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西村あさひのリーガル・アウトルック

米国制裁法・輸出規制への対応を迫られる日本企業

中島 和穂(なかじま・かずほ)

米国制裁法・輸出規制への対応を迫られる日本企業

弁護士・NY州弁護士
中島 和穂

拡大中島 和穂(なかじま・かずほ)
 2001年東京大学法学部卒業、2002年弁護士登録、2009年コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)、2009年~2010年、ニューヨークのワイル・ゴッチェル・マンジェス法律事務所勤務、2010年~2011年、三井物産株式会社法務部出向、2010年ニューヨーク州弁護士登録。

 米国は、輸出規制、経済制裁等の経済的措置を用いて、自国の安全保障や外交政策にとって望ましい結果を達成しようとしている。例えば、第五世代携帯電話ネットワーク(5G)等技術覇権を巡る中国との争い、香港におけるデモへの対応、核開発や中東地域におけるイランとの対立、クリミア併合や2016年の米国大統領選介入に関するロシアへの対抗措置等で、米国はそれらの輸出規制や経済制裁を用いている。これらの経済的措置は、対象国のみならず、対象国と取引をする他国にも影響を与えており、日本企業も例外ではない。本稿では、米国の制裁法及び輸出規制、並びに、それらが日本企業に与える影響を解説する。

 1. 米国制裁法

 (1) 概要

 米国の制裁法は、安全保障や外交政策を理由として、特定の国、個人や法人との取引を禁止したり制限したりするものである。イラン、北朝鮮、シリアやクリミアのように、当該国との間の取引が幅広く禁止されている類型もあれば、ロシア、ベネズエラのように、金融、エネルギー等、一定の分野に関する取引を限定的に禁止する国もある。国ベースでの規制とは別に、特定の団体や個人との取引を禁止することもある。そのような特定の団体や個人は、米国財務省外国資産管理室(OFAC)が管理するSDN リスト(List of Specially Designated Nationals and Blocked Persons)に掲載される。SDNリストに掲載される者は、上記制裁対象国の政治体制と結びついた者もいるが、国際的なテロ、組織犯罪や人権侵害に関与する者など、特定の国の政治体制とは必ずしも結びつかない者もいる。

 (2) 日本法上適法でも米国制裁法違反となる可能性がある

 米国制裁法は、米国人や米国企業のみならず、一部は、非米国人・非米国企業にも適用される。前者は一次制裁(primary sanctions)と呼ばれるのに対して、後者は二次制裁(secondary sanctions)と呼ばれる。この二次制裁は、米国人・米国企業・米国原産品・技術等米国の要素を何ら含まない取引であっても禁止するものである。二次制裁の場合には、米国内で刑事罰や民事罰を執行することは難しいこともあり、SDNリストへの掲載(米国での資産凍結や取引禁止)、米国への入国禁止等、違反に対するペナルティーが定められている。このような域外適用は、国際法上は疑義があるものの、米国裁判所が無効と判断した事例は見当たらず、米国のビジネスを無視できない日本を含む外国の企業にとっては十分な萎縮効果がある。

 米国制裁法には、大きく分けて、①国連の安全保障理事会が「平和に対する脅威」等と認定した事態に対処するために決議するもの、②国連の安全保障理事会ではなく、欧米等主要国間の協調に基づくもの、③自国の判断に基づくものに分類される。上記①や②は、日本でも、外為法等に基づき、同様の経済制裁措置が講じられ、米国法のみならず、日本法上も禁止されるため、米国制裁法のみの影響とは言いがたい。他方、米国制裁法は、上記③の独自制裁が多く、日本法上は適法であるが、米国法違反となる事態が生じる。

