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西村あさひのリーガル・アウトルック

新型コロナウイルスと債務不履行、不可抗力、事業再生・倒産

柴原 多(しばはら・まさる)

新型コロナウイルスと事業再生

 

西村あさひ法律事務所
弁護士 柴原 多

拡大柴原 多(しばはら・まさる)
 1996年、慶應義塾大学法学部卒業。司法修習を経て99年に弁護士登録(東京弁護士会)。事業再生・倒産事件(民事再生・会社更生・私的整理事件を中心)、第三セクターの再建、国内企業間のM&A等に関する各社へのアドバイス、法廷活動等に従事。西村あさひ法律事務所パートナー。

 1.はじめに

 2020年は苦難の幕開けとなった。米国・イラン間の紛争に続き、新型コロナウイルス(COVID-19)問題(以下「本件問題」という)が起き、事業再生案件が増加するのではないかとの憶測もある。が、物事はそうは単純ではない。

 バブル崩壊時に(事業再生を選択した)日本企業の救済にあたっては米国の企業・投資ファンドの活躍が目立ったが、近年は中国企業による救済案件も多い。しかしながら現状は米国社会全体が内向き志向となっているといわれる一方、中国に眼を転じると、その経済がダメージを受けている。その上に構造改革の遅れにより日本企業の潜在的価値自体が傷ついている可能性がある。このため、そう簡単にスポンサーが現れるのかといった問題もある。

 勿論、各国の努力により、本件問題が早期に収束する可能性もある。しかしながら、グローバル経済の下においては、各国の経済がそれぞれ他国の経済とリンクしている。従って、仮に日本で本件問題が収束しても中国・韓国等で収まらなければ、例えばインバウンド消費への影響は避けられないため、問題が解決することにはならない。

 また、米中経済摩擦の解消を目指した米中の暫定的合意によれば、中国は米国から一定額の輸入を行わなければならないとされているところ、中国経済の不調が続けば、米国からの輸入枠を確保するために、韓国・日本からの輸入を減らさざるを得ないかもしれない。

 加えて、欧州経済の動向にも注意が必要である。欧州で経済が比較的好調なのはドイツであるが、ドイツも、政治的に不安定になりつつあると共に、近年、中国への輸出に大きく依存するようになっている。従って、中国経済の行方如何では、ドイツ経済にも大きな影響が生じかねない。

 勿論、本件問題は、気温が上昇する4月以降、特に夏場には収束することが期待されている。しかしながら、4月以降に夏が訪れるのは北半球であって、南半球では今後冬が到来することにも留意が必要である。

 2.不可抗力と民法改正

 (1)不可抗力条項と債務不履行

 さて、かように本件問題は複雑な状況にあるが、日本国内に限っていえば、どのような業種に影響が生じるであろうか。

 今のところ、影響が大きいと報道されているのは、インバウンド消費の動向の影響を受けやすい事業、具体的には、宿泊業・飲食業・交通業であるが、今後は、海運業・医薬品事業、更にはグローバル・サプライチェーンへの影響から製造業一般にも悪影響が及ぶのではないかと取沙汰されている。

 このような業種については、今回の事態に不可抗力条項(いわゆるForce Majeure条項:不可抗力に基づく債務不履行について責任を負わないこと)の適用があるかは既に多くの法律事務所のニューズレターで議論されている(例えば、当事務所によるものとしては、《森田多恵子「新型コロナウィルス感染症の拡大と企業法務における留意事項」https://www.jurists.co.jp/sites/default/files/newsletter_pdf/ja/newsletter_200303_corporate.pdf》参照)。

 もっとも、日本においては、(契約書上)不可抗力条項が存在しなかった場合には、この問題は債務不履行の問題として処理されることになる。

 (2)損害賠償と民法改正

 現行民法の415条は、「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。」と規定しており、解釈上、債務者に故意又は過失がない場合には、損害賠償責任を負わないと解されている(解除事由が生じるか否かについても同様)。従って、不可抗力による債務不履行は基本的には民法415条の問題として処理でき、不可抗力条項はより一層そのことを明確化する機能を有することになる。

 しかしながら、本年4月1日から適用される民法改正には注意を要する。まず、改正民法の損害賠償に関する規定は、「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」となっている。この条文を見る限り、債務者の責任は拡大されたようにも見える。とはいえ、この条文自体、現行民法415条に関する確立した判例を具現化したものとされているため、本件問題との関係では、特に大きな影響を及ぼすことは無さそうである。

