令2条4項16号)。

 実務上は、これら新規に追加された「対内直接投資等」に該当する行為についての届出は、議決権の行使の前ではなく、議決権代理行使の受任行為や、議決権の共同行使に関する同意の取得の前に事前届出を行い、禁止期間が経過している必要がある点に留意が必要である。
 そのため、株主提案権の行使前、委任状勧誘の開始前に事前届出を行い、禁止期間が経過している必要があり、実務上、株主提案・委任状勧誘のスケジュールに大きな影響があると考えられる。また、資本業務提携などの契約において株主同士が共同議決権行使の合意をする場合にも、契約締結前に事前届出が必要となると考えられる点にも留意が必要である。

 4. 今後の外為法改正(事前届出免除制度の導入、事前届出対象の見直し、など)

 上記に加えて、2019年10月18日の閣議決定で、対内直接投資等の審査手続に関する外為法改正法案が決定され、臨時国会に提出された。改正法案によって導入される制度のうち主なものは以下の通りである。

 ■ 事前届出免除制度の導入
 改正法案では、健全な投資を一層促進する観点から、対内直接投資等の大宗を占めるポートフォリオ投資等を主眼として、外国投資家による株式・議決権の取得及び特定取得については、事前届出業種に該当する場合であっても、一定の場合を除き、一定の行動基準を遵守することにより、事前届出を要しないとする制度を導入することとされている。
 ここで事前届出免除の対象外となるのは、(i) 過去に外為法に基づく命令・処分に違反した者、国有企業などによる取得の場合(属性除外)及び(ii) 事前届出業種の中でも特に国の安全等を損なうおそれが大きいとして指定される業種を営む会社の株式・議決権の取得の場合(届出必須業種)である。これらは政令で具体化される予定であるが、ソブリンファンド(外国政府系ファンド)を一律で属性除外の対象とし、事前届出免除を認めないとするのかなど、今後の立法動向に注視が必要である。また、届出必須業種か否かが不明確では免除制度が有効に活用されないリスクがあるが、政府は、上場会社については、届出必須業種、免除可能業種、届出不要業種のいずれに該当するかをリスト化して公表予定としている。
 また、届出免除を受けるために遵守すべき行動基準(免除基準)については、①外国投資家自ら又はその密接関係者が役員に就任しないこと、②重要事業の譲渡・廃止を株主総会に自ら提案しないこと、③国の安全に係る非公開の技術情報にアクセスしないこと、といった基準を政令で規定することが検討されている。この基準の制定・改廃には関税・外国為替等審議会の意見を聴かなければならないとされている。
 事前届出免除制度については、遵守状況に関する事後報告や、違反があった場合の勧告・措置命令を通じて、免除基準の遵守が担保される予定である。
 上記に加えて、更に外国投資家の事務負担を軽減する対応として、外国証券会社による自己勘定取引、外国銀行、外国保険会社及び外国運用会社が行う取引は、対象銘柄に関わらず、事前届出免除の対象とすることが検討されている。

 ■ 事前届出対象の見直し
 「対内直接投資等」の定義を見直し、(i) 上場会社等の株式・議決権の取得は、取得後に10%以上となる場合が事前届出の対象であったところ、閾値を引下げ、取得後に1%以上となるような取得が事前届出の対象となる。また、(ii) 国の安全等に関わる技術情報の流出・事業活動の喪失につながるような行為類型として、株主(上場会社等の場合は、密接関係者と合計して1%以上の株式・議決権を有する者)が、役員への就任や重要事業の譲渡・廃止に同意する行為を、新たに事前届出の対象として追加する。
 上記のうち(i)の改正は、会社法上、議決権1%の議決権を有する株主には株主総会における議題・議案提案権があることから基準の引下げをしたと説明されている。近時、ファンド等による株主提案や委任状勧誘の動きが上場会社の事業に与える影響が小さくないことを意識していると考えられる。これにより、事前届出対象となる取引の件数が飛躍的に増加するようにも思われるが、この点については、上記の事前届出免除制度が適切に運用されることにより、合理的な範囲で手続の負担が軽減されることが期待される。
 上記のうち(ii)の改正は、従前、3分の1以上の議決権を有する株主が会社の事業目的の実質的な変更に同意する行為類型を対内直接投資等としていたのに対し、上場会社等について、1%以上の株式・議決権の取得のときに事前審査をするのみならず、その後の行動についても審査対象とするものである。改正法案では、具体的にどの議案に関する同意を対象とするかは政令で定めることとなっているが、特に株主がその関係者を役員として就任させる行為を事前届出の対象とするに際しては、今後、関係者の範囲について適切な範囲を規定する必要がある。また、非上場会社については、従前は3分の1以上の議決権を有する外国投資家株主による定款変更等への議決権行使などの同意行為のみが事前届出の対象であったものが、1株でも有する外国投資家株主であれば同じ行為が事前届出の対象となることとなる。共同事業を行うJVなど非上場会社の株主総会で、外国投資家株主の議決権行使が機動的にできなくなり、支障が生じることが懸念される。

 ■ その他
 その他にも、改正法案では下記のような改正が提案されている。

  •  投資組合(ファンド)からの対内直接投資等に係る届出義務者を見直し、会社による投資の場合とパラレルになるように、届出義務者を組合に一本

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神保 寛子(じんぼ・ひろこ)

 2000年東京大学法学部卒業、2006年第一東京弁護士会登録。2012年米国 デューク大学ロースクール卒業(LL.M.)、2013年ニューヨーク州弁護士登録。2012~2013年モリソン・フォースター法律事務所(New York)勤務。2019年より財務省「関税外国為替等審議会・外国為替等分科会」委員。
 共著に『M&A法大全』(商事法務、2019)、 『ミャンマー新投資法・改正会社法 - 最新実務を踏まえて』(有斐閣、2018) 、『会社法実務相談』(商事法務、2016)がある。

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