 (3) 著名中国企業に対する執行事例

 近時の有名な執行事例として、ZTE及びHuaweiが挙げられる。いずれも5Gを推進する著名な中国通信機器メーカーである。まず、ZTEは、2010年から2016年まで、米国原産の機器及びソフトウェアを、米国の経済制裁対象国であるイランに継続的に輸出し、また、北朝鮮にも米国原産品を輸出していたとして米国当局に摘発された。2012年、米国当局はメディアでの報道を受けて調査を開始したが、ZTEは、当局からの照会に対し、それらの国への輸出は中止したと虚偽の回答をしていた。また、ZTEは、輸出を示す関係書類を破棄したり、自社が起用した外部弁護士や調査会社にも事実を伝えなかったとされる。2016年3月、米国当局は、ZTEを調査に協力させるため、ZTEをエンティティー・リスト(Entity List。詳細は後述)に掲載し、米国原産品の輸出を禁止した。その後、ZTEは、米国当局の調査に協力し、ZTEとの間で11.9億ドルの罰金を支払うことで司法取引に応じた。しかしながら、その後、ZTEは、司法取引の条件に違反して、過去の違反に関与した従業員に報奨金を支払っていたことが判明し、2018年4月、米国当局は、再度ZTEに対して、禁止命令(Denial Order)を出し、米国原産品の輸出を停止した。ZTEは、米国原産品が輸入できなければ製品を製造できず、破綻の危機に瀕していた。最終的には政治的な介入により、ZTEが、10億ドルの罰金を支払い、経営陣を交代させることで、米国原産品の輸出が可能となった。

 2019年1月、米国司法省は、イランの顧客に米国原産品目等を供給していたのみならず、当該関連取引を隠すために銀行や米国政府に虚偽の申告をした等として、Huawei及びCFOを起訴した。米国司法省によれば、米国法は一般に銀行に対して米国を通じてイランに関連する取引を処理することを禁じているところ、ある銀行は、2010年から2014年までの間に、Huaweiのイラン関連会社とされるSkycomという会社に関する1億ドル超相当の取引を米国を通じて処理したと述べている。この事件は、HuaweiのCFOが、中国からメキシコに出張するためにカナダで飛行機を乗り継ぐ際、米国から司法共助の要請を受けたカナダ当局がCFOを拘束しており、米国に移送されるか否かが注目されている。

 (4) 日本企業の事例

 日本企業の場合、上記(3)のような著名な事例はないものの、①対象会社を買収した後、対象会社が米国制裁法違反を続けていたため、罰金を支払った事例、②投資先や販売先の米国制裁が突然強化されたため、突然取引を打ち切らざるを得ず、投下済みの資本が回収できなくなったり、代金回収に困ったりする事例、③米国制裁法を懸念した銀行が決済を受け付けず、取引を中断せざるを得なくなる事例等が生じている。
 上記①について、より具体的に述べると、米国向けのビジネスが全くないあるアジア企業が自国で生産し、米国制裁対象国に輸出している場合、そのアジア企業にとっては、米国市場を失っても不利益がないため、米国制裁法による制裁のインパクトは無視できるかもしれない。しかしながら、日本企業がそのようなアジア企業を買収しようとする場合、買収後は自社の米国ビジネスに悪影響が及びかねないため、買収前に米国制裁法のリスクを吟味しておく必要がある。

 2. 米国輸出規制

 (1) 概要

 米国の輸出規制は、安全保障や外交政策を理由として、品目の米国からの輸出、再輸出又は国内移転を規制するものである。大きく分けて、軍事品目を規制するものとデュアルユース(軍民併用)を規制するものがあるが、本稿では後者について述べる。「再輸出」とは、米国からある国に輸出された品目を更に別の国に輸出することをいう。「国内移転」とは、同一の外国内において最終用途や最終需要者が変更されることをいう。

 (2) 日本法上適法であっても米国の再輸出規制を受けることがある

 日本企業が米国から輸入した品目を組み込んで、第三国に再輸出しようとする場合、米国の輸出規制はその再輸出を規制する。この再輸出規制は、米国品目が僅かでも含まれていれば再輸出を禁止する、というものではなく、再輸出される貨物・技術のうち米国輸出規制品目が10%又は25%以下であれば、規制が適用されないというデミニミス・ルール(僅少ルール)がある。10%又は25%の何れが適用されるかは仕向国によって異なり、中国を含む殆どの国は25%であるが、イラン、北朝鮮、シリア、スーダン及びキューバは10%である。しかしながら、部品が多い製品の場合には、あらゆる調達先から米国原産品・技術が含まれているかを確認することは容易ではなく、この10%や25%の計算方法も簡単ではない。さらには、高度な暗号技術等、一定の貨物・技術については、このデミニミス・ルールが認められず、僅かでも含まれていれば、再輸出が禁止される。