 (3)解除と民法改正

 他方、改正民法における解除の規定(541条1項)は、「当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。」とされている。

 つまり、民法改正後の解除に係る規定においては、債務者の帰責性がない場合でも、債権者からの解除が可能となっている(有吉尚哉『ここが変わった!民法改正の要点がわかる本』(翔泳社)69頁参照)。そうすると、経過規定の適用(即ち、改正前民法が適用できるか否か)又は不可抗力条項が大きな意味をもってくる可能性がある。

 また、不可抗力条項については、一般的に不可抗力事由に該当する具体例を詳細に書き込むことが多いが、英米法の解釈においては「同種の原則」(契約上の文言に曖昧さがある場合、解釈は前の文言の意味の影響を受けるとされている)にも留意する必要があるとの指摘もなされている(水谷健亮「英米法におけるフォース・マジュール〜転ばぬ先の杖〜」《https://oilgas-info.jogmec.go.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/007/644/201811_031a.pdf》参照)。

 (4)「原始的不能」の概念が消滅することの影響

 更に、本件問題のリスクが存在するにもかかわらず、本年4月1日以降に契約を締結した場合にはどのような留意が必要であろうか。

 この点、改正前民法においては、「原始的不能」という概念が存在したために、契約締結時におよそ履行が不能であれば、「契約締結上の過失」という判例法理が適用される例外的な場面を除き、債務者は契約の無効(従って、債務を履行しなくてもよい)を主張できた。

 しかしながら、改正民法においては「原始的不能」という概念は排斥されたものと解されており(改正後民法412条の2第2項は、「契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第四百十五条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。」と規定する)、たとえ契約締結時におよそ債務の履行が不可能でも、原則として契約責任の問題として処理される点に注意が必要である。

 3.労働債権の取扱い

 次に企業が本件問題への対策として休業を決定した場合に、労働者への給与の支払いは必要であろうか。

 この点、改正前民法536条1項においては、「前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。」と規定されている。従って、休業が「双方の責めに帰することはできない事由」に該当する場合には、企業は給与の支払い義務を免れるようにも思える(この点に関する詳細な文献としては、中野明安「新型インフルエンザと法的リスクマネジメント」NBL899号10頁以下参照)。

 他方、労働基準法26条は、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。」と規定している。この点、労働法上の通説は、同条における「責めに帰すべき事由」は、故意・過失より広く、民法上は使用者の帰責事由とならない経営上の障害も不可抗力に該当しない限りは含まれると考えられている(菅野和夫『労働法〔第11版補正版〕』(弘文堂)439頁以下参照)。

 現に、厚労省のホームページでは、

 「新型コロナウイルスに関連して労働者を休業させる場合、欠勤中の賃金の取り扱いについては、労使で十分に話し合っていただき、労使が協力して、労働者が安心して休暇を取得できる体制を整えていただくようお願いします。」

 「自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分検討するなど休業の回避について通常使用者として行うべき最善の努力を尽くしていないと認められた場合には、『使用者の責に帰すべき事由による休業』に該当する場合があり、休業手当の支払が必要となることがあります。」といった記載が見られる(以上につき《https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html#Q4-1》参照)。

 そうなると、企業にとっては、事業を維持しても売上げが低迷する可能性が高い反面、休業しても給与の支払いが必要となるというジレンマの状態におかれることになる。

 4.倒産手続と労働債権

 更に、今後の事態の推移によっては、企業は、①整理解雇の法理(経営上の必要性・解雇回避努力義務の履行・人選の合理性・労使間での協議に基づき解雇ができるとする法理)に基づき労働者の整理解雇を実施するか、あるいは、②私的整理手続又は法的倒産手続を選択することを迫られることもあり得る。

 企業は、通常、(継続)企業価値の毀損回避を最優先とするので、まずは、金融機関との交渉のみで妥結できることの多い私的整理手続、具体的には中小企業再生支援協議会等によるリスケ手続等を選択することが多いであろう。もっとも、金融機関との交渉のみでは事態が解決しない場合、あるいは金融機関の同意が得られない場合には、法的倒産手続に移行せざるを得なくなることが多い。