 輸出規制の主な目的の一つは、対象となる貨物や技術が、大量破壊兵器や通常兵器に用いられないようにすることにあり、世界的な輸出管理の協定に沿って定められる。例えば、通常兵器の輸出管理に関しては42ヵ国の協定であるワッセナーアレンジメントがある。日本もこの協定に参加し、外為法で規制しており、日本と米国との間で大きなズレは生じない。他方、米国は、それらとは別に、独自の観点から規制を設けている。最近では、米国議会は、自国技術の指導的立場を維持するため、2019年の国防授権法の一部として2018年輸出管理改革法を制定し、新興技術及び基盤的技術を輸出規制の対象に加えることとなった。その技術には、人工知能や顔認証技術等、最先端の技術が含まれる。米国政府は詳細なルールを検討中であるが、これは米国独自の規制に属する。米国独自規制の対象となる品目は、日本法上は輸出可能であっても、米国の再輸出規制上規制されることがある。

 (3) 制裁法との違い

 制裁法は、経済的な不利益を与える取引の相手国や個人・団体との取引に注目するが、輸出規制は、品目の国籍に注目し、米国由来のものを規制する。具体的には、米国内にある全ての品目、米国原産の全ての品目、米国の技術またはソフトウェアを用いて外国で製造された製品等を対象とする。制裁法の一つの方法として、特定国への輸出の禁止措置が執られることもある。既述のHuaweiやZTEの事例は、何れもイランが関係しており、経済制裁の一手段としての輸出規制違反が問題とされている。

 (4) 執行事例

 米国輸出規制に違反すれば、罰金や禁固刑という刑事罰のほか、米国からの輸出、再輸出又は国内移転の禁止を課されることがある。前述したZTEの事例では、米国当局による調査段階では、Entity List (米国の安全保障又は外交政策上の利益に反する又は大量破壊兵器拡散の懸念がある個人・企業のリスト)に掲載され、司法取引後、一時期、Denied Persons List(米国法に違反し、輸出権限の禁止を含めてdenial orderを出された人・団体のリスト)に掲載され、米国品目の輸出を禁止された。

 他方、Huaweiが起訴された事件については、依然として裁判所による審理中であるが、それとは別に、米国当局はHuawei及びその関連会社をEntity Listに掲載している。何れの企業も、Denied Persons ListやEntity Listに掲載された者に対しては米国輸出規制品目を輸出できなくなる。
 サプライチェーンがグローバル化しており、HuaweiのEntity Listへの掲載は、米国企業が米国輸出規制品目を直接輸出できないのみならず、日本企業がかかる品目を組み込んだ上で間接的に輸出することにも規制が及ぶため、日本企業にも少なからず影響を与えているものと思われる。

 3. 最後に

 日本企業の多くは、米国でも経済活動を行っていたり、米国向けの輸出や米国からの輸入により事業遂行したりしているため、米国市場からの閉め出しによる影響が非常に大きいことから、米国制裁法

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中島 和穂(なかじま・かずほ)

 2001年東京大学法学部卒業、2002年弁護士登録、2009年コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)、2009年~2010年、ニューヨークのワイル・ゴッチェル・マンジェス法律事務所勤務、2010年~2011年、大手商社法務部出向、2010年ニューヨーク州弁護士登録。現在、西村あさひ法律事務所のパートナー弁護士。
 M&A、国際取引、規制対応、訴訟・紛争を中心とする企業法務全般を支援している。事業再生局面での官民ファンドによるM&A、証券会社と証券取引所間の巨額の損害賠償紛争、日本で初めての買収防衛策の導入、世界に拠点を有する企業間の統合、地政学的なリスクを抱える中東への進出案件、M&Aの価格調整に関する巨額の仲裁案件など、様々な論点が複雑に絡む案件の経験が豊富。
 近時は、安全保障、技術覇権やテロ対策に関する国際社会の関心の高まりを踏まえて、非米国企業にとっての米国の経済制裁や輸出・再輸出規制、及び、日本の輸出規制やマネーロンダリング規制に関する案件に多数関与している。

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