 ここで注意が必要となるのは、法的整理手続のうち、実務においてしばしば利用される民事再生手続を利用したとしても、労働債権は一般的に優先性が認められる(民事再生法122条等)ため、労働者の個々の同意を得ない限り、労働債権の支払いを免れることはできないという点である(もっとも、会社更生手続においては、優先的更生債権(会社更生法168条1項2号)となる部分については、更生債権者の2分の1以上の同意を得れば、理論上は削減可能であるが困難を伴う。実務的取扱については、松下淳一・事業再生研究機構編『新・更生計画の実務と理論』(商事法務)361頁以下参照)。

 他方、破産手続においては、やはり労働債権の優先性は認められるものの、破産財団が優先債権の全額すら払えない場合には、破産手続が廃止されることになる(ある意味、それによって結果的にジレンマが解消されることになる)。

 しかしながら、中国等の海外子会社の閉鎖においては、日本とは異なった法感覚に基づく対応が必要となる場合がある。詳しくは、拙稿「中国子会社撤退の方法及び撤退時の留意点」(《https://judiciary.asahi.com/outlook/2015100500001.html》参照)をお読み頂きたいが、中国(中華人民共和国)においては労働者の債権は極めて重要な債権とされているため、当該債権の処理を棚上げした形で清算等を実施することには事実上大きな障害がある点に留意が必要である。

 5.スポンサー契約との関係

 それでは、経営不振に陥っていた企業(支援対象企業)が、スポンサーの支援により経営再建を目指すことになり、スポンサーとの間で支援契約を締結していたにもかかわらず、本件問題を契機として、経済的支援が停止された場合にはどうすればいいのであろうか。

 現実にそのようなことが起きるのか疑問に思われる読者もおられるかもしれないが、筆者の経験上、特に外資系スポンサーの中には、諸般の事情を理由に経済的支援を急に停止してくるケースも少なくない(その理由は不明であるが、①元々支援を行う経済的能力又は意思がないケースや、②先方にて本当にトラブルが生じているケースもあれば、③交渉上の戦略的考慮に基づいて、一旦支援を停止してくるケースもあるように思われる)。

 この場合の対応策としては、まずは、支援対象企業の側から支援契約を解除することが考えられるが、既に述べたように、改正前民法の下では、解除に際しては債務者に帰責事由が存することが必要である。従って、この場合には、スポンサー側に不測の事態に基づくトラブルが生じている場合に、解除が認められるかは慎重な判断が必要である。

 次に、支援対象企業としては、何時行われるか分からない支援を当てにするわけにもいかないため、他のスポンサー候補を探索することも考えられる。しかしながら、従前の支援契約が有効なままで他のスポンサーを探索する場合には、従前のスポンサーから独占交渉権侵害等を理由とした法的主張がなされることがあり、債務者としてはこれまたジレンマに陥ることがある。

 そこで第三の方法としては、民事法的手続を申し立て、いわゆる双方未履行の場合の解除規定に基づき、支援契約を解除することが考えられる。即ち、双方未履行契約に関し、例えば、民事再生法は、その49条1項において、「双務契約について再生債務者及びその相手方が再生手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときは、再生債務者等は、契約の解除をし、又は再生債務者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。」と規定していることを利用するのである。この場合、双方未履行の解除に基づく損害賠償債権は、再生債権として処理されることになる。

 もっとも本来は、民事再生の申立てをして(継続)企業価値を下げることは、経済的に合理的な判断とはいえない場合があるので、支援対象企業としては、従前のスポンサーに対して、一定の期間以内に経済的支援がなされない場合には、やむなく強行的な手段に出る場合があり得る旨を通知し、解約するかどうかの意思確認及び交渉を行った上で、最後の手段として、上記のような法的手続を選択することが合理的な場合が多いといえよう。

 なお、スポンサーが外資系企業ないしファンドである場合、①結果的に経済的支援がなされなかったことの損害をどのように賠償請求するか、あるいは②双方未履行契約に関する準拠法の問題もある(事業再生迅速化研究会編『事業再生の迅速化』(商事法務)266頁以下参照)ので、その点に関する留意も必要である。

 6.小 括

 本件問題が、何時

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柴原 多(しばはら・まさる)

 1996年、慶應義塾大学法学部卒業。司法修習を経て99年に弁護士登録(東京弁護士会)。
 事業再生・倒産事件(民事再生・会社更生・私的整理事件を中心)、第三セクターの再建、国内企業間のM&A等に関する各社へのアドバイス、法廷活動等に従事。西村あさひ法律事務所パートナー。

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